令和百物語 ~妖怪小話~

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肆拾弐 死神

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「死神様。本日も、よろしくお願いいたします」
 
「構わん。これが私の仕事だ」
 
 死神の目の前には、ロープで縛られた二人の人間が座っている。
 彼ら二人とも、殺人の容疑がかけられている。
 死神の恐ろしい姿を見て震えあがり、二人は必死に無実を泣き叫ぶ。
 
「死神様! 私は無実です! 人など殺していません!」
 
「私もです死神様!」
 
「静かにしろ!」
 
 看守の一声で、二人は押し黙る。
 助けを求めるような表情で、死神を見る。
 死神は、興味深そうに二人の人間の心臓部分を――心を見る。
 
 死神には見える。
 その人間の心の汚れが。
 曰く、人間の心は、罪を重ねれば重ねるほど、黒く汚れていくらしい。
 
「ふうむ」
 
 死神は、ぎょよぎょろと二人の人間を眺めた後、一人の人間を指差す。
 
「こいつはもらっていく。汚い」
 
「し、死神様あああ!?」
 
 死神は、自分が指差した人間に近づき、その左胸に手を伸ばす。
 死神の手は、人間の皮膚も骨もすり抜けて、心にたどり着く。
 優しく心を掴み、そっと抜き取る。
 心は壊れやすくデリケート。
 最期の瞬間まで、優しく扱うのが死神の礼儀だ。
 
 心を抜き取られた人間は、その瞬間意識を失い、心臓も脈も動きを止める。
 さっきまで生きていたのが嘘のように、人形のようにごとりと倒れた。
 
「死神様、ありがとうございました」
 
「うむ」
 
 頭を下げる看守に見送られ、仕事を終えた死神は、その場を立ち去った。
 残された人間は、死神によって死刑をする必要はなしと判断されたため、この後の裁判で死刑以外の刑で終わるだろう。
 
 死神の裁きは、冤罪の回避と、人間が人間を殺すという抵抗感を排除し、速やかな死刑の判決と執行を可能にした。
 これによって、日本中の牢に捕らわれる死刑囚の数は0となった。
 
 人間は、死刑の判断を下す、という恐怖から解放されたのだ。
 
 
 
「久々の綺麗な心……。美味い……」
 
 もっともこれは、死神が常に正しいことを言い続けている、という前提ありきではあるが、
 そのことを口にする人間は、誰もいない。
 口にした瞬間に、死神がやってくるから。
 
 
 
 死神は、常に正しい。
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