異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉

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本編

529.アル様とお出かけ

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「「アル様、どっちに行く?」」
「はぁ!?」

 思い立って街を出た僕達だが、行き当たりばったりな感じでここまできたので、まだ行き先が決まっていなかった。

「張り切って出てきたのに、行き先が決まっていないのか?」
「「うん!」」

 呆れるアル様に向かって、アレンとエレナは晴れやかな笑顔で肯定する。

「「どうしようかね~」」
「日帰りなのであろう? ならば山はちと遠いので、あっちの森ではどうだ?」
「「そうだね~。――アル様、それでいい?」」
「……ああ、構わないぞ」

 カイザーの助言により無事に行き先が決まった僕達は、森に向かって歩き出した。
 そして、歩き出してすぐに――

「「あっ!」」

 アレンとエレナが何かを見つけて駆け出す。

「ん~、薬草か、魔物か……どっちだろう?」
「魔物の気配はないので、我は薬草だと思うな」
「……いや、タクミもカイザーもそんな暢気にしていて良いのか?」
「まあ……慌てる必要はありませんよ~」
「そうは言ってもな~」

 アル様は僕達と一緒に迷宮に行ったことがあるのに、まだ子供達の行動に慣れていないようだ。

「「いっぱいいたよ~」」

 しばらくすると、アル様の心配など関係ないという感じの様子で、アレンとエレナが晴れやかな笑顔で戻ってきた。

「はぁ!?」
「……」

 しかも、六匹ほどのパステルラビットを連れてね。
 アル様は驚きの声を発しているが、ナジェークさんは絶句している。

「魔物のほうであったか~。パステルラビットの気配は微弱でわからなかったぞ」
「ははは~」

 リヴァイアサンにもわからないくらいの存在なのに、どうしてアレンとエレナには存在がわかるんだろうな。毎度のことながら、不思議だ。

「アル様、お城でパステルラビットを飼う計画って、増えても大丈夫ですか?」
「……は? いや、増える分には問題ないが……増えるのか?」

 やっぱりここはパステルラビットふれあい広場のキャスト増員が良いだろうと、アル様に話を振ってみた。だが、何故かアル様は不思議そうな顔をする。

「「ここにいるよ?」」
「そうだけど、この子らをか?」
「「ダメなの?」」
「駄目ではないが、このパステルラビット達が嫌じゃないのか? というか、飼い慣らしていないパステルラビットは、逃げるだろう?」
「逃げないよ~」
「逃げてないでしょう?」
「はぁ!? …………本当だな。いや、何でだよ!」

 アレンとエレナに指摘されたアル様は、改めてパステルラビットを観察してから唖然としていた。普通のパステルラビットは懐くのに時間が掛かるようだが、ここにいる子達は既に懐いているからな。
 六匹いるうちの一匹はアル様の足下に行き、まるで撫でろと言わんばかりにすり寄っている。

「「アル様、抱いて、抱いて!」」
「えぇ?」
「「ほらほら、ナジェ兄も!」」
「私もですか?」

 アレンとエレナはアル様とナジェークさんにパステルラビットを強引に抱かせていく。
 パステルラビットを三匹ずつ抱えたアル様とナジェークさんは、どうしていいのかわからないのか若干戸惑っている。

「大丈夫でしょう? 僕達は逃げ隠れするパステルラビットを見たことがありません」
「いや、おかしいだろう!」
「そう言われても……」

 これはどうしてだ……と聞かれても原因はまったくわからないんだよ~。

「そういえば、ナジェークさんはカイザーのこととか、その他いろいろなことは知っているんですか?」

 わからないものは答えようがないので、パステルラビットの懐きについては話を打ち切る。
 そして、会話でうっかり話してはいけないことがあるのか確認していないことを思い出し、聞いてみることにした。

「ナジェークにか? 大体のことは話してあるぞ」
「大体? ということは、秘密にしていることもあるってことですね」
「いいや、ナジェークは私の護衛だし、ルーウェン家とも縁があるから、全ての情報を共有してもいいと言われている。ただ、タクミのことに関しては、いろいろありすぎて話し忘れているものがあるかもしれないってだけだな」
「……」

 果たして、伝え忘れができるほどの秘密の情報があっただろうか?
 ……さすがにそこまではないはずだ。

「とりあえず、制限はないってことですね」
「ああ、その認識でいい」

 前から思ってはいたけど、ナジェークさんは王族に信用されている優秀な人なんだよな~。

「「あっ!」」
「「っ!」」

 ナジェークさんについて考えていると、アレンとエレナが何かを発見したのか、声を上げて駆け出す。すると、アル様とナジェークさんがびくりと肩を揺らしていた。

「ふむ、今度は薬草のようだな」
「アレン、エレナ、何があったんだ?」
「「氷華草があった!」」
「いやいやいや、おかしいだろう! 氷華草の生えている時期はもう少し寒くなってからだろう! さすがにそれくらいは私でも知っているぞ!」

 氷華草は名前に氷と入っているだけあって、生えている時季は薬草に詳しくなくてもわかりやすい。なので、アル様でも知っているものだったのだろう。

「でも、全盛期が冬なだけで、今の時季でも生えていないってことはないですしね」
「生えていたとしても、そう簡単に見つかるわけがないだろう!」
「じゃあ、運が良かったんですね」
「……運。そうか、これか度々話題になるタクミ達の強運ってことか」

 アル様は自己完結したようで、納得しているようだったががっくり項垂れていた。
 まだ街を出てそれほど時間は経っていなく、森にも着いていない状態だが……アル様は既に疲れていそうである。

「アル様、大丈夫ですか?」
「忘れていたが、前にタクミ達と迷宮に行った時もこんな風だったな」
「そうでした?」
「そうだった!」

 ん~、一緒に迷宮に行った時か~。あの時は……裏ルートを見つけたくらいだったと思うんだけどな~。

「「アル様、氷華草はいる?」」
「ん?」
「去年……だったかな? 城で不足しているってことで、フィリクス様に買い取ってもらったんですよ。だから、また必要なら売りますよってことですね」

 アレンとエレナの言葉だけではアル様には意図は伝わらないと、僕は慌てて補足を入れる。

「ああ、そういうことか。私では在庫などは知らないから、帰ってから確認し、それから返事をするっていうことでもいいか?」
「「うん、いいよ~」」
「でもまあ、たぶん時季前ってことで不足していそうな気がするから、買い取る方向になると思うから他に売らずにいてくれると助かる」
「「わかった~。――だって、お兄ちゃん」」

 アレンとエレナは、氷華草を僕に差し出しながらアル様に了承する。
 在庫管理や売却は僕の仕事ってことだね。

「「あっ!」」
「今度は何だ!?」
「「リリエ草~」」
「よし、一般的な薬草だな!」

 アレンとエレナの「「あっ!」」という言葉に、アル様が敏感になっている。

「「それと」」
「それと!?」
「「ヒカリ草!」」
「ヒカリ草? さすがにそれは何か知らない! タクミ、一般的な薬草だな!?」
「……」

 僕はヒカリ草はそこそこ稀少な薬草です……とは言えず、アル様からそっと視線を逸らすことにした。






==========

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