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愛は変態を助長させる

36:ちょっとオカシイ真翔さん

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 僕と真翔さんは
抱き合ってキスをして。

それからビールを飲んだ。

テレビは付けたけれど、
見たことのないタレントさんが
何やら話をする番組で
僕はそれを見ることなく
真翔さんとおしゃべりをする。

真翔さんはどこか浮かれていて、
結婚式はどこでしたい?とか
新居はまず悠子ちゃんのアパートで、とか。

テレビの見ずに僕に話しかけてくれた。

でも僕は自分が結婚するなど
思ったことも無かったし、
自分がウエディングドレスを着るなんて
当たり前だけど考えたこともない。

だから僕は首を傾げるばかりだ。

「じゃあ、今度、
式場とかドレスとか見に行こう」

真翔さんは嬉しそうに言う。

僕もそんな真翔さんの
笑顔が嬉しくて。

ふふって笑って
ビールを一口飲んだ。

少し、苦い。

でも冷たくて美味しい。

「あの、真翔さん?」

僕はにこにこ笑顔の真翔さんを横から見上げる。

真翔さんも、なに?
という感じで
首を傾げて僕を見た。

「あの、手が……」

下着も履いていない
僕の心もとないパジャマの
裾から真翔さんの指が
もぐりこんできた。

お尻が出ないようにバスタオルを少し下げて
体に巻いていたけれど。

真翔さんの指は
僕の膝や太ももを撫で、
バスタオルの下に
潜り込もうとしている。

「手?
あぁ、ごめん」

真翔さんは、軽く謝罪の
言葉を紡いだけれど、
指は僕の太ももをまだ撫でていた。

「指がね、勝手に動くんだ。
俺はダメだとは思ってるのに、
勝手にね」

……真翔さん
もしかして、酔ってるのだろうか。

いつも完璧で大人な真翔さんが
ちょっとおかしい。

「俺がユウのことを
好きすぎるからかなぁ」

僕は片手で腰を抱き寄せられ、
もう一つの手が
とうとう、太ももの
内側にまで伸びる。

「あ、の」

「俺に触られるのは、嫌?」

嫌なわけがない。
だから首を振るけれど。

でも、ここで?
真翔さんのお母さんも
くつろぐに違いないこの場所で
真翔さんは、まだ僕に
触れようとしているの?

僕のアパートでは、
どこで真翔さんに抱かれても
一緒だった。

だって、あの部屋には
僕しか住んでいないのだから。

でも、ここは真翔さんと
お母さんがいる。

このソファーには
お母さんだって
座るかもしれないのだ。

そんな場所で……

「ユウ」

焦る僕の名を呼び、
真翔さんの唇が重なる。

「ここじゃ、嫌?」

僕は素直に頷いた。

「そっか。
ソファーで絶対に
可愛い体を味わいたいと
思ってたんだけどな」

って残念そうに言うけれど。
それ、どういうこと?

ソファーで、って
意味あるの?

僕は混乱することしかできない。

「じゃあ、後で一緒に
俺の部屋に行こう?

