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1巻
1-3
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あれから森を抜けるのに丸三日間かかった。
思っていたより時間はかかったものの、無事にガヤの森を抜けることができて良かった!
地図で確認はしていたが、想像していた以上に森は広大だった。とはいっても、ペースはゆっくりめだったし、森に生っていた木の実や薬草を採取しながら歩いていたんだけどね。
僕は初め、森の東端といえる位置にいたのに、そこから東へと歩いて四日もかかった。森の奥や反対側がどうなっているかはわからないが、森の端から端までは結構な距離になる。たぶん、月単位でかかるんじゃないかな。
何度か魔物とも遭遇したが、アレンとエレナに正直に「僕に倒させてほしい」とお願いして、僕が魔法で倒すようにした。
言えばちゃんとわかってくれる子達で良かった!
あっ、お蔭で僕のレベルも11まで上がった!
ちなみに、エーテルディアでの一週間は、地球とは違って六日間だ。順に、光の日、火の日、水の日、風の日、土の日、闇の日――と呼ばれる。
二十四時間で一日、六日で一週間、五週で一ヶ月だ。一年は十二ヶ月だから、年間で三百六十日になる。
月は日本と同じように、一の月、二の月、三の月……と呼ばれ、一~三の月が春、四~六の月が夏、七~九の月が秋、十~十二の月が冬となる。
日本ほどではないが緩やかな四季があって、大陸の東に行くほど暖かく、西に行くほど寒い。
つまり、東の地の夏が一番暑く、西の地の冬が最も寒い、ということになる。
ちなみに今は、三の月になったところで、僕らのいるガディア国はとても過ごしやすい陽気だ。
森を出たら、何もない草原が広がっていた。かろうじて街道と思しきものはあったので、そこを道なりに歩き続け、四時間ほどで街が見えてきた。シーリンの街だ。
街の門前に着くと、兵士……いや、騎士だな。騎士が三人待ち構えていた。
ここ、シーリンの街は、Aランク推奨・難攻不落の「ガヤの森」のすぐそば。
あの森はとても危険で、中には多種多様な魔物の巣があるらしい。
そう、実は僕達は凄く危険な場所にいたというわけだ。
もっとも、上位種の魔物は森の中心部にいるので、僕達がいた場所には比較的弱い魔物しか出なかった。
だが、森の強い魔物がいつ外に出てくるかわからない。そんな場所にあるからこそ、このシーリンの街には騎士団の支部がある。
その支部が警備するのが、今、僕達のいる西門だ。
「君! ガヤの森から来たのか?」
「ええ。そうです」
僕が素直に答えると、騎士は驚いたような顔をした。
まあ、危険な場所だしね。僕自身、強そうには見えないだろうし、仮に強かったとしてもそんな危険な場所に、小さな子供を連れて行ったりはしないよな、普通。
「欲しい薬草がありまして。それがガヤの森にあると聞いて、田舎からはるばるやって来たんです。森の奥まで行ってはいませんし、この子達も自衛ができる程度には強いので」
さすがに、神様に森の中へ飛ばされましたとは言えない。ただ、誤魔化すにしても事実を混ぜ込んで答えたほうがいいだろう。
実際、森の中心部には行っていないし、薬草も採取してきた。子供達が強いのも事実だ。
「その欲しい薬草は採れたのか?」
「ええ。運良く近場で手に入りました」
「そうか。あまり無茶はするなよ。それで、街に入るんだよな?」
「ご忠告ありがとうございます。もちろん街に行きたいのですが、ここからでも出入りはできるんですよね?」
普通、街の門は昼間なら開けっぱなしのはずだが、ここの門は固く閉ざされていた。だから、僕は念のために確認してみたのだ。
「場所が場所なだけに、この門を出入りする人間は少ないからな」
ああ、なるほど。そういうことですか。
閉まっている門を見ていた僕に、騎士がそう答えてくれた。
この門を通って行く場所といえばガヤの森だけだから、騎士関係者や高ランクの冒険者ぐらいしか利用しない。一般人は滅多に近づかないし、魔物の脅威もあるから、大きな門を開けっぱなしにはしていないのだろう。
ふと見れば、門の脇には通用口がある。普段はあれで事足りるってことか。
「身分証を見せてくれ」
「すみません。田舎の村から出てきたので、まだ身分証を持ってないんですよ」
「それなら、こっちに来てもらおう。検査と手続きをするのでな」
「はい。お手数ですが、お願いします」
