19 / 330
2巻
2-3
遠征の事後処理的なものは全て終わったので、僕達はしばらくのんびり過ごすことにした。
今日は宿の部屋でアレンとエレナに数字を教えている。
「「いーち、にぃー、さーん、しぃー、ごー……じゅう!」」
「はい、よくできました。これが銅貨。銅貨が十枚で次は?」
「「これ!」」
二人とも、びしり、と迷わず大銅貨を指さす。
「当たり~」
「「えへへ~」」
僕が正解を告げると、アレンとエレナは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、この大銅貨が十枚で?」
「「んとね、これー」」
次も二人は迷わず銀貨を指さす。
「完璧だね!」
またまた正解で、僕は二人の頭を撫でてあげる。
最初は、一から百まで数えられるようになればいいかなぁ……なんて思ったんだけどさ、二人はあっという間に覚えちゃったんだよね。
だから、ちょっと欲張って万の単位まで教えちゃった!
ついでに、硬貨を十枚ずつ並べて、銅貨十枚で大銅貨、大銅貨十枚で銀貨……と、ひとまず金貨までの五種類を教えてみたら、二人は完璧に覚えたようだ。
「じゃあ、54Gを用意してみようか」
次は少し難易度を上げて適当な金額を言い、その分の硬貨を二人に選ばせてみる。
「「うん。んとね……――はいっ!」」
アレンとエレナは、大銅貨五枚と銅貨四枚をきっちり数えて差し出してきた。
「当たり~」
「「やったー」」
「じゃあ、次は~……123Gね」
「「うん!」」
初めはおずおずと僕の様子を窺うようにして数えた硬貨を差し出していたが、何度かやっているうちに要領を掴んだようで、自信たっぷりな表情になってきた。
「よくできました」と言って頭を撫でてあげると、二人は嬉しそうにはにかむ。
本当に可愛いなっ!!
「10Gのリーゴの実と16Gのオレンの実を一個ずつ買ったら、いくらだ?」
「「ん~……26G!」」
「当たり~。じゃあ、それをこれで買ったら?」
今度は買い物を想定して、26Gに対して銀貨一枚を渡してみた。
「「んとね……これ!」」
すると、二人が返してきたのは大銅貨七枚と銅貨四枚。
足し算だけではなく、引き算までできるようになったんだよ。凄くない?
こうなったら、やっぱり次は実践をさせてみたくなるよね。
というわけで、僕達は早速商店街にやって来た。
「アレン、エレナ。ここで欲しいものを買おうか」
入ったのは、乾物を扱っている店。アレンとエレナがよくおやつで食べているドライフルーツや、干し肉なんかが売られている。
売り子をしているのは中年の女性で、この人は前に買い物に来た時、アレンとエレナのことを優しそうな目で見ていた。なので、この子達が買い物のやりとりをしても、温かく対応してくれるだろう。
「いらっしゃい。欲しいものは見つかったかい?」
案の定、女性は屈んで子供達と目線を合わせ、商品が入った瓶を見やすいように取ってくれたり、味の説明をしてくれたりしている。
「アレン、エレナ、欲しいものは決まったかい?」
「「うん!」」
「じゃあ、アレンから『ください』ってお願いしようか」
「うん! アレン、これ! ください!」
アレンが杏っぽい実のドライフルーツが入った瓶を指しながら言った。
「はい。シュリの実だね。何個、欲しいのかな?」
「えっとね……」
アレンは女性に個数を問われて困ったらしく、僕の方をちらりと見た。なので、僕は手のひらを見せて〝五〟と示す。
「……ごこ!」
すると、アレンは僕の意図を正確に読み取り、女性にしっかりと手のひらを開いて見せて個数を答えた。
「五個だね。お代は35Gになります」
「んとね……」
「あら……?」
女性はアレンが自分の鞄からお金を取り出そうとしていることに驚き、僕に視線を送ってきた。
なので、僕はお願いの意味を込めて会釈する。
それでちゃんと意味が通じたらしく、女性はそのままアレンに向き合ってくれた。
「はい!」
「まあ! ピッタリ! えらいわね~」
アレンは財布代わりの巾着から取り出した硬貨を、女性に渡した。
受け取った女性はぴったりの金額に驚きながらも、アレンを褒めてくれる。
「次はエレナね」
「うん! エレナはこれ! ください!」
「はい。お嬢ちゃんはリーゴの実ね。何個、欲しいのかな?」
「ごこ!」
エレナはリーゴの実のドライフルーツを選び、自信いっぱいに開いた手のひらを掲げる。
エレナは先程のやりとりを見ていたので、アレンの時よりもスムーズだった。
「はい。じゃあ、お代は30Gになります」
「んとね……はい!」
「はい。ちょうどね。えらいわ~」
女性はエレナのことも褒めてくれた。平等に接してくれて助かります。
「「できたー?」」
「うん。よくできたねー。えらいえらい」
二人は買った品をしっかりと持って僕に抱きついてきたので、きちんと褒めて撫でておく。
「お付き合いくださり、ありがとうございました」
「あらあら、このくらい何てことないわよ~」
アレンとエレナの買い物につき合ってくれた女性にお礼を言うと、女性は「気にしないで」と手をひらひらと振った。
「でも、小さいのに凄いわね~。もうお金の計算ができるなんて~」
「そうですね。僕も賢い子達だと思います」
