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8章 愚者は踊り続ける
8-13 話し合いの場ですらない
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「まずはメルクイーン男爵に向けている槍を下げさせろ」
冒険者ギルド総本部のズィーが言い放った。
笑いから一変、開いているかわからない細目が厳しいものとなった。
「お前たち、下がれ」
国王が護衛に命を下した。
俺に向けられていた槍が遠退く。
この場でクジョー王国の国王より強い者は彼しかいない。
だから、この場に残ったのだろうか。
「国王陛下、私は忙しい身で時間がないと言いましたよ?つい先ほどお伝えしたと思いましたが、もうお忘れですか?なぜ彼らの言葉をさっさと制しないのか不思議でならない。私は劇に付き合えるほど暇ではない」
「意見ならば、様々な者から聞かないといけない。むやみやたらに抑えつけたら不満が残るものだ」
台本のある劇でなければ、ズィーは自分をも軽んじている愚かな行為だと指摘しているのに、国王の返答がコレだと非常にやる気を失うものだ。
ズィーは俺を見た。
「メルクイーン男爵、なぜこの席で王子殿下のナイフを出したのですか?疑われる危険性の方が高かったのは貴方にもわかっていたことでしょう」
国王の言葉を返答もせずに、このズィーの切り出し方も劇な感じがする。こちらは即興劇だが。台本はない。
ズィーが司会進行しないとこの場が滞ると踏んだと見える。
本来は誰が司会をする予定だったのだろうか。この騒いでいる重役たちか?
「このナイフは転移魔法陣が埋め込まれていた。ナイフ所持者を中心に半径十メートル以内にいる者が一緒に空間転移される。方向も指定されており、西にかなりの距離を運び、時間指定もできるナイフだ」
「その通りだ。この王都で使用すれば、ハーラット侯爵領のどこかに飛ぶことになっている。一人では何かと不便だろうから、周囲にいる従者も一緒に連れていく。危険があったときに速やかに使用するように言っておいた」
国王が追加の説明をした。
へー、ハーラット侯爵領にねえ。まあ、それは今、どうでもいいか。
王子を空間転移するものだから、この魔法陣はかなり精密にできている。誰一人カラダを崩壊させる者がいなかったのは偶然ではなかった。
俺はほんの少しナイフの入った袋を持ち上げる。
「コレはメルクイーン男爵領でのある犯罪の押収物だ。ある伯爵が砦のE級冒険者に父親からの贈り物としてこのナイフを渡したことを認めた。その発動日時を指定したのは伯爵だ。このナイフにその魔力の残滓が残っており、それで追跡して捕縛した。このナイフのせいで、E級冒険者たちは魔の大平原のS級以上の魔物の住処とされているレッドラインの奥地に飛ばされた。このナイフはE級冒険者たちだけでなく、救助にあたった冒険者たちも危険に晒したことになる」
コレだけで俺が何を言いたいのかわかったはずだ。
彼らはこのナイフが王子の物だと散々言い、護衛が俺に槍まで向けたのだ。
俺は静かに収納鞄にナイフをしまった。
「メルクイーン男爵っ、犯罪の押収物だというのならそのナイフはこちらに」
重役の一人が手を差し出してきた。テーブルが限りなく広いから手は届かないが。
よくまあそんな発言ができたものだ。
俺は冷たい目で彼を見る。
「メルクイーン男爵領での押収物だ。控えろ」
国王が今度こそ制止した。
「では、メルクイーン男爵、そのナイフを出した意味は?」
ズィーが尋ねてきた。
「意味は俺が説明するまでもない」
国王たちに考える頭があるのならば。
「クジョー王国が証拠を握り潰すとは思わないのですか」
「そういうときのために第三者がこの場にいるんだろう。俺は王城まで話し合いに来てやった。それにもかかわらず、槍を向けられた。俺が国外の人間なら武力衝突にすでになっている段階だ。この場に必要のない人間は退場させろ。さもなければ、お前たちが話し合いをする意志がないものと判断して俺がこの場を出ていく」
俺は口の端だけで笑う。
数人の息を飲む音。
勢いあまって怒りの表情で立ち上がろうとしたが、横にいる親切な者に制止された者もいる。
出ていく気がなく、出ていくように命令する声もない。
話し合いが進まないのなら、俺がここにいる意味はない。
俺は立ち上がった。
「メルクイーン男爵、アンタは男爵なんだぞ。本来ならば国王への進言する機会すら与えられない。失礼極まりない態度だと思わないのか」
重役の一人が俺に言った。
「人として失礼な態度をしているのはどちらだ?権力に胡坐をかくような人間に忠誠など誓えるものか。俺たち冒険者は命を懸けて砦を守っている。魔物と戦い続けている。その背中に槍を向ける人間を誰が守りたいと思うのか」
俺は扉の方に足を進めた。
「いいね。リアムのその態度、冒険者らしくて私は好きだね。気に入った。もしものときは冒険者ギルドは全面的に極西の砦に協力しよう。この大陸で見ても、辺境伯が魔の大平原を抑えて、メルクイーン男爵がそれを維持していなければ、現在のクジョー王国全体が東の国のように魔物に覆い尽くされていた。その功績を何一つ考えずに発言できる者がいるのなら、すでに国内の法で処罰されていないのがおかしい」
ズィーの細目が俺を見た。
おや?もしかして、この人、クロと似ているところがありませんか?