「なに、それが俺達の仕事さ!」
騎士様に連れて行かれたのは、詰所のような小部屋だった。
到着するなり、目の前に手の平サイズの水晶を差し出される。
「まずはこの水晶を持ってくれ」
「はい」
僕は言われた通りに水晶を持つ。すると、水晶から淡く白い光が零れた。
これは犯罪歴を調べる魔道具で、罪人がこの水晶に触れると赤く光るそうだ。罪を犯すと称号に刻まれ、それに水晶が反応するらしい。
また、街で赤ちゃんが生まれた時には住民カードが発行され、魔力の登録も行われる。犯罪者になると、その住民カードの情報と犯罪記録が水晶板――膨大な情報が保管されている魔道具――を通して世界中の国々に行き渡り、犯罪者が街に入ろうとすれば即座にわかる仕組みとなっている。たとえ国外逃亡したとしても無駄ということだ。
「うん。問題ないな。次は子供に持たせてくれ」
アレンとエレナにも順番に水晶を持たせると、僕の時と同じく淡く白い光が零れた。
実は二人に水晶を持たせる時、少しドキドキした。アレンとエレナが罪を犯しているとは思わないが、この子達の称号が【????】であったので、水晶がどう反応するのか不安だったのだ。でも、問題はなかったので一安心。
身分証があれば通行料はかからないのだが、今回は一人200G(未成年者は半額)を請求された。
お金は《無限収納》の中だったが、僕はポケットに手を入れ、そこから出すふりをして400Gを支払った。
シルに知識を刷り込まれ、この世界に来た後でわかったのだが、時空魔法のスキルを持つ者自体が少ないらしい。だから、ここでおおっぴらに使うことはやめておいた。
対策としては、あとで擬装用のカバンを買って、マジックバッグを使っているように見せる予定だ。
ちなみに、エーテルディアのお金の単位はGで、
銅 貨=1G
大銅貨=10G
銀 貨=100G
大銀貨=1000G
金 貨=1万G
大金貨=10万G
白金貨=100万G
――という具合に、十進法で硬貨が変わる。
価値は、銅貨一枚で10円くらいだ。だから通行料は約2000円ってことになる。
僕の今の所持金は100万Gだから、およそ1000万円を持っている計算だ。シルってば太っ腹!
あと、不思議なことに《無限収納》の所持金の記載は〝G〟となっていて、どの硬貨でも自由に出すことができた。最初は、使いやすいように全部銅貨や銀貨に両替してあるのかな? と思ったが、違った。全額銅貨で出すことも、金貨で出すことも可能なのだ。なんと便利な……。
「これが仮の身分証だ。街を出る時にも必要になるから失くすなよ。それと、街での滞在が長くなる場合は正式な身分証を作ってくれ」
「はい。冒険者ギルドに登録して発行してもらう予定です」
「そうか。それなら登録が済み次第、仮の身分証はここに返しに来てくれよな」
「わかりました」
最後に親切な騎士様達におすすめの宿を聞いてから、街の中へと入った。
まずは宿を確保するために、騎士様に教えてもらった通りを進んだ。
この街は隣国に通じる場所にあるせいか、わりと大きく、結構な人が道を行き来していた。
こんなに大勢の人を見たのは初めてらしく、アレンとエレナは街に入ってから僕の腰にべったりとくっついている。若干ビクビクしていて、その仕草が可愛いのだが、少々歩きづらい。
そんな状態でしばらく歩いていると、『こまどり亭』と書かれた看板を見つけた。
ここだな、おすすめの宿は。
治安がそれなりに良くて値段が手頃な店、そう言って騎士様に教えてもらった宿だ。
扉を開けて中に入ると、四十代くらいのおばさんが出迎えてくれた。
「すみません。泊まりたいんですが、部屋は空いていますか?」
「いらっしゃいませ。空いていますよ。一泊一人400G、夕食と朝食付きで500Gです。お湯が欲しい場合は、別途で料金がかかります」
おばさんは丁寧に料金の説明をしてくれた。
「この子達も一緒に大丈夫ですか? 大人しい子達なので、ご迷惑はかけないと思いますが」
小さな子供は騒いだりぐずったりする可能性があり、それを嫌がって断られる場合もあるので、初めに聞いておく。
「ええ。大丈夫ですよ。小さい子ですし、寝台一つでいいんでしたら二人合わせて一人分のお代で結構です」
よかった。騎士様もそのことを織り込み済みで、宿を紹介してくれたのかもしれない。
しかも、子供料金! 割引してくれるなんて。
「アレン、エレナ。二人一緒の寝台でいいか?」
念のために聞くと、ずっとしがみついていた二人の手にさらに力がこもった。
う~ん? これは駄目ってことか?