「確かに賢そうね。それに、とっても素直そう。きっと、お兄さんの育て方がいいのね~」
「……そう、でしょうか?」
「ええ! 五人の子供を育て上げた私が言うんだから間違いないわよ!」
「あ、ありがとうございます」
照れくさかったが、そう言ってもらえて嬉しかった。そして、僕のアレンとエレナへの接し方が間違いではなかったと思い、少しだけ安心する。
褒めてくれたお礼というわけではないけれど、ドライフルーツはもちろん、木の実や干し肉などを購入してから店を後にした。
アレンとエレナの買い物実践が終わり、次は本屋に向かう。
目的は、魔法の指南書とか基礎的な説明書とか……魔法関連の本だ。
ガヤの森の遠征中にステータスをチェックしたら、いつの間にか【水魔法】のスキルを取得していたからね。
せっかくだし水魔法も使えるようになっておきたいんだけど、シルのおかげで基礎から応用までほぼ全ての知識がある風魔法と違って、水魔法については基礎知識がほんの少しだけだ。
そもそも、魔法は体に刷り込まれた感覚に頼って使っている状態なので、風魔法の技術を水魔法に応用することもできない。
だから、魔法の指南書を探して読もうと思った。
それに、水魔法といえばアレンとエレナだ。二人も【水魔法】のスキルを持っている。
僕が二人に魔法の使い方を教えられたらいいんだけど、理屈や技術を理解しているわけじゃないからできないんだよな~。
他にも、小説や童話といった物語の本があれば買おうと目論んでいる。
エーテルディアに来てからというもの、僕はまだ読書をしていない。日本にいた頃は毎月、十数冊と本を読んでいたので、そろそろ恋しくなってきた。
そうこう考えているうちに、本屋に到着。早速、中に入る。
「「いっぱーい」」
「そうだね。いっぱいあるねー」
店内には、僕が思っていた以上に数多くの本が並べられていた。
薬草、魔物の絵や特徴などが書かれた本、詩集や聖典。もちろん小説のような物語の本もある。タイトルを見る限り、物語の内容は主に冒険譚やお姫様を主人公とした恋愛ものかな? 結構、種類はありそうだ。
「さて、いいのはあるかな~」
本棚を物色していると、奥から白髪のお婆さんが出てきた。店の人だな。
「おお、いらっしゃい。お客さんかい?」
「すみません。勝手にお邪魔して見ていました」
「気にせんでええよ。何かお探しかい?」
ここでは本を検索することはできないから、聞いてしまったほうが早いだろう。
「ええ、いろいろ欲しいんですが……。えっと、魔法の指南書みたいなものや呪文についての本なんてありますか?」
「ああ、あるよ~。ちょっと待っててな~」
欲しい本を尋ねてみると、お婆さんはすぐに頷く。ただ、店の奥の方にあるらしく、取りに向かってくれた。
「基礎について書かれているのがこれだね。こっちは応用編。で、これが現存する魔法の呪文について書かれているものだ」
「ありがとうございます」
お婆さんが持ってきてくれた本を受け取り、表紙にあるタイトルを見ると――『魔法の基礎』『魔法の応用』『呪文一覧』と書かれていた。
うん、実に的確なチョイスだ。この三冊は購入決定だな。
「お眼鏡に適ったかね?」
「はい。三冊ともいただきます。おいくらですか?」
「どれも一冊大銀貨二枚、全部で6000Gだね」
「はい、わかりました」
エーテルディアにも植物から紙を作る技術があるため、紙は比較的安価で手に入れることができる。本も一般的なものなら銀貨数枚という程度だ。
しかし、魔法関連の本は少々高い。まあ、そうは言っても一般の人に絶対に手の届かないような値段ではないけれど。
「他の本も見たいので、代金はまとめてで構わないですか?」
「ええよ、ええよ。存分に見ていって~」
「ありがとうございます」
お婆さんの許しを得たので、僕はさらに店内を物色してみることにする。
適当な本を手に取ってパラパラと捲る。それを何冊か繰り返していると、アレンとエレナが興味を持ったらしく、一生懸命背伸びをして僕の手の中にある本を覗こうとしていた。
「見てみる?」
「「うん、みるー」」
僕が屈んでアレンとエレナに見せながらページを捲っていくと、二人は紙面を目で追っていた。
「これが本で、ここに書かれているのが文字だよ」
「「もじー?」」
「そうだよ。アレンとエレナも読めるように、文字の勉強をするかい?」
「「するー」」
二人は数字を覚えたばかりなので、文字の勉強は少し早い気もするが、興味を持っているなら教えてもいいだろう。
「ほっほっほっ~。元気のいい子達じゃな~。文字習得用の教本と簡単な絵本もあるんじゃが、持ってこようかい?」
「お願いしていいですか?」
「ええよ、ええよ。婆に任せておき~」
エーテルディアにも、文字を勉強するための教材があるんだな。それがあれば教えやすいだろう。
お婆さんが文字を学習する本と絵本を選んでくれている間に、僕も数冊の小説を手に取った。『クルーベルの竜殺し』『村人から竜騎士になった男』『神雷の勇者』などなど、冒険ものを中心に。
あと、僕には必要ないが、あればアレンとエレナに説明しやすいと思って、『植物全集』『魔物全集』『薬草と毒草』など、百科事典っぽい本なども追加する。
結局、大量の本を買い込んでしまったが、大きな稼ぎがあったばかりなので問題はない!
