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揺れる大地

197.女神降臨?

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 そして、人々が、なんとか避難所についたのは、日も落ちかけた頃だった。

 皆、失った、家や畑、家畜を思い暗く沈んでいた。
 重い足取りで荷馬車を降りてくる。
 人々の目は虚ろで悲しみにくれていた。

 そんな中、ルミアーナが、皆に駆け寄り労いの言葉をかける。

「皆、無事ですね!良かった!」

 人々は、はっとした。
 空からの自分達に避難を促した女神…噂の眠り姫の実物が走りよってきた事に感極まる。

 幾人かの人々は、まるで関を切ったように呻き声をあげ泣き出した。
 小さな子供達も我慢していたのだろう、うわぁーんと泣き出した。

「大丈夫よ!皆、生きてさえいれば、道は開く事が出来る!知恵をこらし、助け合い、これまでより、もっともぉっっと、よい街を作って行くことだって出来る!」

「だって、皆、助かったんだから!」と、ルミアーナが、満面の笑みを放った。

 人々は、ルミアーナの笑顔に困惑した。 

 先程まで、我が身に起きた不幸をこれでもかと嘆いていたのだ。

 それを、この女神様は、助かって良かったと満面の笑みで迎え入れたのだ。

 憐れむ様子も微塵もない。
 本当に心から嬉しそうに。

 皆の涙は、あまりにも天真爛漫なルミアーナの態度に呆気にとられ引っ込む。

 でも、涙が引っ込んだからと言って現状をとても良かった等とは思えず苦笑する。

 やっぱり、貴族のお姫様には今日の暮らしも心配な自分達、庶民の気持ちなどわからないのだろうと、諦めたような表情になる。
 中にはため息をつく者もいた。

 すると、ルミアーナが、それを不愉快に感じたのか急に真剣な表情になり、きつい口調で言葉を発した。

「周りをご覧なさい!あなた方の家族、隣人、友人、今回の地震で誰も失わずにすんだ!喜びこそすれ、嘆く事などありはしないっっ!」ルミアーナは、側にいた小さな子供を抱き上げ皆に、さらに言葉を続けた。

「もしも、あなた方の最愛の者が亡くなっていたら?家を失った事などとるに足らない些末な事と思った事でしょう。そしてダルタス様達の指示に従わず避難していなければ?ここにいる半数以上の死傷者が出ていたのですよ!」

 それは、ルミアーナにしては、とてもキツい言い方で先に避難していた王侯貴族の皆も驚き、ダルタスさえも息を飲んだ。

 普段のルミアーナを知るダルタスや他の皆は、これ以上ないほどの優しい言葉だけを民にかけると思っていたのだ。

 何と言っても、彼らは被災者で突然の不幸に見舞われたろくな蓄えもないであろう気の毒なか弱き民達なのだから。

「今のあなた方には、キツイ言い方かもしれません!けれど、誰も言わないのなら私が言います!周りをご覧なさい!あなた方の街以外も無事だったわけではないのよ!そう、ここからは、王都も見ることが出来る!」

 人々は、言われるがままに、顔をあげ王城のある街並みに目を向けた。

 三度目の地震のせいだろう。
 王都も酷い有り様だった。

 城の外壁は崩れ落ち、所々に火の手が上がっている。
 貴族たちの、頑強そうな建物ですら崩れている所がたくさんあり、とてもすぐに帰れそうにもない状況である。

 火事に至っては、自然鎮火を待つしか術もない状況である。

「「「こ…こんな!」」」

「「「「王都までもが…」」」」

「こんな、状況で何で笑えるのです?」

「そうです!私たちだけじゃない!この国の王様ですら帰る場所がなくなってしまうなんて!」

「「「これから、どうしたら!」」」

 民達は落ち込んだ。
 その言葉にルミアーナはキレた。
 マジギレというやつである。

「はぁっ?何度も言わせないで下さい!生きてるんだから、どうとでもなります!帰るところなら、暫くは、ここに帰れば良いのです!無事な街に親戚があれば、そこに身を寄せても良いでしょう?周りを見るように、言ったのは皆、同じだと言いたかったのですよ!」