「あらあら。二人ともお兄さんのことが大好きなんだねー。でしたら、大きな寝台の部屋もありますよ。そちらになさいますか?」
ツインではなく、ダブルベッドの部屋ってことかな?
この様子だと、別々の寝台で寝ることはできないっぽいな。
「そうですね。食事付きでそちらの部屋でお願いします」
料金は前払いだったので、とりあえず一週間分を支払ってしまった。騎士様のおすすめの宿だし、大丈夫だろう。
そして夕食までまだ時間があったので、とある施設の場所を聞いて、一旦宿を出ることにした。
◇ ◇ ◇
僕達が向かったのは神殿。それは街のほぼ中心にあった。
白を基調とした石造りの建物で、歴史があるそうだが未だその白さは保たれており、年月を感じさせない。壁を這う蔦が、何とも味わい深い雰囲気を醸し出している。
屋根の上には大きな鐘楼があり、ちょうど今、ゴーンッ、ゴーンッ……と、六度、街中に鐘の音が鳴り響いた。
鐘は毎日、決まった時間に決まった回数が鳴らされる。高価な魔道具である時計を所持しない人に、時間を知らせるためだ。
朝六時に一度目の鐘の音が響き、それから二時間ごとに音が一回ずつ増える。夜十時まで、一日九度、時刻を伝えるのだ。
一の鐘で起き、九の鐘で眠る。人々は、この鐘の音とともに生活している。
神殿の礼拝堂には、誰でも自由に出入りできる。中は結構な人数が入れるよう広々としていて、入り口からは奥の祭壇まで真っ直ぐに中央通路が延びていた。
通路の両脇には祭壇に向かって、大人が数人は座れそうな横長の椅子が均等に並んでいる。高い天井からは光が射し込み、礼拝堂内を明るく照らしていた。
――静寂。
そんな空気で包まれる祭壇の奥には、五体の石像が置かれている。
真ん中に女性の石像。これが創造神マリアノーラ様だ。
そのマリアノーラ様の石像を挟むように、左右に二体ずつ、男性の石像がある。
向かって右側にあるのが火神サラマンティール様と土神ノームドル様。左側に水神ウィンデル様と風神シルフィリール様――シルだ。
「少し、ここで待っててくれるか?」
僕はアレンとエレナを椅子に座らせると、シルの石像の前に立ってそれを見つめた。
ああ、シルだ。石像の姿形は、僕が見たシルと全く同じだった。
人々の間に伝わる神様の姿って、美化されたり、誇張されたりするものだが、エーテルディアでは真実の姿でちゃんと伝わっているらしい。
(シル~聞こえるか?)
僕は早速目を瞑ってシルに呼びかけてみた。
(巧さん、聞こえていますよ)
すぐにシルからの返答があった。ちゃんと声が届いたようだ。
(そちらの生活には慣れました?)
(今日、街に着いたばかりだからな。どうかと言われれば、まだ慣れてないと思う。でも、魔法や便利な道具のお蔭でさほど苦労はしていないよ)
(それなら良かったです)
シルの安堵した様子は、本当に僕のことを気にしていたからだろう。そんな感じだった。
心配してくれる人がいるっていいよな。なんだか少し温かい気持ちになる。
――しかし! それとこれは別だっ!
(それでな、シル)
(はい、何ですか?)
(僕に言っていない、もしくは言わなくちゃいけないことはないか?)
そう言うと、姿が見えなくても、シルがピキーンッ、と身体を硬直させたことが感じ取れた。
(なっ……何をっ、言っているのか、ぼ、僕には、わかりませ~ん)
……いや、思いっきり動揺しているし。
素知らぬ振りをするにしても、もう少しマシな演技をしようよ。
(ほほ~う……そうか……。わからないか。なら、仕方がない。せっかく懐いてくれているようだけど、シルがわからないなら可哀相だが子供達は孤児院にでも――)
(わっ、わぁ~!! 待って~!!)
