婚約破棄のためなら逃走します〜魔力が強い私は魔王か聖女か〜

佐原香奈

文字の大きさ
125 / 142
alone

目覚め

しおりを挟む
「あれは明らかにクロエよ」

ステラはフリードの部屋に残った魔法の痕跡の報告を受けて、頭を抱えた。
転移できる魔力があるのなら、一体何故連絡一つ寄越さないのかと、その答えを見つけることが出来なかった。


「ダリアはどう思うの?」

「クロエだというのは間違いないかと。結界の張られたフリードの部屋に難なく侵入し、行き先が不明な転移の跡というなら疑う余地はありません。あの子のことだから、迷惑が掛かるとか思っているのでしょう」

「迷惑が掛かるかもしれない状況は何が考えられるというの?」

「例えば…ミーリン島を爆発させようとしている…とか?」

「ない話ではないわね」

「消えた奴ら全部葬り去ったのがバレるか確認している…とか?」

「島からは国内で問題があったと返答が来ているから、それはなさそうだけど…」

「クロエが脅しているとしたら…その可能性はあるでしょう?」

「それでもそんなことクロエ程度の魔力では不可能よ」



2人はクロエが連絡をしてこないことに答えを出せない。
未だにクロエの張った結界は消えておらず、生存だけは確かに確認ができてはいたが、どう考えて行っても行き止まりにたどりついてしまう。


「陛下!陛下!」

ドタバタとジタバタとドアの向こうから足跡と共に聞こえてくるのは、父であるヒューベルトの声だった。


「あら、今からお父様が緊急の知らせを持ってくるのが手に取るように分かるわ」

「ステラ陛下、不思議と私にも分かります。あぁいい知らせだと良いんですけど」


ステラは用心のために展開していた防音魔法をすぐに解いた。


「ハングリット、扉を開けてちょうだい。それとマリアはグラスに水を用意してあげて」


ステラの護衛であるハングリットが扉を開けると、間もなくヒューベルトが息を切らして現れた。


「ハァ…ハァ…国民のォ…輝ける星…にィ…」

「お父様、もういいから早く」

娘に挨拶を遮られたヒューベルトに、侍女のマリアが水を渡す。
ゴクリと音がなるほど一気に喉に通したヒューベルトは、すぐにグラスをステラの目の前のテーブルに置くと、身を乗り出して話し始めた。

「フリードの意識が戻りました」

「あら、吉報の方だったわね。ダリア、すぐにフリードのところに行きましょう」


娘に対する慣れない敬語にモゴモゴとするヒューベルトとは対照的に、ステラは何も気にした様子はない。


「もちろんです」


ダリアは返事よりも早く立ち上がっていた。


「まッ…お待ちください」

「お父様、家族だけの場で無理に敬ってもらわなくても結構よ。何かあるなら早く仰って」


立ち上がって歩き出そうとするステラは、イライラしたように答える。


「目は覚めたが、医者が言うには水分も食事もほとんどなく目覚めたことは奇跡的で、今は話すことは難しいと言っている。水と食事が1番だということで大慌てで用意を指示したところだ」


「確かに、舐める程度の水で生き延びたのは事実だけど、フリードには会わないわけにはいかないわ。ダリア、行くわよ」


目覚めなければこのまま死ぬだろうと言われ続けて1週間以上が過ぎていた。
回復魔法を使っても、生きるのに必要な栄養は摂ることは出来ない。
だが一方で、顔色も良く衰弱は限定的だと報告も受けている。


「あぁ、姉様待ってよ!」

ズイズイと歩き出したステラをダリアが追いかけ、護衛たちもそれに続いた。




✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「聖女が現れたと報告があちこちから上がっているそうよ」


先程まで頭を抱えて確認書類に押しつぶされそうになっていたクロエとは思えないほど清々しい顔でクリンプトンを見た。


「聖女?本物なのですか?」


聖女とは、治癒魔法に非常に特化した女性に対して使われる言葉であった。
しかし、それは演劇や小説に出てくる存在であり、禍々しい見た目の魔物同様、お伽話中の存在である。
治癒というのは多くの魔力を消費するもので、広範囲の怪我人を同時に手当てする魔力を持っていれば、魔力自体が多くなければならない。

演劇に出てくるような聖女は、通常考えられない魔力と技能を持っていることになる。

「あら、あなたにはどう見える?」


ニッコリと笑ったまま試すようにクリンプトンを見るクロエは、良からぬことを考えていることが隠せていなかった。
いや、隠す気はないようだ。


「見えるとは…まさか!」


「さぁ、枢機卿達に会いに行きましょか。うちの王子様も目覚めたようだし」

「王子?」

「なんでもないわ。こっちの話」

「今までのどの国王より秘密が多いお方ですね」

「そんなに褒められると照れるわ」


クロエの凡ゆる秘密はまだ教会側に漏れてはいなかった。
しかし、昔、一つの教会を壊滅に追い込んだ事実は掴んでいるようだ。
それを元に魔王という悪い印象を大陸中に与えようと枢機卿達は企んでいる。
島内にいれば安全だと、そう言いたいのだ。


「全ては陛下のお心のままにいきますよ」

「そうだといいのだけどね」


2人は枢機卿の集まる教会本部に静かに転移した。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...