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理乃の行方
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すると、入れ違うようにして姿を見せた拓海が、あわてた様子で駆け寄ってくる。
「今の大家さんだよな? そんな荷物持って、何かあった?」
話し声が聞こえたから外を見てみたら、光莉と大家が立ち話をしているから気になってやってきたのだと、拓海は言う。まだ、光莉が理乃の部屋に住んでいると誤解する彼の視線は、キャリーバッグに注がれている。
「あ、ううん。ちょっと出かけるだけ」
「もしかして、仕事? プロカメラマンなんだもんな」
「世界中飛び回ってるイメージ?」
感心する拓海に、光莉はからかうように言うが、彼はいたって大真面目だ。
「海外にはよく行く?」
「そうだね。今からロスに行くの。日本よりロスでの仕事の方が多いから、もう拓海には会えないかな」
「……アパート、引き払う?」
その相談で大家と話し込んでいたと思っているようだ。しかし、拓海の誤解をとく必要なんてない。光莉が拓海に近づかなければ、理乃だって嫌がらせなんてしないだろう。
「アパートはしばらくこのまま。友だちが出入りするかもしれないけど、気にしないで」
「留守の間は友だちが住んでるんだ?」
だから、部屋数の多いアパートを借りてるんだと勝手に納得してくれたみたいだ。
「彼女、ちょっと気難しいから、話しかけたりしなくて大丈夫だからね」
「気難しいって……、友だちもアーティストなのかな? わかった。話しかけないようにするよ」
拓海は思ったより、素直だ。記憶喪失になったことが影響してるのか、もともと、お人よしすぎるぐらいのお人よしなのか。どちらにせよ、理乃が出入りしていても自然なこととして受け入れてくれるだろう。
「じゃあ、そろそろ行くね。昨日は泊めてくれてありがとう」
「また何かあったら、頼ってくれていいから。それとさ、迷惑じゃなきゃ、連絡先、交換したいんだけど」
拓海がシャツの胸ポケットから顔を出すスマートフォンに手を伸ばしたとき、光莉のバッグから着信音が流れた。
光莉はバッグからスマートフォンを取り出すと、「ごめん、父から電話」と断りを入れて、通話ボタンを押す。拓海は遠慮してか、数歩後ろへ下がった。
「お父さん、メール見てくれた?」
「メールしてくれたのか? 悪い。まだ見てないんだが、光莉、今どこにいる?」
開口一番尋ねると、父は意外な返事をした。どうやら、メールを見て電話をくれたわけじゃないらしい。
「理乃のアパートにいるけど、何かあった?」
どことなく、いつもの父じゃないような、焦った様子が気になって聞いてみる。
拓海がふしぎそうにこちらを見た。理乃のアパート、と言ってしまったことに気づき、ごまかさなきゃいけないと思ったが、耳もとで聞こえた父の言葉に驚いて、それどころではなくなる。
「お父さん、何? 今、なんて?」
動揺が隠しきれず、スマートフォンを持ち直す。
「理乃が、なんて?」
「理乃が死んだんだ」
「……何言ってるの?」
理乃が死んだ?
ぼう然とする光莉を心配そうに見つめる拓海と目を合わせるが、どこか焦点が合わない。
混乱する光莉を落ち着かせようとしたのか、背中に拓海が触れてきたとき、父は言う。
「東京湾で遺体が見つかったそうだ。詳しいことはわからない。父さんもこれから日本へ行く。着いたら連絡する」
「今の大家さんだよな? そんな荷物持って、何かあった?」
話し声が聞こえたから外を見てみたら、光莉と大家が立ち話をしているから気になってやってきたのだと、拓海は言う。まだ、光莉が理乃の部屋に住んでいると誤解する彼の視線は、キャリーバッグに注がれている。
「あ、ううん。ちょっと出かけるだけ」
「もしかして、仕事? プロカメラマンなんだもんな」
「世界中飛び回ってるイメージ?」
感心する拓海に、光莉はからかうように言うが、彼はいたって大真面目だ。
「海外にはよく行く?」
「そうだね。今からロスに行くの。日本よりロスでの仕事の方が多いから、もう拓海には会えないかな」
「……アパート、引き払う?」
その相談で大家と話し込んでいたと思っているようだ。しかし、拓海の誤解をとく必要なんてない。光莉が拓海に近づかなければ、理乃だって嫌がらせなんてしないだろう。
「アパートはしばらくこのまま。友だちが出入りするかもしれないけど、気にしないで」
「留守の間は友だちが住んでるんだ?」
だから、部屋数の多いアパートを借りてるんだと勝手に納得してくれたみたいだ。
「彼女、ちょっと気難しいから、話しかけたりしなくて大丈夫だからね」
「気難しいって……、友だちもアーティストなのかな? わかった。話しかけないようにするよ」
拓海は思ったより、素直だ。記憶喪失になったことが影響してるのか、もともと、お人よしすぎるぐらいのお人よしなのか。どちらにせよ、理乃が出入りしていても自然なこととして受け入れてくれるだろう。
「じゃあ、そろそろ行くね。昨日は泊めてくれてありがとう」
「また何かあったら、頼ってくれていいから。それとさ、迷惑じゃなきゃ、連絡先、交換したいんだけど」
拓海がシャツの胸ポケットから顔を出すスマートフォンに手を伸ばしたとき、光莉のバッグから着信音が流れた。
光莉はバッグからスマートフォンを取り出すと、「ごめん、父から電話」と断りを入れて、通話ボタンを押す。拓海は遠慮してか、数歩後ろへ下がった。
「お父さん、メール見てくれた?」
「メールしてくれたのか? 悪い。まだ見てないんだが、光莉、今どこにいる?」
開口一番尋ねると、父は意外な返事をした。どうやら、メールを見て電話をくれたわけじゃないらしい。
「理乃のアパートにいるけど、何かあった?」
どことなく、いつもの父じゃないような、焦った様子が気になって聞いてみる。
拓海がふしぎそうにこちらを見た。理乃のアパート、と言ってしまったことに気づき、ごまかさなきゃいけないと思ったが、耳もとで聞こえた父の言葉に驚いて、それどころではなくなる。
「お父さん、何? 今、なんて?」
動揺が隠しきれず、スマートフォンを持ち直す。
「理乃が、なんて?」
「理乃が死んだんだ」
「……何言ってるの?」
理乃が死んだ?
ぼう然とする光莉を心配そうに見つめる拓海と目を合わせるが、どこか焦点が合わない。
混乱する光莉を落ち着かせようとしたのか、背中に拓海が触れてきたとき、父は言う。
「東京湾で遺体が見つかったそうだ。詳しいことはわからない。父さんもこれから日本へ行く。着いたら連絡する」
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