隠しているけどニヨニヨって笑っていません?
もしものとき。
クジョー王国と対立した場合、メルクイーン男爵領は孤立無援状態になる。他国とは接していない土地だからだ。周囲は海だが、断崖絶壁が広がっており、船で交易できる土地ではない。
国王や重役はこの意味を正確に理解しているのか?
冒険者ギルド総本部の上層部のその言葉だけでも重いものだ。
「冒険者ギルドが協力してくれるというのなら言葉だけでも心強い。私が国外追放でもされた日には拾ってもらえると助かる」
「キミなら冒険者ギルドでも我が国でも喜んで迎えるよ。何なら、メルクイーン男爵領の領民や砦の冒険者たちも来てもらっても問題ない。うちは広大な未開発の土地がまだまだあるから」
「いや、我が国のことを勝手に決めないでもらいたい。我々は同じ国の仲間だ。メルクイーン男爵との話し合いに余計な口出しをする者は今後退場してもらうから」
慌てて国王がとめた。
このまま話が進んでしまうと、本当にメルクイーン男爵領はもぬけの殻にされてしまうと危惧してのことだ。ズィーならできなくはないが、実際はやらないだろう。
メルクイーン男爵領は国内を移動するにも遠い土地なのである。
馬車で数か月も移動となると、子供や高齢者は耐えられない者も出てくる。
しかも、移動の間、生活の糧がなくなるし、移動した先で今まで通り稼げるかというとわからない。
「ナイフの空間転移陣が実用に耐えられるレベルだって判明したから、大量の良質な魔石さえ何とかできれば領民ぐらいどうにかなるか」
王子を空中分解させるわけにはいかないから、あの魔法陣はこの国の研究結果の集合体だ。無事に国外にだって運べるだろう。
質が良ければ小さい魔石でなくとも良いのだから。
「ふふっ、そのときのために魔石を用意しておいてくれれば、こちらも素早く何とかできる」
ズィーが笑いながら言った。
おそらくズィーも空間転移陣のようなものを使用してこの国にやってきたはずだ。
こんな忙しい人が数か月もかけて移動していられないだろう。ハーラット侯爵家が持っているのなら、大国ならば必ず持っているに違いない。
確実にこの人が使っている物の方が良い品質の魔法陣だ。教えてもらいたいが、彼が教えるのはもしものときだけだ。
「リアムもS級魔物を冒険者ギルドに売ってくれれば良かったのに」
「ああ、ここのS級魔物は不味いからいらないって。砦に来るS級魔物は砦の守護獣がすべて食べてしまうから。いや、前回の襲来時は牙と角を冒険者ギルドに納品していましたね?」
「そういえば、そんな記録があったね。国から褒賞金が出たんじゃない?この国のS級冒険者は王都から出られないから助けを寄越すこともない」
「国にも冒険者ギルドにも報告書を上げましたが、褒賞金は来てませんね。というか、昔からこの国はお金を一切出してませんよ」
だから、歴代の当主や母上や俺が苦労しているのである。
冒険者ギルド総本部のズィーが言い放った。
笑いから一変、開いているかわからない細目が厳しいものとなった。
「お前たち、下がれ」
国王が護衛に命を下した。
俺に向けられていた槍が遠退く。
この場でクジョー王国の国王より強い者は彼しかいない。
だから、この場に残ったのだろうか。
「国王陛下、私は忙しい身で時間がないと言いましたよ?つい先ほどお伝えしたと思いましたが、もうお忘れですか?なぜ彼らの言葉をさっさと制しないのか不思議でならない。私は劇に付き合えるほど暇ではない」
「意見ならば、様々な者から聞かないといけない。むやみやたらに抑えつけたら不満が残るものだ」
台本のある劇でなければ、ズィーは自分をも軽んじている愚かな行為だと指摘しているのに、国王の返答がコレだと非常にやる気を失うものだ。
ズィーは俺を見た。
「メルクイーン男爵、なぜこの席で王子殿下のナイフを出したのですか?疑われる危険性の方が高かったのは貴方にもわかっていたことでしょう」
