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番外編(リスティアの花紋)

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 ジェシーをどうにかするためにまた休日を申請すると、ラヴァが目を輝かせていた。


「運命!?ホント!?それホントならすごいことだよ!生捕りにして泉の拠点に持ってきて!」

「ラヴァ様、考えていることがダダ漏れですよ。二人を会わせた時のフェロモン数値を測りたいのでしょう。サンプルは取ってきますから、それで我慢して下さい」

「その子の通常時のサンプルも取れる?それならお願いね!勿論アルバートくんのもだよ!」


 ラヴァの知的好奇心を無視していいことは何もない。リスティアはため息を吐きながら準備をする。

 ラヴァからサンプル瓶を貰い、ジェシーと会うことになった。相手に常識は求められないため、完全武装状態で。









 とある品の良い宿屋の一室に、ジェシーを呼び出した。
 高級ランクのため、寝室とは別に居室もついている。香り高い珈琲と茶菓子を前に、ジェシーは目をぎらつかせながら周りを確認していた。


「……アルバートさんはどこ」

「隣の部屋で待っています。少し、お話ししましょう」


 ノエルが口火を切る。ジェシーは刺すような視線でじろじろと目の前の二人を値踏みしていた。リスティアは例の如くローブを頭から被って、さりげなく漂うサンプルを採取する係りだ。


「なに、この人あなたも手篭めにしてるの?こんないいアルファを二人も……許せない!」

「手篭め?手篭めにしたのはどちらかというと私たちの方ですし、なによりジェシーさん、貴女には関係のないことです」


(んんっ?ノエル、手篭めって……?)

 ノエルの言葉にギョッとしたリスティアだったが、会話を遮ることはなく黙っておく。今の本題はそこではない。


「運命の番だと言っておりますが、アルバートは貴方を拒絶しています。それでも何故執拗に追いかけ回すのでしょうか?迷惑なんですよ」


 ノエルは余裕たっぷりにニッコリと笑った。こめかみに青筋が立っているような気もしないでもないが、ジェシーはフンと鼻を鳴らすだけ。


「当たり前でしょう。運命よ?運命の番がいるのにアルバートさんはそこのオメガにおかしくさせられてるの。助けなきゃいけないでしょう?」

「そんな非人道的な薬を作るのを、大錬金術師様がお許しになると?即破門にするでしょう。貴方はラヴァ様の目も節穴だと言ってらっしゃる?」

「うっ……そんな、ことはないけど……っでも!そうじゃなきゃおかしいでしょ!運命なんだもの、恋人がいてもあたしを欲するはずなの!」

「では、何の根拠もないのに、彼が悪い、と」

「当たり前でしょ。そいつは泥棒猫なんだから!」

「……はぁ。ジェシーさん。それなら、確かめてみましょうか?」


 リスティアが口を開く。ジェシーはいよいよ胡乱な目つきを隠さずに、机をバン!と叩いて威嚇する。


「何を確かめるって!?あたしとアルバートさんが運命なのは決まって……」

「フェロモンだけを使って、どちらがアルバートを誘惑出来るか、勝負をしましょう?」

「へっ……?」


 リスティアはコト、と目の前の卓にとある薬瓶を置く。淡いピンク色の透ける、一見香水のようにも見える液体。


「あなたはアルバートを見れば発情をするのですよね。それなら僕は、この発情誘発剤を飲んで発情します。二人ともローブを被った状態で、発情フェロモンを出せば、どちらにアルバートが行くと思います?」

「えっ……と、それは……、でも、あんたの方を嗅ぎ慣れてるんだから、あたしが不利じゃない?」

「運命ならばどんな嗅ぎ慣れたフェロモンにも、これまで付き合ってきた恋人も忘れて勝てるというのが、あなたの主張では?」

「そ……そうだけど」

「あなたが選ばれたのなら、僕は彼を手放すことを考えましょう。でも、僕が選ばれたら、今後一切、僕たちに近付かないで下さいね」


 これはフェロモンの純粋な勝負。どちらも同じローブで姿を隠して、アルバートに選ばせる。


 ジェシーは少し考えて、


「望むところよ。やってやるわ」


 と息巻いた。













 ノエルに連れられ、アルバートが入ってきた。

 扉を開けてムッと顔を顰めるも、至って冷静。一方で、アルバートのフェロモンを感じたのか、ジェシーは息を荒げて発情し出す。ローブを被っている意味がない程、喘いでいる。


「はぁっ、はぁっ……んっ!ああ、アルバートさん……!」


 リスティアは発情誘発剤を一息に飲み干した。喉へ流れて、胃に落ちたところから熱が広がり、身体が火照ってくる。


「ん……っ、はぁ……っ」


 自作の発情誘発剤は、強めの媚薬のようなもの。たまたま次の発情期が近かったのもあり、リスティアの理性があっさりと溶けていく。

 ぺたんと床に座った脚。ローブの中をまさぐり、自身の胸に手を伸ばす。深く被ったフード越しにアルバートを見つめて、その逞しい胸にしがみ付きたくて、身体をかき抱いた。


 アルバートはノエルに羽交締められていた。ノエルはアルファ用の抑制剤を打っているが、アルバートは二人分の発情フェロモンを浴びて、今にも駆け出そうとしているのだ。

 そして二人のフェロモンが十分に部屋に充満し、ノエルが手を離す。


「アルバート、選んで」


 その途端、風が吹いた。


「っ!?」


 ふわっ。
 リスティアの体が宙に浮き、凄まじいスピードで運ばれている!


「はっ!?えっ!?」


 そんなジェシーの声と、ノエルの呆れたような笑い声を置き去りにして。


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