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3話 清拭

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「ははっ、くっだらねー」

 そんな事を言いながらも、直哉はお笑い番組を見ながら笑い声を上げている。

「あはははー」

 僕も直哉のあぐらの上に頭を乗せて一緒に笑ってる。

 いやね、はじめは普通に2人並んで座ってたんだよ?

 ただ、後ろ手に縛られたまま座ってるのって意外とバランス取るのが難しくてね。

 ちょっとバランス崩して直哉の方に倒れ込んじゃって以来、こんな感じです。

 はじめは直哉も驚いていたんだけど、バランス崩したことを謝ったら、『気にすんな』って言ってそれからずっとこう。

 寝っ転がっている方が楽なのは確かだし、嫌がっている様子はないからこのままでいるけど……。

 なんなんだろね?これ。

 膝枕してもらいながら一緒にテレビ見てる。

 僕が女だったら、カップルだよね。

 それも『バ』がつく方の。

 いやまあ、僕の手枷足枷がすべてを台無しにしているけどさ。

「直哉、水飲みたい」

 普通ならどんだけ甘えてんだって発言だけど、手が使えないので勘弁してほしい。

「ああ。
 ……っと、空になってるからちょっと取ってくるな」

 そう言うと直哉は、優しく僕の頭を膝から下ろして立ち上がる。

「僕紅茶で」

「贅沢言ってんじゃねーよ」

 口は悪いけど、ちょっと楽しそうに言いながら納戸を出て行く直哉。

 なんだろう、すごい機嫌いいなぁ。

 僕には若者の気持ちが分かりません……。



 帰ってきた直哉が持ってきてくれたのは、本当に紅茶のペットボトルだった。

 そういや冷蔵庫に買い置きがあった気がする。

 しかも、一緒にお菓子まで持ってきてくれた。

「ほら、ちょっと頭上げろ」

 さっきまでと同じ場所に座った直哉がそんな事をいう。

「え?」

「ん?」

「あ、いや、なんでもない」

 言われたとおりに頭をあげて、また直哉の膝の上に頭を置く。

 まさかまたこの姿勢になるとは。

 しかも、直哉の方から誘われて。

「ほら、望み通り紅茶持ってきてやったぞ」

 そう言って、紅茶のペットボトルを僕の口に近づけてくる直哉。

 今度はストローが刺さっていたのでそれを咥えて飲む。

「ほれ、口開けろ」

 言われたとおりに口を開けると、クッキーを放り込まれた。

 しかも、食べやすいようにひとくちサイズに割ってある。

 なんか至れり尽くせりだ。

「あれ?そういえば直哉のペットボトルは?」

 1本しか持ってきてなかったみたいだけど、忘れたのかな?

「ああ、俺もこれ飲むから」

 そう言って、直哉もストローを使って紅茶をひとくち飲む。

 そういえば、前の水のペットボトルも回し飲み状態だったっけ。

「ほれ」

 ついさっき自分が飲んだストローを僕に差し出してくる直哉。

 スプーンの時に躊躇してたのは気の所為だったのかな?

 クッキー食べて少し口の中が乾いていたので差し出されるままにひとくち飲む。

 そんな僕を直哉は少し嬉しそうに見てた。



 ――――――



 夕食――カレーの残りだった――を食べさせてもらったあと、我慢できずにまたトイレのお世話をしてもらってしまった。

 おしっこだけじゃなくって、今度はおっきい方もだ。

 直哉は大用の簡易トイレまで用意していたけど、結局手を縛られたままじゃどうすることも出来ずに直哉に手伝ってもらった。

 嫌な顔ひとつしなかったけど、恥ずかしくて泣きそうだった。

 今、直哉はお風呂に入りに行っている。

 トイレ騒動からはだいぶ時間が経っているので、汚いからお風呂入りたかったとかじゃないと思う。

 ……思いたい。

 しかし、監禁時間が長くなればなるほど直哉がなにをしたいのか分からなくなってくる。

 僕の世話をするだけでも相当な労力だろうに。

 今日明日は週末だからいいけど、明後日はまだ学校も有るはずだ。

 休むつもりなのだろうか?