国王の言葉を返答もせずに、このズィーの切り出し方も劇な感じがする。こちらは即興劇だが。台本はない。
ズィーが司会進行しないとこの場が滞ると踏んだと見える。
本来は誰が司会をする予定だったのだろうか。この騒いでいる重役たちか?
「このナイフは転移魔法陣が埋め込まれていた。ナイフ所持者を中心に半径十メートル以内にいる者が一緒に空間転移される。方向も指定されており、西にかなりの距離を運び、時間指定もできるナイフだ」
「その通りだ。この王都で使用すれば、ハーラット侯爵領のどこかに飛ぶことになっている。一人では何かと不便だろうから、周囲にいる従者も一緒に連れていく。危険があったときに速やかに使用するように言っておいた」
国王が追加の説明をした。
へー、ハーラット侯爵領にねえ。まあ、それは今、どうでもいいか。
王子を空間転移するものだから、この魔法陣はかなり精密にできている。誰一人カラダを崩壊させる者がいなかったのは偶然ではなかった。
俺はほんの少しナイフの入った袋を持ち上げる。
「コレはメルクイーン男爵領でのある犯罪の押収物だ。ある伯爵が砦のE級冒険者に父親からの贈り物としてこのナイフを渡したことを認めた。その発動日時を指定したのは伯爵だ。このナイフにその魔力の残滓が残っており、それで追跡して捕縛した。このナイフのせいで、E級冒険者たちは魔の大平原のS級以上の魔物の住処とされているレッドラインの奥地に飛ばされた。このナイフはE級冒険者たちだけでなく、救助にあたった冒険者たちも危険に晒したことになる」
コレだけで俺が何を言いたいのかわかったはずだ。
彼らはこのナイフが王子の物だと散々言い、護衛が俺に槍まで向けたのだ。
俺は静かに収納鞄にナイフをしまった。
「メルクイーン男爵っ、犯罪の押収物だというのならそのナイフはこちらに」
重役の一人が手を差し出してきた。テーブルが限りなく広いから手は届かないが。
よくまあそんな発言ができたものだ。
俺は冷たい目で彼を見る。
「メルクイーン男爵領での押収物だ。控えろ」
国王が今度こそ制止した。
「では、メルクイーン男爵、そのナイフを出した意味は?」
ズィーが尋ねてきた。
「意味は俺が説明するまでもない」
国王たちに考える頭があるのならば。
「クジョー王国が証拠を握り潰すとは思わないのですか」
「そういうときのために第三者がこの場にいるんだろう。俺は王城まで話し合いに来てやった。それにもかかわらず、槍を向けられた。俺が国外の人間なら武力衝突にすでになっている段階だ。この場に必要のない人間は退場させろ。さもなければ、お前たちが話し合いをする意志がないものと判断して俺がこの場を出ていく」
俺は口の端だけで笑う。
数人の息を飲む音。
勢いあまって怒りの表情で立ち上がろうとしたが、横にいる親切な者に制止された者もいる。
出ていく気がなく、出ていくように命令する声もない。
話し合いが進まないのなら、俺がここにいる意味はない。
俺は立ち上がった。
「メルクイーン男爵、アンタは男爵なんだぞ。本来ならば国王への進言する機会すら与えられない。失礼極まりない態度だと思わないのか」
重役の一人が俺に言った。
「人として失礼な態度をしているのはどちらだ?権力に胡坐をかくような人間に忠誠など誓えるものか。俺たち冒険者は命を懸けて砦を守っている。魔物と戦い続けている。その背中に槍を向ける人間を誰が守りたいと思うのか」
俺は扉の方に足を進めた。
「いいね。リアムのその態度、冒険者らしくて私は好きだね。気に入った。もしものときは冒険者ギルドは全面的に極西の砦に協力しよう。この大陸で見ても、辺境伯が魔の大平原を抑えて、メルクイーン男爵がそれを維持していなければ、現在のクジョー王国全体が東の国のように魔物に覆い尽くされていた。その功績を何一つ考えずに発言できる者がいるのなら、すでに国内の法で処罰されていないのがおかしい」
ズィーの細目が俺を見た。
おや?もしかして、この人、クロと似ているところがありませんか?
