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エリアスとフェゼリーテ2
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「ルイ!また風邪か?」
ルイの服装が仕事に向かう格好ではないことに気付いたエリアスが、薪を割る手を止めてルイに声を掛けた。
「あぁエリアス、申し訳ないが少し娘を見ててくれないか?薬師のところに行ってくる」
「俺と二人にはしない方がいいんじゃないか?俺が薬師のところに行ってくる。熱冷ましならウチにもあるぞ?」
エリアスは元々深い付き合いを拒んでいたが、フェゼリーテとは特に関わろうとはしない。目の前に家を建てるのも主導してくれたが、それは聖騎士の泊まる宿に世話になるのはおかしいと仮宿から追い出したかったからだ。頼めば手を貸してくれるが、それ以上でもそれ以外でもない。
「何か悪い虫に刺されたようで腕が腫れて熱にうなされている」
「それは厄介だな…」
エリアスは一度フェゼリーテの様子を確認した後、ルイを残して森の入り口へ走り、医師と薬師を連れて来た。ルイがいつも会っている職場の仲間ではあるが、加護なしの自分には仕事の話しかすることはなかったので、家まで来たことにルイは驚いた。
「これは…毒蜘蛛に噛まれたのだと思います。私も初めて見ましたが、特徴的な水脹れのような噛み口と、強いリンパの腫れが一致します。ですが解毒剤は…少し時間がかかります。材料から集めないと…」
医師と薬師は本を開きながら材料を確認し、「材料は今は流通していないものばかりだ…」と匙を投げた。医師も薬師も研究薬以外は応急処置用の簡単な薬の提供をしているだけで、役に立つことはなかった。病も怪我も出会わないわけではないが稀なことだ。
「解毒剤がなければどうなる?」
エリアスはドアの前に立ったまま2人に聞く。ルイはフェゼリーテの手を握ったまま涙を流していた。
「毒が回れば一日もあれば死ぬと書かれています。ですが詳しいことは…心臓に毒が回るのもすぐでしょう。もしかしたらもうすでに手遅れの可能性も」
「わざわざ連れて来て悪かった。教会へ行くしかないな」
エリアスはそのまま出ていった。
「教会へ行っても加護がなければ…」
「神殿ではなく教会ならば、聖女様が直接加護を与えてくださる…加護なしに個人的な加護をもらえるかは分からないが…」
エリアスは森に彼らを連れて来てからも、聖女に頼ることなくここまできた。加護がないならば金を薬に使えと薬を常備させ、エリアスも薬を常備している。肉や野菜に金を使わせたお陰で体力だけはついた。それでも、病でなければどうにもならないのが今だ。
「ルイ、馬を借りてきたからフェジーを外に連れて来い」
エリアスは聖女への伝言を頼めば聖女が森へ来てくれると知っていた。だが、それを許すことは出来なかった。もう衰弱して虫の息の娘ではない。そんな甘えを許していいわけがない。ただ毒で死にかけているのなら他の信者と同じように命懸けでも教会へ向かうべきだ。
エリアスはフェゼリーテを抱えると朝一番に聖女が祈る教会本部へと向かうが、聖女はすでに次の街に向かっていた。孤児院や学校に顔を出していたらまだいると思っていたが、当ては外れたようだ。
そのままエリアスは聖女が向かったという街へと馬を走らせる。抱えていたフェゼリーテの身体は熱いが、それはまだ彼女が生きているという証だった。
次の街の教会は一時間ほど馬を走らせれば着くことができた。エリアスが到着した時、目の前の聖女の馬車も敷地に入るところだった。ローブを着たまま人を抱えてきたエリアスは、本堂に入り、一番後ろにフェゼリーテを寝かせた。
聖女が祈れば、怪我をして虫の息だった者も、悪意に晒されて酷い火傷を負った者も歓喜の声をあげたが、加護のないフェゼリーテはエリアスの思った通りに熱が下がることはなかった。
「エリアス?」
聖女はすぐになんの反応もないローブの男に気が付いた。ローブを着た見慣れた背格好は聖女の目に付いたのだ。聖女はほとんど森に来ることはなくなっていた。森の入り口までは来ていたが、フェゼリーテ達の家を建て始めるとだんだんと姿を見せることは無くなった。
