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第三部 12章

執念と執着

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 そのまま村に二日ほど滞在させてもらい、ジィジから連絡を受けた私達はお城に戻ってきた。

 ジィジから「セナに手紙がきている」と渡された手紙の量と分厚さに私は顔を引き攣らせた。
 ブラン団長、カリダの街の領主、キアーロ国の王様、ネライおばあちゃん、サルースさん、デタリョ商会のおじいちゃん、タルゴーさん……とキアーロ国からだけでもすごい。なのに、シュグタイルハン国や南パラサーの街のギルマスからも届いていた。

「読むだけでも丸一日かかりそう……」
〈そういえば、国を上げてセナを探すと言っていたな〉
「えぇー!? そんなの聞いてないよ!」
〈今思い出した。全く役に立たなかったがな〉
「いやいや! 季節すら違う大陸にいるのにわかったら怖いわ!」

 素でグレンにツッコんでしまった。

「とりあえず、これは時間かかるから後で。今日はこっちやらないと」
「本当にいいのか?」
「うん。おばあちゃんが言ってたから、アレで大丈夫だと思うよ」
「そうか……手出しはさせないから安心しろ」
「うん!」

 ジィジはそう言うけど、そこは心配していない。
 だってさ、こっちにはジィジ、天狐、グレン……それに精霊達だっている。このメンツに手を出そうなんて自殺願望があるとしか思えない。
 一番の問題は……私の演技力。

「そろそろ向かうか」
「はーい!」

 私は天狐に抱えられ、アチャとスタルティも一緒にゾロゾロと謁見の間へ向かう。
 途中で遭遇したお城で働く人達は、ジィジを見てビクッ! とした後、頭を下げてそそくさといなくなる。ジィジのエリアでほとんど人を見たことがないことに納得した。

「あら? セナちゃん、眉間にシワが寄ってるわよ?」
「……みんなジィジのことわかってない」
「うふふふ。よかったじゃない、ジャレッド。耳が赤いわよ?」

 からかう天狐を睨むジィジの耳は天狐が言った通り赤く、全然怖くない。
 アチャやスタルティもにこやかに笑っている。
 天狐は天狐で「珍しいもの見ちゃった」と笑顔だ。


 謁見の間の前まで来た私達は気を引き締める。
 今から私は記憶喪失のフリ……まではいかないけど、会話は全部ジィジが担当するからあまり喋ってはいけない。ツッコミは心の中だけにしなければ。

「ジャレッド・ジュラル様達が到着致しました!」

 扉の前にいた警備の人が大声で言うと、中から扉が開けられた。
 中には貴族が勢揃いしていて、私達をガン見。思わずビクッと反応してしまった私を天狐が「大丈夫よ」とギュッと抱きしめてくれた。

 ジィジを先頭に進むと、今代の王様が口を開いた。

「お久しぶりの対面がこのような場になってとても残念ですよ、お爺様。今回お呼びしたのはチスタ家からの報告です。メイドとして働いていた王妃の妹、ウーヴィ・チスタに耐えがたい仕打ちをしたとか」
「ハッ。なんのことかわからんな」
「なんですって!?」

 スタルティもそうだったけど、ジィジは子孫に〝お爺様〟って呼ばれてるんだね。あのメイドのお姉ちゃんが王妃なのかぁ~。人は見た目で判断しちゃいけないって言うけど……性格悪そうだなぁ……
 なんて思ってたら、その王妃が声を荒らげた。ジィジの態度が気に食わなかったらしい。

「わたくしの妹に手を出しておいて……温室でのことは聞いておりますのよ!」
うぬは指一本触れていない。あのメイドなんぞ興味ない。温室のことなら証人がいる。スタルティ」
「はい」

 ジィジに名前を呼ばれたスタルティはあの日の温室の出来事を説明していく。
 聞いた貴族達はザワザワとさざめき始めた。

「……スタルティ、お爺様にそう言えと言われたのか?」
「いえ。僕が見た事実を申しております」
「……そうか。残念だよ、スタルティ。そんな嘘の証言をするとはね」

 残念なのはお前だー!! と私が叫ぶ前に、ジィジが「貴様は血を分けたおのれの息子の言葉も信じぬのか?」と低い声で問うた。
 ジィジの冷たい雰囲気にザワついていた貴族達も息を呑む。
 スタルティは健気にも「本当だよ」と言わんばかりに父親をまっすぐ見つめている。

「これがスタルティの父……うぬの子孫とは残念極まりない。仕方ない。クロ」
『へーい』
「再生させろ」
『あーい』

 自身の従魔を呼び、ジィジはあの日の様子の録音を再生させる。どうやったのか、アチャの声だけは消されていた。
 従魔の出現に驚いていた全員、ウーヴィのに耳を疑った。

「これはセナを護るために付けていた。全て事実だ。うぬおのれのしっぽをエサにセナに近付く女の方が信じられんな」
「こ、こんなの嘘に決まってるわ! そうよ、試せばいいんだわ! ただしっぽを触られただけなんて信じられないもの!」

 おぉー! こちらのシナリオ通りに行動してくれるなんて素敵! グレンとジルが念話でめっちゃ貶しまくってるけど。

「セナちゃん、あの人モフモフして欲しいらしいわ」
「モフモフ?」
「そう。うふふ……心をこめてやってあげて」

 天狐に降ろされ、私はそろそろと王妃の玉座に近付く。
 「フンッ」とぞんざいに目の前に現れたしっぽを掴む。

 やって欲しいと言うのならモフモフを満喫させていただきましょう! おばあちゃんにも言われたしね。



 ――つい先日の作戦会議を思い返す。

「あのとき、あの魔女も無事では済まなかった。死ぬ前に思念を飛ばし、生まれ変わったおのれに戻った。しかしジャルはアマンダに護られており手出しはできぬ。手に入らないから余計に欲する。魔女の執念は生まれ変わりから代々受け継がれ……今に至っておる。時を経て昔ほどは強固な執念ではないが……ジャルに対する執着はウーヴィ・チスタに、権力に対する執着は今の王妃にな」
「ジィジのこと大好きすぎじゃない?」

 おばあちゃんの説明に私がツッコむと、天狐が「ブハッ」と吹き出した。ツボに入ったらしい。

「……まぁ、そういう見方もできるのぅ。スタルティの母親を殺したのは今の王妃じゃ」
「そうか……しかしどうやって断つというのだ?」
「セナのモフモフじゃな」
「はい?」

 あっけらかんとおばあちゃんに言われ、私は気の抜けた声が出てしまった。
 え? 私のモフモフって意味わかんなくない?
 私は戦闘になることを予想して、グレン達に手伝ってもらうつもりだったんだよ。

「あのメイドにしたようにセナがしっぽを撫でればいい」
「それだけ?」
「うむ。そうじゃの……いつも以上にやれば大丈夫じゃろ。ヒャーッヒャッヒャ!」
「「いつも以上……」」

 おばあちゃんのセリフで天狐とアチャは自分のしっぽを抱きしめた。
 いやいや! もう勝手にモフモフしないから、そんなしっぽを守るようにしなくても大丈夫だよ! 引かないでー!!



 ってことがあったんだよね。
 いつもは自分が満足するように触ってるけど、おばあちゃんが〝いつも以上〟って言うからには相手に気持ちよくなってもらうように触った方がいいかな?
 本当にこれで執着を絶てるのか疑問に思いながらも、しっぽの気持ちよさに私の頬は緩んでしまう。

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