第二章 依頼を受けよう。
僕達はここ数日、街の中で過ごしたり、ピクニックに出かけたりして、のんびりとした時間を過ごしていた。なので、今日は久しぶりに依頼を受けようかと思う。
アレンとエレナを連れて、冒険者ギルドにやって来た。
「さて、何を受けようかなぁ~」
ランクが上がったから、受けられる依頼の幅が広がったんだよな。
とりあえず依頼書をひと通り見ることにし、依頼ボードの前で物色していると――
「「あれー」」
「ん?」
アレンとエレナが僕の服を引っ張り、低ランクの依頼書が貼り出されているエリアを指さした。
……えっと、二人が指しているのはあれかな? 迷い猫を探すってやつ。
その依頼書は、数多くある素材採取や魔物討伐の依頼書に押しのけられるように、端の方にぽつんと貼られていた。
それも低い位置にあったため、アレンとエレナの目に留まったのだろう。
探している猫の特徴を示したイラストも描かれていたので、なおさら興味が惹かれたに違いない。
「絵の猫を探してください、だって。あれが気になるの?」
「「うん」」
探しているのは、黒の仔猫。赤い首輪をしていて、靴下を履いているみたいに手足の先の部分だけが白い、というわかりやすい特徴の猫だ。
報酬は子供のお小遣いになるかどうかという程度のもので、受付手続きをする必要はなく、見つけたら連れてくるだけでいいらしい。
「探すのなら、街の中をいっぱい歩かなくちゃいけないよ?」
「「だいじょーぶ!」」
「そっか。じゃあ、今日はこの猫を探すかい?」
「「うん!」」
今日は仔猫探しをすることに決まった。
依頼主の住居が南地区にあるということなので、そこを中心に探すのがいいだろう。
そんなわけで、僕達は早速南地区へ向かうことにした。
「アレン、エレナ、描かれていた絵は覚えているね? 手足が白い黒猫。名前は『ミーナ』だよ」
「「うん! みーな!」」
「よし。じゃあ、ここら辺から探すぞー」
「「おー!」」
南地区に到着した僕達は、メインの通りから外れた場所でミーナの捜索を開始した。
「「みーなー、どこー」」
アレンとエレナは張り切ってミーナを探している。建物の隙間や道に置かれている木箱の裏など、ミーナのいそうな場所を、名前を呼びながら覗いて回った。
「「みーなー? いなーい?」」
探し始めてから気づいた……。
この子達ならば、一生懸命に探す姿は微笑ましい光景で済むんだが、僕がやると不審者になってしまうんじゃないか?
いい年した男が、建物を覗いて歩くのは怪しいに決まっている。うん、僕は積極的に探すのは止めたほうがいいな。覗き込んだりするのは二人に任せて、僕は周囲に気を配っておこう!
