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第二章 シボラ商会

第三十二話 廃教会

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 明くる朝。

「えーと……アルはいいよ。ディーノもね。冒険者諸君はフル装備なんだよね?」

 アルは朝一で結晶化証明書を発行してもらいに行き、商人ギルドに登録してシボラ商会所属になってきたらしい。
 さすが、行動力がある優秀な少年だ。

 必要経費を含む支度金は帰り際に置いてきたから、早速有効利用してくれたみたいで嬉しい。

「金がない貧乏冒険者の典型だな」

「ほぼ平服じゃん!」

「そうだな」

「仕方ない。これから君たちの武器を拾いに行こうと思う!」

「買いに行くんじゃなくて……?」

「どうせ森に拾いに行くんだろ」

 俺とリーダーくん改め――ジェイドの話にディーノが混ざってきた。しかも核心を突く答えを出すという優秀ぶりを見せる。

「残念! 今日はいつもの森ではなく、特別な森です!」

「……いつもの森でさえわからんわ!」

「馬車に乗れば分かるだろう!」

「「「「…………」」」」

 冒険者三人組とディーノは、誰が馬車に乗れるか心配している様子だった。

「というか、俺と少年は留守番だろ?」

「本日の留守番は……」

「留守番は?」

「いません。全員参加です!」

「マジか……。俺は料理人だぞ?」

「そうだね。現地で思う存分料理を作ってくれたまえ!」

「……了解」

「あと、今日は大きい馬車を借りてきたから全員乗れます!」

「「「「おぉーーー!」」」」

 俺とメイベルは現実を知っているからノーリアクション。アルは俺が何かしてないわけがないと考えているだろうからか、俺にジト目を向けている。

「「「「……馬は?」」」」

「馬は厩舎で寝てます」

「なんで連れて来なかったんだよ!?」

「連れて来なかったのではなく、連れてこられなかったんだよ。……馬がユミルを怖がって」

「……あぁ」

「グァ……」

 悲しそうなユミルを慰めつつ、全員に乗り込むように伝える。

「ほら行くよ!」

「どうやって……」

「こうやって! ――どすこいっ!」

 【観念動】の浮遊で浮かせて、強化魔法で車体を強化する。
 そこに緑系統魔法で風の張り手を作り、連続して車体に張り手をぶちかましていく。

「「「「「うわぁーーー!」」」」」

 メイベルは既に体験済みだからか、覚りを開いたような顔をしている。
 ちなみに、乗員の体が吹っ飛ばないように念動で固定しているから、絶対安全なのだ。
 まぁだから安心かと言われれば、分からないとしか答えられない。

「そろそろ到着ですよ! 対ショック姿勢!」

「グァ!」

「なんだよ、それ!」

「というか、体が動かん!」

 ディーノとジェイドの言葉を無視して、俺とユミルは対ショック姿勢を取るという遊びをしていた。

 最後は前方に風のクッションを発生させ、衝撃をゆっくりと殺す。

「さぁ降りて下さい!」

「「「「もう……いやだ……」」」」

 ◇

 俺たちは通称怪物村に来ている。
 所々ボロボロになった村は、廃村直前まで製塩で栄えていたそうだ。
 村がなくなった後も製塩技師は男爵家で雇い入れていたらしいが、ある日突然いなくなったらしい。

 ゆえに、ジジイの前で製塩の話をすることがタブーになった。
 何故なら、男爵家の家計が傾いた原因が塩問題だから。

 辺境に塩を売りに来る者は少ない。
 でも小さいながらも製塩施設がある。
 人間の生活に必要不可欠な塩が自領で作れるなら、塩の分を他に回すことでギリギリ生活できていた。
 しかし塩を買わなくてはいけなくなったとしたら?

 一気に生活が苦しくなる。
 それだけでなく、塩を運んでくる商人に依存することになる。

 もう言わなくても分かるだろうが、ニコライ商会のことだ。

 製塩のことを含めて、どこまでニコライ商会が関わっているか分からないが、賠償金の支払いがある内は表立って行動することはないだろう。

「この村の西側から海に降りられる場所があるらしいよ」

「そこに落ちてるのか?」

「違います。西には行くけど、用があるのは廃教会です! これも僕の持ち物です!」

「「「廃教会……」」」

 おっ! さすが冒険者。噂ぐらいは聞いていたか。

「じゃあ馬車から背負子を降ろして背負って下さい。手袋が欲しい者はちゃんとしましょう! 松明は僕が用意します!」

「ねぇカルム。ボクだけかな? よく分かってないのは?」

「ディーノも分かってないけど、行かざるを得ないと覚悟を決めているんだよ!」

「いや、分かってるし! ダンジョンだろ!?」

「なんだー! 知ってたのか!」

「これでもギルド近くの食堂で働いてたからな!」

「そういえばそうか」

 酒場や食堂は情報収集には打ってつけだもんな。

「でもここって……。装備は落ちてないんじゃ……」

「ディーノもまだまだだね! じゃあ行くよ!」

「グァ♪」

 背中に乗ったユミルだけが乗り気だった。

 ◇

 断崖絶壁近くに作られた教会は、そこそこ豪奢な造りをしていた。

「とりあえず今日は僕とメイベルに任せて。君たちは素材を拾って欲しい! 魔核とかね」

 俺が頑張ると言うと、何故か全員がユミルを見る。

「グァ?」

「……俺とメイベルは、あの悲しい悲劇を繰り返さないように戦う術を身につけたんだ!」

「頑張った!」

「「「「「…………」」」」」

「……では突入!」

 お前、得してたじゃん! という視線から逃げるように教会に入った。

「おぉうぇーー!」

「グァァァ……」

 俺とユミルみたいな特別仕様の嗅覚持ちにはキツすぎる……。

 さすが死霊教会! アンデッドの巣窟だ!

