文字の大きさ
大
中
小
300 / 500
第三部 12章
執念と執着
そのまま村に二日ほど滞在させてもらい、ジィジから連絡を受けた私達はお城に戻ってきた。
ジィジから「セナに手紙がきている」と渡された手紙の量と分厚さに私は顔を引き攣らせた。
ブラン団長、カリダの街の領主、キアーロ国の王様、ネライおばあちゃん、サルースさん、デタリョ商会のおじいちゃん、タルゴーさん……とキアーロ国からだけでもすごい。なのに、シュグタイルハン国や南パラサーの街のギルマスからも届いていた。
「読むだけでも丸一日かかりそう……」
〈そういえば、国を上げてセナを探すと言っていたな〉
「えぇー!? そんなの聞いてないよ!」
〈今思い出した。全く役に立たなかったがな〉
「いやいや! 季節すら違う大陸にいるのにわかったら怖いわ!」
素でグレンにツッコんでしまった。
「とりあえず、これは時間かかるから後で。今日はこっちやらないと」
「本当にいいのか?」
「うん。おばあちゃんが言ってたから、アレで大丈夫だと思うよ」
「そうか……手出しはさせないから安心しろ」
「うん!」
ジィジはそう言うけど、そこは心配していない。
だってさ、こっちにはジィジ、天狐、グレン……それに精霊達だっている。このメンツに手を出そうなんて自殺願望があるとしか思えない。
一番の問題は……私の演技力。
「そろそろ向かうか」
「はーい!」
私は天狐に抱えられ、アチャとスタルティも一緒にゾロゾロと謁見の間へ向かう。
途中で遭遇したお城で働く人達は、ジィジを見てビクッ! とした後、頭を下げてそそくさといなくなる。ジィジのエリアでほとんど人を見たことがないことに納得した。
「あら? セナちゃん、眉間にシワが寄ってるわよ?」
「……みんなジィジのことわかってない」
「うふふふ。よかったじゃない、ジャレッド。耳が赤いわよ?」
からかう天狐を睨むジィジの耳は天狐が言った通り赤く、全然怖くない。
アチャやスタルティもにこやかに笑っている。
天狐は天狐で「珍しいもの見ちゃった」と笑顔だ。
謁見の間の前まで来た私達は気を引き締める。
今から私は記憶喪失のフリ……まではいかないけど、会話は全部ジィジが担当するからあまり喋ってはいけない。ツッコミは心の中だけにしなければ。
「ジャレッド・ジュラル様達が到着致しました!」
扉の前にいた警備の人が大声で言うと、中から扉が開けられた。
中には貴族が勢揃いしていて、私達をガン見。思わずビクッと反応してしまった私を天狐が「大丈夫よ」とギュッと抱きしめてくれた。
ジィジを先頭に進むと、今代の王様が口を開いた。
「お久しぶりの対面がこのような場になってとても残念ですよ、お爺様。今回お呼びしたのはチスタ家からの報告です。メイドとして働いていた王妃の妹、ウーヴィ・チスタに耐えがたい仕打ちをしたとか」
「ハッ。なんのことかわからんな」
「なんですって!?」
スタルティもそうだったけど、ジィジは子孫に〝お爺様〟って呼ばれてるんだね。あのメイドのお姉ちゃんが王妃なのかぁ~。人は見た目で判断しちゃいけないって言うけど……性格悪そうだなぁ……
なんて思ってたら、その王妃が声を荒らげた。ジィジの態度が気に食わなかったらしい。
「わたくしの妹に手を出しておいて……温室でのことは聞いておりますのよ!」
「己は指一本触れていない。あのメイドなんぞ興味ない。温室のことなら証人がいる。スタルティ」