随分、あっさりと落ちたな……。もう少しシラを切るかと思ったんだけどな~……。
(ごめんなさ~い)
あっ、見えないけど土下座してるな、これ。
(おかしいと思ったんだよ。最初にいた場所がAランク推奨の「ガヤの森」だし。いくらなんでも、そんな場所に送るなんて普通ならあり得ないだろ! でもそのわりには、森を出るまでに僕に対処できない魔物は現れなかった。さらに言えば、森の中に子供がいるなんておかしいしさっ! しかも種族【人族?】だよ? 僕のステータスにも似た表示があったし、初めはこの世界にはそれなりにいる種族なのかな~とか思ったけど、街に着いてから歩いている人を鑑定してみたら、普通に人族や獣人族って表示されるんだもん。完全にシルの差し金だと思ったさ。……で、実際のところどうなんだ?)
(うぅ~)
(泣いてないで説明してくれ。別に怒っているわけじゃないんだから)
シルは土下座の後、泣き出した。と、思う。
いやいや、あんた神様だよね? 一番……いや、一番はマリアノーラ様だから、二番目くらいには偉い人だよね? 何でそんなに脆いんだよ。
(ほら、答えは?)
(僕の口からは言えません……)
(……)
未だにメソメソとしているシルに促すも、シルは僕の予想外の言葉を口にした。
何だ? 「言えません」って……。しかも、シルからは、ね……。
ん~……口止めされている? 誰から?
いや……だとすると、シルがやっていることってまずいんじゃないか?
下手なことをして、本人(?)にバレたら厄介なことになるんじゃ……。
神であるシルに口止め、または行動の制限をかけられる存在なんて、僕が知る限りでは四人しかいない。
(なぁ、シル。風神、火神、水神、土神の間に、不可侵の領分とか……そういう取り決めはあるのか?)
(……あります)
そうか。あるのか……。となると、アレンとエレナはシル以外の神の関係者?
たぶんマリアノーラ様は違うと思う。もしそうなら、いくらシルだってもっと慎重に行動するだろう。
となると、火、水、土の三人の神の誰か、か……。
(ただ、その子達は普通の子ではなく、あのままにしておくことが危険だった……。それだけは言えます)
(わかった。これ以上は聞かない。ただ……僕はあの子達に干渉していいんだ?)
(巧さんは僕の眷属ではありますけど、エーテルディアで生活している分には普通の人間と変わらないので……そちらでやることに制限はありません)
(シルが僕に援助することにも問題はないのか?)
(はい。僕の眷属なのは変わりませんし、マリアノーラ様から祝福をいただいている巧さんを手助けするのは当然のことです)
(決まりの抜け道を利用したわけか……)
アレンとエレナは神の関係者。詳しいことが聞けない以上、それ以上はわからないが。
いずれにせよ――
(……僕の存在は、渡りに船だったか?)
(……怒って、ます……よね?)
(正直な話、陰でコソコソ企んだりしないで、最初から言ってくれれば……とは思っているな)
(本当にすみません……)
(もういいさ。何か困ったことがあれば、これからも頼っていいんだな?)
(はい! どんな些細なことでも構いません。いつでも連絡してください!)
(わかった。その時は頼む。……またな)
僕は、半ば強引にシルとの会話を終わらせる。
シル自身にどうしようもなく、やむを得ずこういう手段を取ったのだとは思うけれど、やはり利用されたという負の感情が拭いきれなかった。
決して、怒りや失望を抱いているわけではない。たぶん、心の整理が追いついていないだけだ。しばらく時間を置けば問題ないと思う。
落ち着いたら、もう一度シルと連絡を取って、目一杯の要求をしてみよう。それで今回のことは水に流すのがいい。
「アレン、エレナ。おいで」
深呼吸をしてひとまず冷静さを取り戻した僕は、振り返ってアレンとエレナを呼んだ。
すぐに僕のもとへと小走りで駆け寄ってくる二人を屈んで受け止め、そのまま抱き上げた。
「お待たせ。宿に戻ろうか」
楽しげに笑う二人を腕に抱いたまま神殿を後にし、夕日が沈みかけ、朱く染まる街をゆっくりと歩いた。
思っていたより時間はかかったものの、無事にガヤの森を抜けることができて良かった!