「シャーロット…すまない。手を借りてもいいか?」
エリアスは懇願するように情けなく聖女に縋る。
「もちろんです」
フェゼリーテの手を迷いなく握り、聖女が祈りを捧げるとフェゼリーテの顔色はみるみる良くなっていった。
「助かったよ」
「エリアスが連れて来たから祈ったのですよ」
聖女は暫く見ないうちに知らない顔で笑うようになっていた。
「旦那とはうまくやっているようだな」
「もちろん。ユリエルは…あそこで…クスッ…貴方を殺しそうな目で見てる。もう行ったほうがいいです。ユリエルは嫉妬深いので」
恐らく、聖女が森に来なくなったのは夫に配慮してのことだ。夫を不機嫌にさせてまで通う理由はない。特に配慮のいる妊婦には…エリアスは大きくなった聖女のお腹を見て笑う。出会ったばかりのリューとショーンのことを思い出していた。
「二人の育児は大変だろうな」
「きっとそうでもないはずです。今でもこうして毎日出掛けられるように沢山の人が助けてくれます。それにとても可愛いの。祈りに出ていなかったら神殿に行って呼んでください。お世話になった栞屋になら祈りくらいしてあげます」
「その日が来ないことを祈るよ」
「祈るのはいいことです」
聖女はスッと立ち上がるとユリエルの元へ戻った。エリアスもユリエルの無言の視線から外れるようにフェゼリーテを担ぎ上げると帰路についた。
「エリアス!!」
昼過ぎに森へ着くと、入り口で待ち構えていたルイが駆け寄って来た。
「今は寝ているだけだ。問題ない」
エリアスはフェゼリーテをルイに渡すと、薬師の元に向かい、薬の作り方を聞いた。王都では見たこともない動物の肝臓や草の根が必要らしく、そのまま街に出て、商人の一人に取り寄せを依頼した。研究所は神殿の持ち物だ。罪を償っている者が何の努力もなしに頼っていくのは甘えだ。しかし、罪人でも実例を見れるという点においては役に立っているらしい。
エリアスは数ヶ月もの間入荷を待って、すでにいくつかある常備薬の一つにそれを加えた。一度刺されたならばまた刺されることもある。
「エリアス!今日は休みだからカップケーキを作ったの。だから…」
「俺は遠慮しておく」
フェゼリーテは断られると分かっていながらもエリアスの元に通ったが、いつの日からか彼の家にカーテンが付けられたように、フェゼリーテに心を向けることは一向になかった。
ルイの服装が仕事に向かう格好ではないことに気付いたエリアスが、薪を割る手を止めてルイに声を掛けた。
「あぁエリアス、申し訳ないが少し娘を見ててくれないか?薬師のところに行ってくる」
「俺と二人にはしない方がいいんじゃないか?俺が薬師のところに行ってくる。熱冷ましならウチにもあるぞ?」
エリアスは元々深い付き合いを拒んでいたが、フェゼリーテとは特に関わろうとはしない。目の前に家を建てるのも主導してくれたが、それは聖騎士の泊まる宿に世話になるのはおかしいと仮宿から追い出したかったからだ。頼めば手を貸してくれるが、それ以上でもそれ以外でもない。
「何か悪い虫に刺されたようで腕が腫れて熱にうなされている」
「それは厄介だな…」
エリアスは一度フェゼリーテの様子を確認した後、ルイを残して森の入り口へ走り、医師と薬師を連れて来た。ルイがいつも会っている職場の仲間ではあるが、加護なしの自分には仕事の話しかすることはなかったので、家まで来たことにルイは驚いた。
「これは…毒蜘蛛に噛まれたのだと思います。私も初めて見ましたが、特徴的な水脹れのような噛み口と、強いリンパの腫れが一致します。ですが解毒剤は…少し時間がかかります。材料から集めないと…」
医師と薬師は本を開きながら材料を確認し、「材料は今は流通していないものばかりだ…」と匙を投げた。医師も薬師も研究薬以外は応急処置用の簡単な薬の提供をしているだけで、役に立つことはなかった。病も怪我も出会わないわけではないが稀なことだ。
「解毒剤がなければどうなる?」
エリアスはドアの前に立ったまま2人に聞く。ルイはフェゼリーテの手を握ったまま涙を流していた。
「毒が回れば一日もあれば死ぬと書かれています。ですが詳しいことは…心臓に毒が回るのもすぐでしょう。もしかしたらもうすでに手遅れの可能性も」
「わざわざ連れて来て悪かった。教会へ行くしかないな」
エリアスはそのまま出ていった。