「はい」
ジィジに名前を呼ばれたスタルティはあの日の温室の出来事を説明していく。
聞いた貴族達はザワザワとさざめき始めた。
「……スタルティ、お爺様にそう言えと言われたのか?」
「いえ。僕が見た事実を申しております」
「……そうか。残念だよ、スタルティ。そんな嘘の証言をするとはね」
残念なのはお前だー!! と私が叫ぶ前に、ジィジが「貴様は血を分けた己の息子の言葉も信じぬのか?」と低い声で問うた。
ジィジの冷たい雰囲気にザワついていた貴族達も息を呑む。
スタルティは健気にも「本当だよ」と言わんばかりに父親をまっすぐ見つめている。
「これがスタルティの父……己の子孫とは残念極まりない。仕方ない。クロ」
『へーい』
「再生させろ」
『あーい』
自身の従魔を呼び、ジィジはあの日の様子の録音を再生させる。どうやったのか、アチャの声だけは消されていた。
従魔の出現に驚いていた全員、ウーヴィの声に耳を疑った。
「これはセナを護るために付けていた。全て事実だ。己は己のしっぽをエサにセナに近付く女の方が信じられんな」
「こ、こんなの嘘に決まってるわ! そうよ、試せばいいんだわ! ただしっぽを触られただけなんて信じられないもの!」
おぉー! こちらのシナリオ通りに行動してくれるなんて素敵! グレンとジルが念話でめっちゃ貶しまくってるけど。
「セナちゃん、あの人モフモフして欲しいらしいわ」
「モフモフ?」
「そう。うふふ……心をこめてやってあげて」
天狐に降ろされ、私はそろそろと王妃の玉座に近付く。
「フンッ」とぞんざいに目の前に現れたしっぽを掴む。
やって欲しいと言うのならモフモフを満喫させていただきましょう! おばあちゃんにも言われたしね。
◇
――つい先日の作戦会議を思い返す。
「あのとき、あの魔女も無事では済まなかった。死ぬ前に思念を飛ばし、生まれ変わった己に戻った。しかしジャルはアマンダに護られており手出しはできぬ。手に入らないから余計に欲する。魔女の執念は生まれ変わりから代々受け継がれ……今に至っておる。時を経て昔ほどは強固な執念ではないが……ジャルに対する執着はウーヴィ・チスタに、権力に対する執着は今の王妃にな」
「ジィジのこと大好きすぎじゃない?」
おばあちゃんの説明に私がツッコむと、天狐が「ブハッ」と吹き出した。ツボに入ったらしい。
「……まぁ、そういう見方もできるのぅ。スタルティの母親を殺したのは今の王妃じゃ」
「そうか……しかしどうやって断つというのだ?」
「セナのモフモフじゃな」
「はい?」
あっけらかんとおばあちゃんに言われ、私は気の抜けた声が出てしまった。
え? 私のモフモフって意味わかんなくない?
私は戦闘になることを予想して、グレン達に手伝ってもらうつもりだったんだよ。
「あのメイドにしたようにセナがしっぽを撫でればいい」
「それだけ?」
「うむ。そうじゃの……いつも以上にやれば大丈夫じゃろ。ヒャーッヒャッヒャ!」
「「いつも以上……」」
おばあちゃんのセリフで天狐とアチャは自分のしっぽを抱きしめた。
いやいや! もう勝手にモフモフしないから、そんなしっぽを守るようにしなくても大丈夫だよ! 引かないでー!!
◇
ってことがあったんだよね。
いつもは自分が満足するように触ってるけど、おばあちゃんが〝いつも以上〟って言うからには相手に気持ちよくなってもらうように触った方がいいかな?
