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君を守りたくて
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話したら、望まない真実が明るみになるかもしれない。そんなふうに考えていた自分がいたのだと、今さらながら思う。
同時に、そんなはずはないという思いもある。だから、話してみようと思った。理乃の事件の捜査は始まっている。いずれ、拓海の耳にも入るだろう。そのときになって、どうして言わなかったんだと、失望する彼を見るのは望まないことだった。
「理乃は、どこかに行くつもりだったのかもしれない」
「どこかって? 何か心当たりでもあるのか?」
光莉は息を深く吸い込み、それを告白する。
「理乃、赤村さんとは別に、好きな男の人がいたみたい」
「はっ? それ、本当か?」
拓海はひどく驚いた顔をする。
何も知らないみたいだ。当然だ。彼は記憶を失くしている。それも、理乃が行方不明になった日に。
理乃の消息がわからなくなった日と、拓海が記憶喪失になった日は、同じ12日だ。彼は理乃とは関係ないと言ったけれど、そのことを知ったとき、そんな偶然あるんだろうかと真っ先に考えた。
あの日、理乃は会社を辞め、新しい恋人である拓海と一緒にどこかへ行こうとしていた。そのとき、なんらかの事件に巻き込まれたとは考えられないだろうか。
「話してなかったっけ?」
光莉はとぼけてみせた。
「初めて聞いたよ。誰から聞いた話?」
「もちろん、赤村さんからだよ」
「また赤村か……」
赤村の話は信用できないと思ってるのだろう。彼は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……すごく重要な話だよね。話してなくて、ごめんね」
肩をすぼめると、元気付けようとしてくれたのか、「いろいろあったから仕方ないさ」と彼が笑顔を見せるから、ますます申し訳なくなる。
もしかしたら、理乃の新しい恋人は拓海かもしれないなんて、一瞬でも考えたとは言い出せない。だけれど、完全に否定できない自分はまだいる。
理乃は光莉からすべてを奪おうとしてきた。そのすべての中に、拓海がいない保証なんてないのだ。
「気にするなよ。警察が赤村を調べないはずないだろ? きっと、赤村がそのことは警察に話してるさ」
「そうだよね」
「電話の件も、別れた理由も、全部赤村の嘘かもしれないしさ、俺たちには手がかりが少なすぎるよな」
拓海がそう嘆いたとき、アパートのチャイムが鳴った。珍しい。誰かが訪ねてくるのは、光莉が知る限り、初めてだ。
「誰かな?」
「母さんじゃないと思うけどな」
「お母さんっ?」
拓海の? すっかり失念していたが、拓海の身体を気づかって、このアパートを借りたぐらいなのだ。様子を見に来ないわけがない。
「まあ、母さんでもいいよ」
笑いながらリビングを出ていく拓海の背中を追いかけて、どきどきしながらドアの隙間から玄関の様子をのぞく。光莉が見守る中、押し開かれた玄関ドアの奥に立っていたのは、女の人ではなく、スーツ姿の男だった。
男は胸元から取り出した身分証のようなものを差し出す。それをのぞき込む拓海に、男は淡々と言った。
「警視庁捜査一課の若村です」
同時に、そんなはずはないという思いもある。だから、話してみようと思った。理乃の事件の捜査は始まっている。いずれ、拓海の耳にも入るだろう。そのときになって、どうして言わなかったんだと、失望する彼を見るのは望まないことだった。
「理乃は、どこかに行くつもりだったのかもしれない」
「どこかって? 何か心当たりでもあるのか?」
光莉は息を深く吸い込み、それを告白する。
「理乃、赤村さんとは別に、好きな男の人がいたみたい」
「はっ? それ、本当か?」
拓海はひどく驚いた顔をする。
何も知らないみたいだ。当然だ。彼は記憶を失くしている。それも、理乃が行方不明になった日に。
理乃の消息がわからなくなった日と、拓海が記憶喪失になった日は、同じ12日だ。彼は理乃とは関係ないと言ったけれど、そのことを知ったとき、そんな偶然あるんだろうかと真っ先に考えた。
あの日、理乃は会社を辞め、新しい恋人である拓海と一緒にどこかへ行こうとしていた。そのとき、なんらかの事件に巻き込まれたとは考えられないだろうか。
「話してなかったっけ?」
光莉はとぼけてみせた。
「初めて聞いたよ。誰から聞いた話?」
「もちろん、赤村さんからだよ」
「また赤村か……」
赤村の話は信用できないと思ってるのだろう。彼は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……すごく重要な話だよね。話してなくて、ごめんね」
肩をすぼめると、元気付けようとしてくれたのか、「いろいろあったから仕方ないさ」と彼が笑顔を見せるから、ますます申し訳なくなる。
もしかしたら、理乃の新しい恋人は拓海かもしれないなんて、一瞬でも考えたとは言い出せない。だけれど、完全に否定できない自分はまだいる。
理乃は光莉からすべてを奪おうとしてきた。そのすべての中に、拓海がいない保証なんてないのだ。
「気にするなよ。警察が赤村を調べないはずないだろ? きっと、赤村がそのことは警察に話してるさ」
「そうだよね」
「電話の件も、別れた理由も、全部赤村の嘘かもしれないしさ、俺たちには手がかりが少なすぎるよな」
拓海がそう嘆いたとき、アパートのチャイムが鳴った。珍しい。誰かが訪ねてくるのは、光莉が知る限り、初めてだ。
「誰かな?」
「母さんじゃないと思うけどな」
「お母さんっ?」
拓海の? すっかり失念していたが、拓海の身体を気づかって、このアパートを借りたぐらいなのだ。様子を見に来ないわけがない。
「まあ、母さんでもいいよ」
笑いながらリビングを出ていく拓海の背中を追いかけて、どきどきしながらドアの隙間から玄関の様子をのぞく。光莉が見守る中、押し開かれた玄関ドアの奥に立っていたのは、女の人ではなく、スーツ姿の男だった。
男は胸元から取り出した身分証のようなものを差し出す。それをのぞき込む拓海に、男は淡々と言った。
「警視庁捜査一課の若村です」
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