「教会へ行っても加護がなければ…」
「神殿ではなく教会ならば、聖女様が直接加護を与えてくださる…加護なしに個人的な加護をもらえるかは分からないが…」
エリアスは森に彼らを連れて来てからも、聖女に頼ることなくここまできた。加護がないならば金を薬に使えと薬を常備させ、エリアスも薬を常備している。肉や野菜に金を使わせたお陰で体力だけはついた。それでも、病でなければどうにもならないのが今だ。
「ルイ、馬を借りてきたからフェジーを外に連れて来い」
エリアスは聖女への伝言を頼めば聖女が森へ来てくれると知っていた。だが、それを許すことは出来なかった。もう衰弱して虫の息の娘ではない。そんな甘えを許していいわけがない。ただ毒で死にかけているのなら他の信者と同じように命懸けでも教会へ向かうべきだ。
エリアスはフェゼリーテを抱えると朝一番に聖女が祈る教会本部へと向かうが、聖女はすでに次の街に向かっていた。孤児院や学校に顔を出していたらまだいると思っていたが、当ては外れたようだ。
そのままエリアスは聖女が向かったという街へと馬を走らせる。抱えていたフェゼリーテの身体は熱いが、それはまだ彼女が生きているという証だった。
次の街の教会は一時間ほど馬を走らせれば着くことができた。エリアスが到着した時、目の前の聖女の馬車も敷地に入るところだった。ローブを着たまま人を抱えてきたエリアスは、本堂に入り、一番後ろにフェゼリーテを寝かせた。
聖女が祈れば、怪我をして虫の息だった者も、悪意に晒されて酷い火傷を負った者も歓喜の声をあげたが、加護のないフェゼリーテはエリアスの思った通りに熱が下がることはなかった。
「エリアス?」
聖女はすぐになんの反応もないローブの男に気が付いた。ローブを着た見慣れた背格好は聖女の目に付いたのだ。聖女はほとんど森に来ることはなくなっていた。森の入り口までは来ていたが、フェゼリーテ達の家を建て始めるとだんだんと姿を見せることは無くなった。
「シャーロット…すまない。手を借りてもいいか?」
エリアスは懇願するように情けなく聖女に縋る。
「もちろんです」
フェゼリーテの手を迷いなく握り、聖女が祈りを捧げるとフェゼリーテの顔色はみるみる良くなっていった。
「助かったよ」
「エリアスが連れて来たから祈ったのですよ」
聖女は暫く見ないうちに知らない顔で笑うようになっていた。
「旦那とはうまくやっているようだな」
「もちろん。ユリエルは…あそこで…クスッ…貴方を殺しそうな目で見てる。もう行ったほうがいいです。ユリエルは嫉妬深いので」
恐らく、聖女が森に来なくなったのは夫に配慮してのことだ。夫を不機嫌にさせてまで通う理由はない。特に配慮のいる妊婦には…エリアスは大きくなった聖女のお腹を見て笑う。出会ったばかりのリューとショーンのことを思い出していた。
「二人の育児は大変だろうな」
「きっとそうでもないはずです。今でもこうして毎日出掛けられるように沢山の人が助けてくれます。それにとても可愛いの。祈りに出ていなかったら神殿に行って呼んでください。お世話になった栞屋になら祈りくらいしてあげます」
「その日が来ないことを祈るよ」
「祈るのはいいことです」
聖女はスッと立ち上がるとユリエルの元へ戻った。エリアスもユリエルの無言の視線から外れるようにフェゼリーテを担ぎ上げると帰路についた。
「エリアス!!」
昼過ぎに森へ着くと、入り口で待ち構えていたルイが駆け寄って来た。
「今は寝ているだけだ。問題ない」
エリアスはフェゼリーテをルイに渡すと、薬師の元に向かい、薬の作り方を聞いた。王都では見たこともない動物の肝臓や草の根が必要らしく、そのまま街に出て、商人の一人に取り寄せを依頼した。研究所は神殿の持ち物だ。罪を償っている者が何の努力もなしに頼っていくのは甘えだ。しかし、罪人でも実例を見れるという点においては役に立っているらしい。
エリアスは数ヶ月もの間入荷を待って、すでにいくつかある常備薬の一つにそれを加えた。一度刺されたならばまた刺されることもある。
「エリアス!今日は休みだからカップケーキを作ったの。だから…」
「俺は遠慮しておく」
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