「「あっ!」」
アレンとエレナが前方にある木箱の影に黒猫の姿を見つけ、駆けていった。
「「あぅ~。みーな、ちがう……」」
「あ~、手足の先が白くないもんなー」
しかし、その黒猫は残念ながら全身真っ黒の別の猫だった。
「「うぅ~」」
目的の猫はなかなか見つからない。
それでも、アレンとエレナはミーナを探して街の中を歩き回った。
「いないな~」
「「むぅ~」」
休憩を挟んでいるものの、もう既に結構な時間を歩き回っている。
それでも目的の猫は見つからず、アレンとエレナは少しだけふて腐れて頬を膨らませていた。
「どうする? もう、探すのを止めようか?」
普通の子供ならとっくに飽きるか、駄々を捏ねるかしていてもおかしくない。だから、アレンとエレナがここで止めると言ったって、よく頑張ったと褒めてあげても問題ないと思う。
しかし、アレンもエレナも首を横に振った。
「「やー。さがすー」」
二人はまだ諦めないようだ。
「そうか。じゃあ、頑張ろう」
僕はアレンとエレナの頭を撫でながら、探し方を変えたほうがいいかもしれないと考えていた。
僕達は今まで、虱潰しとまではいかないが、ある程度道を順番通りに見て歩いていた。
しかし、それは間違っていたんだろうな、と改めて思ったのだ。
「アレン、エレナ。どっちにミーナはいそう?」
「「あっちー」」
まあ簡単に言えば、迷宮と同じようにアレンとエレナの勘に頼って探す、という方法だ。
二人に行きたい方向を聞いてみると、当然のように同じ方向を示した。
最初からこの方法で探せば良かったかもな。
失敗したなぁ~、と思いつつも気を取り直して、アレンとエレナが行きたいと言うままに歩いてみると――
「「あ! いたー!」」
「いた?」
すぐに成果があった。アレンとエレナが目的の猫を見つけたようだ。
「えっと……」
「「あそこー」」
「ああ、本当だ。ミーナっぽいな」
確かに手足の白い黒猫が、横倒しになっている廃材みたいな樽の中で寝そべっている。
「急に近づくと驚いちゃうから、ゆっくり行くんだよ?」
「「うん」」
アレンとエレナは、じわじわと樽に近づいていく。
「「み~なぁ~」」
アレンとエレナは樽の正面の少し離れた位置でしゃがんで、小さな声でミーナを呼び始めた。
だが、ミーナは警戒しているのか、樽の中からなかなか出てこない。
「みーな」
「おいでー」
アレンとエレナはミーナを怯えさせないように、優しく呼びかけ続けた。
「「おいで~」」
「……にゃ~」
「「きたー」」
アレンとエレナが焦らず時間をかけて呼び続けると、ミーナがゆっくりと樽から出て、二人の前まで歩いてきた。そして、差し出していた二人の手にすり寄る。
赤い首輪には『ミーナ』と名が入っているので、僕達が探していた猫で間違いないようだ。
「あ~、お腹が空いているのかな?」
アレンとエレナにすり寄ったミーナは、ペロペロと一生懸命に二人の手を舐めている。
「「おなか、すいたー?」」
「たぶんね」
「「おにーちゃん、ごはーん!」」
「はいはい。ミルクでいいかな?」
アレンとエレナに催促された僕は、《無限収納》から取り出したお皿にミルクを注いで地面に置いた。
すると、お皿に近づいたミーナはゆっくりとミルクを舐め始める。
「「のんでるー」」
だいぶお腹が空いているのか、ミーナは無我夢中でミルクを飲み続けた。
幸い、衰弱はしていないようなので、お腹が満たされれば元気になるだろう。
「ごはーん」
「おわったー?」
「にゃ~」
「「いいこ~」」
エレナが抱き上げたミーナの頭を、アレンは優しく撫でる。
「元気になったね。じゃあ、ギルドにミーナを届けようか」
「「うん!」」
ギルドに戻ってミーナを見つけたことを伝えると、すぐに飼い主へ連絡が行き、駆けつけたその女性とともにミーナは家へ帰っていった。
「「よかったね~」」
嬉しそうに飼い主にすり寄るミーナの様子を、アレンとエレナはとても満足そうな笑顔で見送っていた。
◇ ◇ ◇
今日は宿の部屋でアレンとエレナに数字を教えている。
「「いーち、にぃー、さーん、しぃー、ごー……じゅう!」」
「はい、よくできました。これが銅貨。銅貨が十枚で次は?」
「「これ!」」
二人とも、びしり、と迷わず大銅貨を指さす。
「当たり~」
「「えへへ~」」
僕が正解を告げると、アレンとエレナは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、この大銅貨が十枚で?」
「「んとね、これー」」
次も二人は迷わず銀貨を指さす。
「完璧だね!」
またまた正解で、僕は二人の頭を撫でてあげる。
最初は、一から百まで数えられるようになればいいかなぁ……なんて思ったんだけどさ、二人はあっという間に覚えちゃったんだよね。
だから、ちょっと欲張って万の単位まで教えちゃった!
ついでに、硬貨を十枚ずつ並べて、銅貨十枚で大銅貨、大銅貨十枚で銀貨……と、ひとまず金貨までの五種類を教えてみたら、二人は完璧に覚えたようだ。
「じゃあ、54Gを用意してみようか」
次は少し難易度を上げて適当な金額を言い、その分の硬貨を二人に選ばせてみる。
「「うん。んとね……――はいっ!」」
アレンとエレナは、大銅貨五枚と銅貨四枚をきっちり数えて差し出してきた。
「当たり~」
「「やったー」」
「じゃあ、次は~……123Gね」
「「うん!」」
初めはおずおずと僕の様子を窺うようにして数えた硬貨を差し出していたが、何度かやっているうちに要領を掴んだようで、自信たっぷりな表情になってきた。
「よくできました」と言って頭を撫でてあげると、二人は嬉しそうにはにかむ。
本当に可愛いなっ!!
「10Gのリーゴの実と16Gのオレンの実を一個ずつ買ったら、いくらだ?」
「「ん~……26G!」」
「当たり~。じゃあ、それをこれで買ったら?」
今度は買い物を想定して、26Gに対して銀貨一枚を渡してみた。
「「んとね……これ!」」
すると、二人が返してきたのは大銅貨七枚と銅貨四枚。
足し算だけではなく、引き算までできるようになったんだよ。凄くない?
