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1、婚約を白紙に? ええ構いませんわよ?

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「すまない、ロゼ。婚約を白紙にしてくれ」


 ただいまの時刻は午前八時。朝一番に王宮に呼び出された私を待ち受けていたのは、こんな言葉だった。

「婚約を白紙に? ええ構いませんわよ? 」

「・・・その・・・理由、とか、気にならないのか? 」

 私の回答があまりにもあっさりとし過ぎていたからか、対面にいらっしゃるルーク殿下は、すごく気まずそうだ。いっそ私が「そんな馬鹿な! 」って取り乱した方が、殿下も勢いに乗れていただろう。
 そもそもこの王子は昔っから、誰かの御輿に乗っていないと行動できないタイプだった。それであわや国家転覆事件になりかけたのはいつだったか・・・。

「特に気になりませんけど、殿下がそう言うのなら・・・。どうしてですの? 」

 ほぼ100%予想できるけどね~。


「ラウラと婚約するからだ」


「そうですか」

 やっぱり!

「もちろん、ロゼも今までよくやってくれた。妃教育も良くできていたし、婚約者としての義務もこなしてくれた。だがやはり・・・『落ちこぼれ』というのは・・・」

 こっちからはなにも聞いていないのに、ルーク殿下はペラペラと喋りだした。その饒舌な口の回ること回ること。絶対に台本書いて練習したわね・・・。

「ラウラなら、新しく婚約し直しても、貴族間に大きな影響を与えることはないし」

 そうでしょうね。

「妃教育も、今からでも詰めれば充分いける」

 殿下がいけると思うんならいけるんでしょうね。

「さらに、神殿との関係強化のきっかけにもなる」

 確かに神殿との関係は変わるでしょうね。で? 結局なにが言いたいの?

「ラウラには、君の代わりとして婚約者となる資質はあると思うんだ。だから、ラウラとの再婚約を認めてくれないか? 」

 認めるもなにも、婚約がなくなったのなら、もう殿下の恋愛事情に私は関係なくなるんだけど・・・。


「ううっ! 本当にごめんなさい! 私が殿下に近づいたばかりに・・・」


 ここでようやく私は、今まで存在を無視していた、ルーク殿下の腕に掴まっている令嬢に視線を向けた。

 見慣れた顔がそこにある。


「いいえ、お姉様・・・のせいではございませんわ」


 私の双子の姉で、この国の「聖女」であるラウラ。
 黄金色のふわふわな髪は、風が吹くたびに美しく舞い上がり、菫色の瞳に見つめられれば、誰もが心を踊らせる。そんな可憐な美貌を持つ上に、どんな人にも優しく話しかけ、道端の孤児にでさえ柔らかく微笑む。そんなお姉様だ。

 その評判のせいで、私にどんなツケが回ってきたのかも知らない。


「本当にごめんなさい、ロゼ・・・。あなたにも良縁が見つかるのを願っているわ・・・」


「ありがとうございます」

 その良縁を全てぶち壊してきたのは、あなたですけどね!


「話がお済みなら、私はもう暇させていただきますわ」









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