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4章
シェリー王女
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クーネル国の辺境にある砦、ここに、クーネル国王女シェリー=Q=クーネルはいた。
魔族の襲撃の際、国王と女王によって逃がされ、近衛騎士であるアルバートと共に落ち延びた王女は、敗走し散り散りになった兵士たちを集め、この砦で反撃の機会を伺っていたのだが――――。
「シェリー様!この砦はもう持ちません!お逃げください!」
近衛騎士であるアルバートが小さな少女に向かってそう叫ぶ。
そう、この砦は今、帝国の兵によって包囲されていたのであった。
「駄目よ、ここで逃げたらもう立て直せない」
「ですがこのままではシェリー様の命まで!」
「私は負けないわ!お父様とお母様の仇をとるまで絶対!!」
そう、お父様とお母様の命を奪ったあの魔族を倒すまで、私は負けるわけにはいかない!
でも、どうしたら―――――。
現在砦は、完全に包囲をされており、兵力差もこちらより帝国の方が倍近くある。
ただでさえ、人員は少ないというのに、この戦いでどれだけの犠牲がでるか―――――ううん、全滅もあり得る。
駄目だ、なんとしてもここを切り抜けないとクーネル国は完全に帝国の物になってしまう。
初めはグランルーンが降伏した後の街の様子を聞いていたためこの国の民たちもひどい目には合わされないんじゃないだろうかと期待していた。だけど、それは淡い期待だった。
帝国の兵士たちはクーネル国の民をまるで奴隷のように扱い、横暴の限りを尽くしているという。
―――――――絶対に許せない。
なんとしても、帝国の奴らを追い出し、民を救わないと―――――。
「おじゃまするぜぇ~」
「誰だ!!」
間の抜けた声と同時に一人の大柄の男が現れる。その男は帝国の鎧を着ており人間の物とは思えないほどの長い舌を垂らしていた。
「ヒッヒッヒ、王女様み~っけ」
「魔族・・・」
見るからに人間とは思えない様相にシェリーはそう呟く。
まだ、あどけなさの残るその表情には恐怖の色が見えていた。
「姫様、お逃げください!こいつは私が!」
近衛騎士であるアルバートは剣を抜くと敵に向かって走り出した。
素早い踏み込みで、敵の懐まで踏み込むと持っていた剣を一閃し、敵の胴を薙ぎ払う―――――だが。
「おいおい、魔族の俺にそんなもんが効くかよぉ?」
アルバートの持っている剣は魔剣でもなければ聖武具でもない、ごく一般的な剣であった。
いや、一般的と言っても、その一般的な武器の中ではかなりの業物なのであろうが、魔族にダメージを与えられる武器ではない。
「アルバート!」
「はい、ざんねぇ~ん」
魔族が楽しそうに言うと、同時に右手に持っていた剣をアルバートの胸に突き刺したのだ。
「いやああああああああ!」
「がはっ」
深々と刺さった剣を引き抜くと、アルバートは膝から崩れ落ちる。
「ひ、姫様・・・お逃げ・・・ください」
「お~お~、しぶといねぇ」
まだ息のあるアルバートに魔族は蹴りを入れ床を転がす。シェリーは床を転がり、わずかに動いてるアルバートの元へと駆け寄った。
「アルバート、死んじゃ駄目!」
「ひめ・・・さま・・・」
シェリーは治療魔法をアルバートに掛け始めた、だが、その力は高くはなく、アルバートの胸に残る傷は塞がる気配を見せない。
「治って・・・治ってよぉ!」
「ヒッヒッヒ、悲劇だねぇ」
その光景をさも楽しそうに魔族は見ていた。
「姫様・・・逃げて・・・ください」
「やだ・・・治療をやめたらアルバートまでいなくなっちゃう」
わずかの間に父を亡くし母を亡くしたシェリー、いや、それだけではない、仲の良かった侍女や街で触れ合った国民たち、彼女はこの数日の間に色々なものを失っているのだ。王女とはいえ、12歳の少女であるシェリーにはその事実が心を砕いていた。
唯一、兄のように慕っているアルバートが傍にいてくれることでギリギリ支えられていたのだ。
