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「あ……」
「おっと。……大丈夫か?ナナ」
「大丈夫だ……」
足がもつれてふらつくと、エレベーターでたまたま一緒になった葵に支えられて、思わずドキッとした。
誤魔化すようにスッと体勢を整えると、葵は目深に被ったキャップの下からじっと探るような視線で見てきた。
「ナナ、もしかして体調悪い?」
「……別に」
「じゃあ、俺の家寄って」
「嫌だ」
「なんで」
「……」
俺は葵の視線から逃げるように下を向くと、グッと手首を掴まれて引っ張られるようにしてマンションのフロアを歩く。
帰るはずの自宅の玄関を通り過ぎて、有無を言わさず葵の家へと連れ込まれた。
「……帰る」
「帰さない」
「なんでだ」
「……はぁ…………とりあえず、そこに座って」
葵は呆れるようなため息を交えながら、ベッドを指さした。
“セックス”という単語が頭に浮かんで、俺は慌てるように玄関へと向かおうとしたけれど、葵に阻まれて、あろうことか米俵を担ぐように抱き上げられて無理矢理ベッドへと運び込まれた。
「……っ、……なんで」
「……いいから。目、瞑って」
「なんで」
「質問ばっかりだな、ナナ」
「あ、葵が……答えないからだろ……!」
「まあ、そうだけど。いいから目を瞑って。別にキスしたりしないから」
「……っ、………」
微笑んでいるのに、伏せたまつ毛が悲しげでなんだか胸が痛む。
図星をつかれて、反抗してしまっていたこともあり、なんだかこれ以上抵抗するのも気が引けて、俺は葵の言葉のままに目を閉じた。
✴✴✴
…………
………………………?
微睡みの中、ゆっくりと目を開ける。
自分の部屋じゃない。
すばるくんの部屋でもない。
生活感がないってくらいの、シンプルすぎるくらいシンプルな部屋……あ。
「……あお、い…………?」
「あ、起きた?おはよう」
「俺、寝てたのか……?」
「うん、一瞬で落ちてた」
「…………そうか」
起き上がることもせずに、ぼーっと天井を見ていると、葵はふっと息を吐くように笑ってから水で絞ったタオルをおでこに乗せてくれた。
「気持ちいい」
「そうだろ?だって、ナナ熱あるもん」
「……そうか」
「そうか、って……ま、いいか。ほら、寝て?それとも何か欲しいものとかある?水とか飲む?」
「いや、いい……」
「そう」
そう言って葵は、それ以上何も言わずにそっと髪を撫でた。
心地よさに、またウトウトとなってきたけども、無性に人恋しくなってきて、俺はゆっくりと布団から手を出した。
「どうした?なんか欲しい?」
「……手を、繋ぎたい」
「……」
「だめ、か?」
「……いいよ、はい。……でも、身体冷やしたらだめだから布団の中に手を戻そうな」
「ああ」
俺が手をひっこめると、葵の手が今度は布団の中へと一緒に入ってくる。
……繋いだ指が少しひんやりとした。
「ナナ、寂しくなっちゃった?」
「……少し」
「熱、結構高いからな……しんどい時って、そうだよな」
「……葵は」
「うん?」
「葵は誰かに甘えるのか……?」
「どうだろ。俺はだいたい一人だから」
へらっと笑うくせに、どこか寂しそうに見えて俺は思わず、繋いだ手をギュッとした。
「葵……」
「そんなことはいいから、ナナは寝て」
「……」
「な?」
そう言って今度は空いている手で頭を撫でる。
犬歯をニッと見せて、人懐っこく笑う葵の表情になんだかキスしたくなって、ハッと顔を反らした。
――キスなんて、だめなのに。
やっぱり熱があるからか頭がおかしい。
だけど、湧き上がってくる母性……なのか、なんなのかわからないけど、葵を慰めたいというか、なんだかわからないけど妙に甘やかしたいと思った。
キスが甘やかすことになるのかは、わからないけれど。
「……葵がしんどい時は俺が看病するから」
「ははっ、ありがとう。ナナ」
「……本当だぞ。手だって繋ぐぞ」
