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第六章:ドドス共和国
6-13ユエバの街出発
しおりを挟むユエバの街に降り注いでいた雨は古代魔法王国時代の天候を操る魔道具が原因だった。
そしてその魔道具を動かしていたのが秘密結社ジュメルのデベローネ神父と言う人物。
彼はジュメルの中で七大使徒の一人として秘密結社を導くべくいろいろな事をしていたそうだ。
なにをやっているかは知らないけど。
その辺はカリナさんに任せておいて私たちは街の周辺の川や洪水で水が溜まっている場所を内緒でチートスキル「消し去る」を使ってどんどんと水を消していっていた。
「ふう~、トーイさんこれで終わりですか?」
「おう、街道に影響のある所はこれで大体だ。後は国境を越えてドドス領だが噂ではあちらは雨が降っていなかったそうだからな、移動は問題無くできそうだと」
「ほんと、ユエバの街付近だけだったんだなあの大雨」
トーイさんたちに付き添ってもらって街道に流れ込んでいた川の水を消し去り私はその先を見る。
往来があるせいか道には草がほとんど生えていないし場所によっては道しるべの石とかもある。
この先にドドス共和国があるんだ。
「お姉ちゃん、そろそろ戻ろうよ。お腹すいた~」
「そうだね、トーイさんザラスさん、ネッドさんそろそろ戻りましょうよ?」
「ああ、そうだな。腹も減ったし戻るか!」
「ん、んじゃ行こうか」
「こっちも大丈夫みたいですね。戻りましょう」
私たちはそう言いながらユエバの街に戻るのだった。
* * * * *
「商業ギルドのキャラバンが三日後に編成をして出発するらしいわ。既に手配はしておいたからリルもルラも出発する準備をしなさい」
戻って来て宿でご飯を食べているとカリナさんが冒険者ギルドから戻って来て私たちにそう話をする。
「ずいぶんと手際がいいな。キャラバンも三日で編成できそうなのか?」
「もともと準備は出来ていたから後は護衛の冒険者とかの手配ね」
ザラスさんのその言葉にカリナさんはそう言ってから私とルラを見る。
そして周りをちらちらと見てから私とルラを呼んで小声で話始める。
「リル、ルラちょっと話があるの。ご飯食べ終わったら私の部屋に来て」
「はい? いいですけどどうしたんです??」
「話は部屋に来てからね」
そう言ってカリナさんは先に自分の部屋に行ってしまうのだった。
私は小首をかしげてからとにかく食事を終わらせることに専念をしたのだった。
* * *
こんこん
「どうぞ、鍵は開いてるわ」
食事が終わりカリナさんの部屋に行く。
扉をノックするとカリナさんの声がして部屋に入るよう言われる。
なので私は扉の取っ手に手を着け扉を開く。
「お邪魔します。どうしたんですか、わざわざ部屋に来いだなんて?」
「まあいいから、そこに座りなさい」
部屋に入ると小さなテーブルに椅子が二つあってカリナさんはベッドに腰掛けながらこちらを見ている。
私とルラは言われた通り椅子に座ってカリナさんを見る。
するとカリナさんは真面目な顔をして話を始めた。
「リルとルラのチートスキルの話なんだけどね、どうやら秘密結社ジュメルにその事がばれたようなのよ。それであのデベローネって神父を締め上げていろいろ吐かせたのだけどジーグの村であなたたちのスキルを見て七大使徒にその事を伝えたらそこであなたたちの力を利用しようと言う計画が起ち上がったらしいの」
カリナさんはそこまで言ってから懐から指輪を取り出す。
「これは秘密結社ジュメルの紋章よ。七大使徒は全てこの指輪をしているそうよ。そして秘密結社ジュメルに関わる者は必ずどこかにこの紋章の入ったものを持っているらしいわ」
カリナさんはその指輪を私たちに渡して見せる。
私はその指輪の紋章を見る。
そしてその紋章を目に焼き付ける。
「うーん、悪の秘密結社があたしたちを狙っているって事ですね!? じゃあこっちから秘密基地に乗り込んでやっつけますか、カリナさん!?」
ルラはなんか嬉しそうにこぶしを握ってカリナさんに言う。
しかしカリナさんは首を横に振りながら言う。
「秘密結社ジュメルの本部は特に決まった場所には無いみたい。でも七大使徒は各国に散らばっていて各国で活動を行っている。だから言い換えればそれらがあいつらの拠点でどれかが壊滅してもすぐに他の拠点が総力を挙げて新たに拠点を作り上げるらしいの」