「悲劇だねぇ・・・でも、それが最高だぁ!」
大きく笑う魔族をシェリーは涙をいっぱいにして睨み付けていた。
だが、それが逆に魔族を喜ばせる。
「いいねぇ、その眼――――殺し甲斐があるってもんだぁ!」
魔族が剣を振り上げる、そしてそのままシェリーに向かって振り下ろされた。
「あん?」
魔族の剣は振り下ろされたはずであった、現に魔族の肩は剣を振り下ろしたぞと主張するように前に突き出されている。だが、その肩から先が何もなくなっているのだ。そして、遠くの方でカランと金属が床に落ちる音が聞こえたので魔族はその方向を見てみる。
「あんで、俺の腕があんな所にあるんだぁ?」
そう、自分の肩についている筈である腕とその手に握られた剣が離れた場所に転がったのだ。
「え?」
シェリーは剣を振り下ろされたときに自分の死を覚悟した、仇をとれず、国民を救う事の出来なかった自分を悔やみながら目を瞑ったのだが、その後聞こえたのは間の抜けた魔族の声だったのだ。
「間に合った!」
「ミャアさんはとても耳がいいんですよ」
二人の聞きなれない声がする。
「な、なんだぁお前たち!」
「邪魔!」
「げふぅ!」
黒髪の女性が持っていた棒を振ると、魔族が壁に向かって吹き飛んでいく、そのまま壁を突き破り隣の部屋へと消えていった。
「大丈夫!?」
「あ、あなたは・・・?」
「私はカモメ・・・ってその人酷い傷!・・・コロ!」
「は、はい!」
カモメと名乗った少女にコロと呼ばれた少女(?)はアルバートへと近寄ってきた。そして、治癒魔法を掛け始める。
「す、すごい・・・」
コロの掛けた治癒魔法によって、アルバートの傷は見る見るうちに塞がっていった。
「コロ、その人、大丈夫そう?」
「はい、ギリギリでしたけど、なんとか・・・でも、まだしばらく治癒魔法を掛けておかないと・・・」
「了解、なら、その人は任せた。私はあっちの舌の長いを倒しちゃうから」
そう言って、カモメの視線が移った先には先ほど隣の部屋まで跳んでいった魔族が怒りの表情を浮かべて立っていた。
「さあ、暴れちゃうよ!」
魔族の襲撃の際、国王と女王によって逃がされ、近衛騎士であるアルバートと共に落ち延びた王女は、敗走し散り散りになった兵士たちを集め、この砦で反撃の機会を伺っていたのだが――――。
「シェリー様!この砦はもう持ちません!お逃げください!」
近衛騎士であるアルバートが小さな少女に向かってそう叫ぶ。
そう、この砦は今、帝国の兵によって包囲されていたのであった。
「駄目よ、ここで逃げたらもう立て直せない」
「ですがこのままではシェリー様の命まで!」
「私は負けないわ!お父様とお母様の仇をとるまで絶対!!」
そう、お父様とお母様の命を奪ったあの魔族を倒すまで、私は負けるわけにはいかない!
でも、どうしたら―――――。
現在砦は、完全に包囲をされており、兵力差もこちらより帝国の方が倍近くある。
ただでさえ、人員は少ないというのに、この戦いでどれだけの犠牲がでるか―――――ううん、全滅もあり得る。
駄目だ、なんとしてもここを切り抜けないとクーネル国は完全に帝国の物になってしまう。
初めはグランルーンが降伏した後の街の様子を聞いていたためこの国の民たちもひどい目には合わされないんじゃないだろうかと期待していた。だけど、それは淡い期待だった。
帝国の兵士たちはクーネル国の民をまるで奴隷のように扱い、横暴の限りを尽くしているという。
―――――――絶対に許せない。
なんとしても、帝国の奴らを追い出し、民を救わないと―――――。
「おじゃまするぜぇ~」
「誰だ!!」
間の抜けた声と同時に一人の大柄の男が現れる。その男は帝国の鎧を着ており人間の物とは思えないほどの長い舌を垂らしていた。
「ヒッヒッヒ、王女様み~っけ」
「魔族・・・」
見るからに人間とは思えない様相にシェリーはそう呟く。
まだ、あどけなさの残るその表情には恐怖の色が見えていた。
「姫様、お逃げください!こいつは私が!」
