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帝国

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スリズムでは城ではなく迎賓館で歓迎の宴が行われた。
庭も開放した広い建物は、一年中花をつけるという赤い花で彩られていた。


王族らと共に招待を受けたクロッカはこの日、赤いドレスを纏い参加し、毎度盛大なパーティが行われるので、社交会デビューをしているとはいえ、夜会に慣れているとは言えなかったクロッカは、異国でのパーティで賓客としての振る舞いを身につけるのには苦労していた。



「ハイランス嬢ここにいたのですか。今日のドレスも美しい。明るい髪と白い肌に、赤いドレスはよく映える」



キャサリンと共に外交官や各地の使者達に囲まれていたクロッカは、その声を天の助けかのように思えた。
キャサリンとクロッカも払っても払っても湧き出てくる男性にお手上げ状態となっていた。
ただ、視察での滞在と言うことで、不埒な真似をするものがいないことはフェリペ殿下に感謝しかない。



「アガトン王子殿下、グレーのスーツがよく似合っておりますわ」



ここぞとばかりにキャサリンがアガトンの声のする方へグリンと身体を向ける。
公爵夫人と分かった上でキャサリンの美貌に群がった男達を一気に払うようだった。
クロッカも同じようにアガトンへ視線を向け、安心したようににっこりと微笑む。
しかしそれは逆効果だったようで、その笑顔を向けてほしい男性に腕を引っ張られてしまうこととなった。


「キャッ」



帝国では高いヒールを履くことが流行していて簡単にバランスを崩してしまう。
クロッカは膝がかくんと崩れるのを感じ、助けを求めるように咄嗟にキャサリンの方を見たが、キャサリンの腕が届く前に、クロッカの左腕が強く掴まれた。


「大丈夫?」


ぐらついた視界で漸く捉えたアガトンは険しく、そして掴まれた腕の力は強く、彼が男の人だったと認識させられることになった。



ハッと近すぎる距離に一歩下がろうとするが、引けた腰をエスコートするようにアガトンが手を添える。
もう逃げ場はなかった。



「えぇ、殿下が支えてくださったおかげです。感謝致します」



笑みをアガトンに差し出したが、同じ高さにある目線は寄り目になる程近い。



「足は挫いてないですか?」


「えぇ」


「ならこのまま踊りに行かない?キャサリン、もちろんいいよね?」



背後に回ることになったキャサリンをアガトンは振り返るように見ると、キャサリンも仕方ないとばかりに送り出した。



顔見知りであるアガトンに任せる方が楽だと考えていた。
帝国の流行を作る側室たちを含め、女性は女性であることを誇りに思い、女性であることを強調するドレスを好む。


王国出身のキャサリンやクロッカらの選ぶドレスはデコルテの露出も少なく、帝国で流行りの細身のボディラインの出るロングドレスも、足には深いスリットが入っていても、上半身はレースで手首まで隠れているなど、帝国の女性から見れば、ドレスは地味な印象なのだが、何故か男性からは評判が良く頭を抱える結果になっていた。



フェリペやアルベルトも危惧していたのだが、帝国の男性はすごく積極的であるということだ。
皇帝に嫁ぐ側室がいるように、政略結婚がないわけではないが、女性には拒否権がある。
側室達も祖国だった地区とのやり取りをする役目があり、待遇の良さから野心の強い女性が望んでくることが多い。
実質の女性官僚と言っていい側室の女性たちを除けば、賓客のクロッカと公爵夫人のキャサリンの元へ男性が集まるのは仕方のないことだった。
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