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第十五章:動く世界
15-27心の中の影
しおりを挟むその少女はゆっくりと振り返る。
金髪碧眼、こめかみの上に三つづつトゲのような癖っ毛があり、エルフでも驚くような美貌を持つ少女。
そう、彼女こそこの世界の女神、エルハイミさんその人なのだ。
「あなた方はですわ……」
「駄女神じゃなく、エルハイミさん……ですよね?」
私がそう言うとエルハイミさんはツンと鼻を高くして私を見下す。
「エルフの中でもやたらと大人びた双子のエルフですわね? 『あのお方』の酔狂でこちらの世界に来た転生者の」
私たちの事を知っている?
いや、確かエルハイミさんは「あのお方」の力を受けているはず。
となれば、私たちの事を知っていてもおかしくはない。
「……そうです」
私がそう答えるとエルハイミさんはフンと鼻を鳴らし、言い放つ。
「『あのお方』が酔狂であなたたちをこの世界へ転生させたのはまあいいですわ。しかしこの世界は私が管理する世界、あまり目立つ事は慎むようにですわ」
いや別にそんな目立つ事がしたいわけでも何でもないのだけど。
私がそう思っているとシャルさんもシェルさんも私たちを見る目が変わって来る。
「リルもルラも女神様に逆らうような事しちゃだめよ?」
「ふ~ん、これが例の双子ね…… 私のエルハイミにガン飛ばすなんて好い度胸じゃない?」
「そ、その、別に逆らうつもりもありませんし、エルハイミさんにガンなんか飛ばしては……」
私がそう言った瞬間だった。
いつの間にか村のみんなが私たちを取り囲んでいた。
驚くことにその中にはお母さんやお父さんもいる。
死んだはずのジッタさんも。
「双子はエルフに災いをもたらす」
「村の秩序が崩れる」
「災厄の子たちだ」
周りで私たちを取り囲んでいるみんなは口々にそう言う。
私はそれに段々怖くなって隣にいるルラの腕に抱き着く。
「お姉ちゃん、やっぱりあたしたちはここにいても何も良くなんてならないんだよ。あたしと一緒に村を出ようよ」
「え? ル、ルラ??」
腕に抱き着かれたルラは虚空をぼうっと見ながらそう言ってくる。
その瞳には力が無い。
あの天真爛漫なルラじゃない。
「ル、ルラ、だって私たち右も左も分からないのよ? そんなので村から出たって生きて行けないよ?」
「大丈夫、あたしたちには力があるじゃない? もう秘密の力なんか隠す必要はないよ、みんなもお母さんもお父さんもあたしたちなんかいらないんだから!」
周りのみんなは今だ口々に私たちを罵っている。
もう何なのよ?
こんなの嫌だよ?
お母さんもお父さんも。
シャルさんだって私たちを指さし罵っている?
それを見下し微笑んでいるエルハイミさん??
「リル、ルラ、やはりあなたたちは災厄をもたらす双子です。この村から出て行きなさい」
聞こえて来たその声はファイナス長老だった。
振り返ればそこに険しい表情のファイナス長老がいた。
「出て行きなさい、リルにルラ!」
ファイナス長老も私たちに指を突き指しそう言う。
なんで?
私たちは何も悪い事してないよ?
あっちの世界で死んじゃってこっちの世界に勝手に転生させられて、そしてそしてエルハイミさんとシェルさんの空間転移に巻き込まれて遠いイージム大陸に二人だけで放り出されちゃったんだよ?
それなのに!!
「リル、やっぱり若木の君には何を言っても理解できないか? ふう、こんな娘をお嫁さんにするなんて僕も酔狂な事言っちゃったもんだよ。やっぱり君は僕のお嫁さんになんかなれないね、永遠に!」
「え? ト、トランさん? え、えっ?」
既に涙目になっている私にあの声が聞こえる。
また振り返ってみればシェルさんの足元にトランさんが座っていてため息交じりにそう言ってくる。
「ふふふふ、なに? トランはあんな小娘が良いの? あんな貧弱な胸の小娘が?」
「いやぁ、僕だってシェルみたいな女性を口説きたいけど、君は『女神の伴侶』じゃないか? そうで無きゃ何度でもアタックしてるよ」
シェルさんはトランさんに寄りかかりながらあの大きな胸を押し付けてそんな事を言っている。
嘘だ。
トランさんは優しくて私のことお嫁さんにしてくれるって……
「どうやらあなた方の居場所はここでは無いようですわね? 目障りですわ、何処かへ行ってしまうが良いですわ!!」
エルハイミさんはそう言って手を挙げると私たちの足元に暗い裂け目が出来てあっという間にそこに落ちる。
私は悲鳴を上げる間もなくその奈落に落ちて行く。
しかし耳元にはずっと私たちを罵倒する村のみんなの声が聞こえてくるのだった。
* * * * *
イージム大陸のレッドゲイル、ジマの国の黒龍のコクさん、ドドスの女神神殿……
あれ?
結局遠くに飛ばされても私たちはいつも女神であるエルハイミさんの影響を受けている?
そして思い出すそれはどれもこれも私たちにとって苦痛な事ばかり?
なんで?
なんでエルハイミさんに関わるとこうなっちゃうのよ??
―― それはあなたがあの女神に人生を翻弄させられているからよ ――
え?
なに?
女神に、エルハイミさんに私が翻弄されている??
―― 全てはあの女神が自分の為にやっている事、私たちの幸せなんかあの女神に全て潰されているのよ? 現にあなたが困っていてもあの女神はあなたに救いの手を一度でも差し伸べた事があったかしら? あなたが苦しい時、少しでも助けてくれたかしら? ほら、今だってそうでしょ? あなたが苦しんでいてもあの女神は何もしてくれない、何もしないのよ ――
確かにそうだ。
分体であるエルハイミさんはあの大迷宮で私たちに出会っても何もしないで消え去った。
行く先々で女神の素晴らしさを唱える人はいても、その恩恵なんてこれっぽっちも無かった。
いくら銭湯のマッサージを受けたって胸が大きく成る事は無かった。
確かに少し大きく成った気もするけど、それはいつも誤差範疇。
じゃあ女神って、エルハイミさんって私たちに何かしてくれているの??
―― 言ったでしょ? この世界は矛盾で満ちている。その矛盾の源はこの世界を支配しているあの女神よ! あの女神がいる限り、この世界はまっとうな姿にはならない。気付いてリル、あの女神はあなたの敵よ!! ――
エルハイミさんが敵?
何もしてくれないエルハイミさんは敵??
……確かにジルの村に二年以上も何もしないで世界を放ったらかしにして、自分の好きな人に固着してその人の幸せな家庭を壊そうとしている。
女神の癖に!
この世界を管理するはずの癖に!!
なんでもできる「破壊と創造の女神」の癖に!!!!
「エルハイミさんは…… 女神は…… 敵 」
―― そうよ! 女神はあなたの敵! そいつを殺せば、そいつさえいなくなればこの世界は変わる。こんな女神に創られた世界は壊してしまい、本当の幸せな世界を作るのよ! あなたにはその力がある。あなたさえ女神に立ち向かえば世界は救われるの、リル、私と共に来なさい!! ――
ぱぁっ!
私の目の前に光が差し込む。
イージム大陸でも、サージム大陸でも、学園都市ボヘーミャでも色々と苦労してきた私に理解者なんかいない。
でも今この声は私の苦しみに答えてくれる。
そう、この声は……
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