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愛は変態を助長させる

40:wデートをしよう

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 翌日は、昨日炊いたご飯と
お味噌汁と、調味料を浸けて
寝かしていたお肉を少しだけ焼いて
朝ご飯にした。

真翔さんは「美味しい」って
何度も言っておかわりまでしてくれる。

お母さんがいつ帰ってくるか
わからないから、
僕は荷物をまとめて、
お母さんに冷蔵庫のお肉は
焼いて食べてくださいって
メモを残すことにした。

先輩さんとの待ち合わせは
午後かららしいので、
僕たちは一度、アパートに戻って
荷物を置いてから先輩さんとの
待ち合わせに出かけることにした。

僕が人混みが苦手だから
ぎりぎりまで家でのんびり
すればいいと真翔さんは思ってくれているみたい。

僕もその心づかいは嬉しい。

僕は真翔さんの家で
のんびりすごしてから、
お昼前に僕のアパートに戻った。

もちろん、真翔さんも一緒だ。

待ち合わせの時間は、

遅めのランチを食べるような
時間だったから、
僕たちはお昼ご飯は食べなかった。

その代わり、アパートで
小さなコタツにひっついて座って。

何度も唇を重ねて、
昨日の余韻に浸った。

もし真翔さんと結婚したら
ずっとあんな風に
過ごせるのだろうか。

そう思うと、
真翔さんと早く結婚したくなる。

あれほど真翔さんとの
結婚に躊躇していたというのに
僕も現金なものだ。

僕は隣に座る真翔さんの
シャツを掴んで、
「大好きです」って
呟いた。

それは呼吸をするように
口から飛び出た言葉だけれど。

真翔さんも「俺も好きだよ」って
返してくれて。

あぁ、幸せだ、って思った。

「あー、幸せだ。
なのに、出かけなくては
ならないなんて、
何の嫌がらせだ?」

って真翔さんが言う。

僕は時計を見た。

そろそろ出かけなければならない時間だ。

僕は笑って
「そろそろ出ましょうか」と
声を掛ける。

真翔さんも嫌そうな顔をしたけれど
ちゃんと立ち上がってくれた。

先輩さんとは
電車で数駅先の場所で
待ち合わせらしい。

「電車、大丈夫?」

僕はそう聞かれて、
はい、って頷く。

電車もあまり乗ったことないけれど
真翔さんと一緒なら大丈夫だと思う。

僕は真翔さんと手を繋いで
駅まで行くと、
やっぱり切符の買い方が
わからなくて
真翔さんに頼ってしまった。

僕も結婚するなら、
ちゃんと世間のことを
知らないとダメだなって反省する。

電車の中でも僕は
真翔さんにベッタリだ。

だって知らない人が
僕をちらちら見たりするし、
そんなに混んでもいないのに、
男の人が僕に近づいてきたりする。

真翔さんが僕を庇うように
電車のドアの前に立たせてくれて
後ろから抱きしめてくれたけど、
僕は見知らぬ人からの視線や
行動に心臓がバクバクだった。

こんな状態で
先輩さんの彼女に会って
大丈夫だろうか。

ちゃんと、話せるかな。

僕は不安になってきて、
電車を降りても真翔さんの
腕にしがみつくばかりだ。

電車を降りたら物凄い人で
この駅がとても大きくて
駅ビルやショッピングモールと
一帯になっていることに気が付く。

僕は近所の駅ぐらいしか
買い物に出ないから
人の多さや、キラキラした
店の多さにめまいがしそうだ。

真翔さんの腕にしがみついて
必死で歩いて行くと、
大きな時計がある広場みたいな
場所まで来た。

広場と言っても、
駅構内……?
ビルの中……?
よくわからないけれど、
室内だ。

だって、天井があるもん。

「柊、こっち」

先輩さんの声がして
僕がそちらを見ると
少し先に先輩さんと
綺麗な……物凄く綺麗な
女性が立っていた。

僕たちが近づくと

「急に悪いな」
って先輩さんは言う。

けれど。

僕は先輩さんの言葉も聞かず
呆然と綺麗な女性を見てしまった。

人間?
って疑いたくなるぐらい
美人な女性だった。

肌は白くて、長い髪は
ストレートだったけれど、
艶やかな黒髪、というのは
こういう人のためにあるんだって思った。

僕は白い服は一枚も持ってなくて、
悠子ちゃんもそうだと思うのだけれど、
白い服はすぐに汚れが目立って
着れなくなってしまう。

だから白い服は絶対に避けてたし、
自分は着ない色だと思っていた。

だけど、目の前の女性は
白いスーツを着ていて、
真赤なヒールの靴を履いていた。

爪も赤くて、持っている鞄は
黒くて小さくて、
何も入らないんじゃ?
って思うような鞄で。

少し釣り目で、きつい印象に
見えるけれど、それすらも
神々しいというか……

あの異世界の女神さんより
ずっと、ずっと女神みたいな女性だった。

「悠子ちゃん?」

僕が呆然と女性を見ていたからか
真翔さんが声を掛けてくる。

先輩さんも僕を見ていた。

でも、僕は何て言っていいか
よくわからなくて。

「女神……さま?」

って聞いてしまった。

そしたら、先輩さんが
噴き出すように笑って。

「まさか、こんな女神が
いるわけないよ」

って言う。

女神さんは、きつい目で
先輩さんをにらんでから
僕を見た。

「嬉しいわ。
そんな風に言われたのは
初めてよ」

ってにっこり笑う。

僕は、かーって顔が赤くなった。

笑顔も凄い、迫力があった。

「こ、こんなに綺麗な人、
に、人間じゃなくて、
女神様です」

って僕は思わず
しがみついていた真翔さんの
腕にさらにしがみついた。

僕も一生けん命に
お洒落してきたつもりだったけれど、
お化粧の仕方もいまだに
よくわからないし、

今日着ている服は
真翔さんのお母さんと一緒に
買った水色のワンピースなので
可愛いと思ったけれど、
目の前の女性の前に立ったら
大人と幼稚園児みたいに違う。

僕は急に恥ずかしくなって
真翔さんの腕に
顔をすりすり擦りつけた。

どうしよう。
話ができる気がしない。

そんな僕を真翔さんは見て

「すみません。
僕の彼女は人見知りが激しいので」

と言ってくれた。

僕も心の中で
スミマセン、すみません、と
ひたすら謝りながら
ちらりと女性を見る。

女性は僕の視線に気が付くと
またにっこりと笑ってくれた。

僕はまた恥ずかしくなってしまって。

会話どころか、
目を会わせることも
できないかもしれない、と
心の中で思った。




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