 期末テストはこの間終わったって言ってたし、もう二学期も終わり間近だから大きな問題はないんだろうけど……。

 本当、一刻も早く理由を聞き出してなんとかしないとなぁ。



 納戸の外から足音が聞こえる。

 長風呂気味の直哉にしてはずいぶん早かったな。

 納戸の扉が開く音がしてなんか見慣れないものを抱えた直哉が入ってくる。

 あれは……洗面器?

 うちに洗面器なんてなかったはずだけど、買ったのかな?

「ずいぶん早かったね」

「シャワーだけで済ませたからな」

 なるほど、早いわけだ。

 でも、この時期シャワーだけじゃなぁ。

「ちゃんと温まらないと風邪ひくよ」

「うっせ」

 僕の小言に直哉は乱暴に返事するけど、なんか機嫌は良さそうだ。

「俺がいない間ににーちゃんになんかあったら大変だろ」

 ……なるほど。

 素直に一緒に納戸にいるのも、寒いのに納戸の前で待機していたのもそれが理由か。

 そんなに心配するくらいなら監禁なんてしなければいいのに。

 本当にうちの可愛い弟はなにを考えているんだろうか?

「えっと、それは?」

「お湯」

 それだけ言って洗面器を置くと、直哉は納戸から出ていってしまう。

 ……うん、たしかにお湯だ。

 ちょっと洗面器を足で触ってみるけど、洗面器越しでも熱いくらいだから結構熱いお湯だな。

 こんなものなにに使うんだろう?

 加湿のためとかじゃないだろうし。

 そんな事を考えているうちに、直哉はすぐに帰ってきた。

 今度は僕の服とタオルを持ってきている。

 これは……。

 これからなにされるか分かった気がする。

「今からにーちゃんの身体も拭いてやるからな」

 やっぱりそれだよね。



「いやいやいや、いいってそんなのっ!」

 いくら弟と言っても体を拭いてもらうなんて恥ずかしい。

 ……いや、もうもっと恥ずかしいことされてる気がするけど、むしろ、だからこそこれ以上恥ずかしい思いはしたくない。

「これくらい慣れてるから大丈夫だってっ!」

「にーちゃん自身は慣れてるかもしんないけどさ、一緒にいると臭いんだって」

 必死で拒否していたけど、直哉の言葉を聞いて思考が止まる。

「え?マジで?」

「マジマジ、一緒にいると耐えられないくらい。
 これからも俺にここにいてほしいなら身体キレイにしてくれよ」

 ……マジかー。

 僕そんなに臭かったのか……。

 なんかさっきまで結構ベタベタくっついてたけど、直哉はずっと臭いって思ってたのか……。
 
 あまりのショックに抵抗する気も失せる。

「拭かせてくれるよな?」

「はい……」

 素直にうなずくことしか出来ない。

 そっかー……僕臭かったのかー……。

「……そんなに落ち込むなよ。
 臭いって言っても、あれだ、良い臭さだから。
 好きなやつは好きな臭さだから」

 落ち込んでる僕を心配してか、直哉はフォローを入れてくれるけど……。

 結局それって臭いってことだよね?

「はは……なんかごめん……」

 僕が臭いせいで気を使わせてごめん。

「あー、だからそんなに落ち込むなってば。
 うそだ……あ、いや、うん、家族以外は耐えられない臭さだから誰かに近づくときは気をつけろよ?」

「うん、極力近づかないようにする」

「ぴったりくっついたりしなきゃ大丈夫だからな。
 そのかわりぴったりくっつくとすごい臭いから家族以外にくっつくほど近寄ったりするんじゃねえぞ」

 ……臭いってそんな感じのものだったっけ?

