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just married
オオカミさんは不在です
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保温魔法のかかった大きい湯差しから、茶葉を入れたポットに湯が注がれ、湯気が立つのを3人は静かに目で追っていた。
頭の中が沸騰しそうだった。
世の中の床事情なんてどこで入手するのかは知らないが、自分の持っている情報も少なくはないと思っていた。
巷で売られている恋愛小説にもオーラが混ざるなんてことは書いてはいないし、どうしたら魔力を交換できるのか想像がつかなかった。だが、一つだけ心当たりがある。
口づけだ。
唾液で魔力供給出来ることはつい先日知ったばかりだが、相手の魔力が少なければ魔力は流れ込むだろう。
だが、魔力を与える方のオーラも変えることは不可能なように感じる。
そしてふと、お互いの魔力が行き交った記憶が蘇ってくる。
魔力は、魔力のない方へ流れていくが、相手の魔力が同じように魔力が貯まれば、あるいはお互いの魔力がずっと触れ合っていれば、溶けるようにお互いの間を魔力が行き来する。
手を握っていても魔力はほんの少しだが魔力残数が少ない方へ流れる。それを思えば長い長い口づけでオーラが変わるまで口づけを…
そこまで考えて、オーラの色が変わるほど長い口づけが常識なのかと考える。
魔力が自分ほどないにしても、相手のオーラの色を変えるとなると、相当な時間がかかるはずだ。
何人も窒息してしまう人が出るのではないか。不可能ではないか。ピンク色に染まった脳が正しい答えを求めている。
「もしかして、朝まで口づけをするのが、一般的なのですか?」
クロエは我慢できず、身を乗り出して小声で話をする。
「いいえ、口づけを朝までしていたらきっと死んでしまいます」
「朝まで熱い口づけをされてみたいとは思いますけどね」
クロエに誘われるように2人も身を乗り出して小声で話をする奇妙な光景がスタートした。
「でも、ならどうしてオーラが混ざるのです?」
「あっ…クロエ様、もしかして、初夜は結婚式の後と考えていらしたのですか?」
「成程、リリィ様。その線もありましたね…それなら気付かず申し訳ないことを致しましたわ」
「待って、そんな生殺しのように話を終わらそうとしないで!」
クリエは必死のあまり、身をひくような仕草をした2人を見て、テーブルに置かれた2人の手を握ろうとしたが、6人がいたテーブルはそんなに狭いわけがない。
机に突っ伏すようにクロエは頭をテーブルにつけることになった。
「こほんっ。お嬢様方、大丈夫です。込み入った話も、私達は外部に漏らすことはありませんよ」
いくら小声で話していても、内容は筒抜けだったようで侍女は遠慮がちに新しいカップを差し出した。
「マーベル、絶対に絶対に話してはダメよ。後で口止め料をあげるわ」
「私からも出すわ」
「私もです」
リリィとサリーもクロエと同じように真剣な顔でマーベルと呼ばれた侍女をみつめた。
「口止め料というのはお給金に含まれておりますので、ご安心を」
買収されないとは王都の屋敷の使用人もきちんと教育されている!と感心しながらも、お給金の中の口止め料は屋敷の外に口外しないためのものだと騙されるつもりはなかった。
「マーベル、手付金としてこのネックレスを持っていって。今回の口止めというのは、フリードにも、父にも、母にも、これから戻ってくる男達にも、例え、王であるステラに脅迫されても言わないでくれという命懸けの交渉よ。そして、可能ならその席に着きなさい。あなた、魔力があるじゃないの。参考にするわ」
クロエはネックレスをマーベルに渡すと、普段あまり会わない侍女のオーラを見逃すことなく、捕まえることにした。
「さぁここに座って、あとは私がお茶を淹れますわ」
そういうと、スッとリリィは席を立つ。
「では私は念のため防音壁を作りましょう」
サリーはそういうと、両手を机の上に置いた。
「サリーそんなこと出来るの?」
「サリー様はそんな事が出来ますの?」
「はい。一応魔法科を卒業しておりますので」
驚いた2人が声を上げると、サリーは少し照れ臭そうに笑ったあと、呪文を唱えた。