本当にこれで執着を絶てるのか疑問に思いながらも、しっぽの気持ちよさに私の頬は緩んでしまう。
感想 1,821
あなたにおすすめの小説
「子を産めない妻はいらない」と離縁されたので、七人の孤児がいる辺境伯家に嫁ぎます~なぜか全員に懐かれました
ゆぷしろん「子を産めない妻はいらない」
七年尽くした夫にそう告げられ、伯爵夫人アメリアは若い愛人にすべてを奪われた。
手元に残ったのは、わずかな生活費と母の形見だけ。居場所を失った彼女のもとへ届いたのは、北の辺境伯グレンからの求婚状だった。
そこに記されていたのは、前夫が一度も見ようとしなかったアメリアの功績。求められたのは跡継ぎを産む妻ではなく、戦争で荒れた領地と屋敷を共に守る伴侶だった。
だが、嫁ぎ先で待っていたのは、親を失い心に傷を抱えた七人の孤児たち。
反発する少年、言葉を閉ざした幼子、飢えを恐れる少女。アメリアは叱るのではなく、一人ずつ寄り添っていく。
やがて子どもたちは彼女を「かあさま」と呼び始める。
そんな幸せを取り戻しかけたある日、彼女を捨てた前夫が再び現れて――。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
由香神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
絆の糸が見える幼女は、辺境伯家の宝物になりました ~捨てられた私が本当の家族を見つけるまで~
由香雪山に捨てられた三歳の幼女リリアには、人と人を結ぶ「絆の糸」が見える力があった。
実の家族から伸びる糸は途切れそうなほど細い。
けれど、冷血辺境伯と呼ばれるアレクシスから伸びる糸は温かな金色に輝いていた。
前世では孤独だったリリアは、辺境伯家で初めて家族の愛を知る。
これは捨てられた幼女が、本当の家族の宝物になるまでの心温まる物語。
お飾り継母のはずでしたが、冷酷侯爵家の幼女たちが離してくれません
五十嵐紫義母と異母妹に虐げられながら生きてきた子爵令嬢セシリアは、ある日突然、“氷の侯爵”と恐れられる辺境侯爵レオンハルトへ嫁ぐことになる。
それは愛のない政略結婚——のはずだった。
けれど侯爵家で待っていたのは、冷たい侯爵ではなく、母を亡くして寂しさを抱えた幼い姉妹だった。
「……おかあさま、いなくならない?」
夜泣きをする次女ミーナ。
無理に大人びようとする長女リリア。
セシリアは戸惑いながらも、温かな食事を作り、小さな手を握り、少しずつ姉妹との距離を縮めていく。
やがて冷え切っていた侯爵家に、笑顔とぬくもりが戻り始める。
しかしその裏では、亡き前妻の死にまつわる秘密と、侯爵家を狙う陰謀が静かに動き出していた——。
これは、“お飾りの継母”として嫁いだ女性が、不器用な侯爵と幼い姉妹に愛されながら、本当の家族になっていく物語。
悪役令嬢の幼女時代に戻ったので、お兄様を救います ~断罪回避より家族優先です!~
由香断罪され、すべてを失った悪役令嬢ルシア。
死んだはずの彼女が目を覚ますと、そこは五歳の頃の世界だった。
今度こそ病弱なお兄様を救い、家族の破滅を回避したい!
幼女になった元悪役令嬢が、前世の知識を武器に運命へ立ち向かう家族愛たっぷりの逆行ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
最強の魔王ですが、転生したら公爵家の愛され幼女でした ~平和に暮らしたいだけなのに、家族も王子様も聖獣も過保護すぎます~
由香かつて世界を統べた最強の魔王。
長き眠りの果てに目覚めると、公爵家の五歳の令嬢リリアーナへと転生していた。
今度こそ平穏な人生を送ろうと決めたのに、父も母も兄たちも超過保護。
さらには王子や聖獣まで集まり始めて……?
本人は世界最強なのに、なぜかみんなに守られてばかり。
愛され幼女が巻き起こす、勘違いだらけのほのぼのファンタジー!
旦那様には好きな人がいる
えくれあ私の旦那様である、テオドール・セルヴァン侯爵様には好きな人がいる。
それは、幼馴染であり、王太子妃でもあるマチルダ様だ。
お二人は、いつもとても仲睦まじいご様子で、そんな叶わぬお二人の恋をそっと見守るのが私の日常だった。
そんなある日、夜会にめったに顔を出さない王太子殿下に、ダンスに誘われて。それがきっかけで、私の日常は少しずつ変化し始めた。