「最初はスケルトンか」

 長剣のように腰に差してあったメイスを取り出し、縦横無尽に振り回す。
 本来は子どもの腰に差すことができないほどの重量を持つメイスが、俺にはまるで爪楊枝にしか感じない。

 しかも全力で握ると持ち手がひしゃげる可能性があるから、これでもソフトに優しく持っているだけである。

 重量のある鈍器がスケルトンの骨を砕き、メイベルの出番を奪うように数十体のスケルトンを駆逐した。

 そして、コロコロと落ちる魔核と――【技能結晶】。

 この【技能結晶】を目当てにダンジョンに来たのだが、早速【豪運】様が仕事をしたようだ。

 なお、【技能結晶】はダンジョンの魔物からごく稀に入手できる能力の結晶だ。
 天禀がない者でも努力次第では活躍できるようになる、救済措置的なアイテムである。能力的には天禀の下位互換だが、使い方次第では化けることも。

 ただし条件があり、入手した者と同行した者しか使用できない。
 こっそりついていった者や横取りをしようとする者、買い取ろうとする者には使う権利がないということだ。

「ま、まさか――!」

「はい、静かに! どこにでもネズミはいるものだよ?」

 俺が技能結晶だけ集めて、メイベル以外には魔核を回収させる。
 死霊教会は素材型らしいが、魔核や結晶は排出される親切設計らしい。

 まぁ魔核と結晶は切っても切れない関係だから、結晶が排出されるついでに魔核も排出されるのだろう。

「あとでまとめて配布するからね。どうせいくつか出てもここにいる人間しか使用できないし、僕がさせないしね」

 全員から文句が出ないことを確認して次の階を目指して進む。
 罠は特になく、一階層はスケルトンしか出なかった。

「そろそろ邪魔だなー」

「どうしたの?」

「僕が嫌いなネズミが出たから、手早く片付けようと思ってね」

 【魔導眼】で転移して【死天眼】で拘束する。

「こんにちは。毎日毎日ご苦労様」

「な、なんのことでしょうか? 私は教会の管理に来たのです!」

「ここは神前契約で僕の持ち物になっています。教会に所属していて知らないでは済まされませんよ? 貴族の私有地への不法侵入は重罪ですし、土地の権利者に裁量権があるのをご存知ですよね? 司法を担当している教会なら」

「お、脅しには屈しません!」

「脅しではないですよ? あなたは尋問の後、犯罪奴隷か処刑です。とりあえず、ここで大人しくしてて下さい」

「そんなことしたら教会が黙ってませんよ!」

「頑張って連絡してみて下さい」

 全裸に剥いてから猪の皮で作った拘束具と口枷を使う。拘束具には紋章術を使用し、隷属の首輪と同じ効果を持たせている。

「役得……役得……」

 装着を手伝っているディーノが、どさくさに紛れてシスターの裸体を堪能している。

「グァ!」

「真面目にやれって」

「はいっ!」

 最後にユミルに檻を作ってもらい、檻の中に放り込んだ。

「ユミル、氷の檻を作れるなんてすごいなぁ!」

「グァァァ♪」

 照れているユミルが可愛い。

「もが……もが……」

 シスターが何か言っているが、無視してユミルを愛でる。
 背中にいるから少し撫でづらいけど。

「じゃあ次の階に行くよ!」

「「「「へーーい!」」」」

 大分仲良くなったみたいだな。
 善き善き。

「アルは大丈夫? 体力的にキツくない?」

「ボクは大丈夫だよ。メイベルは?」

「わたしも大丈夫だよ」

 メイベルは俺と北の森に狩りに行くから、普通の五歳児よりも体力があると思うな。

「俺たちは?」

「大人だろ。大丈夫に決まってる!」

「ひでぇーーー!」

 ディーノの抗議を無視して、二階層に続く階段を降りていく。

「……さらに臭いな。ゾンビかな?」

「あっ! 革鎧を着てるよ?」

「……欲しい?」

「「「いるかっ!!!」」」

「分かってるって!」

 ズルズルッ……ペタペタと聞こえるゾンビの足音を聞き、メイベルに視線を向ける。
 すると、何故かメイベルは俺の真似をしていた。

「……メイベル、目を閉じたりしてどうしたの?」

「わたしはいない。使命を拒否する」

 さすが。長い付き合いだけある。
 俺の行動を予測するとは……。

「じゃあ僕がやるかな」

 体格がいい大男改め――ラルフに持たせた武器を使うときが来た。

「ラルフ、例のものを!」

「これでいいだか?」

「うむ」

 魔核を回収するために麻袋を持ってきたのだが、空袋を大量に持ってきても仕方がないと思い、いくつか石を詰めた袋を持ってきていた。

「ゾンビの魔核拾いを誰がやるか決めといてね。あとでまとめて洗浄するけど、心理的に嫌でしょう? 専用のクジを作っておいたから、メイベルに渡しておくね!」

「うん!」

 右手にハルバードを持ち、左手にクジを持ったメイベルは素早く俺の意図に気づき、満面の笑みを浮かべて頷く。
 それを見た男性陣は気づいた。
 作業員は男性陣から選抜されるということに。

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