ホワンと魔力を感じて、防音壁に包まれたのだと認識する。
「サリー様凄いですわ!これで気兼ねなく話せますわね」
リリィはマーベルからポットを取り上げると、まずはマーベルのお茶をカップに注いだ。
「わ、私ここに勤めてから1番恐怖を感じております…ご主人様たちとお茶の席を共にするなんて…」
震えた声で小さくなるマーベルを見つめる3人は、ニンマリした顔になっており、更にマーベルを追い詰めていった。
良くも悪くも、ピンク色の世界の話というのは女性も興味があるものである。
だが、そのピンクの話を始めるにも準備というものがいる。
その準備が全員の涙を呼ぶことになるとは思いもしていなかっただろう。
マーベルは子爵家に嫁いだが今は未亡人で、亡くなった夫の従兄弟が次の当主となった為に身を置きづらくなり、実家に戻ることになったが、実家は士爵家であった為に裕福ではなく、働きに出ることになり、イシュトハン邸に身を置いているという。
「早くに亡くなられてお辛かったでしょう…」
「ぐすっ…悲しすぎます…」
「マーベル、この指輪も持っていって。こんな辛い話をさせて申し訳ないわ。後でいくらでも請求して…私ったら酷いことをしたわ」
マーベルの話を聞き出そうと話をしていたところ、結婚適齢期の自分と重ね合わせ、結婚してすぐに夫が亡くなった悲しみを想像して、居た堪れない思いになり、ピンク色に染まっていた頭が一気にブルーに変わった。
「いえ、申し上げにくいですが、子爵家では冷遇されておりましたので、あまり辛さは感じませんでした。こうしていい環境で働かせていただいて、今の方が幸せに感じています」
「冷遇?それは話が違うわね。それはどこの家ですの?全権力を駆使して潰してやりますわ」
「本当ですわね。嫁いだ先で冷たくされていたなんていう都市伝説みたいな家が今も存在しているなんて許せませんわ」
「マーベル、何も言わなくていいのよ。履歴書を後で確認させてもらうわね。任せて、うちの侍女が受けた仕打ち、後悔させてやるから」
悲しみに包まれたはずの空間は、マーベルが言いづらそうに話した冷遇という話に、一瞬にして怒りに変わっていた。
後日談だが、1週間後、突然没落した子爵家が、そのまま廃位されると通達された。
マーベルはその記事を見なかったことにしてそっと新聞を閉じた。
頭の中が沸騰しそうだった。
世の中の床事情なんてどこで入手するのかは知らないが、自分の持っている情報も少なくはないと思っていた。
巷で売られている恋愛小説にもオーラが混ざるなんてことは書いてはいないし、どうしたら魔力を交換できるのか想像がつかなかった。だが、一つだけ心当たりがある。
口づけだ。
唾液で魔力供給出来ることはつい先日知ったばかりだが、相手の魔力が少なければ魔力は流れ込むだろう。
だが、魔力を与える方のオーラも変えることは不可能なように感じる。
そしてふと、お互いの魔力が行き交った記憶が蘇ってくる。
魔力は、魔力のない方へ流れていくが、相手の魔力が同じように魔力が貯まれば、あるいはお互いの魔力がずっと触れ合っていれば、溶けるようにお互いの間を魔力が行き来する。
手を握っていても魔力はほんの少しだが魔力残数が少ない方へ流れる。それを思えば長い長い口づけでオーラが変わるまで口づけを…
そこまで考えて、オーラの色が変わるほど長い口づけが常識なのかと考える。
魔力が自分ほどないにしても、相手のオーラの色を変えるとなると、相当な時間がかかるはずだ。
何人も窒息してしまう人が出るのではないか。不可能ではないか。ピンク色に染まった脳が正しい答えを求めている。
「もしかして、朝まで口づけをするのが、一般的なのですか?」
クロエは我慢できず、身を乗り出して小声で話をする。
「いいえ、口づけを朝までしていたらきっと死んでしまいます」
「朝まで熱い口づけをされてみたいとは思いますけどね」
クロエに誘われるように2人も身を乗り出して小声で話をする奇妙な光景がスタートした。
「でも、ならどうしてオーラが混ざるのです?」
「あっ…クロエ様、もしかして、初夜は結婚式の後と考えていらしたのですか?」
「成程、リリィ様。その線もありましたね…それなら気付かず申し訳ないことを致しましたわ」
「待って、そんな生殺しのように話を終わらそうとしないで!」
