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第六章:ドドス共和国
6-27街の異変
しおりを挟む豊胸のお店は大盛況であの後徹夜で問題になり徹夜は禁止されたのだけど……
「くあぁわぁーっ! また抽選に外れたぁっ!!」
「お姉ちゃんくじ運悪いよね~」
お店の方も対策として公平に翌日の抽選くじを配布してお店で施術が出来る人を選定してくれていた。
抽選のくじ引きと言う事もあり流石に行列にはならなくなったけど、毎日一回は引きに来ている私は未だに一度も当たっていない。
そんな毎日がもう二週間以上続いている。
「ここまでくじ運が悪い人って聞いた事無いね……」
「くっ! 私だってこんな目に合うとは思っても見ませんでした…… 昔はネット予約とかで結構抽選に当たっていたのに……」
「ネット?」
あっちの世界の事を知らないメリーサさんは首をかしげる。
私は適当に誤魔化してはおくけど、つくづく思う。
生前に人気商品は事前の抽選申し込みしてくじ引きみたいに当たれば購入できると言うモノに結構当たっていたのだけどなぁ。
あの時は欲しくてもなかなか買えずにお店側とか企業側も事前登録で公平にくじ引きみたくして販売をしていた。
まあ、あの転売とか言うのが社会的に問題になっていたしね。
お兄ちゃんなんかプラモデルが手に入らなくなって中古店行ったら元値の何倍にもなっていたとか嘆いていたもんね。
そう考えるとこの世界でのくじ引きも公平ではある。
公平ではあるのだけど……
「当たらないぃ~」
そう言いながらへこんでいるとルラが頭を撫でてくれる。
「また明日行ってみようよ~」
「……うん」
涙目でルラに慰めてもらっている私。
そんな私たちを見てメリーサさんは小さく笑い、手を振る。
「まあ、そのうち当たるよ。それじゃぁ行ってきますね」
「うん、気をつけてね~」
「いってらっしゃぁ~い~」
メリーサさんはにこにこしながらここ「鉄板亭」を出ていく。
今日は施術二回目の日だった。
あの後だいぶ回復はしていたメリーサさん。
疲れが抜けきらないとは言っていたけど日常の生活に支障は出ていなかった。
なので予約もしていた今日、予定通り二回目の施術を受けに行く。
ううぅ~、ますますメリーサさんの胸が大きく成っちゃうぅ~。
私も銭湯には毎日行っているのだけど、「育乳の女神様式マッサージ」は効果はある。
但し本当に微妙な程度だけど。
ドドスに来てもう半月は経つけどほとんど毎日銭湯には行っている。
その都度あの気持ちいぃ…… おほん、効果が出そうなマッサージでわずかにバストサイズがアップした。
最近はルラの大きさに近づいているから効果はあるのだけど……
「夢の揺れる胸にはまだまだとおぃいぃ~」
「でもお姉ちゃんあたしと同じくらいにはなってきたじゃん?」
胸の大きさの変化について知っているルラはそう言って慰めてくれるのだけど、正直ルラだって小さい部類だ。
だって胸当て、ブラジャーが不要な程度の大きさなんだよ!?
肌着で間に合っているうちは胸とさえ呼べない気がしてならない。
かと言って無理矢理胸当てするとずり落ちちゃうし……
「はぁ、手っ取り早く胸大きく成らないかなぁ……」
思わずそんな言葉が漏れ出る。
「取りあえず今日もフルーツ牛乳飲みに銭湯行こ♪」
「はいはい、あんたはほんとフルーツ牛乳好きね?」
そう言って私とルラはまた銭湯に行くしか無かったのだった。
* * * * *
「あれ? お店に誰もいないのかな?」
銭湯から戻って来るといつもなら夕ご飯の良い匂いが漂っている頃なのに今日はそれがしない。
不思議に思ってカウンターの奥にある厨房を覗くけど誰もいない?