こうなったら、やっぱり次は実践をさせてみたくなるよね。
というわけで、僕達は早速商店街にやって来た。
「アレン、エレナ。ここで欲しいものを買おうか」
入ったのは、乾物を扱っている店。アレンとエレナがよくおやつで食べているドライフルーツや、干し肉なんかが売られている。
売り子をしているのは中年の女性で、この人は前に買い物に来た時、アレンとエレナのことを優しそうな目で見ていた。なので、この子達が買い物のやりとりをしても、温かく対応してくれるだろう。
「いらっしゃい。欲しいものは見つかったかい?」
案の定、女性は屈んで子供達と目線を合わせ、商品が入った瓶を見やすいように取ってくれたり、味の説明をしてくれたりしている。
「アレン、エレナ、欲しいものは決まったかい?」
「「うん!」」
「じゃあ、アレンから『ください』ってお願いしようか」
「うん! アレン、これ! ください!」
アレンが杏っぽい実のドライフルーツが入った瓶を指しながら言った。
「はい。シュリの実だね。何個、欲しいのかな?」
「えっとね……」
アレンは女性に個数を問われて困ったらしく、僕の方をちらりと見た。なので、僕は手のひらを見せて〝五〟と示す。
「……ごこ!」
すると、アレンは僕の意図を正確に読み取り、女性にしっかりと手のひらを開いて見せて個数を答えた。
「五個だね。お代は35Gになります」
「んとね……」
「あら……?」
女性はアレンが自分の鞄からお金を取り出そうとしていることに驚き、僕に視線を送ってきた。
なので、僕はお願いの意味を込めて会釈する。
それでちゃんと意味が通じたらしく、女性はそのままアレンに向き合ってくれた。
「はい!」
「まあ! ピッタリ! えらいわね~」
アレンは財布代わりの巾着から取り出した硬貨を、女性に渡した。
受け取った女性はぴったりの金額に驚きながらも、アレンを褒めてくれる。
「次はエレナね」
「うん! エレナはこれ! ください!」
「はい。お嬢ちゃんはリーゴの実ね。何個、欲しいのかな?」
「ごこ!」
エレナはリーゴの実のドライフルーツを選び、自信いっぱいに開いた手のひらを掲げる。
エレナは先程のやりとりを見ていたので、アレンの時よりもスムーズだった。
「はい。じゃあ、お代は30Gになります」
「んとね……はい!」
「はい。ちょうどね。えらいわ~」
女性はエレナのことも褒めてくれた。平等に接してくれて助かります。
「「できたー?」」
「うん。よくできたねー。えらいえらい」
二人は買った品をしっかりと持って僕に抱きついてきたので、きちんと褒めて撫でておく。
「お付き合いくださり、ありがとうございました」
「あらあら、このくらい何てことないわよ~」
アレンとエレナの買い物につき合ってくれた女性にお礼を言うと、女性は「気にしないで」と手をひらひらと振った。
「でも、小さいのに凄いわね~。もうお金の計算ができるなんて~」
「そうですね。僕も賢い子達だと思います」
「確かに賢そうね。それに、とっても素直そう。きっと、お兄さんの育て方がいいのね~」
「……そう、でしょうか?」
「ええ! 五人の子供を育て上げた私が言うんだから間違いないわよ!」
「あ、ありがとうございます」
照れくさかったが、そう言ってもらえて嬉しかった。そして、僕のアレンとエレナへの接し方が間違いではなかったと思い、少しだけ安心する。
褒めてくれたお礼というわけではないけれど、ドライフルーツはもちろん、木の実や干し肉などを購入してから店を後にした。
アレンとエレナの買い物実践が終わり、次は本屋に向かう。
目的は、魔法の指南書とか基礎的な説明書とか……魔法関連の本だ。
ガヤの森の遠征中にステータスをチェックしたら、いつの間にか【水魔法】のスキルを取得していたからね。
せっかくだし水魔法も使えるようになっておきたいんだけど、シルのおかげで基礎から応用までほぼ全ての知識がある風魔法と違って、水魔法については基礎知識がほんの少しだけだ。
そもそも、魔法は体に刷り込まれた感覚に頼って使っている状態なので、風魔法の技術を水魔法に応用することもできない。
だから、魔法の指南書を探して読もうと思った。
それに、水魔法といえばアレンとエレナだ。二人も【水魔法】のスキルを持っている。
僕が二人に魔法の使い方を教えられたらいいんだけど、理屈や技術を理解しているわけじゃないからできないんだよな~。
他にも、小説や童話といった物語の本があれば買おうと目論んでいる。
エーテルディアに来てからというもの、僕はまだ読書をしていない。日本にいた頃は毎月、十数冊と本を読んでいたので、そろそろ恋しくなってきた。
そうこう考えているうちに、本屋に到着。早速、中に入る。
「「いっぱーい」」
「そうだね。いっぱいあるねー」
店内には、僕が思っていた以上に数多くの本が並べられていた。
薬草、魔物の絵や特徴などが書かれた本、詩集や聖典。もちろん小説のような物語の本もある。タイトルを見る限り、物語の内容は主に冒険譚やお姫様を主人公とした恋愛ものかな? 結構、種類はありそうだ。
「さて、いいのはあるかな~」
本棚を物色していると、奥から白髪のお婆さんが出てきた。店の人だな。
「おお、いらっしゃい。お客さんかい?」
「すみません。勝手にお邪魔して見ていました」
「気にせんでええよ。何かお探しかい?」