地図で確認はしていたが、想像していた以上に森は広大だった。とはいっても、ペースはゆっくりめだったし、森に生っていた木の実や薬草を採取しながら歩いていたんだけどね。
僕は初め、森の東端といえる位置にいたのに、そこから東へと歩いて四日もかかった。森の奥や反対側がどうなっているかはわからないが、森の端から端までは結構な距離になる。たぶん、月単位でかかるんじゃないかな。
何度か魔物とも遭遇したが、アレンとエレナに正直に「僕に倒させてほしい」とお願いして、僕が魔法で倒すようにした。
言えばちゃんとわかってくれる子達で良かった!
あっ、お蔭で僕のレベルも11まで上がった!
ちなみに、エーテルディアでの一週間は、地球とは違って六日間だ。順に、光の日、火の日、水の日、風の日、土の日、闇の日――と呼ばれる。
二十四時間で一日、六日で一週間、五週で一ヶ月だ。一年は十二ヶ月だから、年間で三百六十日になる。
月は日本と同じように、一の月、二の月、三の月……と呼ばれ、一~三の月が春、四~六の月が夏、七~九の月が秋、十~十二の月が冬となる。
日本ほどではないが緩やかな四季があって、大陸の東に行くほど暖かく、西に行くほど寒い。
つまり、東の地の夏が一番暑く、西の地の冬が最も寒い、ということになる。
ちなみに今は、三の月になったところで、僕らのいるガディア国はとても過ごしやすい陽気だ。
森を出たら、何もない草原が広がっていた。かろうじて街道と思しきものはあったので、そこを道なりに歩き続け、四時間ほどで街が見えてきた。シーリンの街だ。
街の門前に着くと、兵士……いや、騎士だな。騎士が三人待ち構えていた。
ここ、シーリンの街は、Aランク推奨・難攻不落の「ガヤの森」のすぐそば。
あの森はとても危険で、中には多種多様な魔物の巣があるらしい。
そう、実は僕達は凄く危険な場所にいたというわけだ。
もっとも、上位種の魔物は森の中心部にいるので、僕達がいた場所には比較的弱い魔物しか出なかった。
だが、森の強い魔物がいつ外に出てくるかわからない。そんな場所にあるからこそ、このシーリンの街には騎士団の支部がある。
その支部が警備するのが、今、僕達のいる西門だ。
「君! ガヤの森から来たのか?」
「ええ。そうです」
僕が素直に答えると、騎士は驚いたような顔をした。
まあ、危険な場所だしね。僕自身、強そうには見えないだろうし、仮に強かったとしてもそんな危険な場所に、小さな子供を連れて行ったりはしないよな、普通。
「欲しい薬草がありまして。それがガヤの森にあると聞いて、田舎からはるばるやって来たんです。森の奥まで行ってはいませんし、この子達も自衛ができる程度には強いので」
さすがに、神様に森の中へ飛ばされましたとは言えない。ただ、誤魔化すにしても事実を混ぜ込んで答えたほうがいいだろう。
実際、森の中心部には行っていないし、薬草も採取してきた。子供達が強いのも事実だ。
「その欲しい薬草は採れたのか?」
「ええ。運良く近場で手に入りました」
「そうか。あまり無茶はするなよ。それで、街に入るんだよな?」
「ご忠告ありがとうございます。もちろん街に行きたいのですが、ここからでも出入りはできるんですよね?」
普通、街の門は昼間なら開けっぱなしのはずだが、ここの門は固く閉ざされていた。だから、僕は念のために確認してみたのだ。
「場所が場所なだけに、この門を出入りする人間は少ないからな」
ああ、なるほど。そういうことですか。
閉まっている門を見ていた僕に、騎士がそう答えてくれた。
この門を通って行く場所といえばガヤの森だけだから、騎士関係者や高ランクの冒険者ぐらいしか利用しない。一般人は滅多に近づかないし、魔物の脅威もあるから、大きな門を開けっぱなしにはしていないのだろう。
ふと見れば、門の脇には通用口がある。普段はあれで事足りるってことか。
「身分証を見せてくれ」
「すみません。田舎の村から出てきたので、まだ身分証を持ってないんですよ」
「それなら、こっちに来てもらおう。検査と手続きをするのでな」
「はい。お手数ですが、お願いします」
「なに、それが俺達の仕事さ!」
騎士様に連れて行かれたのは、詰所のような小部屋だった。
到着するなり、目の前に手の平サイズの水晶を差し出される。
「まずはこの水晶を持ってくれ」
