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14章

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「入るのはわかったが、どのダンジョンだ?」
「もちろん全部だよ」
「……あぁ、説明してませんでしたね。許可証は一ダンジョンずつしか出せないんですよ。期限は二週間。期間中は何回も出入りできます。定期的に巡回しているので、期限が切れていたら見つけ次第強制退場となります。他のダンジョンの許可証が欲しい場合は先に出した許可証と交換が必要です」
「へぇ、そうなんだ。ちゃんとしてるんだね。ん~、とりあえずゴマ油が欲しいから【チーナダンジョン】かな? あ! 今日はお買い物したいし、明日はゆっくりしたいから日付けは明後日からにしてね」

 サブマスの説明を受けて私が答えると、ギルマスが「ちゃっかりしてんな……」と苦笑いを零した。
 発行された許可証はガルドさん達のギルドカードの情報が記載されている厚紙だった。微量の魔力をおびている特殊な紙で、偽造防止が施されているらしい。

《((ふーん……これくらいなら精霊の子に言えば作れるわよ?))》
「((いやいや! それ犯罪だからダメだよ!))」

 プルトンの衝撃発言を慌てて止める。私も犯罪者にはなりたくないし、みんなにその片棒を担がせるつもりはサラサラない。
 ふと隣りを見ると、ジルが難しい顔をして考え込んでいた。

「あれ? ジル大丈夫?」
「……へ? あ、はい!」
「疲れちゃった? ガルドさん達の許可証ももらえたし帰ろうか?」
「い、いえ。少々考え事をしておりました。大丈夫です」
「そうだな。俺達も買い物に行きてぇし戻るか」
「だねー。ジルベルトもすぐ無理するんだからー」

 否定するジルの頭を撫でながらガルドさんやジュードさんが言うと、後ろにいたマッチョからも「昨日のせいだろうな。ゆっくり休め」と心配する声がかけられた。
 一時預かりとなっていた魔物は基本的に買い取りだけど、当人の希望があれば返却されるらしい。

「魔石とお肉は持ち帰る。猿も魔石は欲しいかな」
「僕の方はウルフでしたので、セナ様と同じく魔石以外買い取りをお願いいたします」
「わかった。お前らのは数があるから明日になるだろう」
「はーい」

 話終わった私達が揃ってギルドを出ようとすると、ビキニアーマーのお姉さんに大声で引き止められた。

「お嬢ちゃん!」
「どうしたの?」
「お嬢ちゃんテスト満点だったんでしょ!? 頼む! 教えて!」
「え……って、えぇー!? お姉さん!?」

 両手を合わせて私に頭を頭を下げるお姉さんに面食らってしまう。
 私が戸惑っている間にも「過去最高得点だったって聞いた!」なんて言うから、ギルド中から視線がビシビシと飛んでくる。
 目立つなって言われたばっかりなのに!

「お姉さん、ちょっと音量落として」
「礼はする! 頼むよ!」
〈グルルル! うるさいぞ〉

 グレンが喉を鳴らしながら威圧すると、ようやく静かになってくれた。
 顔色が悪くなったお姉さんを引っ張って、ギルドの隅に連れて行く。

「どうして私なの?」
「ギルドのやつらが話してるのを聞いたんだ。完璧な答えだったって。ウチは体を動かすのは得意なんだよ。この街のダンジョンは買い取ってもらえる物が多いから来たんだけど、まさか試験があるとは思ってなくてさ。Bランクにならないとパーティも組めないんだ。一人だと受けられる依頼も限られる。早く入れるようになって村にいる家族に仕送りしてやりたいんだ。だったら、できるやつに教えてもらった方が確実だろ?」
「……なるほど」

 家族のためなんて聞いちゃったからには教えてあげたいけど……
 グレンをそーっと見上げると、ため息を吐かれた。

「やっぱ暇になっちゃうから嫌?」
〈セナはこいつに教えたいんだろ?〉
「うん。家族は大事だから……」
〈……仕方ないな。そんな顔をするな〉
「ありがとう!」

 グレンは困ったように笑いながら私の頭をクシャクシャと撫でた。
 そんなに不安そうな顔でもしてたんだろうか?
 教えるのにあたり、ギルドの一室を借りようと、お姉さんを連れて先ほどまで話していた応接室に戻る。
 まだ残っていたギルマス達に説明した途端、ずっと黙っていた奥さんが目を輝かせた。

「まぁ! それはいいですね! でしたら、ギルドからの指名依頼としてセナ様方に先生をしていただくのはいかがですか?」
「少人数ならいいけど……人は選んで欲しいかな。子供に教わるのが嫌な人もいるだろうから。それに私がこの街にいる間だけ。遊びに行ったりもしたいから毎日はできないよ」
「もちろんです!」
「とりあえず明日は休みたいから明後日以降からで。今日はもう帰ってもいい?」
「わかりました。明後日までに報酬やその他もろもろと決めておきます」
「うん。よろしく。じゃあ、お姉さんまたね」
「ありがとう! 恩に着るよ!」

 お姉さんに別れを告げ、私達はようやくギルドを出た。
 ジルを休ませたい私は、買い物をしてくると言うガルドさん達と別行動で、そのまま宿に向かう。
 ガルドさん達も一緒に泊まれる大部屋に部屋を移って、やっとひと息つけた。

「疲れてるのにごめんね」
「いえ! 本当に大丈夫です」
「グレンもごめんね」
〈いい。そうだな……パンケーキで手を打ってやる〉
「……ふふっ。ありがとう」

 こういうときグレンは優しい。気を遣わせないように言ってくれたのがわかる。
 本当に私はこの世界で恵まれている。

《セナちゃん、セナちゃん。精霊の子達を呼んでもいいかしら?》
「ん? いいよ~」

 プルトンに言われてウェヌスの指輪に魔力を通すと、ウェヌスがいつになく大量に精霊の子達を呼んだ。
 それぞれの属性の子達に、プルトン達は部屋の離れた場所でまとまってから指示を出していた。
 ダンジョン内の捜索を手伝ってもらうのかね?

 夜、買い物から戻ってきたガルドさん達と楽しくおしゃべり。
 それでも頭をチラつくのは……お姉さんの話を聞いて思い出しちゃった自分の両親。この世界とは時間の流れが違うため、もうおそらく生きてはいない。親孝行もできずに死んだ私は、彼らが幸せな一生を送れたことを祈るだけだ。
 そしてときどきにでものことを思い出してくれていたのなら、それ以上幸せなことはない。
(お父さん、お母さん。私は今幸せです……)

 温もりが恋しくてグレンにくっ付いていた私は、背中を叩く規則正しいリズムによって早々に夢の世界へ旅立った。

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