今日は泊まっていくだろ?」

僕はその言葉に頷いた。

「迷惑でなければ
お願いします」

「迷惑なんかじゃないよ。
良かった。
タクシーで帰るとか
言うかと思った」

まさに思ってたけど。
真翔さんは本当に
僕のことをわかってくれている。

真翔さんの指は
僕の身体に名残惜しそうに
触れながら、すっと離れた。

「前に言ってた旅行なんだけど」

真翔さんは何もなかったように言う。

きっと真翔さんは
僕に触れるのは当たり前のことで
ドキドキしてるのは
僕だけなんだ。

僕はドキドキしてるんだけどな。

って拗ねた気分になって
真翔さんを見たら
また唇が重なった。

自然にされるから
僕は受け止めることしかできない。

拒否をするつもりはないけれど
僕も、真翔さんに
自然にキスしてみたい。

大人の真翔さんには
叶わないけれど、
僕も真翔さんみたいになりたいんだ。

「どうしたの?」

「……くやしくて」

僕はつい言ってしまった。

「くやしい?
何が?」

「僕ばかり真翔さんが
大好きでドキドキしてるから」

子どもみたいだと
思いながら唇を尖らせると、
真翔さんは目を見開いて……

顔を真っ赤にして笑った。

それは僕が見たことのない、
嬉しくて仕方が無いと言うような
子どものような笑顔だった。

「嬉しいな。
もう嬉しすぎて
夢じゃないかと思うよ」

真翔さんは
恥ずかしくなったのか
少しだけ顔をそむけて
そんなことを言う。

僕は持っていた缶ビールを
零れないようにそっとテーブルに置く。

それから、真翔さんに
自分から抱きついた。

「僕もこうして
真翔さんと朝までずっと
一緒なんて、夢見たいです」

そう、今日はこのままお泊りだ。
しかも、真翔さんの家で。

嬉しいと僕が言うと、
真翔さんは僕を抱きしめてくれる。

「次の旅行も楽しみだね」

真翔さんが僕の耳元で言った。

「先輩がさ、
次の休みに旅行に
一緒に行く彼女を紹介したいから
付き合って欲しいって言ってるんだ」

「そうなんですね。
わかりました」

先輩さんの彼女さんか。
どんな人だろう。

「一緒に行くと言っても
行きかえりが一緒なだけで
ホテルに着いたら
別行動でもいいわけだし。

無理に仲良くならなくても
大丈夫だから」

真翔さんは僕の背中を
撫でながら言う。

僕は他人と喋るのが苦手だから
そう言って貰えると助かる。

きっと僕を気遣っての
言葉なんだろうけど。

「そうだ。
どんなホテルか見て見る?」

真翔さんはそう言って
立ち上がると、テレビに
ノートパソコンを繋ぎ始めた。

え?
そんなことできるの?

って思っていたら、
テレビの画面が
ノートパソコンと同じ画面になって
真翔さんがノートパソコンを
操作すると、同じ画面が
テレビに映る。

すごい!

真翔さんは
次の旅行で行くホテルの
ホームページを僕に見せてくれた。

そのホテルは高級ホテルっぽくて
ラウンジとかプールとか
エステとかあって、
とにかくキラキラしている。

僕には全く
縁のないようなホテルだ。

宿泊費用も高そうだし
こんなところに泊まるのかと
僕は心配したけれど。

真翔さんの話では
先輩さんがこのホテルの
利用券を持っていて、
もう期限が切れてしまうらしい。

その利用券で4人まで利用できるから
僕と真翔さんも一緒に、と
言う話になったらしく、
このホテルは僕たちは
無料で宿泊できるらしい。

それも凄い!

このホテルの建物は
かなり広くて、
ちょっと高級な
ショッピングセンターも
兼ねているみたいだった。

でも僕は買い物も、
プールもエステも興味はない。

というか、
お金の心配しかできなくて
ホテルで遊ぶなんて
できそうにない。

なので

「何かホテルでやりたいことある?」

って真翔さんに聞かれて僕はつい

「ずっと部屋に引きこもっていたいです」

って答えてしまった。

しまった!って思ったけれど、

何故か真翔さんも
物凄い笑顔で「俺もだよ」
ってまたキスをされる。

なんでそんなに嬉しそうなのか
よくわからなかったけれど。

こんな凄いホテルで
真翔さんと一緒に一日、
同じ部屋で過ごせるかと思うと

僕は別にお金を使って
ホテルで遊ばなくても
物凄く楽しい一日になりそうな気がした。

だから僕は

「楽しみです」

って笑って。

真翔さんをマネして、
自然な動作……は無理だったけれど
真翔さんの唇にキスをした。

ちょっとぎこちなくて、
しかもキスした場所は
唇の横に、なっちゃたけど。

でも真翔さんは嬉しそうで。

「早く俺の部屋に行こう」

なんて言いながら僕の髪を撫でた。

僕も、はい。って言うつもりだったけど
缶ビールの中身がまだ残ってたし、
もう少しホテルのホームページを
見たかったので

「もうちょっとだけ、
これを見てもいいですか?」

って言ったら、
真翔さんはとても
残念そうな顔をした。

そんなに眠たかったのだろうか。

「先に寝て貰ってもいいですよ」

と言ったら、

「ユウが一緒じゃないと意味がない」と
言われてしまう。

また僕は意味がわからなくなってしまったけれど。

ビールを飲みながら
真翔さんとあれこれいいながら
旅行に想いを馳せるのは
とても楽しかった。

旅行、本当に楽しみだ。


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