「はい」
僕は言われた通りに水晶を持つ。すると、水晶から淡く白い光が零れた。
これは犯罪歴を調べる魔道具で、罪人がこの水晶に触れると赤く光るそうだ。罪を犯すと称号に刻まれ、それに水晶が反応するらしい。
また、街で赤ちゃんが生まれた時には住民カードが発行され、魔力の登録も行われる。犯罪者になると、その住民カードの情報と犯罪記録が水晶板――膨大な情報が保管されている魔道具――を通して世界中の国々に行き渡り、犯罪者が街に入ろうとすれば即座にわかる仕組みとなっている。たとえ国外逃亡したとしても無駄ということだ。
「うん。問題ないな。次は子供に持たせてくれ」
アレンとエレナにも順番に水晶を持たせると、僕の時と同じく淡く白い光が零れた。
実は二人に水晶を持たせる時、少しドキドキした。アレンとエレナが罪を犯しているとは思わないが、この子達の称号が【????】であったので、水晶がどう反応するのか不安だったのだ。でも、問題はなかったので一安心。
身分証があれば通行料はかからないのだが、今回は一人200G(未成年者は半額)を請求された。
お金は《無限収納》の中だったが、僕はポケットに手を入れ、そこから出すふりをして400Gを支払った。
シルに知識を刷り込まれ、この世界に来た後でわかったのだが、時空魔法のスキルを持つ者自体が少ないらしい。だから、ここでおおっぴらに使うことはやめておいた。
対策としては、あとで擬装用のカバンを買って、マジックバッグを使っているように見せる予定だ。
ちなみに、エーテルディアのお金の単位はGで、
銅 貨=1G
大銅貨=10G
銀 貨=100G
大銀貨=1000G
金 貨=1万G
大金貨=10万G
白金貨=100万G
――という具合に、十進法で硬貨が変わる。
価値は、銅貨一枚で10円くらいだ。だから通行料は約2000円ってことになる。
僕の今の所持金は100万Gだから、およそ1000万円を持っている計算だ。シルってば太っ腹!
あと、不思議なことに《無限収納》の所持金の記載は〝G〟となっていて、どの硬貨でも自由に出すことができた。最初は、使いやすいように全部銅貨や銀貨に両替してあるのかな? と思ったが、違った。全額銅貨で出すことも、金貨で出すことも可能なのだ。なんと便利な……。
「これが仮の身分証だ。街を出る時にも必要になるから失くすなよ。それと、街での滞在が長くなる場合は正式な身分証を作ってくれ」
「はい。冒険者ギルドに登録して発行してもらう予定です」
「そうか。それなら登録が済み次第、仮の身分証はここに返しに来てくれよな」
「わかりました」
最後に親切な騎士様達におすすめの宿を聞いてから、街の中へと入った。
まずは宿を確保するために、騎士様に教えてもらった通りを進んだ。
この街は隣国に通じる場所にあるせいか、わりと大きく、結構な人が道を行き来していた。
こんなに大勢の人を見たのは初めてらしく、アレンとエレナは街に入ってから僕の腰にべったりとくっついている。若干ビクビクしていて、その仕草が可愛いのだが、少々歩きづらい。
そんな状態でしばらく歩いていると、『こまどり亭』と書かれた看板を見つけた。
ここだな、おすすめの宿は。
治安がそれなりに良くて値段が手頃な店、そう言って騎士様に教えてもらった宿だ。
扉を開けて中に入ると、四十代くらいのおばさんが出迎えてくれた。
「すみません。泊まりたいんですが、部屋は空いていますか?」
「いらっしゃいませ。空いていますよ。一泊一人400G、夕食と朝食付きで500Gです。お湯が欲しい場合は、別途で料金がかかります」
おばさんは丁寧に料金の説明をしてくれた。
「この子達も一緒に大丈夫ですか? 大人しい子達なので、ご迷惑はかけないと思いますが」
小さな子供は騒いだりぐずったりする可能性があり、それを嫌がって断られる場合もあるので、初めに聞いておく。
「ええ。大丈夫ですよ。小さい子ですし、寝台一つでいいんでしたら二人合わせて一人分のお代で結構です」
よかった。騎士様もそのことを織り込み済みで、宿を紹介してくれたのかもしれない。
しかも、子供料金! 割引してくれるなんて。
「アレン、エレナ。二人一緒の寝台でいいか?」
念のために聞くと、ずっとしがみついていた二人の手にさらに力がこもった。
う~ん? これは駄目ってことか?