ここでは本を検索することはできないから、聞いてしまったほうが早いだろう。
「ええ、いろいろ欲しいんですが……。えっと、魔法の指南書みたいなものや呪文についての本なんてありますか?」
「ああ、あるよ~。ちょっと待っててな~」
欲しい本を尋ねてみると、お婆さんはすぐに頷く。ただ、店の奥の方にあるらしく、取りに向かってくれた。
「基礎について書かれているのがこれだね。こっちは応用編。で、これが現存する魔法の呪文について書かれているものだ」
「ありがとうございます」
お婆さんが持ってきてくれた本を受け取り、表紙にあるタイトルを見ると――『魔法の基礎』『魔法の応用』『呪文一覧』と書かれていた。
うん、実に的確なチョイスだ。この三冊は購入決定だな。
「お眼鏡に適ったかね?」
「はい。三冊ともいただきます。おいくらですか?」
「どれも一冊大銀貨二枚、全部で6000Gだね」
「はい、わかりました」
エーテルディアにも植物から紙を作る技術があるため、紙は比較的安価で手に入れることができる。本も一般的なものなら銀貨数枚という程度だ。
しかし、魔法関連の本は少々高い。まあ、そうは言っても一般の人に絶対に手の届かないような値段ではないけれど。
「他の本も見たいので、代金はまとめてで構わないですか?」
「ええよ、ええよ。存分に見ていって~」
「ありがとうございます」
お婆さんの許しを得たので、僕はさらに店内を物色してみることにする。
適当な本を手に取ってパラパラと捲る。それを何冊か繰り返していると、アレンとエレナが興味を持ったらしく、一生懸命背伸びをして僕の手の中にある本を覗こうとしていた。
「見てみる?」
「「うん、みるー」」
僕が屈んでアレンとエレナに見せながらページを捲っていくと、二人は紙面を目で追っていた。
「これが本で、ここに書かれているのが文字だよ」
「「もじー?」」
「そうだよ。アレンとエレナも読めるように、文字の勉強をするかい?」
「「するー」」
二人は数字を覚えたばかりなので、文字の勉強は少し早い気もするが、興味を持っているなら教えてもいいだろう。
「ほっほっほっ~。元気のいい子達じゃな~。文字習得用の教本と簡単な絵本もあるんじゃが、持ってこようかい?」
「お願いしていいですか?」
「ええよ、ええよ。婆に任せておき~」
エーテルディアにも、文字を勉強するための教材があるんだな。それがあれば教えやすいだろう。
お婆さんが文字を学習する本と絵本を選んでくれている間に、僕も数冊の小説を手に取った。『クルーベルの竜殺し』『村人から竜騎士になった男』『神雷の勇者』などなど、冒険ものを中心に。
あと、僕には必要ないが、あればアレンとエレナに説明しやすいと思って、『植物全集』『魔物全集』『薬草と毒草』など、百科事典っぽい本なども追加する。
結局、大量の本を買い込んでしまったが、大きな稼ぎがあったばかりなので問題はない!
第二章 依頼を受けよう。
僕達はここ数日、街の中で過ごしたり、ピクニックに出かけたりして、のんびりとした時間を過ごしていた。なので、今日は久しぶりに依頼を受けようかと思う。
アレンとエレナを連れて、冒険者ギルドにやって来た。
「さて、何を受けようかなぁ~」
ランクが上がったから、受けられる依頼の幅が広がったんだよな。
とりあえず依頼書をひと通り見ることにし、依頼ボードの前で物色していると――
「「あれー」」
「ん?」
アレンとエレナが僕の服を引っ張り、低ランクの依頼書が貼り出されているエリアを指さした。
……えっと、二人が指しているのはあれかな? 迷い猫を探すってやつ。
その依頼書は、数多くある素材採取や魔物討伐の依頼書に押しのけられるように、端の方にぽつんと貼られていた。
それも低い位置にあったため、アレンとエレナの目に留まったのだろう。
探している猫の特徴を示したイラストも描かれていたので、なおさら興味が惹かれたに違いない。
「絵の猫を探してください、だって。あれが気になるの?」
「「うん」」
探しているのは、黒の仔猫。赤い首輪をしていて、靴下を履いているみたいに手足の先の部分だけが白い、というわかりやすい特徴の猫だ。
報酬は子供のお小遣いになるかどうかという程度のもので、受付手続きをする必要はなく、見つけたら連れてくるだけでいいらしい。
「探すのなら、街の中をいっぱい歩かなくちゃいけないよ?」
「「だいじょーぶ!」」
「そっか。じゃあ、今日はこの猫を探すかい?」
「「うん!」」
今日は仔猫探しをすることに決まった。
依頼主の住居が南地区にあるということなので、そこを中心に探すのがいいだろう。
そんなわけで、僕達は早速南地区へ向かうことにした。
「アレン、エレナ、描かれていた絵は覚えているね? 手足が白い黒猫。名前は『ミーナ』だよ」
「「うん! みーな!」」
「よし。じゃあ、ここら辺から探すぞー」
「「おー!」」
南地区に到着した僕達は、メインの通りから外れた場所でミーナの捜索を開始した。
「「みーなー、どこー」」
アレンとエレナは張り切ってミーナを探している。建物の隙間や道に置かれている木箱の裏など、ミーナのいそうな場所を、名前を呼びながら覗いて回った。
「「みーなー? いなーい?」」
探し始めてから気づいた……。
この子達ならば、一生懸命に探す姿は微笑ましい光景で済むんだが、僕がやると不審者になってしまうんじゃないか?
