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第十五章:動く世界
15-20それぞれの使命
しおりを挟む「では行ってまいります」
「はい、頑張ってねユカ」
ユカ父さんは連合の議会に呼び出しをされてガレント王国へと向かった。
玄関でそれを見送っていたマーヤ母さんが軽くため息をつく。
私やルラもユカ父さんの見送りを済ませてから受講の為に学校へと向かう準備をする。
「ユカ父さん、次はいつ帰って来るんだろうねぇ~」
「分からないわよ。でも本当に私たちも行かなくてよかったのかな?」
鞄を持って玄関で靴を履いているとマーヤ母さんがポンっと背中を叩いて言う。
「大丈夫よ、ユカがああ言っているのだから二人は気にしないでちゃんと勉強をする事。もうじきテストなんでしょ?」
「あ”~、テストいやだよ、あたしぃ~」
「そっか、もうじきテストでしたっけ。まあ初等科の内容はちゃんと頭に入っているから問題は無いと思いますけど。もしかしてこれに受からないと中等科に上がれないんですか?」
「う~ん、追試があるしあなたたちはユカの保護下だからね、受かるまで何が何でも追試させられると思うわよ?」
うーん、私はいいとしてルラが心配だ。
正直生前の高校に比べれば覚える内容も何もそれほど難しくはない。
数学の意味の分からない関数や、国語の文法、古文やら何やら実際の社会でほとんど使う事なんて無いだろうモノを頭の中に叩き込む事を考えればこちらの世界で学ぶ魔術は本当に役に立つ。
生活魔法だって魔術をちゃんと理解すると無詠唱が出来るってのが驚きだった。
いや、それをやったらソルミナ教授に「内緒にしなさい!」って怒られた。
無詠唱魔法はほぼ使える人がいないうえに、こんな事が公になったら「戒めの腕輪」で保たれている学園の安全に影響が出るとか。
確かに攻撃魔法とかが学園内で勝手に使われたら大きな被害が出る。
なので公には無詠唱魔法は使える人がほぼいない事になっている。
「そう言えばアニシス様って中等科でしたね? 昨日ティナの国に帰っちゃいましたけど、またこっちに来るのかな?」
「アニシスはまだ中等科の過程を全部終業していないから戻って来るわね。もっとも、彼女の場合魔術技術は既に研究棟にいる教授レベルなんだけどね。興味の無い魔術がだいぶおろそかなのでそれの補填で学園に来てるって感じよ」
確かにアニシス様は事「鋼鉄の鎧騎士」に関してはエキスパートだ。
連合軍からもお呼びがかかるほどだし、実際に今の「鋼鉄の鎧騎士」でアニシス様以上の技術者はいないだろう。
「そっかぁ~、またアニシス様にも会えるんだねお姉ちゃん」
「うん、さてと私たちも学校行くわよルラ!」
そう言いながら私たちは学校へと向かうのだった。
* * * * *
「もうすぐテストかぁ~、まあ落ちる事はないだろうから中等科でいよいよ攻撃魔法とか他の魔法とかも習えるわね」
教室に行くとヤリスがいた。
なんだかんだ軽くお話して、もうじきテストだと言う事に話がいき、今の言葉。
「そう言えばヤリスはなんで学園に来たんでしたっけ?」
「私は覚醒者になったんでそれを制御する為にこっちに来たって感じかな? 本来ならアイシス姉さまがこっちに留学するはずだったのだけどね」
「ヤリスも自分の力を制御する為ですか? 私たちも同じですね。言いましたっけ?」
「うん、前に聞いた。まあこっちに留学するのは私としてはやぶさかじゃないし、リルたちとも友達になれたからいいんだけどね」
そう言ってヤリスはにこりと笑う。
王族ってのもあるけどヤリスは人族の中ではかなり可愛い。
あ、アニシス様も美人だし、この世界の王族や貴族は美男美女が多い。
前にそんな話をマーヤ母さんにしたら、王族や貴族は何だかんだ言って美男美女同士が結婚したりするのが多いのでだんだんとその容姿は良くなっていくらしい。
マーヤ母さんもその昔エルフの村から出て世界を魔人の手から守るために戦っていたらしいけど、その頃の王族にはお世辞にも美形と呼べない人もいたとか。
その後千年以上の時が経って、世の中が落ち着いて表面上だけでも平和になってから王族や貴族の婚姻も色々と進み、なんだかんだあって美男美女の多い現在に至るとか。
私はふと生前の生物学の「ショウジョウバエ」の交配を思い出していた。
遺伝なんだよなぁ~。
そう考えるとエルフ族は美男美女ばかりってのは元がみんな良いからなのだろう。
原種となるうちのメル長老たちがあの容姿だもんね。
メル長老なんかどう見ても私より若そうに見えるも可愛いのは間違いない。
他の太古の長老であるロメ長老やナミ長老、カルナ長老も美女ばかりだしなぁ。
あ、そう言えばなんで太古の長老たちだけはみんな巨乳なんだろう?
そんな事を首をかしげて考えているとヤリスが聞いてくる。
「リルたちはここを卒業した後の将来どうするつもりなの?」
「ここを卒業ですか……」
正直そんな事は考えた事もない。
今までエルフの村で十五年間変わり映えの無い生活をしていたのがいきなりイージム大陸に飛ばされて、二年弱の時をかけてやっとエルフの村に戻ったら学園に行って修行して来いって追い出された。
いやまあ、このチートスキルをちゃんと制御できるようにならないと大問題なのでそれは理解はする。
でも今まで自分が何をしたいとかこの後どうしたいかだなんて考えた事は無かった。
「あたしは正義の味方する! ジュメルみたいな悪い奴等を懲らしめる!!」
「いや、それとほうも無く大変だから。それにそんな事してたらまた世界中を旅する羽目になるわよ?」
ルラのその率直な気持ちはいいのだけど、それを職業にすることは出来ない。
いつも思うんだけど、あのヒーローものの人たちって普段は何してるんだろうか?
生活する為にはちゃんとお仕事しないとダメだと小さな頃からテレビとか見るたびに思っちゃったりもしてたけど。
「ふーん、世界中を旅するかぁ~。いいなぁ、私なんかは多分城に戻ってまた窮屈な生活する羽目になるんだろうなぁ~。第四王女だから政治とは無関係でいられるのが唯一救いだけど。あ、でも覚醒者だから色々と国に利用されるかな?」
「利用って…… ヤリスは王女なんだからそんな事にはならないんじゃないですか?」
「そうもいかないのよ、王族は国に対して責任があるからね。代わりに普段は贅沢させてもらえるし多少の我が儘も聞いてもらえる。でも万が一国に何か有れば自分の命を使ってでもその責務を果たさないとね。それが王族の使命なのよ」
そう言うヤリスの顔は何だか凛々しく見えた。
いつもはいい加減な所があったり、私たちにちょっとエッチな事してくるけどやはり王族としての気構えがちゃんとしていた。
「ヤリスにもちゃんと使命があるんですね……」
「まあね、それでリルはどうしたいの?」
言われて思わず首をかしげる。
「何したいんでしょうね、私は……」
そうつぶやいてみるも今はこれと言った事は思いつかないのだった。
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