 いや、自分の臭いは分からないってよく言うし、実際に嗅いだ直哉が言うんだから間違いないんだろう。

 気をつけよう。

 頷く僕を直哉は満足そうに見てる。
 
「よし。
 それじゃ、手縛ってんの取るから暴れんなよ?」

「え?」

 予想外のことを言われて思わず声が出た。

 でも、考えてみれば当然だ。

 後ろ手に縛られたままじゃ服脱げないもんな。

「えっと、それならいっその事お風呂入らせてくれれば……」

「ダメ」

 ダメらしい。

 まあ、手枷だけ外すのと、手枷も足枷も外すのはまた話が違うか。

「暴れんなよ?」

 僕の後ろに回った直哉が念を押してきたので、素直に頷く。

 それを確認して、直哉が手枷を外してくれた。

 おおっ、久しぶりに両腕が自由だ。

 ずっと同じ格好でいて凝り固まっていた肩を回してほぐす。

 ああ……気持ちいい……。

 自由最高。

「ほらバンザイしろ」

 自由に動かせる腕を満喫している僕を暫くの間見ていた直哉が指示してくる。

 ああ、そうだ、服脱ぐために外してもらったんだったな。

 腕が自由になった途端に目的忘れてた。

 直哉に言われた通り素直に腕を上げる。

 シャツごと寝巻き代わりのスウェットが脱がされる。

 ……って、腕使えるんだから自分で脱げたな。

 なんか直哉になんでもやってもらうのが癖になってきてる。

「よし、それじゃ拭くから大人しくしてろよ」

「あの、腕空いたから自分で拭けるけど……」

「ダメ」

 ダメらしい。

 まあ、直哉がやりたいというのなら任せよう。

「じゃ、脇は特に念入りにお願いします」

「お、おう」

 指示を出す僕にちょっと引いたように答える直哉。

 いや、あれだけ臭い臭い言われたらねぇ。

「まずは頭な。
 これ水がいらないシャンプーだから」

 へー、そんなのあるんだ?

 聞いたことのなかった水の要らないシャンプーとやらを髪につけると、揉み込むように洗ってくれる。

 人に頭を洗ってもらうのって気持ちいいな……。

 一通り洗うと、最後に髪をタオルで拭いて、これで終わりらしい。

「次は身体拭くからな」

 直哉がお湯につけて絞ったタオルを肩のあたりに当てる。

「冷たくないか?」

「全然。
 暖かくて気持ちいいよ」

「そか」

 その後は無言で体を拭いてくれる。

 脇は指示通り特にしっかり拭いてくれた。

 なんやかんや、タオルで拭いてもらうだけでもすごいスッキリした。

「直哉、ありがとね」

「ん」

 お礼を言う僕に、ちょっと照れたように返事する直哉。

 拭き終わったタオルを洗面器の中に入れると、着替えの服を持って近づいてくる。

「ほら、もっかいバンザイ」

 言われたとおり素直に腕を上げる。

 もう直哉も僕が自分で服を着れることは分かってるだろうにこう言うということは着せたいのだろう。

 直哉がやりたがっているのなら、好きにさせよう。

 されるがまま新しいシャツとスウェットを着せてもらう。

「あれ?これ洗濯してたっけ?」

 このスウェットは洗濯かごに入っていた気がする。

「ああ、昨日俺が洗った」

「直哉洗濯できたのっ!?」

「洗濯くらい誰でも出来るって」

 驚く僕に苦笑を返す直哉。

 いや、まあ、直哉ももう子供じゃないしなぁ。

 ご飯も作れるし洗濯も出来るとか、子供が大きくなるのは早いなぁ。

 なんかしみじみしてしまった僕を直哉は苦笑を浮かべたまま見てる。

「ほんと、にーちゃんの中で俺はどんだけ出来ない子なんだよ」

「いや、そんな気はなかったんだけど……ごめん」

 どうも小さい時の感覚が抜けてなかったみたいだ。

 このままどんどん大きくなって一人暮らしとかしちゃうのかなぁ……。

 あ、ちょっと泣きそう。

 急に天井を見上げた僕を直哉が不思議そうな顔で見てる。

「ま、いいか。
 ほら、にーちゃん、手、後ろ」

「この際、手縛るの止めない?」

「ダメ」

 やっぱりダメらしい。

 ちょっと抵抗しようかという考えが浮かぶけど、こんな状況でもなんとか良好な関係を築けているんだから、まだそれを崩すときではないかと思い直す。

 この調子だと、明日以降も身体は拭いてくれるんだろうし、チャンスはいくらでもある。

 素直に手を後ろに回すと、すぐに包帯を巻き直す直哉。

「痛くないか?」

 そんな事心配するなら縛んなきゃいいのになぁ。

「うん、大丈夫」

 実際、きつくないように丁寧に巻かれていて全然痛くない。

 カチャッ。

 そんな事を考えていたら、なんか手首につけられた。

 首をひねってできるだけ手首の方を見ると、足とは別の鎖がポールに繋がっているのが見えた。

 えっと……?

