異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉

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本編

閑話 シルの考察

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「おぉ~~~~~」

 巧さんからお願いしていた麺料理が届きましたぁ~~~。

「ど、どれも美味しそう~」
「ええ、本当にねぇ~」
「うわぁ! マ、マリアノーラ様、驚かせないでくださいよぉ~~~」

 巧さんの料理に魅入っていると、すぐ隣からマリアノーラ様の声が聞こえて僕は慌てて飛びのいてしまう。

「あらあら、シルフィリール、驚き過ぎではない?」
「いえいえ! いきなり横から声がしたら驚きますよ!」
「シルフィリール、もっと周囲に気を配れよ。注意が散漫しているのではないか?」
「そうですね。予測はできるでしょうに」
「うわぁ!」

 マリアノーラ様から距離を取ったと思ったら、またしてもすぐ隣から声が聞こえた。
 しかも、次は左右の両方からですよ!

「サラマンティール! ノームードルも! どうして、部屋の中に転移してくるんですか~。扉があるんですから、そっちから訪ねて来てくださいよぉ~~~」
「こっちのほうが早いだろう」
「ええ、美味しそうなものが待っていますからね」

 みんなもしっかりと巧さんの動向を把握しているんですね~。

「なぁなぁ、早く食べようぜ」

 待ちきれないと言わんばかりに、サラマンティールがテーブルの上を覗き込んでいる。目は麺料理に釘付けですね。

「わたくしも早く食べたいわ~」

 マリアノーラ様も目を爛々とさせていますね。
 あ、ノームードルも静かに魅入っています。

「とりあえず、食べましょうか」

 このままでは話し合いどころではないので、僕達はまず料理を堪能することにしました。

「こちらはうどんというものね。で、こちらがパスタというもので、四種類もあるのね! シルフィリール、シルフィリール! わたくし、全種類食べてみたいわ!」
「オレも、オレも!」
「もちろん、私もです」
「それはもちろん僕もですよ~」

 というわけで、四種類のパスタは全部均等に分けることにした。
 僕達はちょうど四人。一人一種類のパスタを四皿に分けることにしたのですが……――

「なあ、シルフィリール、ミートソースっていうパスタ、右のほうが多くないか?」
「同じですよ」
「いや、絶対にそっちのほうが多い」
「それを言うなら、サラマンティールのカルボナーラ? も左のほうが多く見えますよ!」

 取り分ける行為って、意外と難しいんですね~。お皿からはみ出たりしないようにするので精一杯で、巧さんのように綺麗に盛りつけようとするなんて無理でした。

「あらあら~」
「タクミさんが簡単にこなしていますが……これはなかなか難しい」

 マリアノーラ様とノームードルも苦労しているようです。
 そもそも自分達で分けようとしたのは失敗だったかもしれませんね。

「少し不格好になってしまったけれど、味は変わらないわね!」
「こういうことは、今度から眷属に任せたほうがいいな」
「同意します。私達は、こういう作業には不向きのようですね」

 何とか取り分けが終了した時、マリアノーラ様達三人は、〝もう懲りごり〟という顔をしています。
 僕達は全員、料理などの才能はまったくないってことでしょう。……とはいっても、取り分けが料理の作業に入るかは疑問なところですけどね。
 そもそも僕達って給仕なども人任せ、お茶も淹れたことないですからね~。

「はぁ……巧さんは、やっぱり器用で凄い人だっていうことが改めてわかりましたね~」
「同意するわ~」
「オレもそう思う」
「ええ、本当に」
「せっかくの巧さんの料理、冷めてしまいましたね……あれ? 冷めてませんね」
「最初に料理の状態が変わらないように時間の調整はしておいたわよ~」

 良い体験をした……ということで、巧さんの料理がこれ以上台無しにならないうちにいただこうと思ったら、盛りつけが微妙なだけで料理自体はホカホカな状態でした。
 料理の状態が変わらないように、マリアノーラ様が時間停止の魔法を掛けてくれていたようですね。

「さすが、マリアノーラ様!」
「ふふっ、温かいものは温かいままで、冷たいものは冷たいままで食べるのが大事なのよ~」

 サラマンティールがマリアノーラ様を褒めたたえると、マリアノーラ様は嬉しそうに微笑む。

「マリアノーラ様、助かりました」
「時間に関しては、わたくしの領域ですからね。このくらい当然だわ~」

 僕達は領域内の作業に関しては息をすると同じくらいに自然に行使できますので、マリアノーラ様にとっては軽い作業なのでしょう。けれど、風を司る僕には不得手のことです。
 あれ? そうなると、料理はサラマンティール。創造の分野としてはマリアノーラ様が料理の盛りつけに苦労していたのは何故でしょう? 盛りつけは本格的な料理ではないですから、領域云々は関係がないということですかね? そうなると、当人の器用さなどが浮き彫りになったということですか!? そうなると、僕も不器用ということに?
 ……これ以上考察すると後悔しそうなので、一旦忘れましょう!
 そうです! そんなことよりも今は巧さんの料理を味わうことが先決ですね!

「ではでは、いただきましょう!」

 マリアノーラ様の合図で、僕達はそれぞれ好きな麺料理から食べ始めました。

「はぁ~~~、美味しいわ~」
「何でだろう。最初に苦労したせいか、いつもよりも美味しく感じるな~」
「どれも素晴らしい味わいです」
「巧さんの料理はどうしてこんなにも美味しいんでしょう~」

 うどんもつるつるとした感じがとても美味しいですし、パスタもそれぞれが違う味わいでとても美味しいです~。

「や~ん、もうなくなってしまったわ~~~」
「オレもだ……もっと食べたいな~」
「タクミさんの料理はいくらでも食べられますね~」
「……はぁ~、食べ終わっちゃいました~」

 僕はあっという間に中身がなくなってしまった食器を見つめてしまいます。

「あっ! 今回、巧さんへのお強請り権を使ったわけではないので、また食べたいものをお願いすればいいんです!」
「「「っ!」」」

 僕の言葉を聞いて、マリアノーラ様達の表情が沈んで暗くなっていたものからぱぁ~と明るく華やぎました。

「ご飯はいただいたことですし、次は甘いものがいいのではないかしら?」
「いえいえ、ここはやっぱりまたご飯ものですよ! タクミが作っているものは圧倒的にご飯もののほうが多いんですから!」
「どちらも捨てがたいですね~」

 マリアノーラ様達は、即座に何を頼むのか協議に入りましたね。それだけ、巧さんの料理の虜になっているってことですね。

「あ、あれはどうですかね? クレタ国で作っていたお子様プレート? というものは! あれでしたらいろいろなものが食べられそうですし、プリンという甘いものも出ていましたよね?」
「それよ!」
「それだ!」
「それです!」

 いろいろなものを食べてみたい僕達にうってつけの料理を思い出したのでそれを提案してみると、三人とも〝名案だ〟とばかりに賛成してくれました。
 なので後日、巧さんにお願いしてみたら、少し笑いながら了承してくれました。その時、巧さんは「シル達が食べるなら〝お子様プレート〟じゃなくて〝大人様プレート〟だな」と言っていました。食べる人によって料理名が変わる料理のようですが、今から楽しみです!



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