婚約破棄のためなら逃走します〜魔力が強い私は魔王か聖女か〜

佐原香奈

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liberty

イシュトハンの攻防

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一方その頃、イシュトハン家では、フリードが滞在している事を聞いたダリアが再び訪れていた。



夫を放り出して朝一番で転送装置で訪れてみると、客室は兵士達の控室のように扱われており、殿下はどこだと聞けば、クロエの部屋で寝ていると言われ、クロエの部屋のドアの外側からダリアによって放たれた雷玉がドアをぶち破り、そのままフリードが眠るベッドへと突き抜けていった。


フリードはドアの破壊音と同時に、無意識とも言える速度で防御魔法を繰り出したが、この国の大いなる魔物の魔力量に勝てるわけもなく、そのまま窓を突き破り吹き飛ばされている。



「お父様、あの浮気男をなんで家に上がらせたの?」



拘束魔法も雷玉を追うように放っていき、自分の周りの広範囲には強い結界を張れば、青い顔をした騎士達も近寄ることも出来ない。
ヒューベルトも結界が張られたと同時に後方に投げ出される。


「いや…ダリア落ち着け、誤解だ」


情けなく這い上がるようにして立ち上がろうとしたが、突然の衝撃で筋肉が硬くなってしまっている。
魔力でダリアに勝つことは到底出来ない。



「誤解?お父様、私はクロエが王家に取られるならやはり潰してしまった方がいいと思いましたの。そこになんの誤解もありませんわ」


「またこんな事をして、今度こそ許されないぞ!」


「許されないのはイシュトハンをバカにしているこの国の王家の方です」


目の前で伸びている国騎士も、奥で攻撃してきている魔導士も、全てダリアの指導により育てた魔法省の人間だ。


「師匠!!」


「あぁリアム、お前までこんな馬鹿げた仕事を押し付けられていたのね」


魔力コントロール力が高く、攻撃魔法が得意なリアムを筆頭魔導士にのし上げるべく、魔法を教え込んだのはダリア。
バーナム子爵家まで来て教えを乞われ、暫く家に置いて魔法を教えていたのだが、結婚が嫌で逃亡した妹を探す任務に着かせるために時間を費やしたかと思うと情けない限り。



「バーナム子爵はこの事をご存知なのですか?」


「そんな事を聞いてどうするの?かつて主人に粉をかけてくれたのも王族の端くれだった。その時城がどうなったか覚えていないの?」


「それは…」


5年前、子爵家の長男であるウィリアムとの婚約を漸く許され、ダリアが幸せで穏やかな生活をしていた学園時代のこと、あろう事か王弟殿下の娘が執拗にウィリアムに付き纏った。


魔力の多いダリアに注目が集まり気に食わなかった事が動機だったようだが、怒りに任せて王城に乗り込み、結界を破って城内を火の海にした事があった。
それでもダリアが罰せられなかったのは、王族に非があった事に加え、最も魔力を保持している国内でも貴重な人材だったからだ。


「かつて陛下は、あの紙切れのような女を罰することはなく、私の反逆の罪との相殺とした上で、私には魔法省への入閣を強要した」


「しかし、姫も学園の卒業を待たずにパシュトン国への輿入れを余儀なくされたではありませんか」


「あれはその場で、あのゴミの足を切り落としてやったからよ」


「そんなことを!?」


周りの全ての者達が息を呑んだ。
目の前にいるのは王族に危害を加えても罪に問えないような相手。
イシュトハン家に法は通じないということをダリアは証明している。
イシュトハン家が特別な家であることはこの国の常識。
しかしそれ程までに力を有しているとは一部を除き知られてはいなかった。
その時王城にいた全ての者に箝口令が敷かれたからだ。



「無能な王ならばこの国には不要。あのゴミのような女を切り捨てない判断が愚かだったのよ。あの時もっと分からせてやるべきだったわ」


「ダリア、落ち着くんだ」

「師匠、その考えは改めて下さい」


歳上だけど可愛い弟子と父の言う事なら聞いてあげたいが、イシュトハン家に不利益になるような結婚ならば潰すしかない。


「もう、ダリア煩いわよ。屋敷を壊さないでちょうだい」


寝ぼけ眼な母が階段を上がり、ダリアを睨みつける。


「お母様、おはようございます」


「おはよう。それで、貴女はなにをしているの?」


「クロエの部屋にいた蝿を追い出したところです」


指を指すようにクロエの部屋へ向けて腕を上げると、雷玉を再び放出した。



「ブグア〝ーーーぁぁあ」


外からフリードの周りに集まっていた騎士達の叫び声が響いてくる。


「あらそう。でも煩いし、家も壊れるなら他でやりなさい」


巻き上がった埃を嫌ったのか、母の体が一瞬光って結界を張ったのが分かった。


「あぁ、フリードリヒ殿下はクロエがイシュトハンに残れるように動いて下さっているのに…」


その直後、呪文を呟いたサリスによって、2階にいた全ての者が裏庭へと転移させられていた。
一人一人消されていく姿に幾つもの悲鳴が上がり、そして静かになると、サリスは大きくため息をついた。


「全く、後片付けをするメイド達が可哀想だわ」


再び目を擦ると、サリスは階段を降りて寝室へと戻った。
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