近衛騎士であるアルバートは剣を抜くと敵に向かって走り出した。
素早い踏み込みで、敵の懐まで踏み込むと持っていた剣を一閃し、敵の胴を薙ぎ払う―――――だが。
「おいおい、魔族の俺にそんなもんが効くかよぉ?」
アルバートの持っている剣は魔剣でもなければ聖武具でもない、ごく一般的な剣であった。
いや、一般的と言っても、その一般的な武器の中ではかなりの業物なのであろうが、魔族にダメージを与えられる武器ではない。
「アルバート!」
「はい、ざんねぇ~ん」
魔族が楽しそうに言うと、同時に右手に持っていた剣をアルバートの胸に突き刺したのだ。
「いやああああああああ!」
「がはっ」
深々と刺さった剣を引き抜くと、アルバートは膝から崩れ落ちる。
「ひ、姫様・・・お逃げ・・・ください」
「お~お~、しぶといねぇ」
まだ息のあるアルバートに魔族は蹴りを入れ床を転がす。シェリーは床を転がり、わずかに動いてるアルバートの元へと駆け寄った。
「アルバート、死んじゃ駄目!」
「ひめ・・・さま・・・」
シェリーは治療魔法をアルバートに掛け始めた、だが、その力は高くはなく、アルバートの胸に残る傷は塞がる気配を見せない。
「治って・・・治ってよぉ!」
「ヒッヒッヒ、悲劇だねぇ」
その光景をさも楽しそうに魔族は見ていた。
「姫様・・・逃げて・・・ください」
「やだ・・・治療をやめたらアルバートまでいなくなっちゃう」
わずかの間に父を亡くし母を亡くしたシェリー、いや、それだけではない、仲の良かった侍女や街で触れ合った国民たち、彼女はこの数日の間に色々なものを失っているのだ。王女とはいえ、12歳の少女であるシェリーにはその事実が心を砕いていた。
唯一、兄のように慕っているアルバートが傍にいてくれることでギリギリ支えられていたのだ。
「悲劇だねぇ・・・でも、それが最高だぁ!」
大きく笑う魔族をシェリーは涙をいっぱいにして睨み付けていた。
だが、それが逆に魔族を喜ばせる。
「いいねぇ、その眼――――殺し甲斐があるってもんだぁ!」
魔族が剣を振り上げる、そしてそのままシェリーに向かって振り下ろされた。
「あん?」
魔族の剣は振り下ろされたはずであった、現に魔族の肩は剣を振り下ろしたぞと主張するように前に突き出されている。だが、その肩から先が何もなくなっているのだ。そして、遠くの方でカランと金属が床に落ちる音が聞こえたので魔族はその方向を見てみる。
「あんで、俺の腕があんな所にあるんだぁ?」
そう、自分の肩についている筈である腕とその手に握られた剣が離れた場所に転がったのだ。
「え?」
シェリーは剣を振り下ろされたときに自分の死を覚悟した、仇をとれず、国民を救う事の出来なかった自分を悔やみながら目を瞑ったのだが、その後聞こえたのは間の抜けた魔族の声だったのだ。
「間に合った!」
「ミャアさんはとても耳がいいんですよ」
二人の聞きなれない声がする。
「な、なんだぁお前たち!」
「邪魔!」
「げふぅ!」
黒髪の女性が持っていた棒を振ると、魔族が壁に向かって吹き飛んでいく、そのまま壁を突き破り隣の部屋へと消えていった。
「大丈夫!?」
「あ、あなたは・・・?」
「私はカモメ・・・ってその人酷い傷!・・・コロ!」
「は、はい!」
カモメと名乗った少女にコロと呼ばれた少女(?)はアルバートへと近寄ってきた。そして、治癒魔法を掛け始める。
「す、すごい・・・」
コロの掛けた治癒魔法によって、アルバートの傷は見る見るうちに塞がっていった。
「コロ、その人、大丈夫そう?」
「はい、ギリギリでしたけど、なんとか・・・でも、まだしばらく治癒魔法を掛けておかないと・・・」
「了解、なら、その人は任せた。私はあっちの舌の長いを倒しちゃうから」
そう言って、カモメの視線が移った先には先ほど隣の部屋まで跳んでいった魔族が怒りの表情を浮かべて立っていた。
「さあ、暴れちゃうよ!」
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