いい年した男が、建物を覗いて歩くのは怪しいに決まっている。うん、僕は積極的に探すのは止めたほうがいいな。覗き込んだりするのは二人に任せて、僕は周囲に気を配っておこう!
「「あっ!」」
アレンとエレナが前方にある木箱の影に黒猫の姿を見つけ、駆けていった。
「「あぅ~。みーな、ちがう……」」
「あ~、手足の先が白くないもんなー」
しかし、その黒猫は残念ながら全身真っ黒の別の猫だった。
「「うぅ~」」
目的の猫はなかなか見つからない。
それでも、アレンとエレナはミーナを探して街の中を歩き回った。
「いないな~」
「「むぅ~」」
休憩を挟んでいるものの、もう既に結構な時間を歩き回っている。
それでも目的の猫は見つからず、アレンとエレナは少しだけふて腐れて頬を膨らませていた。
「どうする? もう、探すのを止めようか?」
普通の子供ならとっくに飽きるか、駄々を捏ねるかしていてもおかしくない。だから、アレンとエレナがここで止めると言ったって、よく頑張ったと褒めてあげても問題ないと思う。
しかし、アレンもエレナも首を横に振った。
「「やー。さがすー」」
二人はまだ諦めないようだ。
「そうか。じゃあ、頑張ろう」
僕はアレンとエレナの頭を撫でながら、探し方を変えたほうがいいかもしれないと考えていた。
僕達は今まで、虱潰しとまではいかないが、ある程度道を順番通りに見て歩いていた。
しかし、それは間違っていたんだろうな、と改めて思ったのだ。
「アレン、エレナ。どっちにミーナはいそう?」
「「あっちー」」
まあ簡単に言えば、迷宮と同じようにアレンとエレナの勘に頼って探す、という方法だ。
二人に行きたい方向を聞いてみると、当然のように同じ方向を示した。
最初からこの方法で探せば良かったかもな。
失敗したなぁ~、と思いつつも気を取り直して、アレンとエレナが行きたいと言うままに歩いてみると――
「「あ! いたー!」」
「いた?」
すぐに成果があった。アレンとエレナが目的の猫を見つけたようだ。
「えっと……」
「「あそこー」」
「ああ、本当だ。ミーナっぽいな」
確かに手足の白い黒猫が、横倒しになっている廃材みたいな樽の中で寝そべっている。
「急に近づくと驚いちゃうから、ゆっくり行くんだよ?」
「「うん」」
アレンとエレナは、じわじわと樽に近づいていく。
「「み~なぁ~」」
アレンとエレナは樽の正面の少し離れた位置でしゃがんで、小さな声でミーナを呼び始めた。
だが、ミーナは警戒しているのか、樽の中からなかなか出てこない。
「みーな」
「おいでー」
アレンとエレナはミーナを怯えさせないように、優しく呼びかけ続けた。
「「おいで~」」
「……にゃ~」
「「きたー」」
アレンとエレナが焦らず時間をかけて呼び続けると、ミーナがゆっくりと樽から出て、二人の前まで歩いてきた。そして、差し出していた二人の手にすり寄る。
赤い首輪には『ミーナ』と名が入っているので、僕達が探していた猫で間違いないようだ。
「あ~、お腹が空いているのかな?」
アレンとエレナにすり寄ったミーナは、ペロペロと一生懸命に二人の手を舐めている。
「「おなか、すいたー?」」
「たぶんね」
「「おにーちゃん、ごはーん!」」
「はいはい。ミルクでいいかな?」
アレンとエレナに催促された僕は、《無限収納》から取り出したお皿にミルクを注いで地面に置いた。
すると、お皿に近づいたミーナはゆっくりとミルクを舐め始める。
「「のんでるー」」
だいぶお腹が空いているのか、ミーナは無我夢中でミルクを飲み続けた。
幸い、衰弱はしていないようなので、お腹が満たされれば元気になるだろう。
「ごはーん」
「おわったー?」
「にゃ~」
「「いいこ~」」
エレナが抱き上げたミーナの頭を、アレンは優しく撫でる。
「元気になったね。じゃあ、ギルドにミーナを届けようか」
「「うん!」」
ギルドに戻ってミーナを見つけたことを伝えると、すぐに飼い主へ連絡が行き、駆けつけたその女性とともにミーナは家へ帰っていった。
「「よかったね~」」
嬉しそうに飼い主にすり寄るミーナの様子を、アレンとエレナはとても満足そうな笑顔で見送っていた。
◇ ◇ ◇
あなたにおすすめの小説
試験でカンニング犯にされた平民ですが、帝国文官試験で首席合格しました
あきくん☆ひろくん
恋愛
