【完結・R18】「いらない子」が『エロの金字塔』世界で溺愛され世界を救う、そんな話

たたら

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獣人の国

224:絵本の謎

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 私とパパ先生はお酒を飲みながら
ずっとおしゃべりをしていた。

私の話だけでなく、
パパ先生の話も沢山聞いた。

ご家族を失った時の悲しみや、
施設の子どもたちへの想いも聞いた。

そうして夜も更けて、
程よく酔いも回ってきたころ、
ようやく私たちは眠りにつくことにした。

「パパ先生、絵本読んで」

ベットに入ると、私はさっそく言う。

パパ先生も私の隣に寝転がり、
ベットサイドにあった絵本を手に取った。

施設にいたころは遠慮して言えなかったけど、
今なら「早く読んで」なんて言えてしまう。

私とパパ先生は一緒に布団にもぐり、
一緒に絵本を見る。

ベットはどちらかと言えば狭かったけど、
ひっついて眠れるので、これはこれで嬉しかった。

子どもの頃に戻ったみたい。

まだ施設で生活する前は、
私はこうしてパパ先生の隣で眠っていた。

パパ先生の奥さんも一緒に
寝てくれたことがあったけど、
私はパパ先生が大好きだったから
いつもパパ先生と寝たがった。

でも、そういえばお嫁さんとは
あまり一緒にいたことがない。

それにパパ先生の息子さんにも。

私が一緒に住んでいた時から
二人にはお子さんがいなかったから
なにかデリケートな問題が
あったのかもしれない。

だから私は施設で暮らすようになったのかも。

子どものときには思いもしなかったことが
次々に浮かんでくる。

私はパパ先生に捨てられたと思ってたけど、
本当は違うのかな。

守ってくれていたのかな?

そう思うのは都合が良い?
私がそう思いたいだけ?

心地よい声が聞こえてくる。
眠気を誘う、パパ先生の声。

絵本はクライマックスだ。

「こうして妖精と街の人たちは
仲良く暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし」

その声で、私はいつも眠りに落ちた。

「悠子ちゃんは、この絵本が大好きだったね」

「妖精と女の子が仲良くなるのが好きだったから」

「悠子ちゃんは小さい時から
誰かがひとりぼっちにならないように
いつも世話をやいてくれていたね」

パパ先生は私の頭を撫でる。

「悠子ちゃんの優しさに、
何時も助かっていたよ。
ありがとう」

肌を重ねるよりも、ずっと。
大きな嬉しさと、愛しさと。
震えるような充足感に
私はきゅっとパパ先生のシャツを握る。

するとパパ先生は私をさらに抱き寄た。

「この先はね。
これから生まれるんだ」

パパ先生は、絵本をめくる。

私が見た未完の話……女の子が
妖精の国を旅していく話だ。

「生まれる?
新しいお話があるの?」

「そう。
悠子ちゃんが創っていくんだ」

首を傾げると、
パパ先生は何度も私の頭を撫でた。

「この絵本はね。
僕が女神に頼んで持って来たんだ。
悠子ちゃんが大好きな絵本だったから。

でも、見てごらん。
この絵の女の子は悠子ちゃん……いや、
ユウの姿だろう?

妖精はこの世界の人たちのこと。
そして女の子は君だ。

ユウはこの世界の住人と
仲良くなることができた。

そして次は女の子が
妖精の国をもっと深く知り、
成長していく話になる。

妖精の国というのは、この世界。
成長していくのは君だよ」

そんなことって、あるのだろうか。
いや、あるのか。
だって女神ちゃんの創った世界だもの。

「もし君がこれから先旅に出て
僕と会えなくなっても。

僕はこの絵本を読んで、
悠子ちゃんを思い描くよ。

悠子ちゃんの成長を見て、
喜び、涙し、頑張れと励ますだろう」

「……うん」

一生分ぐらいは泣いたはずなのに、
また涙が出てくる。

嬉しくても、涙は止まらないものなんだ。

「大好きだよ、僕の可愛いお姫様。
僕の可愛い娘。

これ以上君が傷付かないように
君をここに閉じ込め、
守りたいと思うぐらいには、
僕は君を心配しているし、
心を砕いているんだ」

「うん」

言葉が涙で上手く言えなくて、
私はうなずくばかりだ。

でも、ぎゅっとパパ先生のシャツを
握った手を優しく大きな手で包まれる。

「悠子ちゃんにしてあげたいことは
沢山あったんだ。

膝に乗せて絵本を読んであげたかったし、
お昼寝の時間は一緒に横になりたかった。

ぬいぐるみや人形で遊んであげたかった。

ごめんよ。
今更だけど。

僕は君が我慢をして、大好きな人形も、
絵本も、おもちゃも、施設の妹たちに
貸してあげてるのを知っていた。

でも僕は新しいものを
施設で購入するお金は無くて、
それを知らないふりをした。

施設の為ではなく、君のために僕は
ぬいぐるみを用意しても良かったのに」

私は首を振る。
そんなことをしたら、施設で私の存在は
悪い意味で浮いてしまっただろう。

私が本当にパパ先生の子どもだったらともかく
施設長に特別可愛がられているなんて、
子どもたちからの嫉妬だけでなく、
職員さんたちも扱いに困ったに違いない。

だからいい。
欲しい言葉を、沢山もらった。

私は私が不幸だと思っていて、
愛されない私は、どうせこんな人生なのだと
心のどこかで思っていたけれど。

でも、違った。

いろんな要因が重なって。
私はこんなふうに育ってしまったけれど。

でもそれはきっとタイミングが悪かっただけだ。

パパ先生の息子夫婦の問題や、
ご家族の事故や。

もしかしたら、私を生んだ親が
私を捨てたことさえも、
タイミングが悪かっただけなのかもしれない。

何かが少し違っていたら、
私は違う人生を歩んでいただろう。

なら、と思う。

悔んだり、後悔するのではなく、
これからを、より楽しく幸せに
生きる努力をするべきだと。

タイミングが悪かっただけなのだから、
これからは、そのタイミングが
悪くても大丈夫だと言えるように生きればいい。

たとえば……

「パパ……先生」

「なんだい?」

何があっても後悔しないように。

誰かと繋がりたいと思うのなら、
それを声にだして、勇気を出して。

どんな結果でも、
自分が頑張ったのだから
大丈夫だと受け止められるように。

「私、パパ先生の子どもになりたいの」

言いたかったこと。
ずっと、ずっと。

施設で生活するようになって、
パパ先生と話が出来なくなって。

でもパパ先生を私はずっと求めていて。

でも、それは言えなかった。
迷惑だって思ってたから。

言ったら嫌がらて、
今以上、拒否されるのが怖かったから。

「嬉しいよ」

パパ先生は嬉しそうに笑った。

「僕も悠子ちゃんをずっと
僕の娘だって自慢したかったんだ」

嘘でもいい、と思った。
それぐらい嬉しかった。

でも嘘じゃないことは、
パパ先生の纏う<魔素>でわかる。

だから。
私はまたパパ先生にしがみついて。
わんわん泣いて。

そして私はパパ先生のぬくもりを
感じながら、安心して眠ってしまった。

ここは私の……一番欲しかった、場所だ。




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