「あらあら。二人ともお兄さんのことが大好きなんだねー。でしたら、大きな寝台の部屋もありますよ。そちらになさいますか?」
ツインではなく、ダブルベッドの部屋ってことかな?
この様子だと、別々の寝台で寝ることはできないっぽいな。
「そうですね。食事付きでそちらの部屋でお願いします」
料金は前払いだったので、とりあえず一週間分を支払ってしまった。騎士様のおすすめの宿だし、大丈夫だろう。
そして夕食までまだ時間があったので、とある施設の場所を聞いて、一旦宿を出ることにした。
◇ ◇ ◇
僕達が向かったのは神殿。それは街のほぼ中心にあった。
白を基調とした石造りの建物で、歴史があるそうだが未だその白さは保たれており、年月を感じさせない。壁を這う蔦が、何とも味わい深い雰囲気を醸し出している。
屋根の上には大きな鐘楼があり、ちょうど今、ゴーンッ、ゴーンッ……と、六度、街中に鐘の音が鳴り響いた。
鐘は毎日、決まった時間に決まった回数が鳴らされる。高価な魔道具である時計を所持しない人に、時間を知らせるためだ。
朝六時に一度目の鐘の音が響き、それから二時間ごとに音が一回ずつ増える。夜十時まで、一日九度、時刻を伝えるのだ。
一の鐘で起き、九の鐘で眠る。人々は、この鐘の音とともに生活している。
神殿の礼拝堂には、誰でも自由に出入りできる。中は結構な人数が入れるよう広々としていて、入り口からは奥の祭壇まで真っ直ぐに中央通路が延びていた。
通路の両脇には祭壇に向かって、大人が数人は座れそうな横長の椅子が均等に並んでいる。高い天井からは光が射し込み、礼拝堂内を明るく照らしていた。
――静寂。
そんな空気で包まれる祭壇の奥には、五体の石像が置かれている。
真ん中に女性の石像。これが創造神マリアノーラ様だ。
そのマリアノーラ様の石像を挟むように、左右に二体ずつ、男性の石像がある。
向かって右側にあるのが火神サラマンティール様と土神ノームドル様。左側に水神ウィンデル様と風神シルフィリール様――シルだ。
「少し、ここで待っててくれるか?」
僕はアレンとエレナを椅子に座らせると、シルの石像の前に立ってそれを見つめた。
ああ、シルだ。石像の姿形は、僕が見たシルと全く同じだった。
人々の間に伝わる神様の姿って、美化されたり、誇張されたりするものだが、エーテルディアでは真実の姿でちゃんと伝わっているらしい。
(シル~聞こえるか?)
僕は早速目を瞑ってシルに呼びかけてみた。
(巧さん、聞こえていますよ)
すぐにシルからの返答があった。ちゃんと声が届いたようだ。
(そちらの生活には慣れました?)
(今日、街に着いたばかりだからな。どうかと言われれば、まだ慣れてないと思う。でも、魔法や便利な道具のお蔭でさほど苦労はしていないよ)
(それなら良かったです)
シルの安堵した様子は、本当に僕のことを気にしていたからだろう。そんな感じだった。
心配してくれる人がいるっていいよな。なんだか少し温かい気持ちになる。
――しかし! それとこれは別だっ!
(それでな、シル)
(はい、何ですか?)
(僕に言っていない、もしくは言わなくちゃいけないことはないか?)
そう言うと、姿が見えなくても、シルがピキーンッ、と身体を硬直させたことが感じ取れた。
(なっ……何をっ、言っているのか、ぼ、僕には、わかりませ~ん)
……いや、思いっきり動揺しているし。
素知らぬ振りをするにしても、もう少しマシな演技をしようよ。
(ほほ~う……そうか……。わからないか。なら、仕方がない。せっかく懐いてくれているようだけど、シルがわからないなら可哀相だが子供達は孤児院にでも――)
(わっ、わぁ~!! 待って~!!)