カリナさんはそこまで言ってため息をつく。
そして私たちを見て言う。
「だからリル、ルラ、あなたたちドドスに行くのをやめない?」
「はい? 何でですか?」
いきなりとんでもない事を言い出すカリナさん。
私たちがエルフの村に戻りたいって理由だって知っているのに何を言い出すのだろう。
「あなたたちが心配なのよ。さっきも言ったけど秘密結社ジュメルは各国にその拠点を設けている。そしてあなたたちのそのスキルについても知ってしまった。今後ジュメルはきっとあなたたちにちょっかいを出して来るわ」
そう言うカリナさんの顔は真剣だった。
「大丈夫ですよ! 悪いやつらが来たらあたしがやっつける!」
ぐっとこぶしを握ってルラはそう言う。
まるで戦隊もののヒーローのように。
それでもカリナさんは私たちに言う。
「正直ジュメルとはかかわりあいになりたくない程厄介な連中よ? 千年前に悪魔の神、魔神を異界から召喚してこの世界を壊滅に導こうとするような連中よ? ここで私たちと一緒に居てほとぼりが冷めるのを待った方が良いわ」
しかし私は首を横に振って言う。
「もしそのジュメルが来たとしても私とルラの二人がいれば大丈夫ですよ。私たちのこのスキル、エルハイミさんと同じ力に繋がっているのでしょ? 『あのお方』とか言う存在と」
私がそう言うとカリナさんはハッとして目を丸くして私を見る。
そして苦笑を浮かべて言う。
「そう言えばそうだったわね…… あなたたちのその力、エルハイミさんと同じ力とつながっていたんだっけ。忘れていたわ」
そう言ってカリナさんはベッドから立ち上がる。
そして私たち二人の近くまで歩いて来て私とルラを同時に抱きしめる。
「まったく、こんな若木に苦労させる羽目になるとはね。守ってあげたいけど私があなたたちに守られる事の方が多いのだものね。大人として失格だわね……」
「カリナさん?」
「余計な心配だったわね。でも気をつけてね? もし大変だったら何時でもここに戻って来ても良いんだからね?」
そう言うカリナさんはお母さんみたいな匂いがした。
懐かしい我が家のお母さんのような匂い。
「うーん、カリナさんも一緒にエルフの村に来る?」
ルラがいきなりそんなことを言うとカリナさんはそっと離れて苦笑して言う。
「村にはまだ戻りたくないわね。うちの親、勝手に許嫁とか決めちゃいそうだし。それに私はまだまだ外の世界で自由にしていたいの」
そう言いながら私とルラの頭に手を乗せて撫でてくれる。
「そのうち村にも行くと思うけど、その時にまた会いましょう。あなた達に精霊の加護があらんことを」
そう言ってカリナさんは私たちの頬にキスをしてくれるのだった。
◇ ◇ ◇
「道中気をつけてな!」
「またこっちに来る事あったら顔出せよ?」
「あなたたちには驚かされる事ばかりでしたが、とてもいい経験でしたよ。無事村に着くことを祈ってます」
数日後商業ギルドのキャラバンが出発するので私とルラもそれに同行する為に商業ギルドに来ていた。
そして見送りにトーイさんやザラスさん、ネッドさんも来てた。
「はいこれ。ユエバの冒険者ギルドマスターの紹介状よ。ドドスでもこれを持って行けば色々と都合をつけてくれるはずよ。サージム大陸に行くためのね」
カリナさんはそう言って私に紹介状を渡して来てくれた。
私はそれを受け取りお礼を言いながら腰のポーチにしまう。
「ありがとうございます、カリナさん、皆さん」
「ありがとうね~」
そう言う私たちにカリナさんはまた抱き着いてくる。
「くれぐれも気をつけて行くのよ?」
「はい。カリナさんもお元気で」
「うん、カリナさん、またね!」
私とルラは最後の挨拶をしてからカリナさんから離れて荷馬車に乗る。
そして私たちを乗せたキャラバンの荷馬車が動き出す。
「ばいば~いぃ!」
ルラが元気に手を振っているとカリナさんたちも私たちに向かって手を振ってくれる。
私も皆さんに手を振る。
レッドゲイルからだいぶ寄り道になってしまったけど私たちはいよいよドドス共和国へ向かう。
そんな思いを胸に私たちはカリナさんたちが見えなくなるまで手を振るのだった。
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