魔法学園の卒業試験で、私はカンニング犯に仕立て上げられた。
断罪してきたのは、かつて好意を寄せてくれていた高位貴族の子息。そしてその隣には、私を嫌う貴族令嬢が立っていた。
平民の私には弁明の余地もない。私は試験の順位を辞退し、その場を去ることになった。
――だが。
私にはもう一つの試験がある。
それは、帝国でも屈指の難関といわれる帝国文官試験。
そして数日後。
その結果は――首席合格だった。
冤罪で断罪された平民が、帝国の文官として身を立てる物語。
「家政など侍女の真似事」と笑った義姉が、十二年分の裏帳簿にすべて署名していた件
歩人
ファンタジー
公爵令嬢エルザは、十六歳から家政の一切を任されてきた。領地経営、使用人管理、収支帳簿——表向きは「下女と同じ仕事」と義姉に蔑まれながら、十二年。「家政など侍女の真似事。本当の貴族のすることではないわ」婚約破棄の宴で義姉が放った一言に、エルザは静かに微笑む。翌朝、公爵家の朝食の席。エルザは父の前に十二冊の帳簿を積み上げた。「表帳簿はわたくしが付けてまいりました。裏帳簿は——お姉様が」十二年分。義姉が捏造した脱税の裏帳簿、すべての頁に義姉自身の署名がある。エルザは毎晩、義姉が部屋を出た後、その署名を筆跡鑑定用に複写していた。義姉が悲鳴をあげる前に、王家監察官が屋敷の扉を叩いた。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
「三番以下を取りなさい」と五年言われ続けたので、公開試験で本気を出しました
歩人
ファンタジー
王立魔法学院、入学時首席のリュシエンヌは、婚約者レイナルト公爵令息から五年間「女は三番以下を取れ」と命じられてきた。学院の序列は国家序列の縮図。レイナルトは常に一位に居続けた。婚約披露を控えた十九歳の春、レイナルトが新しい婚約者を連れて告げる。「お前では並び立てぬ。学力も身分も、足りなすぎる」——リュシエンヌは微笑んで、その翌日の年次公開試験で、五年封じてきた本気を出した。国王臨席の場で、史上最高点。魔法局長官が教授陣に命じる。「過去五年間の彼女の実測点と、もし本気で受けていたら出せた推計点を、公表したまえ」。教授陣は震える手で数字を並べた。レイナルトの「首席」は、全て彼女が譲った場所だった。
あなたがワインを浴びせた相手は、"子爵令嬢"じゃありませんわ
ばぅ
恋愛
公爵令息の恋人と噂されている「ルリア・ラズベルン子爵令嬢」と勘違いされ、夜会でワインを浴びせられた私。でも残念、完全な人違いです。
神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない・完結
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
「三番目の王女は、最初から全部知っていた」 ~空気と呼ばれた王女の、静かな逆襲~
まさき
恋愛
「三番目など、いなくても同じだ」
父王がそう言ったのを、アリエスは廊下の陰で聞いていた。
十二歳の夜のことだ。
彼女はその言葉を、静かに飲み込んだ。
——そして四年後。
王国アルディアには、三人の王女がいる。
第一王女エレナ。美貌と政治手腕を兼ね備えた、次期女王の最有力候補。
第二王女リーリア。百年に一人と謳われる魔法の天才。
そして第三王女、アリエス。
晩餐会でも名前を忘れられる、影の薄い末の王女。
誰も気にしない。
誰も見ていない。
——だから、全部見えている。
王宮の腐敗も。貴族たちの本音も。姉たちの足元で蠢く謀略も。
十六歳になったアリエスは、王立学園へ入学する。
学園はただの通過点。本当の戦場は、貴族社交と王宮の権力図だ。
そんな彼女に、一人だけ気づいた者がいた。
大勢の中で空気のように扱われるアリエスを、
ただ一人、静かに見ていた男が。
やがて軽んじていた者たちは気づく。
「空気のような王女」が、
ずっと前から——盤面を作っていたことに。
これは、誰にも見えていなかった王女が、
静かに王宮を動かしていく物語。
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた
歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
