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alone
目覚め
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「あれは明らかにクロエよ」
ステラはフリードの部屋に残った魔法の痕跡の報告を受けて、頭を抱えた。
転移できる魔力があるのなら、一体何故連絡一つ寄越さないのかと、その答えを見つけることが出来なかった。
「ダリアはどう思うの?」
「クロエだというのは間違いないかと。結界の張られたフリードの部屋に難なく侵入し、行き先が不明な転移の跡というなら疑う余地はありません。あの子のことだから、迷惑が掛かるとか思っているのでしょう」
「迷惑が掛かるかもしれない状況は何が考えられるというの?」
「例えば…ミーリン島を爆発させようとしている…とか?」
「ない話ではないわね」
「消えた奴ら全部葬り去ったのがバレるか確認している…とか?」
「島からは国内で問題があったと返答が来ているから、それはなさそうだけど…」
「クロエが脅しているとしたら…その可能性はあるでしょう?」
「それでもそんなことクロエ程度の魔力では不可能よ」
2人はクロエが連絡をしてこないことに答えを出せない。
未だにクロエの張った結界は消えておらず、生存だけは確かに確認ができてはいたが、どう考えて行っても行き止まりにたどりついてしまう。
「陛下!陛下!」
ドタバタとジタバタとドアの向こうから足跡と共に聞こえてくるのは、父であるヒューベルトの声だった。
「あら、今からお父様が緊急の知らせを持ってくるのが手に取るように分かるわ」
「ステラ陛下、不思議と私にも分かります。あぁいい知らせだと良いんですけど」
ステラは用心のために展開していた防音魔法をすぐに解いた。
「ハングリット、扉を開けてちょうだい。それとマリアはグラスに水を用意してあげて」
ステラの護衛であるハングリットが扉を開けると、間もなくヒューベルトが息を切らして現れた。
「ハァ…ハァ…国民のォ…輝ける星…にィ…」
「お父様、もういいから早く」
娘に挨拶を遮られたヒューベルトに、侍女のマリアが水を渡す。
ゴクリと音がなるほど一気に喉に通したヒューベルトは、すぐにグラスをステラの目の前のテーブルに置くと、身を乗り出して話し始めた。
「フリードの意識が戻りました」
「あら、吉報の方だったわね。ダリア、すぐにフリードのところに行きましょう」
娘に対する慣れない敬語にモゴモゴとするヒューベルトとは対照的に、ステラは何も気にした様子はない。
「もちろんです」
ダリアは返事よりも早く立ち上がっていた。
「まッ…お待ちください」
「お父様、家族だけの場で無理に敬ってもらわなくても結構よ。何かあるなら早く仰って」
立ち上がって歩き出そうとするステラは、イライラしたように答える。
「目は覚めたが、医者が言うには水分も食事もほとんどなく目覚めたことは奇跡的で、今は話すことは難しいと言っている。水と食事が1番だということで大慌てで用意を指示したところだ」
「確かに、舐める程度の水で生き延びたのは事実だけど、フリードには会わないわけにはいかないわ。ダリア、行くわよ」
目覚めなければこのまま死ぬだろうと言われ続けて1週間以上が過ぎていた。
回復魔法を使っても、生きるのに必要な栄養は摂ることは出来ない。
だが一方で、顔色も良く衰弱は限定的だと報告も受けている。
「あぁ、姉様待ってよ!」
ズイズイと歩き出したステラをダリアが追いかけ、護衛たちもそれに続いた。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「聖女が現れたと報告があちこちから上がっているそうよ」
先程まで頭を抱えて確認書類に押しつぶされそうになっていたクロエとは思えないほど清々しい顔でクリンプトンを見た。
「聖女?本物なのですか?」
聖女とは、治癒魔法に非常に特化した女性に対して使われる言葉であった。
しかし、それは演劇や小説に出てくる存在であり、禍々しい見た目の魔物同様、お伽話中の存在である。
治癒というのは多くの魔力を消費するもので、広範囲の怪我人を同時に手当てする魔力を持っていれば、魔力自体が多くなければならない。
演劇に出てくるような聖女は、通常考えられない魔力と技能を持っていることになる。
「あら、あなたにはどう見える?」
ニッコリと笑ったまま試すようにクリンプトンを見るクロエは、良からぬことを考えていることが隠せていなかった。
いや、隠す気はないようだ。
「見えるとは…まさか!」
「さぁ、枢機卿達に会いに行きましょか。うちの王子様も目覚めたようだし」
「王子?」
「なんでもないわ。こっちの話」
「今までのどの国王より秘密が多いお方ですね」
「そんなに褒められると照れるわ」
クロエの凡ゆる秘密はまだ教会側に漏れてはいなかった。
しかし、昔、一つの教会を壊滅に追い込んだ事実は掴んでいるようだ。
それを元に魔王という悪い印象を大陸中に与えようと枢機卿達は企んでいる。
島内にいれば安全だと、そう言いたいのだ。
「全ては陛下のお心のままにいきますよ」
