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第三章:新しい生活
3-11お帰りなさい
しおりを挟む「なにこれ美味しいぃっ!!」
レナさんはミートソーススパゲティーを食べながら大騒ぎしている。
ああ、口の周りがソースでべたべたに……
お嫁前だってのにその顔は人様には見せられませんよ、レナさん?
「リルから作り方は聞いたけど、確かにひき肉さえ何とかなればこれは売れるね」
おかみさんも腰に手を当て大いに笑顔でそう言う。
正式名がボローニャ地方で有名なボロネーゼ。
ミートソーススパゲティーって日本にしか無いらしく、レトルトなんかのはほとんどトマトケチャップでお肉なんて申し訳程度。
でも本来はお肉がメインでこれが固まったらハンバーグかと思うくらいの量が入っている。
生前イタリア料理は大好物で、近くの住宅街の片隅でひっそりとやっていたイタリア人ハーフの人がやっているお店が安くておいしくてよく家族で行ったもんだ。
本場イタリアでは美味しい店は大通りでは無く裏路地とか住宅街でひっそりとやっているらしい。
「そう言えばあの平たい麺はどうするの?」
「ああ、それは明日のまかないで使おうかと思っていて。おかみさん、まだあさりありましたよね? クリームソースのあさり和えで明日は平麺パスタにしようかと思ってます」
アスタリアちゃんの質問に私がにっこりそう言うとおかみさんはぐっと私に顔を近づけいう。
「明日と言わず今作っておくれ! 出来ればあたしが見ている目の前でやってくれると作り方も覚えられるからね!」
思わず後ずさりしてしまいそうな迫力。
まあ、この世界でもシーナ商会でパスタ取り扱っているのだからいずれは広まるだろうイタ飯。
……出来ればエルフの村に戻ってからも入手したいなぁ。
そんな事を私が考えていると亭主さんが戻って来た。
おかみさんに言われてシーナ商会で大量にパスタを購入して来たらしい。
「こんなカチカチのモンが本当に食えるのか?」
「亭主さん、お帰りなさい。亭主さんの分のまかないも出来てますよ」
「こんな時間からか? 今日は先に喰えって事か?」
いつもは仕込みが忙しくて先に食べるか後かに分かれるけど、亭主さんは何時も遅い時間に食べている。
こんなに早い時間は珍しいのだろう。
「いいからあんたも食べて見なよ。リルが作ったんだよ」
「ほう、リルがねぇ……」
言いながら出されてパスタを食べて大騒ぎ。
こんなうまいものは初めてだとか、あの硬い麺がこんなに美味くなるのかとか。
確かに乾燥麺見れば想像もつかないよね。
そんなこんなで私は引き続きあさりのクリームパスタを作らさせられる。
「それじゃぁ始めますか」
私は言いながらまずはあさりとニンニク、オリーブ油を準備する。
フライパンにオリーブ油を入れて熱し、ニンニクを入れ香りが油に移った頃にあさりを入れる。
じゅぅううううぅうぅっ!
白ワインも少し入れてすぐにふたを閉めてしばし放置。
その間に玉ねぎを細かく切って生クリームが無いので牛乳に炒った小麦粉を入れ、片手鍋でゆっくりと温めながらバターも溶かし入れる。
あさりを炒めていたフライパンの蓋を取ってみると全部貝が開いていて中から出てきた水分でいい感じになっている。
そこへ玉ねぎを入れて炒める。
貝から塩分が出ているので塩は不要。
程無く玉ねぎもしんなりと透明になり始める。
そこへブイヨンスープを少し入れ、先ほどの牛乳を入れる。
ゆっくりと弱火でくつくつと煮えるくらいにしておく。
するととろみが出てくる。
そこにコクを増やす為パルメザンチーズも少量削り入れておく。
お湯たっぷりに塩を入れておいた鍋に平面の半生パスタを入れる。
正直茹ですぎてもだめだけど私的にはやや柔らかめが好きなのでその辺を加減しながら麺を引き上げ湯切りして先ほどのフライパンに投入。
クリームソースとよくからめてからお皿に盛りつける。
最後に乾燥パセリを軽く振りかけて出来上がり!
「出来ました! あさりのクリームソースパスタです!!」
出来上がったモノをおかみさんやルラ、アスタリアちゃんや口の周りにミートソースを付けたままのレナさんや亭主さんの前に出す。
先ほどまかない飯を食べたからこれは味見程度の少量でお皿に乗せている。
「お姉ちゃん、これだけ?」
「今回は味見よ。おかみさん、作り方は大丈夫ですか?」
「ああ、少し手間だがこれも美味しそうじゃないか」
言いながらみんなしてフォークでそれに手を付ける。
はむっ!
口に含むと途端にあさりの風味にまったりこってりとクリームソースが後追いで来る。
それに私好みの柔らかめの平打ちパスタがもにゅもにゅと美味しい。
「これもいけるね、クリームの濃厚さにあさりがこんなに合うとはね!」
「おいしぃ~」
「な、なにこれぇ、初めて! 私こっちのほうが好き!!」
「ここれも美味しいっ!!」
「本当だ、こっちも美味いな」
おかみさんもルラもアスタリアちゃんもクリームソースをたっぷりとからめたそれに舌鼓している。
口の周りに赤いミートソースを付けたままのレナさんや亭主さんも今度は白いソースを口の周りに付けながらそれを食べる。
「リル、これも売れるよ。他にもあるのかい?」
「えーと、簡単に作るならもっとシンプルなペペロンチーノってのがありますが……」
作るのは簡単だけどいい加減仕込み始めないとやばくない?
アスタリアちゃんなんかまだあさりのクリーム一生懸命にスプーンですくっているけど。
「決めた。あんた、これメニューで出そうよ。絶対に売れるからね!」
「ああ、そうだな。『赤竜亭』の新メニューだ!!」
商魂たくましいおかみさんと亭主さんはそう言いながらガシッと腕を組む。
まあ、仲のいいご夫婦でうらやましいし、商売繁盛になるなら良いのだけど。
それにこれならまかない飯でたまにパスタが食べれそうだしね。
「なんだいなんだい? 凄くおいしそうな匂いがしてみんなで何やってるんだい?」
突然聞こえてきたその声に私は思わず振り向く。
料理を搬出する小さな窓にその声の主はにこやかにこちらを見ながら手を振っていた。
「トランさん!!」
「ただいま、リル。みんなで何しているんだい?」
私はエプロン姿のまま急いでトランさんに抱き着きに行くのだった。
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