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愛は変態を助長させる

43:紅茶1杯1500円

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 店を出てすぐに
僕たちはカフェに向かう。

真翔さんも先輩さんも
店に入るとすぐにわかる場所に座って
コーヒーを飲んでいた。

綾子さんは「一休みよ」と
先輩さんの隣に座る。

僕も真翔さんの隣に座った。

「お腹空いたわね。
あなたたち、お昼ごはんは?」

と綾子さんが僕と真翔さんを見る。

「少し食べてきました」

真翔さんが応えると
「じゃあ、スイーツは別腹よね」
と言う。

「悠子、どれがいい?」

綾子さんが僕にメニューを見せてくるけど
僕はもう胸がいっぱいだ。

だって紅茶が1杯1500円で、
ケーキだって、1カット800円とか。

僕、水しか飲めそうにない。

「な、な、ん、でも、水、とか」

僕が震える声で言うと
「甘いのものは嫌いかしら?」と
綾子さんは言う。

「いえ、好き、です。
チョコレートとか……」

「そう。ミルクは?」

「……好きです」

「そう。じゃあ、いいわ」

いいわ?
何が?

よくわからない。

僕が水を飲むのが
それでいい、ってことなのか。

そう思っていると
綾子さんがウエイターを呼び
何やら注文する。

すると。
すぐに僕の前に
ミルクティーと大きな
チョコレートケーキがやってきた。

「食べなさい。
私が可愛がっている証よ」

……これもまた、
意味が分からない。

困って先輩さんを見たけれど、
やはり先輩さんは
僕を拝むばかりだ。

「あの、いただきます。
ありがとうございます」

僕は素直に食べることにした。

もう、どうとでもなれ!だ。

僕はフォークを持つ。

見るからに大きくて
美味しそうなチョコレートケーキ。

そっと端のクリームを掬って
口に入れると、
濃厚なチョコレートの
味が口の中に広がった。

思わず目を見開いてしまう。

悠子ちゃん!
すごいケーキだよ!

僕は思わず心の中で叫んだ。

僕もだけれど、
悠子ちゃんもきっと
ぺこりんちゃんのケーキしか
食べたことが無かっただろうから。

食べさせてあげたかったな、って
つい思ってしまう。

今度はスポンジを
フォークで切って口に入れる。

凄い!
スポンジも柔らかいし、
スポンジとスポンジの間に
チョコクリームと、
あと別の何かが入ってる!

「美味しそうね」

って綾子さんに言われて
僕は「はい!」って返事をする。

綾子さんま満足そうにうなずいて
自分の前に置かれたコーヒーと
僕と同じケーキを食べる。

「真翔さん、真翔さん」

僕はそっと隣に座る真翔さんの
シャツを引っ張った。

「物凄く美味しいです。
チョコクリームが
沢山入ってて、
食べたことない何かが入ってるんです」

小声で真翔さんに訴えると
真翔さんは首を傾げる。

僕はケーキをフォークに
少し乗せて
「食べてみて下さい」って
真翔さんに差し出した。

真翔さんは驚いた様子だったけど
僕の手からフォークを取って
一口食べてくれた。

「薄い……ラングドシャみたいなのが
入ってるのかな?」

ラングドシャ?
なにそれ?

僕がきょとんとすると、
綾子さんが笑った。

「ほんと、可愛いわね」

そう言われて、
何て返せばいいのかわからない。

「そうだわ。
スマホを出しなさい。
連絡先を交換するわよ」

「え?」

「何かあったら
私を頼るといいわ。

こんなオトウトよりも
私の方が頼りになるわよ」

僕はとまどったけれど
誰も綾子さんの行動を
止めようとはしなかった。

結局僕は綾子さんと
電話番号と、通信アプリの
交換をしてしまう。

「次の旅行では
私と同じ部屋に泊りましょうか」

綾子さんの言葉に
さすがに真翔さんも
僕も「え」と声を出してしまった。

すると綾子さんはまた
コロコロと笑う。

「冗談よ。
さすがに恋人たちの間を
引き割いたりはしないわ」

そう言われて、ほっとする。

「でも、あのホテルは
エステも結構良いスタッフが
揃っているし、
リラクゼーションには
もってこいの場所なのよ。

私との時間もちゃんと
取りなさい。
いいわね?」

「は、はい」

エステ?
僕、そういうの無理そうだけど。

返事はしたものの
僕は戸惑う。

「あの、俺も彼女との
時間が大事なので」

真翔さんが僕を庇うように言ってくれた。

でも綾子さんは笑うだけだ。

「わかってるわよー。
ただオトウトがあなたたち二人に
悪戯しないか心配なのよね。

それで口を挟ませてもらったのよ」

先輩さんが悪戯?
僕も真翔さんも首を傾げる。

先輩さんは
「そんなことするわけがない」
と反論していたが、
綾子さんは、うそばっかり、
なんていう。

最初は喧嘩をしている二人に
焦ったけれど、
よく見ていると
仲の良いきょうだいが
じゃれあっているように
見えて来た。

半分だけど血は繋がってるし
この二人はいつも
こういう感じなのかもしれない。

僕はケーキを堪能しつつ、
ちょっとだけ真翔さんにも
食べさせてあげて。

目の前のきょうだいの
じゃれ合いを見ているうちに、
綾子さんに感じていた
苦手意識がどこかに
行ってしまうのを感じていた。


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