俺は口だけだと思われたくなくて、繋いだ手をギュッとすると、葵はハッとするように息を吸ってから、少し顔を赤らめてふにゃりと微笑んだ。
その顔がかわいくて、思わず胸がキュンとなった。
「……うん」
「照れてるのか?」
「……っ、いや、だって……慣れない、から」
「葵はかわいいな」
「……ナナの方がかわいいし」
「俺はかわいくないぞ」
「かわいい。今だってキスしたくてたまらないくらいだし」
「……!」
「わかってるって。キスはしない。ほら、寝て?」
「…………」
熱のせいか、キスのことを考えてしまったせいが胸がドキドキとうるさいくらいに心臓が動く。
――熱い
「……ムラムラしてきた」
「は?」
葵は、俺の言葉が思いもよらなかったのか、マヌケな声を出した。
――わかる。
俺だって、自分で自分がびっくりだ。
「……やばい。くそ……シャワー、浴びる」
「え?は?え?なんで?いや、だめだろ」
「冷たい水で誤魔化せば、いける……昨日もそれで誤魔化した」
「……待って。もしかして昨日も水浴びしたのか?」
葵の低い声に思わずビクッとしたけれど、返事をするようにコクッと頷くと、葵は大げさにため息をついた。
「ばか。そんなことしたら風邪引くにきまってるし……」
「……でも、ムラムラ……したから……」
「なんで呼ばなかったんだよ」
「……」
「ナナ」
「なんか、悪いと思って……」
俺が小さな声でポツリと言うと、葵はため息をついたものの、今度は優しく、あやすように髪を撫でた。
「悪くなんてないから。遠慮もしなくていい。約束したろ?」
「そう、だが……」
「ナナが無茶して風邪引く方が俺は嫌だ」
「……悪い」
俺が目を伏せると、葵は息を吐くようにして微笑んだ。
「絶対に無茶しないで」
「……ああ、約束する」
「うん。じゃあ、早速……ムラムラしてたら眠れないよな」
「あ、ああ……」
「さすがにセックスは負担があるから、指で……えっと、ゴムとローション……ちょっと待ってて」
「……悪い」
「ん?気にすんなって。俺はかわいいナナを見られるから役得だし?」
「ぷっ、なんだそれ」
ニッと笑う葵につられるようにして笑うと、葵はすごく優しい顔して微笑むから、俺は思わずドキッとした。
……やっぱり、今日は何か変だ。
ドキドキとする心臓をおさえるように手を当てながら、俺は身体を丸めて布団の中へと潜り込んだ。
「おっと。……大丈夫か?ナナ」
「大丈夫だ……」
足がもつれてふらつくと、エレベーターでたまたま一緒になった葵に支えられて、思わずドキッとした。
誤魔化すようにスッと体勢を整えると、葵は目深に被ったキャップの下からじっと探るような視線で見てきた。
「ナナ、もしかして体調悪い?」
「……別に」
「じゃあ、俺の家寄って」
「嫌だ」
「なんで」
「……」
俺は葵の視線から逃げるように下を向くと、グッと手首を掴まれて引っ張られるようにしてマンションのフロアを歩く。
帰るはずの自宅の玄関を通り過ぎて、有無を言わさず葵の家へと連れ込まれた。
「……帰る」
「帰さない」
「なんでだ」
「……はぁ…………とりあえず、そこに座って」
葵は呆れるようなため息を交えながら、ベッドを指さした。
“セックス”という単語が頭に浮かんで、俺は慌てるように玄関へと向かおうとしたけれど、葵に阻まれて、あろうことか米俵を担ぐように抱き上げられて無理矢理ベッドへと運び込まれた。
「……っ、……なんで」
「……いいから。目、瞑って」
「なんで」
「質問ばっかりだな、ナナ」
「あ、葵が……答えないからだろ……!」
「まあ、そうだけど。いいから目を瞑って。別にキスしたりしないから」
「……っ、………」
微笑んでいるのに、伏せたまつ毛が悲しげでなんだか胸が痛む。
図星をつかれて、反抗してしまっていたこともあり、なんだかこれ以上抵抗するのも気が引けて、俺は葵の言葉のままに目を閉じた。
✴✴✴
…………
………………………?
