異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉

文字の大きさ
321 / 321
本編

539.しばらくぶりの冒険者業

しおりを挟む
「「依頼~♪ 依頼~♪」」

 僕達はしばらくぶりに冒険者として仕事をしようと、冒険者ギルドへやって来た。

「おい、『鬼斧神』と『食の拳闘士』が王都に来ているらしいぞ」
「本当か!?」
「ここで待っていれば会えるのか?」

 すると、冒険者ギルドの中にいた人達のほとんどが『きふしん』と『しょくのけんとうし』と呼ばれる人物の噂話をしていた。

「「誰ー?」」
「誰だろうなー?」
「「ん~?」」

 誰がどのような二つ名を持っているのか詳しくないので、誰の噂なのかがさっぱりわからない。というか、二つ名自体が、どのような由来かもわからない。〝きふしん〟は……寄附ではないよな~。あ、鬼○神かな? でも〝ふ〟がさっぱりだな。もう一人は……剣闘士かな?

「お、タクミじゃないか!」
「ん? え、ルドルフさん!?」

 子供達と一緒に首を傾げていると、ギルドの奥から『ドラゴンブレス』パーティのリーダー、ルドルフさんが、手を振りながら近づいて来た。

「俺もいるぞ~」
「え、ナターリさんまで!?」

 料理人だが、自ら迷宮に赴いて食材を集めるという拘りを持つナターリさんも一緒にいた。

「タクミ、久しぶりだな~」
「……」

 ……何故かナターリさんが、僕の頭を撫で始めた。

「アレンも!」
「エレナも!」
「おう! 二人も元気そうだな~」
「「うん、元気だよ~」」

 ナターリさんは僕に続いてアレンとエレナの頭を撫で始める。すると――

「……えぇ~」
「ははは~」

 空いた僕の頭を今度はルドルフさんが何故か撫で始めた。
 ……この人達、何しているんだろう?

「……僕は子供じゃないですよ」
「ははっ、いいじゃないか」

 遠回しに撫でるのを止めるように言ってみたが、ルドルフさんは撫で続ける。

「お、おい、『刹那』と『鬼斧神』と『食の拳闘士』は知り合いなのか!?」
「『刹那』が子供扱いされているぞ!?」

 この状況を周りの冒険者達に見られるのは恥ずかしいんだけどな~……。

「ん?」
「タクミ、どうした?」
「もしかして……ルドルフさんが、『きふしん』なんですか?」
「あ~……そう呼ばれているな」
「え、じゃあ! もしかして、ナターリさんが『しょくの剣闘士』!?」

 ん? ナターリさんは剣を使っていなかったよな? じゃあ~……あっ!『食の拳闘士』か!
 そうなると……ルドルフさんは、ハルバードの斧か! 『鬼斧神』だな!

「二人とも二つ名があったんですね。知りませんでした~」
「タクミだってあるだろう。なあ『刹那』くん」
「あ~……」

 僕が二つ名で呼ばれ慣れしていないことを見越してか、ルドルフさんがからかい混じりで呼んでくる。

「アレンもあるよ~」
「エレナも~」
「「『蒼の双撃』だって~」」
「二人で一つの二つ名か。格好いいな」
「「そうでしょう!」」

 僕と違ってアレンとエレナは、二つ名を自慢する。相当、気に入っているようだ。

「そういえば、ルドルフさんとナターリさんはどうして一緒にいるんですか?」
「簡潔に言えば、俺が『ドラゴンブレス』を抜けて、今はナターリと組んでいる」
「えぇ!? 抜けたんですか!?」

 まさか、ルドルフさんがパーティを脱退しているとは思わず、僕は声を上げてしまう。

「ああ、ザックがそろそろAランクを狙えそうなんだよ」
「Aランクですか!」
「ああ。だから、いつまでも俺に付き従うだけじゃいけないと思ってな。『ドラゴンブレス』を任せた」
「……なるほど?」

 ザックさんがパーティを率いるようにさせてやりたいってことで、身を引いた感じかな?
 僕よりよっぽど『教育』に相応しい人だな~。

「じゃあ、ザックさん達は三人で活動しているんですか?」
「いや、新メンバーを募集して、今は五人で活動しているはずだ。とは言っても、新メンバーについては俺は手を出していないから、どんな奴を入れたかは知らないけどな」
「へぇ~、そうなんですね。で、皆さんは王都にいるんですか?」
「いや、『細波の迷宮』の攻略を目指して、ベイリーの街に行ったよ」
「えっ、ベイリーの街にいたんですかっ!?」
「いたの~?」
「会えなかったね~」

