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愛は変態を助長させる

24:ぼくのもの

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 僕が真翔さんにお弁当を作った翌日、
仕事帰りに真翔さんがタッパを持って
訪ねて来てくれた。

今日は平日だったし、
真翔さんとは昨日
会ったばかりだったから
またすぐに会えてたのが嬉しくて
僕はすぐに真翔さんにアパートに入ってもらう。

コタツに座ってもらい、
すぐにお茶を淹れると、
真翔さんは先輩さんが
お弁当をそれはそれは
美味しそうに食べたと教えてくれた。

良かった。
朝から張り切った甲斐があった。

真翔さんは

「俺が嫉妬するぐらい
先輩は美味しそうに食べてたよ」

なんて言うから
真翔さんが先輩さんと
会話が出来なかったとお弁当に
嫉妬したのかと思ったら、
僕が作ったお弁当を褒める先輩に
嫉妬したのだと言う。

「俺も沢山食べたかったのに、
食べれなかった」

あんなに作ったのに、
足りなかったのだろうか。

そう思ったが

「先輩は美味しすぎるっって
おかずが入ったタッパを
独り占めして俺に渡してくれなかったんだ」

なんて言う。

喜んでくれたようで嬉しくなったけど
真翔さんはお腹が空いて
大変だったのでは?と思った。

でもよく聞くと、
真翔さんは、おにぎりを
沢山食べたから大丈夫だったと言う。

良かった。

「ほんとは今日も
悠子ちゃんのところに
泊まりたいけど
明日は早朝から会議なんだ」

真翔さんは残念そうに言う。

「でも。
今の案件が落ち着いたら
連休が取れそうなんだ。

先輩が……いやだけど」

「え?」

「いや、そうじゃなくて、
先輩が、ダブルデートしようと
誘ってくれててさ……いやだけど」

真翔さんの言葉の最後が
急に小さくなって聞こえ辛い。

「真翔さん?」

もう一度、と思うと、
真翔さんは真剣な顔で僕を見た。

「先輩がおススメのシティホテルの
予約をしてくれるって言うんだ。

先輩の彼女も一緒だし、
女性同士でエステにも行けるし、
プールだってあるし、
一日のんびり遊べる場所らしい。

い、い、一緒に行かないか?」

ものすごく楽しそう!

僕は嬉しくなった。

先輩さんの彼女さんが
どんな人かわからないけれど、
僕には友達がいない。

いたとしても
店長の恋人のOLさんぐらい。

もしかしたら彼女さんと
友だちになれるかな?

女友達って、
僕にはよくわからないけれど
とても良いものな気がする。

漫画を見ていると
女友達って励まし合ったり、
恋の話をしたり、
心の中を打ち明けて
相談したりするんだ。

凄く素敵だと思う。

だから僕は、
よろこんで!って答えた。

楽しみで仕方がない。

「僕、彼女さんと
友だちになれるでしょうか」

わくわくして真翔さんに
聞くと、真翔さんは
ビックリしたような顔をする。

「……だよな。
悠子ちゃんが気にするのは
そこだよな」

そこ、とは?

僕が首を傾げると、
真翔さんは何でもない、と首を振る。

「先輩が付き合うぐらいだから
妙な女性ではないと思うけど。

きっと悠子ちゃんとは
全く違うタイプの女性だとは思う」

真翔さんは考える素振りを
しながらそう言った。

「たとえば……、
お化粧が派手で、
短いスカートをはいていて、
ハイヒールを履いてる……みたいな?」

スタイリッシュ女子だ!

そう言う人、聞いたことがる。
僕の周囲にはいなかったけれど。

凄いな。
そんな人、本当にいるんだ。

「あ、あくまでも想像だけど。
先輩はなんというか……
派手な……いや、遊び慣れてる……
後腐れのない……いやいや」

真翔さんはブツブツ言いながら
何度も首を振った。

「と、とにかく、
先輩の彼女はどんな女性か
わからないけれど
無理に仲良くする必要はないし
先輩とも仲良くしなくてもいい」

真翔さんはきっぱりと
そう言って僕を見る。

「悠子ちゃんは、
俺だけを見てて?」

真剣にそんなことを言われて
僕は笑ってしまった。

だって僕の世界はもう
真翔さん一色なのに。

だから僕は笑って言う。

「真翔さんしか見てませんよ?」

僕が言うと、
腕を引かれて抱きしめられた。

大きな胸に顔がうずまる。

真翔さんの匂いに
僕は体の力が抜けるのを感じた。

僕の大好きな匂い。

真翔さんは安心できる
たった一つの僕の居場所だ。

「旅行も楽しみだけど、
今度は俺のためだけに
お弁当を作って?
一人分だけ。
いい?」

真翔さんは僕を抱きしめながら
そんなことを言う。

「いいですよ。
でも真翔の分しかなかったら
先輩さんが嫌がりませんか?」

その言葉に返事はない。
代わりに

「悠子ちゃんの手料理を
俺以外のヤツが食べるのが嫌だ」

と真翔さんがふてくされたように言う。

僕は嬉しくて。
真翔さんにぎゅーっとしがみつく。

真翔さんは、僕だけを大事に思ってくれる。

僕だけを愛してくれて、
僕だけを求めてくれる。

僕はずっと<愛>が怖かった。

幼いころに母の恋人に
性的に乱暴されそうになった時からずっと、
僕は求められるのが怖かった。

母にだって愛されたことがない。
施設に入って、
悠子ちゃんと出会ってからも
僕は他人が怖くて仕方がなかった。

男性も女性も、僕を見たら
綺麗、素敵、と言いながら
値踏みをするような目で僕を見た。

僕はそれが気持ち悪くて
誰かに触られると吐き気がした。

そんな僕の唯一の支えが
悠子ちゃんだったのだ。

その悠子ちゃんがこの体を残して
僕の身代わりに異世界に行ってしまった。

僕は心細くて、怖くて、不安で。

そんな僕を支えてくれたのが
真翔さんだった。

真翔さんになら、
触れられるのも怖くないし
抱きしめられると安心する。

愛してるって言われるのも
求められるのも嬉しいし、
幸せな気持ちになる。

僕は女性の身体になって
戸惑うことも沢山あったけれど、
今は、真翔さんと結婚したいって
思うようになった。

真翔さんと家族になりたい。

僕はずっと家族が欲しかったから。
悠子ちゃんとは家族のつもりだったけど、
本当の家族ではなかったから。

出来たら、
真翔さんとの子どもも、欲しい。

この世界で。
一度、生きるのを諦めた
この世界で、僕はもう一度、
真翔さんと生きていきたい。

「悠子ちゃん」

真翔さんが僕の耳元で囁く。

「今度、指輪を買いに行こう」

僕が顔を上げると、
真翔さんは笑う。

「婚約指輪。
悠子ちゃんが俺のものだって
周囲に示せる指輪が欲しい」

そんなものなくても
僕は真翔さんのものなのに。

僕はそう思ったけれど、
真翔さんが嬉しそうに言うから
僕もはい、って返事をした。

だって婚約指輪ということは
真翔さんも、真翔さんが
僕のものだって示す指輪を
付けてくれるってことだから。

僕は嬉しくなって、
もう一度ぎゅーっと
真翔さんに抱きついた。

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