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二章

52 彼女の秘密

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 真っ暗な小屋の中、薄っすらと人が動く気配がある。
 何故解るかというと、完全に闇ではなく小屋の壁、主に昼間オーフェンが直した木を打ちつけた所から夜空の光が室内に入っていたからだ。

 音を立てないように動いているつもりであるが、僕にはばれている。
 扉が開く音がし閉められる音。
 念のために横になっている体を動かし、オーフェンの姿を探す。

「よくやるよ……」

 就寝する前にオーフェンは僕に伝えていた。
 夜這いをする! と。
 すぐに爆発音が聞こえ、静かになる。
 結局暫く待ってもオーフェンは戻ってくる事はなく、僕は二度寝した。

「にいちゃん、朝だよー」
「朝だよー」

 トモとミアが起こしに来た。

「おはよう」
「にいちゃん、朝飯だってー母屋に」
「母屋にきてー」
「ありがと」
「あと、途中のゴミはそのままにしろって」
「ママがいってたー」

 僕はトモとミアに引っ張られて外へとでる。
 小屋から母屋までは、少しだけ離れている。
 その途中に、オーフェンがうつ伏せで倒れていた。

「えーっと……」
「にいちゃん、ゴミに触ったらだめだよ」

 トモとミアは僕の手を引っ張り、ゴミを、いやオーフェンを避けて通った。
 母屋では、フランがパンを切り分けていた。
 最初にあったのと印象が違う、子供二人を育てる若い母親にも見えた。

「連れて来たね、体の調子はどうですえ」
「お掛け様で、走る事も出来そうです」
「それはよかったわえ、誰かのせいでこっちは睡眠不足やえ。
 まぁたべなされえ」

 昨日と同じように座らせられると、朝食となった。
 パンにスープ、あとはチーズなどである。
 ここまで良くしてもらったフランに言わなければならない事がある。

「その、フラン」
「ここを出て、さらわれた子を助けに行くって話しやろ?」

 う、先に言われてしまった。

「食べ終わり、体の確認をしたら行こうかと思っている。
 色々してもらって何も返せてないけど、ごめん」
「はー……、あの馬鹿にもあんさんの爪の垢を飲ませてやりたいわえ」

 一晩考えた答えだ。
 われながら優柔不断と思う、マリエル達も助けたい。
 でも、フローレンスお嬢様もほおって置く事は出来ない。
 マリエルには伝えれる事は伝えた。
 フローレンスお嬢様を助けた後で全力でカーヴェへ戻ろう。

 フランが胸元に手をいれると皮袋を一つ取り出した。
 それを僕へ投げて手渡してくる。
 キャッチすると、ほんのり暖かい袋。
 もった感触からするとお金が入っているのがわかる。

「滞在費などはきっちりと引いてますえ、残りは返しやす」
「いいんですか……」
 
 てっきり帰ってこないと思っていた物だけに、思わず聞いてしまう。
 
「あんさんが黙っていくような人間だったら返しませんえ」
「どうも」
「さてと、トモ、ミア。
 このパン持って、あの馬鹿と遊んできい」

 サンドイッチにしたパンを二人に持たせて外へ出した。
 僕も外へ出ようと椅子か立つ。

「あんさんは、もう少しここにおい」
「はぁ……」

 フランは立ち上がると部屋を出て行った。
 直ぐに戻ってくると、その手には剣が握られていた、もちろん鞘には入っている。
  
「これもっていき、ウチが昔使っていたボロさかいに、放置していたから錆びているかもしれへんけど」

 手渡された剣は柄の部分から綺麗に磨かれておりとても放置していたとは思えない。
 剣の柄の部分は模様があったのか削られた後がある。

「本当は拾い子であるトモかミアに残しておいたんやけど。
 あの子らは剣よりも体動かすほうがすきみたいやし、ただ眠っているよりはええ」
「貰う義理も無いのでお返しします」

 確かに魅力的だ。
 でも、そこまでしてもらうつもりも無い。
 特に剣は消耗品だし、こんな大事にしてる奴ならなお更だ。

 僕が剣をそのままフランへ押し返そうとすると、フランはその剣を更に僕へと渡そうとする。
 お互い無言で剣を押し付けあうと、眉を潜め口元が震えてくるフラン。

「…………あんさんな。
 ウチがやるっていうてんねんえ」
「怪我を手当てしてくれたのは感謝しますし、旅費を返してくれた事も感謝します。
 これ以上僕に何かをして貰っても返す当てはありませんし、大事な剣にも見えます」

 素直に何かを頼んでくれたほうが僕としても気が楽だ。

「まったく、これだから頭の固い男はこまりますわえ」

 聞こえるように悪態をついてくる。

「昨日は気まぐれといいましたかえ、これはウチのためでもあるんえ」
「と、言うと」
「あんさんは、生死の最中に今度は助けるって人の名前を言っていた」
「らしいですね」

 確かに、昨夜そういう話をされた。
 恥ずかしい記憶である。
 フランが、口をあけては閉じ、また開ける。
 でも一向に喋っては来なかった。

「あの、時間が無いんで、もうようがないなら……」
「っ! ああ、もうわかったえ! マリエルにファーって……。
 聖騎士第七部隊のマリエルと副隊長のファーランスの事やろ。
 ウチかてその名前は重々しっとる」

 突然左右を見渡すフラン。
 周りに誰も居ない事を確かめると、突然僕によって来た。
 小さい声で僕へと話す。

「副団長のファーランス、あれウチの妹やえ」

 あまりに驚き目を開ける。

「なっ! えっ……!」
「静かにっ」
「いや、で、でも……ファーは女王の孫だし、フランが姉となると……」
「黙って聞いていてっ、一回しか言わない。
 私がハグレになったのは十年前。
 フランは偽名、それに公式では両親とともに死亡扱いよ。
 君が妹達とどんな関係かまでは、まだ調べ切れてない。
 でも、今度は助けるという言葉は信じてみたいの」

 変な喋りではなく、いたって普通な喋り方で僕へと話してくれた。
 手を大きく叩く。
 あたりに大きくパンパンという音が鳴った。

「というわけやえ、剣受け取ってもらえませんえ?」
「あ、ありがとうございます」

 僕としては、そういうしかない。
 なぜフランが偽名なのか、王女だったのか、なぜハグレになどは流石に聞けない。
 けど、今の時点ではフランは、マリエル達の事を守っているようにも見えた。
 玄関の扉が大きく開いた。

「フラン姐! 俺のために朝食をっ!」
「オーフェン、仕事の手紙きとるやえ。
 箱の奪還やえ、ついでにあんさんも付いていきなーねえ」
「あー……、俺のバラ色休暇が終わる」

 オーフェンはがっくりと肩を落とす。
 それでも、直ぐに前を向くと僕を見た。

「ヴェル、お前も来るのか?」
「一応、でも別行動でも構わない」
「まぁいいか、じゃ。
 町に行くまでに細かい話を」
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