微睡みの中、ゆっくりと目を開ける。
自分の部屋じゃない。
すばるくんの部屋でもない。
生活感がないってくらいの、シンプルすぎるくらいシンプルな部屋……あ。
「……あお、い…………?」
「あ、起きた?おはよう」
「俺、寝てたのか……?」
「うん、一瞬で落ちてた」
「…………そうか」
起き上がることもせずに、ぼーっと天井を見ていると、葵はふっと息を吐くように笑ってから水で絞ったタオルをおでこに乗せてくれた。
「気持ちいい」
「そうだろ?だって、ナナ熱あるもん」
「……そうか」
「そうか、って……ま、いいか。ほら、寝て?それとも何か欲しいものとかある?水とか飲む?」
「いや、いい……」
「そう」
そう言って葵は、それ以上何も言わずにそっと髪を撫でた。
心地よさに、またウトウトとなってきたけども、無性に人恋しくなってきて、俺はゆっくりと布団から手を出した。
「どうした?なんか欲しい?」
「……手を、繋ぎたい」
「……」
「だめ、か?」
「……いいよ、はい。……でも、身体冷やしたらだめだから布団の中に手を戻そうな」
「ああ」
俺が手をひっこめると、葵の手が今度は布団の中へと一緒に入ってくる。
……繋いだ指が少しひんやりとした。
「ナナ、寂しくなっちゃった?」
「……少し」
「熱、結構高いからな……しんどい時って、そうだよな」
「……葵は」
「うん?」
「葵は誰かに甘えるのか……?」
「どうだろ。俺はだいたい一人だから」
へらっと笑うくせに、どこか寂しそうに見えて俺は思わず、繋いだ手をギュッとした。
「葵……」
「そんなことはいいから、ナナは寝て」
「……」
「な?」
そう言って今度は空いている手で頭を撫でる。
犬歯をニッと見せて、人懐っこく笑う葵の表情になんだかキスしたくなって、ハッと顔を反らした。
――キスなんて、だめなのに。
やっぱり熱があるからか頭がおかしい。
だけど、湧き上がってくる母性……なのか、なんなのかわからないけど、葵を慰めたいというか、なんだかわからないけど妙に甘やかしたいと思った。
キスが甘やかすことになるのかは、わからないけれど。
「……葵がしんどい時は俺が看病するから」
「ははっ、ありがとう。ナナ」
「……本当だぞ。手だって繋ぐぞ」
俺は口だけだと思われたくなくて、繋いだ手をギュッとすると、葵はハッとするように息を吸ってから、少し顔を赤らめてふにゃりと微笑んだ。
その顔がかわいくて、思わず胸がキュンとなった。
「……うん」
「照れてるのか?」
「……っ、いや、だって……慣れない、から」
「葵はかわいいな」
「……ナナの方がかわいいし」
「俺はかわいくないぞ」
「かわいい。今だってキスしたくてたまらないくらいだし」
「……!」
「わかってるって。キスはしない。ほら、寝て?」
「…………」
熱のせいか、キスのことを考えてしまったせいが胸がドキドキとうるさいくらいに心臓が動く。
――熱い
「……ムラムラしてきた」
「は?」
葵は、俺の言葉が思いもよらなかったのか、マヌケな声を出した。
――わかる。
俺だって、自分で自分がびっくりだ。
「……やばい。くそ……シャワー、浴びる」
「え?は?え?なんで?いや、だめだろ」
「冷たい水で誤魔化せば、いける……昨日もそれで誤魔化した」
「……待って。もしかして昨日も水浴びしたのか?」
葵の低い声に思わずビクッとしたけれど、返事をするようにコクッと頷くと、葵は大げさにため息をついた。
「ばか。そんなことしたら風邪引くにきまってるし……」
「……でも、ムラムラ……したから……」
「なんで呼ばなかったんだよ」
「……」
「ナナ」
「なんか、悪いと思って……」
俺が小さな声でポツリと言うと、葵はため息をついたものの、今度は優しく、あやすように髪を撫でた。
「悪くなんてないから。遠慮もしなくていい。約束したろ?」
「そう、だが……」
「ナナが無茶して風邪引く方が俺は嫌だ」
「……悪い」
俺が目を伏せると、葵は息を吐くようにして微笑んだ。
「絶対に無茶しないで」
「……ああ、約束する」
「うん。じゃあ、早速……ムラムラしてたら眠れないよな」
「あ、ああ……」
「さすがにセックスは負担があるから、指で……えっと、ゴムとローション……ちょっと待ってて」
「……悪い」
「ん?気にすんなって。俺はかわいいナナを見られるから役得だし?」
「ぷっ、なんだそれ」
ニッと笑う葵につられるようにして笑うと、葵はすごく優しい顔して微笑むから、俺は思わずドキッとした。
……やっぱり、今日は何か変だ。
ドキドキとする心臓をおさえるように手を当てながら、俺は身体を丸めて布団の中へと潜り込んだ。
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