 カチャッ。

 直哉は僕の手首とポールを手錠でつなぐと、今度は足首につながっていた手錠を外す。

「次は下な」

 へ?



 下……?

 言われて思わず『下』を見る。

 足がある。

 ……なるほど。

「そっちは良いんじゃないかな?」

「いいわけないだろ」

 そうですよね。

「いや、でもさ、下半身はなんていうか……」

「もうチンコもウンコも見られてんのに今更恥ずかしいことなんてないだろ?」

 さらにいえば身体も拭かれてしまったしな。

 確かにもう今更な話かもしれない……。

「あの、サッとでいいからね?サッとで」

「はいはい」

 おざなりな返事をした直哉は躊躇なく僕のズボンとパンツを脱がせる。

 初めはあんなにためらっていたのに、もう慣れたものだ。

 まあ、かく言う僕もはじめほどの羞恥心は湧いてこない。

「座って足伸ばして」

 指示通りに足を伸ばすと、直哉は濡らしたタオルで足先から丁寧に拭いてくれる。

 足の指の間まで拭いてくれる念の入りようだ。

「冷たくないか?」

「うん、大丈夫」

 上半身拭いていたときより少し冷めてしまっているけど、まだまだ全然温かい。

「じゃ、次は膝立ちになって」

 両足を拭き終わったら次の指示が来たので大人しく従う。

 流石に腰回りを拭かれるのは少し恥ずかしいけど、仕方ない。

 僕の後ろに回った直哉は腰回りからお尻の肉、そしてその肉の間までしっかり拭いてくれる。

 変な話、大の時に近いことは経験済みなので恥ずかしくない……は言いすぎだけど、それほどじゃない。

 前に回ってきた直哉が、また最初に腰回りを拭く。

 一通り拭き終わると、1度タオルを濡らし直して今度は、あーなんだ……玉々を丁寧に拭いてくれる。

「……痛くないか?」

 急所なのは同じ男である直哉にもよく分かっているのか、すごい丁寧な手付きなので全然痛くはない。

「う、うん、大丈夫」

 ただ、すごい恥ずかしいな、これ。

 下の世話をしてもらっただけでもう恥ずかしくないとか思ってた僕を殴りたい。

 玉々を拭き終わると、今度はチンコをつままれる。

 そして、ちらりと僕の顔を見る直哉。

「えっと、なに?」

「……何でもない」

 なにか言いたげな顔しているけど、チンコつまみながら言いたいことってなんだろう?

 ちょっと僕にはそのクイズは難しすぎる。

 結局直哉は何も言わずにチンコを丁寧に拭き始める。

 ようやくこの恥ずかしい時間も終わりか。

 そんな安堵の感情はあっさりと裏切られた。

「痛かったら言えよ?」

 え?なにか痛いことされるの?

 直哉の言った言葉の意味が分からなくて軽く混乱していたら……。

「いや、そこはいいってっ!」

 皮をむかれて亀頭を拭かれだした。

 痛くはないけど、そんなところを拭かれるとは思ってなかった僕は大慌てだ。

「よくねえよ。
 一番キレイにしとかなきゃ駄目なとこだろ」

 いや、それはそうなんだけど、同時に一番恥ずかしいところでも有るんだ。

「特ににーちゃんはいつも被ってんだし」

 ……恥ずかしがり屋さんなんだよ。

 ほっとけ。

 流石に恥ずかしすぎるけど、直哉の言う通りキレイにしとかなきゃいけないところなのは確かだ。

 直哉も拭く気まんまんだし、ここは大人しく拭いてもらうしかないか……。

「テキトーでいいからね?」

「ん」

 亀頭全体はもちろん、鈴口からカリ首まですごい丁寧に拭かれた。

 チンコ全体より時間がかかってた気がするのは、恥ずかしさのあまり時間間隔が狂ってたんだろうか?

 恥ずかしいのを耐えて大人しくしていたというのに、直哉は少し不機嫌になるし。

 明日も同じことが有るのかと思うと憂鬱だ……。

 本当に一刻も早く監禁状態から開放してもらおう。
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