「そうだといいのだけどね」
2人は枢機卿の集まる教会本部に静かに転移した。
ステラはフリードの部屋に残った魔法の痕跡の報告を受けて、頭を抱えた。
転移できる魔力があるのなら、一体何故連絡一つ寄越さないのかと、その答えを見つけることが出来なかった。
「ダリアはどう思うの?」
「クロエだというのは間違いないかと。結界の張られたフリードの部屋に難なく侵入し、行き先が不明な転移の跡というなら疑う余地はありません。あの子のことだから、迷惑が掛かるとか思っているのでしょう」
「迷惑が掛かるかもしれない状況は何が考えられるというの?」
「例えば…ミーリン島を爆発させようとしている…とか?」
「ない話ではないわね」
「消えた奴ら全部葬り去ったのがバレるか確認している…とか?」
「島からは国内で問題があったと返答が来ているから、それはなさそうだけど…」
「クロエが脅しているとしたら…その可能性はあるでしょう?」
「それでもそんなことクロエ程度の魔力では不可能よ」
2人はクロエが連絡をしてこないことに答えを出せない。
未だにクロエの張った結界は消えておらず、生存だけは確かに確認ができてはいたが、どう考えて行っても行き止まりにたどりついてしまう。
「陛下!陛下!」
ドタバタとジタバタとドアの向こうから足跡と共に聞こえてくるのは、父であるヒューベルトの声だった。
「あら、今からお父様が緊急の知らせを持ってくるのが手に取るように分かるわ」
「ステラ陛下、不思議と私にも分かります。あぁいい知らせだと良いんですけど」
ステラは用心のために展開していた防音魔法をすぐに解いた。
「ハングリット、扉を開けてちょうだい。それとマリアはグラスに水を用意してあげて」
ステラの護衛であるハングリットが扉を開けると、間もなくヒューベルトが息を切らして現れた。
「ハァ…ハァ…国民のォ…輝ける星…にィ…」
「お父様、もういいから早く」
娘に挨拶を遮られたヒューベルトに、侍女のマリアが水を渡す。
ゴクリと音がなるほど一気に喉に通したヒューベルトは、すぐにグラスをステラの目の前のテーブルに置くと、身を乗り出して話し始めた。
「フリードの意識が戻りました」
「あら、吉報の方だったわね。ダリア、すぐにフリードのところに行きましょう」
娘に対する慣れない敬語にモゴモゴとするヒューベルトとは対照的に、ステラは何も気にした様子はない。
「もちろんです」
ダリアは返事よりも早く立ち上がっていた。
「まッ…お待ちください」
「お父様、家族だけの場で無理に敬ってもらわなくても結構よ。何かあるなら早く仰って」
立ち上がって歩き出そうとするステラは、イライラしたように答える。
「目は覚めたが、医者が言うには水分も食事もほとんどなく目覚めたことは奇跡的で、今は話すことは難しいと言っている。水と食事が1番だということで大慌てで用意を指示したところだ」
「確かに、舐める程度の水で生き延びたのは事実だけど、フリードには会わないわけにはいかないわ。ダリア、行くわよ」
目覚めなければこのまま死ぬだろうと言われ続けて1週間以上が過ぎていた。
回復魔法を使っても、生きるのに必要な栄養は摂ることは出来ない。
だが一方で、顔色も良く衰弱は限定的だと報告も受けている。
「あぁ、姉様待ってよ!」
ズイズイと歩き出したステラをダリアが追いかけ、護衛たちもそれに続いた。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「聖女が現れたと報告があちこちから上がっているそうよ」
先程まで頭を抱えて確認書類に押しつぶされそうになっていたクロエとは思えないほど清々しい顔でクリンプトンを見た。
「聖女?本物なのですか?」
聖女とは、治癒魔法に非常に特化した女性に対して使われる言葉であった。
しかし、それは演劇や小説に出てくる存在であり、禍々しい見た目の魔物同様、お伽話中の存在である。
治癒というのは多くの魔力を消費するもので、広範囲の怪我人を同時に手当てする魔力を持っていれば、魔力自体が多くなければならない。
演劇に出てくるような聖女は、通常考えられない魔力と技能を持っていることになる。
「あら、あなたにはどう見える?」
ニッコリと笑ったまま試すようにクリンプトンを見るクロエは、良からぬことを考えていることが隠せていなかった。
いや、隠す気はないようだ。
「見えるとは…まさか!」
「さぁ、枢機卿達に会いに行きましょか。うちの王子様も目覚めたようだし」
「王子?」
「なんでもないわ。こっちの話」
「今までのどの国王より秘密が多いお方ですね」
「そんなに褒められると照れるわ」
クロエの凡ゆる秘密はまだ教会側に漏れてはいなかった。
しかし、昔、一つの教会を壊滅に追い込んだ事実は掴んでいるようだ。
それを元に魔王という悪い印象を大陸中に与えようと枢機卿達は企んでいる。
島内にいれば安全だと、そう言いたいのだ。
「全ては陛下のお心のままにいきますよ」
「そうだといいのだけどね」
2人は枢機卿の集まる教会本部に静かに転移した。
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