『ドラゴンブレス』パーティはベイリーの街にいたのか~。僕達がベイリーの街の冒険者ギルドや『細波の迷宮』に行った時に会えなかったのは、運が悪かったってことか。

「何だ? タクミ達はベイリーの街にいたのか?」
「そうなんです。数日前にベイリーの街から王都に来たばかりです」
「あ~、それなら同時期にベイリーの街にいたのは確かだな。あいつらはひと月前くらいからあっちに行っているからな」

 まあ、迷宮の攻略中だったりしたら街にもいなかっただろうし、僕達もベイリーの街では宿とかも使っていなかったので、出会う確率はもともと低かっただろうな。

「会えなくて残念です」
「「残念だね~」」
「まあ、そのうちどこかでばったり会えるさ」
「そうですね」

 縁があればまた会えるよな。

「それでルドルフさんとナターリさんは、どういう経緯で組むことになったんですか?」
「ルドルフがパーティを抜ける手続きをしている時、俺もちょうどギルドにいたんだ。それで、すぐに勧誘したんだ。さすがに最近、俺も体力の衰えを感じてな~。一人で行動するのが辛くなっていたから、相棒を探していたんだよ」

 ナターリさんは、即行動したんだな~。そして、今、一緒にいるってことは、勧誘に成功したってことだ。

「今はまだお試しで行動しているところだが、このまま組むことになりそうだ。いや~、ナターリの飯が美味くてな~」
「わ~……」

 ルドルフさん、胃袋をしっかりがっちり掴まえられているようだな。

「美味しいのは大事だよね~」
「美味しいの食べると元気になるの~」
「そうなんだよな~。食って大事だよな~。特に街の外で活動している時、保存食とちゃんとした食事を摂るとじゃ、体力もやる気も全然違うな~」
「「そうだね~」」

 まあ、食事が大事なのは確かだ。堅焼きのパンとしょっぱい干し肉だけの食事って……僕なら絶対に嫌だな。でも、《無限収納》か遅延効果のあるマジックバッグがなければ、普通は保存食になるんだよな~。……いや、現地調達でもう少しマシな食事はできるか? 狩りやすいウルフやホーンラビットを狩って、塩を振って焼くとかな。まあ、それも料理のセンスがなければできないのか?
『ドラゴンブレス』のアイリスさんとか、料理で危険物を作るって言っていたしな~。
 僕に料理の能力があって良かった~……ってことだな!





しおりを挟む
感想 10,303

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(10303件)

Cherie
2025.12.13 Cherie

 意外な再会ですね~ でもアンディさんに無茶振りされる前に依頼を見つけてギルド出た方が良さそうな感じが…
 あと、アル様に押し付け…じゃない引き取って欲しい物リストは送ったのかな? まぁ催促される事は絶対になさそうですが 笑

2025.12.13 水無月 静琉

あ~、アンディさんなら何かあったら泣きついてきそうですな~。

解除
空
2025.12.13

意外な人たちが意外な組み合わせできましたね
それにしてもベイリーでは、街:ほとんど出歩いていない ギルド:すぐに絡まれて別室に 迷宮:すぐに人のいない21階層に
うん、知り合いに会える確率なんてほぼない(笑)

2025.12.13 水無月 静琉

あ、うん、ほぼ会える確率がありませんでしたね(笑)

解除
黒にゃー
2025.12.12 黒にゃー

食の拳闘士で即、ナターリさんを連想したけど、鬼斧神がルドルフさんとは思いませんでした。"貴腐人"という字面に何度か脳内変換して一瞬混乱。orz

武器を振るっているより、冒険者の基本をレクチャーとか、即席スープの扱い方を考慮しているイメージが強くてルドルフさんが戦ってるエピソードの記憶がない。

再会で次は何が出てくるのかな。
楽しみです。

2025.12.13 水無月 静琉

貴腐人! 確かに聞いただけでは、間違えそうな二つ名だ(笑)

解除

あなたにおすすめの小説

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。