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第一章

5 休暇申請

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「ついで、先ほど報告があったのですがアベル君も行方不明のようです」
「……は?」
 続けて言われたオルタンシアの言葉にミモザはぽかんと口を開ける。
 色々と情報量が多すぎる。
「アベルは仮釈放中で……」
「ええ、彼は模範囚でしたから。しかしステラの脱走を知った保護司が心配して彼を訪ねたところ、行方がつかめなくなっていることが判明したのです」
 絶句する。たった三時間の間にそんなことがあったのかと目を見張った。
「彼は毎日朝と夕にステラ君の面会に訪れていたそうです。今日も七時ごろに面会に来て、ステラ君の脱走後だったため断られて帰って行ったのが最後の目撃情報です」
「………一緒に逃亡したわけではないということですか?」
 ミモザの疑問に彼はただ無言で首を横に振った。
 わからないということだろう。
 しかし一緒にいるにせよいないにせよ、ステラの逃亡と関係してアベルが失踪したことは確かだ。
「オルタンシア様」
 ミモザは考え込みながら口を開いた。
「新婚旅行のための長期休暇をいただいてもよろしいでしょうか?」
「……………は?」
 しばしの間の後、オルタンシアの目が絶対零度に凍りつく。
「いや、そういえばまだしてなかったと思いまして。一応なんかそういう制度なかったでしたっけ?」
 それにばっと両手を挙げて敵意がないことを示しながらミモザは早口で言い訳を並べ立てた。
 それにオルタンシアは忌々しそうな顔をしながらも「制度ではありませんが可能な限りで許可しています」と告げた。
「しかし君に頼まなければいけない業務があった場合には休暇などとは言っていられませんよ」
「もちろんです。必要な業務は休暇中も行いますよ」
 にこっととりあえず笑いかけてみるが、オルタンシアの表情は険しいままだ。
 それでも諦めずに笑いかけ続けていると、やがて諦めたのか彼は盛大なため息をついた。
「……当てはあるのですか?」
「えっと、なんのことやら」
 雑に誤魔化すミモザにぎろり、とオルタンシアは刃のような視線を向ける。
「えーと、それはこれから……」
 それに慌ててミモザが答えると、彼は体を椅子へと預けながら「フェレミアの街で」と言葉を発した。
「最近どうやら国に申告している以上の税金を徴収しているらしいのです」
「はい?」
 話の見えないミモザに、オルタンシアは眉間の皺をもみほぐしながら話を続ける。
「調査に人を行かせたのですが、その際に妙な人物を見かけたと報告がありましてね」
「妙?」
「保護研究会」
 ミモザははっとオルタンシアの顔を見た。彼もそこでやっとミモザと目を合わせた。
「君と同じくらいの年齢の少年とロランを見かけたそうです。ステラ君が脱走する前の話ですから無関係かも知れませんが」
「いえ、ありがとうございます」
 少年とはおそらくエオのことだろう。エオとロランが滞在していたというのなら充分に参考になる。もしかしたらステラを脱走させるための拠点として利用していた可能性もあるのだ。どちらの方角に向かったかの情報を集めるだけでも価値があるだろう。
「くれぐれもお気をつけて」
 表情を明るくしたミモザに、オルタンシアは静かにそう忠告した。
「保護研究会の面々は得体が知れません。彼らはどうしようもない犯罪者だが、しかし天才だ。我々が持ち得ない技術と知識を持っています」
 そこまで言って、オルタンシアはそのすみれ色の瞳を細めると
「くれぐれもお気をつけて」
 再び同じ言葉をゆっくりと口にした。
「……肝に銘じておきます」
 ミモザも真剣に頷いた。
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