弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!

冬吹せいら

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「し、失礼しました! これまでのご無礼を、どうかお許しください!」

私は頭を下げた。これでもかってくらい。

まさか……。ネイトルが、お姫様だったなんて!

恐ろしい話だ。私はずっと……。お姫様とお話をしていたとは。

キリアが聞いたら、腰を抜かすことだろう。

「おやめください。私たちの関係は……。変える必要などないのです。今まで通りのあなたで、どうか接してください」
「そう申されましても……」
「……あの、それから、あなたの仮面を外した姿も、見せていただきたいのですが」
「あ、そ、そうでした……。はい」

私は、緊張しながら、仮面を取った。

「……お名前は?」
「スズカ・モルバレスです」
「あなたの方が、よほど綺麗じゃないですか……」
「そんなはずはありません。ネイトル……。いえ、ネイリア様の方が」
「ネイリア様は、やめてください。なんだかむず痒いです」

難しい要求だ。

ただの町民である私が、お姫様を、呼び捨てにするだなんて。

「では、こうしましょう。私はあなたを……。あなたの弟を助けます。なので、これからも変わらない距離感で、親友でいてほしいのです。どうですか?」
「……そんなことで、いいのですか?」
「あなたは気が付いていないかもしれませんが……。私の相談に対する返答は、いつも正確で、素早くて……。あなたのおかげで、今の私は、家でも存在感を発揮できている。そう思います」
「ご謙遜なさらないでください。自身の力でしょう?」
「……ありえません。私があなたに、どれほど助けられたことか」

……私はただ、当たり前のことを、当たり前のように言ってきただけだ。

それも、相手の正体を知らなかったから、できただけであって……。

姫様と知った今、同じように、アドバイスができる自信は、全くもってなかった。

「では、逆にしましょうか。私はこれから、独自に動いて、あなたを助けます。助けられてからだったら、私の要求を飲むしかありませんものね?」

ネイトルが、いたずらっぽく笑った。

とても、魅力的な表情だ。

今までずっと、仮面の下には、この顔があったのかと思うと、ドキドキしてしまう。

「まさか、助けられたのに、また他人としてやり直し……。なんてことは、ないでしょう?」
「それは……。当然、その通りです」
「約束ですよ。……今から家に戻り、すぐに行動します。あなたは……。そうですね。あなたにできることをしながら、待っていてください」
「私にできること……」
「話を聞いていると、ブレッザ家は、そこまで町民の信頼を得ていないようですし、追い出すタイミングがあるのであれば、町民にとっても、都合がいいのでは?」

私も、同じことを考えていたけど、でも……。

「……あなたが教えてくれたことですよ。仲間を信じて、戦いなさい」

……恥ずかしい。

王族に向かって、私はなんてことを言ったのだろう。

「では、私はこれで……」
「あっ、ちょっと……」

仮面を付けながら、ネイトルは出て行ってしまった。

私にできること……。

町民を、動かす……?

できるかどうか、わからないけれど。

……親友が、せっかくアドバイスをくれたのだから、やってみよう。
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