随分、あっさりと落ちたな……。もう少しシラを切るかと思ったんだけどな~……。
(ごめんなさ~い)
あっ、見えないけど土下座してるな、これ。
(おかしいと思ったんだよ。最初にいた場所がAランク推奨の「ガヤの森」だし。いくらなんでも、そんな場所に送るなんて普通ならあり得ないだろ! でもそのわりには、森を出るまでに僕に対処できない魔物は現れなかった。さらに言えば、森の中に子供がいるなんておかしいしさっ! しかも種族【人族?】だよ? 僕のステータスにも似た表示があったし、初めはこの世界にはそれなりにいる種族なのかな~とか思ったけど、街に着いてから歩いている人を鑑定してみたら、普通に人族や獣人族って表示されるんだもん。完全にシルの差し金だと思ったさ。……で、実際のところどうなんだ?)
(うぅ~)
(泣いてないで説明してくれ。別に怒っているわけじゃないんだから)
シルは土下座の後、泣き出した。と、思う。
いやいや、あんた神様だよね? 一番……いや、一番はマリアノーラ様だから、二番目くらいには偉い人だよね? 何でそんなに脆いんだよ。
(ほら、答えは?)
(僕の口からは言えません……)
(……)
未だにメソメソとしているシルに促すも、シルは僕の予想外の言葉を口にした。
何だ? 「言えません」って……。しかも、シルからは、ね……。
ん~……口止めされている? 誰から?
いや……だとすると、シルがやっていることってまずいんじゃないか?
下手なことをして、本人(?)にバレたら厄介なことになるんじゃ……。
神であるシルに口止め、または行動の制限をかけられる存在なんて、僕が知る限りでは四人しかいない。
(なぁ、シル。風神、火神、水神、土神の間に、不可侵の領分とか……そういう取り決めはあるのか?)
(……あります)
そうか。あるのか……。となると、アレンとエレナはシル以外の神の関係者?
たぶんマリアノーラ様は違うと思う。もしそうなら、いくらシルだってもっと慎重に行動するだろう。
となると、火、水、土の三人の神の誰か、か……。
(ただ、その子達は普通の子ではなく、あのままにしておくことが危険だった……。それだけは言えます)
(わかった。これ以上は聞かない。ただ……僕はあの子達に干渉していいんだ?)
(巧さんは僕の眷属ではありますけど、エーテルディアで生活している分には普通の人間と変わらないので……そちらでやることに制限はありません)
(シルが僕に援助することにも問題はないのか?)
(はい。僕の眷属なのは変わりませんし、マリアノーラ様から祝福をいただいている巧さんを手助けするのは当然のことです)
(決まりの抜け道を利用したわけか……)
アレンとエレナは神の関係者。詳しいことが聞けない以上、それ以上はわからないが。
いずれにせよ――
(……僕の存在は、渡りに船だったか?)
(……怒って、ます……よね?)
(正直な話、陰でコソコソ企んだりしないで、最初から言ってくれれば……とは思っているな)
(本当にすみません……)
(もういいさ。何か困ったことがあれば、これからも頼っていいんだな?)
(はい! どんな些細なことでも構いません。いつでも連絡してください!)
(わかった。その時は頼む。……またな)
僕は、半ば強引にシルとの会話を終わらせる。
シル自身にどうしようもなく、やむを得ずこういう手段を取ったのだとは思うけれど、やはり利用されたという負の感情が拭いきれなかった。
決して、怒りや失望を抱いているわけではない。たぶん、心の整理が追いついていないだけだ。しばらく時間を置けば問題ないと思う。
落ち着いたら、もう一度シルと連絡を取って、目一杯の要求をしてみよう。それで今回のことは水に流すのがいい。
「アレン、エレナ。おいで」
深呼吸をしてひとまず冷静さを取り戻した僕は、振り返ってアレンとエレナを呼んだ。
すぐに僕のもとへと小走りで駆け寄ってくる二人を屈んで受け止め、そのまま抱き上げた。
「お待たせ。宿に戻ろうか」
楽しげに笑う二人を腕に抱いたまま神殿を後にし、夕日が沈みかけ、朱く染まる街をゆっくりと歩いた。
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