19 / 27
19
しおりを挟むキアトの言葉に、ひっそりと存在感を限界まで薄くしていたジェームズは、小さく二人に向かって声を掛ける。
「──キアト様。流石に明日捜索に向かわれるのはお止め下さいね。しっかりお休み頂き、体調が回復なさってからにして下さい」
ジェームズの声が聞こえた事で、二人はこの部屋にジェームズもいたのだった、と思い出すと勢い良く体を離した。
他の人間も室内に居たにも関わらず、人目もはばからず抱き締め合ってしまった事に今更ながら羞恥心が湧き上がる。
二人は真っ赤になりながら、ぎこちなくソファに座り直すとそわそわとしながら会話を続けた。
「そ、そうだな……。ジェームズの言う通り、その、体調が回復してから、兄上の捜索に戻る……」
「そ、そうですわね……!我が伯爵家も捜索をお手伝いさせて頂きますので、ハビリオン家の者が捜索している間、キアト様はしっかりお体を労わって下さい……っ」
「ハビリオン伯爵家が……?」
ルーシェの言葉に、キアトはきょとんと瞳を瞬かせると不思議そうに声を出す。
そこでルーシェは、自分の家が捜索に協力する事をまだキアトに伝えていなかった事を思い出し、慌ててキアトに説明をする。
「そ、そうでした……!まだキアト様にお伝えしておりませんでした……っ」
「──ハビリオン嬢がお話した件はまことですよ、キアト様」
あの時、ジェームズがハビリオン家に向かった際に、ルーシェの父親が協力を申し出てくれたのだ。
その時の様子を、ジェームズがキアトに報告すると、初耳だったキアトは驚き、そしてルーシェの父親に深く感謝をした。
「──正直、我々だけの捜索では手が足りないと思っていた所だったんだ……ハビリオン伯爵の申し出、感謝する。ありがとう、ルーシェ」
「ふふ、とんでもございません、キアト様。キアト様のお兄様ですもの。ハビリオン伯爵家に取っても、将来ご家族になる方ですからご協力させて頂くのは当然です」
ルーシェの言葉にキアトは感銘を受けたように瞳を潤ませ、ふるふると体を震わせるとルーシェに何度も何度も「ありがとう」とお礼を告げた。
それからルーシェは、キアトの看病の為にフェルマン伯爵邸に泊まると言う事になった。
婚約を結んでいるとは言え、結婚前に相手の邸に泊まるのは流石に外聞が悪い、とキアトが真っ青になってルーシェを何とか帰そうと説得したが、ルーシェはハビリオン伯爵邸に使いをやり、自分の父親から無理矢理許可をもぎ取り、自分の身の回りの世話をしてくれる使用人を何人かフェルマン伯爵邸に来るように手配してしまった。
「……ルーシェ」
「何ですか、キアト様?お父様からもしっかりと許可を頂きましたし、キアト様と二人きりになる事はございませんよ?キアト様のお部屋に入るのも、看病が目的です」
「それは、そうなんだが……」
本当にこれでいいのだろうか。
キアトは、自室でベッドに横になりながらそう考える。
ルーシェの勢いに押され、そのまま自室に招いてしまったが、いくらジェームズと、ルーシェの使用人ナタリーが共に同室してくれているとは言え、本当にこれで良かったのかと自問自答してしまう。
結婚前の自分達が、相手の邸に看病が目的とは言え泊まるなど、冷静になった今考え直したら良くない事だ。
お互い、そんなつもりは一切無くとも何処から情報が漏れるか分からないのだ。
気付いたら社交界で噂が出回り、ルーシェが下世話な噂の的になってしまったら、と考えるとキアトはやはり今からでもルーシェを邸に帰した方がいい、と考えベッドから起き上がろうとした。
「キアト様、無理は禁物です。しっかり休んで下さいね」
だが、キアトの動きにいち早く反応したルーシェがキアトの側まで素早く近寄ると、キアトの両肩を押してベッドに逆戻りさせてしまう。
「──ルーシェ、俺は君が心配なんだ。もし心無い言葉で今後君が傷付けられたら、と思うと嫌なんだ」
「婚約者様の看病をして、何故心無い言葉を言われなければならないのでしょう?」
「それは……っ、分かるだろう、君にも……!社交界は下世話な噂話が大好きだろう?そんな噂の的にされて、ルーシェを傷付けたくないんだ」
キアトの言葉に一瞬きょとん、と瞳を瞬かせるとその後直ぐににっこりと笑顔を浮かべて見せる。
「──あら、万が一そんなお話を私にして来る方がいらしたら、看病で何故そのような事を想像するのかと、逆にはしたない、と言ってやりますから大丈夫ですよ」
応援ありがとうございます!
5
お気に入りに追加
1,502
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる