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just married
オオカミさん達の内緒話
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一方、フリード達はというと、イシュトハン本邸の裏山に続く道をひたすらに歩いていた。
「この城は広いな…門から玄関まではさほど距離はないというのに、あそこに見えるのは別宮か?」
「領主の城を宮殿とは言わないだろう」
「しかし敷地内に騎士団の練習場もあると聞きましたよ。これは移動も大変ですね。要塞と呼ばれる城内も複雑で、王城と言われても信じてしまいそうです」
迷路のように曲がりくねった庭を進み、フリード達は本来の狩場となる裏山の入り口を目指す。
「軍神の宿る領域と呼ばれる要塞だけあって、外部からの攻撃をよく考えて作られている。でもそれだけじゃない。イシュトハンは情報までも完璧に守っていた。この家に入ってその凄さには感服したよ」
石段を登り、3人は漸く狩場となる裏山の入り口に入る。
その入り口は、騎士が守り固めていた。
「フリードリヒ様、狩りをされにきたのですか?」
すかさず騎士が3人に頭を下げる。
「いや、今日は準備もないから弓で遊ぼうかと。たまにやらないと腕も鈍るからね」
「承知致しました。ご案内致します」
庭に続く柵沿いの道を奥へ奥へと歩いていくと、高い城壁が見えてくる。
「これはさっき見えていた別宮か?」
マグシスは目の前に迫る壁の高さに驚愕する。
「別宮ではなく、騎士団の館だ」
「騎士団の建物も城のようじゃありませんか」
ハーベストも、壁を見上げて唖然とする。
「イシュトハンは王国の歴史よりも長いからな。ちなみに離城は反対側にあるよ。二つね。有事の際は兵士たちも滞在できるようになっている。全てが要塞として機能するし、イシュトハン戦記を読むと面白いよ。興味があれば読んでみるといい」
「あれはもう手に入れようとしても手に入らないよ。公爵家でも手に入れられない。是非拝見したいものだ」
「私も興味がありますね。他の国の城の要塞とは全く違う。どこの国も全てを壁の中に納めているのに、ここの本城は高い壁に囲われてすらない。驚くばかりだ」
「本当に興味があるなら貸すよ。私のもので良ければね」
男達は城の仕組みに花を咲かせている。
それは少し山に入った弓練習場まで続いた。
***
「ハーベスト、君上手いな!」
「商人は趣味が多くないといけませんから」
射手たちがクロスボウで一際遠い的に標準を定めている横で、古典的な弓矢で3人は競っていた。
「ウルスガルバ卿も気を抜いていると負けるよ」
フリードは的から視線を逸らすことなく言うと、弓を放つ。
「うん、これは気を抜けないね」
フリードの矢が的の中心に刺さったのを確認しながら、椅子から立ったマグシスは、闘志を身に纏っていた。
「そういえば、今日は夫人は殿下の色を纏っていませんが、喧嘩でもされたのですか?」
次の弓を掴むため、腰を折ったフリードに、マグシスが近寄る。
「はぁ…今聞くとは、君は意外と卑怯だな」
フリードは頭の上から降ってきた声の方を睨みつける。
「射撃は心理戦だからね。揺さぶりあうのは当然だ」
確かに、的当ては心理戦でもあった。
続けて3本ずつ矢を放ち得点を競うゲームだが、次の矢をとりに行くには、仲間のところへ一度戻る必要がある。
わざと弓は椅子の近くに置かれているのだ。
大声を出したりはルール違反だが、集中力も試されているのだ。
通常、会話を楽しみながら行う。
「分かったよ。いつかは聞かれると思っていた。ハーベストも気になっていたんだろう?君はオーラが見えるのか?」
「私は見えませんが、まぁえっと…サリーは気になっているとは思います」
「成程」
そう一言残して、フリードは打ち場へと数歩足を進めて弓を弾いた。
「今夜は久しぶりに責められることになりそうだ」
スパンッと音がして、フリードは再び弓を取りに戻る。
先程の弓を引き裂くようにして突き刺さった。
「「おぉー」」
「気を利かせて女性だけを残らせたつもりだったけど、まずかったかな?」
フリードは少し引き攣った笑顔で2人を見る。
「サリーは自分から聞くことはないと思いますが」
「リリィは…ん?それより、夫人はオーラの事を気にされなかったのですか?」
フリードは流石に隠しきれないかとため息をついた。
「確信はないが、オーラのことは気付いていないと思う」
「オーラに気付いていない?」
「いや、魔力もあるからそういうわけではなく…」
「私はサリーに聞くまで知りませんでした。伯爵夫人も知らないということですか?」
フリードはテーブルに置かれた水をグビグビと喉に通し、コトッとグラスを置くと、デカンダから注ぐのが面倒臭かったのか、呪文を唱えてグラスを水で満たした。
そうしてもう一度打ち場に立つと、フゥと息を吐き出した後矢を放った。
矢は中心を少し外れるが、的を外すことはない。
「少し休憩しよう」
一周して順位はマグシス、ハーベスト、フリードだ。
点差はほとんどないと言っていい。
「それで?」
3人が座ったことを確認して、騎士団付きの侍女が気を利かせてお茶を持ってくる。
待ちきれなかったマグシスが足を組みながら話の続きを求めた。
周りには練習している射手達がいる。
話題が話題だけに聞かせるわけにはいかない。
「2人とも耳を貸せ」
低いテーブルの周りに三脚の椅子が並べてあるので、フリードは太ももに腕を置いて身を乗り出す。
それを見て2人も同じように顔を近づけた。
「使用人達は気付いていないと思うが、実は初夜は何もしていないんだ」