クリエは必死のあまり、身をひくような仕草をした2人を見て、テーブルに置かれた2人の手を握ろうとしたが、6人がいたテーブルはそんなに狭いわけがない。
机に突っ伏すようにクロエは頭をテーブルにつけることになった。
「こほんっ。お嬢様方、大丈夫です。込み入った話も、私達は外部に漏らすことはありませんよ」
いくら小声で話していても、内容は筒抜けだったようで侍女は遠慮がちに新しいカップを差し出した。
「マーベル、絶対に絶対に話してはダメよ。後で口止め料をあげるわ」
「私からも出すわ」
「私もです」
リリィとサリーもクロエと同じように真剣な顔でマーベルと呼ばれた侍女をみつめた。
「口止め料というのはお給金に含まれておりますので、ご安心を」
買収されないとは王都の屋敷の使用人もきちんと教育されている!と感心しながらも、お給金の中の口止め料は屋敷の外に口外しないためのものだと騙されるつもりはなかった。
「マーベル、手付金としてこのネックレスを持っていって。今回の口止めというのは、フリードにも、父にも、母にも、これから戻ってくる男達にも、例え、王であるステラに脅迫されても言わないでくれという命懸けの交渉よ。そして、可能ならその席に着きなさい。あなた、魔力があるじゃないの。参考にするわ」
クロエはネックレスをマーベルに渡すと、普段あまり会わない侍女のオーラを見逃すことなく、捕まえることにした。
「さぁここに座って、あとは私がお茶を淹れますわ」
そういうと、スッとリリィは席を立つ。
「では私は念のため防音壁を作りましょう」
サリーはそういうと、両手を机の上に置いた。
「サリーそんなこと出来るの?」
「サリー様はそんな事が出来ますの?」
「はい。一応魔法科を卒業しておりますので」
驚いた2人が声を上げると、サリーは少し照れ臭そうに笑ったあと、呪文を唱えた。
ホワンと魔力を感じて、防音壁に包まれたのだと認識する。
「サリー様凄いですわ!これで気兼ねなく話せますわね」
リリィはマーベルからポットを取り上げると、まずはマーベルのお茶をカップに注いだ。
「わ、私ここに勤めてから1番恐怖を感じております…ご主人様たちとお茶の席を共にするなんて…」
震えた声で小さくなるマーベルを見つめる3人は、ニンマリした顔になっており、更にマーベルを追い詰めていった。
良くも悪くも、ピンク色の世界の話というのは女性も興味があるものである。
だが、そのピンクの話を始めるにも準備というものがいる。
その準備が全員の涙を呼ぶことになるとは思いもしていなかっただろう。
マーベルは子爵家に嫁いだが今は未亡人で、亡くなった夫の従兄弟が次の当主となった為に身を置きづらくなり、実家に戻ることになったが、実家は士爵家であった為に裕福ではなく、働きに出ることになり、イシュトハン邸に身を置いているという。
「早くに亡くなられてお辛かったでしょう…」
「ぐすっ…悲しすぎます…」
「マーベル、この指輪も持っていって。こんな辛い話をさせて申し訳ないわ。後でいくらでも請求して…私ったら酷いことをしたわ」
マーベルの話を聞き出そうと話をしていたところ、結婚適齢期の自分と重ね合わせ、結婚してすぐに夫が亡くなった悲しみを想像して、居た堪れない思いになり、ピンク色に染まっていた頭が一気にブルーに変わった。
「いえ、申し上げにくいですが、子爵家では冷遇されておりましたので、あまり辛さは感じませんでした。こうしていい環境で働かせていただいて、今の方が幸せに感じています」
「冷遇?それは話が違うわね。それはどこの家ですの?全権力を駆使して潰してやりますわ」
「本当ですわね。嫁いだ先で冷たくされていたなんていう都市伝説みたいな家が今も存在しているなんて許せませんわ」
「マーベル、何も言わなくていいのよ。履歴書を後で確認させてもらうわね。任せて、うちの侍女が受けた仕打ち、後悔させてやるから」
悲しみに包まれたはずの空間は、マーベルが言いづらそうに話した冷遇という話に、一瞬にして怒りに変わっていた。
後日談だが、1週間後、突然没落した子爵家が、そのまま廃位されると通達された。
マーベルはその記事を見なかったことにしてそっと新聞を閉じた。
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