最後の男

深冬 芽以

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13 感情のままに

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「ネットで調べます」

「あ、じゃあ――」と、彼女もバッグからスマホを取り出した。

 けれど、俺がふっと彼女を見ると、スマホを持ったまま興味津々に俺を見ていた。

「どうかしました?」

「こういう検索とか、得意ですか?」

「え? まぁ、はい」

 答えると、彼女がフフッと笑った。

「すごいですね」

「そうですか?」

「はい。私、どうも上手く検索できなくて。検索できても、お店のページを色々見ているうちに、同じページを何度も開いちゃったりして、嫌になっちゃうんですよ。こういうの、真の方がよっぽど上手いんですよね。だから、今時の人、っぽくてすごいなと」

 今時の若い子は、みたいに言われた気がして、ちょっと凹んだ。きっと、そういう意味ではないのだろうが。

 俺は検索を続けた。

「真君はスマホとかゲームとか、詳しいですよね」

「はい」

「彩さんが教えるんですか?」

「いえ、父親が……」

 父親、というのは、彩さんの元夫。

 彼女が溝口課長の誘いに応じてまで『最後の男』にしておきたくなかった、過去の男。

 俺は画面をタップし、彩さんにスマホを差し出した。

「そこ、どうですか?」

 画面にはここから十分ほどの距離にある、韓国料理のお店が表示されていた。

「美味しそうですね」

「車、出しますね」

 十分間、口を開けなかった。

 余計なことを、聞いてしまいそうだったから。

 俺は、彩さんのことになると、忍耐力が極端に低下してしまう。それは時として、良くもあり悪くもある。

 だから、考えた。

 考えたけれど、やっぱり気になることは頭から消えない。

「シェアしましょうか?」

 眉間に皺を寄せてメニューを睨む彩さんに、言った。

 自分の事には優柔不断のようで、決めた様子でメニューから顔を上げては、また考えることを、もう三回以上は繰り返していた。

 普段は見られない彼女を眺めているのは楽しかったが、そろそろ店員が注文を取りたそうにこちらを見ていた。

「何で迷ってます?」

「スンドゥブチゲと海鮮チヂミまでは絞り込んだんですけど……」

 スンドゥブチゲにはライスがついているから、チヂミまでは食べきれないと迷っていたのか。

「じゃあ、両方頼みましょう。あと、ユッケジャンクッパとサラダを何か頼みますか?」

「チョレギサラダがいいです」

「じゃあ、それで」

 目が合っただけで、店員がやって来た。

 店内が混みだしてきたから、急ぎたかった様子で、小走りで厨房に戻って行った。

「すみません、本当に優柔不断で」

 おしぼりで手を拭きながら、彩さんが言った。

「全然? 意外でしたけど」

「そうですか? 友達からは典型的なAB型だって言われますよ」

「AB型なんですか?」

「はい。どちらかと言えばA寄りですけど」

「確かに。Aっぽいです」

 彩さんの血液型を、俺は忘れないだろう。
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