「は?」
「わぁ…」
2人は声を出した後、目線を合わせフリードを可哀想なものでも見るようにしてからため息をついた。
「この城は広いな…門から玄関まではさほど距離はないというのに、あそこに見えるのは別宮か?」
「領主の城を宮殿とは言わないだろう」
「しかし敷地内に騎士団の練習場もあると聞きましたよ。これは移動も大変ですね。要塞と呼ばれる城内も複雑で、王城と言われても信じてしまいそうです」
迷路のように曲がりくねった庭を進み、フリード達は本来の狩場となる裏山の入り口を目指す。
「軍神の宿る領域と呼ばれる要塞だけあって、外部からの攻撃をよく考えて作られている。でもそれだけじゃない。イシュトハンは情報までも完璧に守っていた。この家に入ってその凄さには感服したよ」
石段を登り、3人は漸く狩場となる裏山の入り口に入る。
その入り口は、騎士が守り固めていた。
「フリードリヒ様、狩りをされにきたのですか?」
すかさず騎士が3人に頭を下げる。
「いや、今日は準備もないから弓で遊ぼうかと。たまにやらないと腕も鈍るからね」
「承知致しました。ご案内致します」
庭に続く柵沿いの道を奥へ奥へと歩いていくと、高い城壁が見えてくる。
「これはさっき見えていた別宮か?」
マグシスは目の前に迫る壁の高さに驚愕する。
「別宮ではなく、騎士団の館だ」
「騎士団の建物も城のようじゃありませんか」
ハーベストも、壁を見上げて唖然とする。
「イシュトハンは王国の歴史よりも長いからな。ちなみに離城は反対側にあるよ。二つね。有事の際は兵士たちも滞在できるようになっている。全てが要塞として機能するし、イシュトハン戦記を読むと面白いよ。興味があれば読んでみるといい」
「あれはもう手に入れようとしても手に入らないよ。公爵家でも手に入れられない。是非拝見したいものだ」
「私も興味がありますね。他の国の城の要塞とは全く違う。どこの国も全てを壁の中に納めているのに、ここの本城は高い壁に囲われてすらない。驚くばかりだ」
「本当に興味があるなら貸すよ。私のもので良ければね」
男達は城の仕組みに花を咲かせている。
それは少し山に入った弓練習場まで続いた。
***
「ハーベスト、君上手いな!」
「商人は趣味が多くないといけませんから」
射手たちがクロスボウで一際遠い的に標準を定めている横で、古典的な弓矢で3人は競っていた。
「ウルスガルバ卿も気を抜いていると負けるよ」
フリードは的から視線を逸らすことなく言うと、弓を放つ。
「うん、これは気を抜けないね」
フリードの矢が的の中心に刺さったのを確認しながら、椅子から立ったマグシスは、闘志を身に纏っていた。
「そういえば、今日は夫人は殿下の色を纏っていませんが、喧嘩でもされたのですか?」
次の弓を掴むため、腰を折ったフリードに、マグシスが近寄る。
「はぁ…今聞くとは、君は意外と卑怯だな」
フリードは頭の上から降ってきた声の方を睨みつける。
「射撃は心理戦だからね。揺さぶりあうのは当然だ」
確かに、的当ては心理戦でもあった。
続けて3本ずつ矢を放ち得点を競うゲームだが、次の矢をとりに行くには、仲間のところへ一度戻る必要がある。
わざと弓は椅子の近くに置かれているのだ。
大声を出したりはルール違反だが、集中力も試されているのだ。
通常、会話を楽しみながら行う。
「分かったよ。いつかは聞かれると思っていた。ハーベストも気になっていたんだろう?君はオーラが見えるのか?」
「私は見えませんが、まぁえっと…サリーは気になっているとは思います」
「成程」
そう一言残して、フリードは打ち場へと数歩足を進めて弓を弾いた。
「今夜は久しぶりに責められることになりそうだ」
スパンッと音がして、フリードは再び弓を取りに戻る。
先程の弓を引き裂くようにして突き刺さった。
「「おぉー」」
「気を利かせて女性だけを残らせたつもりだったけど、まずかったかな?」
フリードは少し引き攣った笑顔で2人を見る。
「サリーは自分から聞くことはないと思いますが」
「リリィは…ん?それより、夫人はオーラの事を気にされなかったのですか?」
フリードは流石に隠しきれないかとため息をついた。
「確信はないが、オーラのことは気付いていないと思う」
「オーラに気付いていない?」
「いや、魔力もあるからそういうわけではなく…」
「私はサリーに聞くまで知りませんでした。伯爵夫人も知らないということですか?」
フリードはテーブルに置かれた水をグビグビと喉に通し、コトッとグラスを置くと、デカンダから注ぐのが面倒臭かったのか、呪文を唱えてグラスを水で満たした。
そうしてもう一度打ち場に立つと、フゥと息を吐き出した後矢を放った。
矢は中心を少し外れるが、的を外すことはない。
「少し休憩しよう」
一周して順位はマグシス、ハーベスト、フリードだ。
点差はほとんどないと言っていい。
「それで?」
3人が座ったことを確認して、騎士団付きの侍女が気を利かせてお茶を持ってくる。
待ちきれなかったマグシスが足を組みながら話の続きを求めた。
周りには練習している射手達がいる。
話題が話題だけに聞かせるわけにはいかない。
「2人とも耳を貸せ」
低いテーブルの周りに三脚の椅子が並べてあるので、フリードは太ももに腕を置いて身を乗り出す。
それを見て2人も同じように顔を近づけた。
「使用人達は気付いていないと思うが、実は初夜は何もしていないんだ」
「は?」
「わぁ…」
2人は声を出した後、目線を合わせフリードを可哀想なものでも見るようにしてからため息をついた。
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