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第九章:道に迷う

9-19三つ目

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「うぅぅ、う~ん……」

「お姉ちゃん!!」


 気が付き目を開くと目の前にルラがいた。
 ルラは心配そうに私を覗き込んでいる。


「リルさん、大丈夫ですか?」

 声のした方を見るとイリカさんがやはり心配そうに私を見ている。
 そしてその後ろにはオーガの皆さんも。


「あ、えーと大丈夫です。私ってどのくらい寝ていましたか?」

「もう朝だよ。お姉ちゃんあの後ずっと眠っちゃって心配したんだよ~」


 今はルラも安堵した表情になっているけど、まさか一晩中様子を見てくれていたのかな?
 私はゆっくりと起き上がるとそこはあの崖の祠から少し離れた場所だった。

 寝かされていた場所は地面が盛り上がっているのでルラが苦手な精霊魔法で地面を盛り上げてベッドにしてくれたのだろう。
 軽く座れるくらいの高さのそれはルラにしては上出来だった。


「そうだ、封印のひょうたんは?」

「それなら大丈夫です。ほらここに」

 そう言ってイリカさんは古ぼけてすす汚れたひょうたんを見せてくれる。
 どうやら無事回収できたようだ。

「良かった、無事回収できたんですね」


「え、ええまぁ……」


 ん?

 なんかイリカさんが言葉を濁す。
 私は周りを見てみるとルラなんか鳥肌を立てていた。

「何があったんですか?」

「いや、有ったと言うかいたと言うか……」


「お姉ちゃん、あたし便所コオロギ大っ嫌い!! あれ気持ち悪すぎぃっ!!」


 そう言いながらルラは私に抱き着いて来て涙目になる。
 一体何があったって言うのよ?
 それに便所コオロギって、確かカマドウマとか言う虫だったような……


「あれはきついです。祠のあった洞窟の天井にびっしりいました。それがぼとぼと落ちてくる様は……」

「ひぃっ!!」


 青ざめながらそう言うイリカさん。
 それを聞いて悲鳴を上げ抱き着いてくるルラ。

「うっ、そ、それは確かにきついですね……」

 私もその昔キャンプとかで公共のトイレでアレの大軍に出会って悲鳴を上げた口だ。
 一説では害は無いのだけどその見た目と数の多さで気持ち悪さは半端ではない。
 私もぞッとしながらこの時だけは気を失って外にいた事を感謝してしまいそうにる。


「そ、それでも封印のひょうたんは回収できたんですね?」

「はい、何とか……」


 そう言うイリカさんの顔も青ざめている。
 私はそれ以上聞くのはやめておいた。


「それで、三つめは何処なんですか?」

 嫌な記憶を押し退ける為に私はわざと明るくイリカさんに聞いてみる。
 するとイリカさんもそれ以上思い出したくないのか表情を変えて岩山の向こう側を指さす。

「この岩山を越えた所にガリーの村があります。鉱石の採掘と麦の生産で有名な村ですね。そうそう、あの村はドーナッツと言うお菓子が特産なんですよ。穴の開いたお菓子って珍しいのが」

 ドーナッツ?
 そう言えばこの世界でまだドーナッツにはお目にかかっていない。
 生前は学校帰りに友人と特価セールの時によく寄ったもんだ。
 
「ドーナッツってあの輪っかの? うわ~、それ食べてみたい!」

「そうだね、それはちょっと楽しみかも」

 ルラもドーナッツと聞いて今での青ざめていた顔から何時もの明るい表情へと変わる。
 嫌な過去はとっとと忘れ去った方が良いもんね。


「それじゃぁガリーの村へ向かいましょうか」

「ええ、そうしたいのですが……」


 早い所次の場所へ行こうと提案する私にイリカさんは長老さんたちを見る。
 そして私も気付く。

 長老さんたち、今はオーガの姿だったんだ……


「ガリーの村にはわずかながら交易もありましたから、私が行けば顔を知っている人もいると思うので大丈夫だとは思いますが、流石に長老たちは……」

『ん~、んだば儂らは近くの岩山にある洞穴でまっちょるわ。リルとルラの嬢ちゃんがおれば魔王様のひょうたん回収するのは大丈夫じゃけん、巨人族でも出ん限り大丈夫だがや?』

 長老さんのオーガはそう言ってあのいかつい顔で笑う。
 うん、その笑顔は子供に見せちゃダメな笑顔だ。
 そう思わせる笑顔を見ながら私はイリカさんに言う。

「とにかくそのガリーの村に行ってみましょうよ」

「そう、ですね。ここで考えていても仕方ない。長老、まずはガリーの村に行きましょう!」

『あいよ、んだば皆の衆移動だがや』

『『『おうさな』』』

 こうして私たちは三つ目の封印のひょうたんがあるとされるガリーの村に向かうのだった。


 * * * * *


「これで何匹目?」

「えーと、五匹目かな??」


 岩山を超えるのに街道へ向かうと岩山の洞穴からロックワームが襲って来た。
 大きなものは体長二メートルを超えるモノもいて結構危ない。

 イリカさんの話ではふつうここまで大きく成るのは稀だ。
 せいぜい一メートルくらいが主流で、肉食のこのロックワームは近くを通る小動物の足音に反応して待ち構えて襲いかかるそうな。

 ただ、二メートルクラスになると人間も襲うらしい。
 
 襲うらしいのだけど……


『まんずべっくらこいただなや』

『ほんに、いきなり飛び出すんだがや』

『これさ焼いて食ったらうまいかの?』


 流石に私やルラ、イリカさんに襲ってくるのはルラのチートスキル「最強」と私のチートスキル「消し去る」、そしてイリカさんの魔法で撃退したけど、オーガの皆さんは体中にロックワームが噛みついたままだ。

 普通の人なら下手すると腕くらい嚙み千切られてしまうと言うのに。

 屈強なその体に噛みついてもその皮膚を貫通する事は出来ずプラプラとくっついている。
 オーガの皆さんはそれをむしり取り頭を潰して撃退するも、食べれるかどうかで話し合っている。


「あれ、食べるつもりなんですか……」

「ああ、原則デルバ村では魔物も食料ですからね。毒を持っていてもそれを解毒して食べられるようにしたり薬にしたりもしますから」

「そう言えばイリカさんって毒キノコとかを薬にしているんですよね?」

「ええ、あの村にあった石版を解読してその方法を知りました。凄い物です、過去の魔王様の知識と言うモノは」

 そう言うイリカさんは恍惚として見た事の無いはずの魔王様を拝む。
 うーん、魔王様って本当に怖いだけじゃないんだ。

「ロックワームは殻を割って中のお肉は食べられるはずですから、後は料理の仕方次第ですね」

 そう言うとなぜか皆さん私を見る。


「ええぇとぉ……」


『まんずリルの嬢ちゃんの飯はうまかだに』

『あのビックスパイダーとオオトカゲの卵のは美味かっただに!』

『このロックワームも期待できるだがや!!』

 
 既に私がこのロックワームを料理する事が確定している様だった。


 私はため息をつきながら見た目の悪いこれを解体してもらうようお願いするしか無いのだった。

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