隠しているけどニヨニヨって笑っていません?
もしものとき。
クジョー王国と対立した場合、メルクイーン男爵領は孤立無援状態になる。他国とは接していない土地だからだ。周囲は海だが、断崖絶壁が広がっており、船で交易できる土地ではない。
国王や重役はこの意味を正確に理解しているのか?
冒険者ギルド総本部の上層部のその言葉だけでも重いものだ。
「冒険者ギルドが協力してくれるというのなら言葉だけでも心強い。私が国外追放でもされた日には拾ってもらえると助かる」
「キミなら冒険者ギルドでも我が国でも喜んで迎えるよ。何なら、メルクイーン男爵領の領民や砦の冒険者たちも来てもらっても問題ない。うちは広大な未開発の土地がまだまだあるから」
「いや、我が国のことを勝手に決めないでもらいたい。我々は同じ国の仲間だ。メルクイーン男爵との話し合いに余計な口出しをする者は今後退場してもらうから」
慌てて国王がとめた。
このまま話が進んでしまうと、本当にメルクイーン男爵領はもぬけの殻にされてしまうと危惧してのことだ。ズィーならできなくはないが、実際はやらないだろう。
メルクイーン男爵領は国内を移動するにも遠い土地なのである。
馬車で数か月も移動となると、子供や高齢者は耐えられない者も出てくる。
しかも、移動の間、生活の糧がなくなるし、移動した先で今まで通り稼げるかというとわからない。
「ナイフの空間転移陣が実用に耐えられるレベルだって判明したから、大量の良質な魔石さえ何とかできれば領民ぐらいどうにかなるか」
王子を空中分解させるわけにはいかないから、あの魔法陣はこの国の研究結果の集合体だ。無事に国外にだって運べるだろう。
質が良ければ小さい魔石でなくとも良いのだから。
「ふふっ、そのときのために魔石を用意しておいてくれれば、こちらも素早く何とかできる」
ズィーが笑いながら言った。
おそらくズィーも空間転移陣のようなものを使用してこの国にやってきたはずだ。
こんな忙しい人が数か月もかけて移動していられないだろう。ハーラット侯爵家が持っているのなら、大国ならば必ず持っているに違いない。
確実にこの人が使っている物の方が良い品質の魔法陣だ。教えてもらいたいが、彼が教えるのはもしものときだけだ。
「リアムもS級魔物を冒険者ギルドに売ってくれれば良かったのに」
「ああ、ここのS級魔物は不味いからいらないって。砦に来るS級魔物は砦の守護獣がすべて食べてしまうから。いや、前回の襲来時は牙と角を冒険者ギルドに納品していましたね?」
「そういえば、そんな記録があったね。国から褒賞金が出たんじゃない?この国のS級冒険者は王都から出られないから助けを寄越すこともない」
「国にも冒険者ギルドにも報告書を上げましたが、褒賞金は来てませんね。というか、昔からこの国はお金を一切出してませんよ」
だから、歴代の当主や母上や俺が苦労しているのである。
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