「「同じ?」」

「そう、自分だけじゃない!皆が大変なのです!でもね?皆が力を合わせれば、街も国も元のように、いいえ!もっともっと、良い街に!もっともっと素晴らしい国へと再建出来るのです!」

 人々が戸惑った。
 貴族と庶民の自分達を一緒だという。
 王様ですら、一緒だと言っているのだ。

 こんな事を言う貴族のお姫様が、いるなんて信じられない…そう思っていたら、ルミアーナに抱っこされていた小さな男の子がルミアーナに言った。

「女神様、僕たちを助けてくれてありがとう!」

 皆は、はっとした。
 そうだ!このお方はただの貴族であるはずがない!きっとルミアーナ様は女神様が人としてこの世に顕現された特別なお方なのだと!

 月の石の主!精霊さえ従えることのできる唯一の人!

 それは、現世に現れた”生き神様”の事だったのだ!
 それでなくば、”精霊さま”が従うはずもないではないか!

 …と、皆は、その場に跪き拝みながらひれ伏した。

「「「そうよ、私たちは助かったのよ」」」

「「女神様やダルタス将軍のお陰で助かったんだ!」」

「「「ルミアーナ様、万歳!ダルタス将軍、万歳!」」」

「「「「「女神様、万歳」」」」」と、歓声が上がった。

「ち!ちょっ…皆、何を言ってるの?このおびただしい程の天幕も、炊き出しも、皆、国王様が、いざと言うときの為に備蓄しておいてくださっていたものを、惜しげもなく全て出して下さったのよ!感謝なら国王様に!」と、ルミアーナが、言いかけると、国王が、自ら前に出てきてルミアーナの言葉を遮った。

 国王のお出ましに皆がぎょっとして押し黙りひれ伏した。

 国王がルミアーナの前で片膝をつき、頭を垂れ恭しく言葉を放つ。

「月の石の主ルミアーナよ、今回、皆の命を救えたのは全て、貴女のお陰である。この国の王として礼を言おう。」となんと、国王と後ろに控える王妃様、王太子、ルーク王子、そして、まだ小さいピシェ王子までもがそれに倣い礼をとった。

「なっ!国王様!お立ちください!民達が見ております!」

「いや、皆に知らしめるのだ。ルミアーナ姫、貴女は唯一精霊を従える月の石の主!」国王は皆を振り返り威厳のある声で皆に語りかける。

「皆も心して聞くが良い!月の石の主とは、我らが世界の創造主、始まりの祖先、祖始と呼ばれる8人の魔法使いの直系の血族の中で最も魂の汚れなき事を月の石の精霊さまに認められした選ばれし者のことをいうのだ!我ら王家の者も、むろん血族ではあるが、アークフィル公爵家も永き歴史の中で血脈を守りし古き家系だった!そして、月の石の精霊さまが選びし主は、このルミアーナ姫である!この世界で唯一精霊を従える事を許されし姫はこの国の王家すら従える事が出来るのだ!」と、そこにいたすべての人々に、宣言した。
 そして、国王一家が再び跪き礼をとると、他の貴族達もそれに倣った。

 全ての人々がルミアーナにひれ伏す。

 ルミアーナは、ぎょっとした!
「な!何でそんなことを!わ、私は、そんな事は望んでおりませんが!」

「望む望まないの問題ではないのです。貴女はこの世にあって、たった一人神にも等しき存在、月の石の主であり、失われるかもしれなかった何百という命を救って下さった。その事実が全てなのだ。古来より月の石の主の上には人も精霊も立てない。我が王家も、それに習いお仕えするが習わしなのです」

「ひぃっ!あ、頭をおあげくださいぃぃ!」と、ルミアーナが悲鳴をあげる。

「主よ、今さら何だ…なのだから、当然であろう?」とリュートが、事もなげに言う。

 抵抗空しく、ルミアーナはその日、国王の女神降臨とも思える発言により、とうとう”眠り姫”のち”月の石の主”時々”女神”と呼ばれる事となったのであった。

 そして、その時はまだ、この地震により新たなる災厄の訪れがあることを、人々は誰も予想すらしていなかった。

 しかし、シム神殿の地下で蠢く黒き魔が地上に出ようとしていたのを精霊のリュートだけが密かに気づいていた。
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