「おかみさんもいないのかな?」
「裏には亭主さんもいないよ~」
誰もいないなんて不用心だなとか思いながら部屋に戻ろうとしたら足音が聞こえて来た。
「おお、戻って来てたか。悪いが今日の晩飯は代金出すから他で食ってくれ」
「え? それはまあいいですけど…… どうしたんです?」
やって来たのは亭主さんだった。
亭主さんは他にもいるお客さんにも同じこと言って回っている。
そしていつもは夕食を食べにくる泊り客以外のお客さん向けに開く食堂も看板を準備中に変えて扉を閉める。
「そうだ、悪いんだが店番手伝ってもらえないか? ちゃんとバイト代は出す。メリーサをすぐに医者に連れて行かなきゃならないんだ!」
そう言う亭主さんの表情は真剣そのものだった。
「メリーサさんを医者に? 一体どうしたって言うんですか!?」
驚き聞く私に亭主さんは手短に言う。
「メリーサが戻って来てから倒れて意識が無いんだ。もの凄く衰弱もしている」
そう言って後は頼むとか言ってすぐに裏庭に行って大八車のような物を引っ張り出して布団を敷きメリーサさんを担いでくる。
私はメリーサさんを見て驚く。
「む、胸が更に大きく成っている!?」
「お姉ちゃん、そこじゃないでしょうに~。なんかメリーサさん青白い顔してるね、大丈夫かな??」
ルラに突っこみを入れられながらメリーサさんの顔色を見ると確かに青白い。
気を失ったメリーサさんは大八車の載せられ亭主さんとおかみさんに付き添われて行ってしまった。
「うーん、大丈夫かなメリーサさん……」
「取りあえず配るお湯沸かさなきゃだよね? あたし薪取って来るね~」
心配だけど頼まれた店番のお手伝いを始めるのだった。
* * * * *
「ごめんね~、心配かけちゃったみたいだねぇ~」
メリーサさんはベッドの上で私たちにそう言う。
医者に連れられて行ったメリーサさんは体力よりも体内にある魔力が枯渇していたらしく、マジックポーションを飲まされてとりあえず意識は取り戻した。
確かに疲れもあるらしく、体力も魔力も落ちているという診断をされたけど、胸だけは魔力が集まっているらしくそれのお陰で大きく成っているらしい。
「メリーサさん、もしかして豊胸の施術のせいじゃないんですか?」
「うーん、確かにそうだと思うけど仕方ないよね? だってここまで大きく成ったんだから!」
そう言ってぐっと服の上から乳房を支えるしぐさをして見せる。
するとそこには服をわずかに持ち上げるくらいの肉質感が存在していた。
「ぐっ! た、確かに大きく成っている。しかもその大きさなら胸当てが必要になるくらいに……」
「でしょ! ああ、とうとう私も胸当てをつけられるんだぁ~。肌着に綿つめる必要もなくなるんだぁ~」
嬉しそうに言うメリーサさん。
でもその顔色は決して良いとは言えない。
「でも、お医者さんのお話だと魔力が枯渇していて体力も落ちてるんでしょ? 大丈夫なんですか??」
「うん、疲れが抜けないのは魔力不足が原因だって言われたね。魔力は良く休んで体力と気力が戻れば自然と回復するらしいから今は大人しく寝てろって言われた」
まあ、魔力だけは食べ物みたいに他から摂取なんて出来ないもんね……
そう言えばエルハイミさんが「魔力は魂から湧き出る力ですわ~。だから魔力を使い切ると意識を失うので気をつけてですわ~」とか言っていたっけ。
魔力って確かマナの元になっていて、そのマナはそこら中にあるって聞いたけど……
「取りあえず体力の付く食べ物でも作ってあげますからちゃんと身体を回復してください!」
私はそう言いながら亭主さんとおかみさんに許可をもらい厨房を使わせてもらう事にするのだった。
* * *
「お姉ちゃん久しぶりにお料理するの?」
「うん、ここドドスは香辛料とかいろいろ有ったからそれらも使ってメリーサさんの体力が回復するもの作ろう!」
私はそう言いながら先ほど市場で買ってきた鶏肉のお腹に香味野菜や香辛料を詰め込み始める。
軽く塩をまぶしたネギに生姜、ニンニクにナツメグ、セロリに人参を詰め込みお腹を縛る。
それをお皿に入れてそのまま蒸し器に入れる。
じっくりと脂が出て来るように蒸してからお皿を取り出し、お鍋に鶏をそのまま入れてひたひたに水を張る。
そして弱火でコトコトと時間をかけて煮て行く。
「なんかものすごく手間がかかるね? それって鶏肉のスープ??」
「うん、鶏肉の香味野菜スープね。油を抜いておくと病人とかも食べやすくなるから今回はひと手間かけて蒸して脂抜きしたの。これで後は四時間くらい煮出せば鶏の栄養とか旨味が骨からもぐっと出て滋養強壮回復のスープになるの」
「うーん、お肉は食べたいけどなんかお薬みたい」
「大丈夫だって、こっちにとっておいた脂も別の鍋で追加して煮立たせれば濃厚な鶏スープにもなるから。それに麺とかパン付けて食べても美味しいよ?」
弱火でコトコトと煮立たせている鍋の横にもう一つ鍋を準備して私たち用に先程の鶏脂を入れておく。
後は本体が出来あがったらメリーサさん用のと私たち用ので作り分けすればいい。
「四時間かぁ~」
「ちょっと時間かかるけど、こうして煮出すと栄養がスープに出るからね~。中国ではこれに冬虫夏草ってキノコ入れるらしいけどあれって虫に生えるキノコなんだよね……」
以前ネットで見て驚いたもんだ。
寄生キノコらしく虫の幼虫に生えて栄養分を取るらしい。
その画像を見て気持ち悪くなったけど、確かに栄養は有りそうだった。
今回作るのは昔ネットで見た普通の鶏と香味野菜のスープの作り方。
鶏の旨味を十分に引き出すお料理。
昔お母さんと一緒のに作って家族では大絶賛だった一品。
あの時はお父さんがインフルエンザで寝込んでいたんだっけ。
ちょっと懐かしく思いながら鍋の火を確認する。
「おやおや、エルフのお料理って初めて見るわね? 何作ってるの?」
「ああ、おかみさん。お邪魔させてもらってます。鶏の香味野菜スープってやつです。病人とか体力が弱っている人にうってつけなんですよ。メリーサさんに早く元気になってもらいたくてね」
「おやおや、ありがとうね。でもほんとにどうしたんだろうね? 最近街中の若い女性から同じような症状がたくさん出てるって。メリーサも大丈夫だろうかねぇ?」
「街で同じような症状?」
おかみさんは私が料理をしている所を見ながらそんな事を言って来る。
それって多分豊胸の施術のせいだろう。
「うーん、でも効果があれば多少のリスクがあっても試したいよね……」
そんな事を思いながら私は火の番をするのだった。
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