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第二章 シボラ商会

第四十五話 仲直り

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「あれ? ここは?」

「天界みたいですねー」

「じゃあ……」

「いらっしゃい」

 あのときの助けてくれた神様だ。

「「お邪魔してます」」

「ふふふ。緊張しなくて良いんじゃよ。今回は、馬鹿娘たちの説教が終わったことを報告するために呼んだんじゃから。それと眷属の処分についても話があるんじゃ」

「はい」

 グリムは詳しく教えてくれなかったけど、絶対に逆らってはいけないと言われている。
 これに対して反逆者扱いのバラムたちも同意していた。

「おやおや? 誰か知らないが、余計なことを吹き込んだ子たちがおるかのう?」

 グリムはスッと俺の後ろに隠れた。

「ふふふ。まずは娘たちのことを話すかのう」

 神様が手招きをすると、女神様と眷属が足早に歩いてきた。

「「「この度は本当にすみませんでした!」」」

 息ピッタリな謝罪に驚愕する。
 しかも、深々と頭を下げてすらいる。

「こ、こちらこそ! 勘違いで無礼な発言をしてしまいました! すみませんでした!」

「ふむふむ。ではこの者たちは許してくれるかね?」

「もちろんです!」

「良かったのう。爺様送りにならずに済んで」

「「「…………はい」」」

「じゃあお茶にするかのう。【世界宣言】についても詳しく聞きたいしのう」

「「「「「はい!」」」」」

 俺たちはある意味、同志になったと言える。
 何故か自然と背筋が伸びるような雰囲気を持つ神様は、女神様たちにとってはママンと同じなのだろう。

 ママンには逆らえないのは当然のことだ。

 ゆえに、女神様たちの気持ちが痛いほど理解できる。
 この状況は、他人と喧嘩したせいで親に謝らせ、自分も説教を受けるという最悪な状況と同じ状況だろう。
 俺も前世で経験しているから気持ちは痛いほど分かる。

「さぁお菓子もあるぞ」

「「いただきます」」

 グリムも器用に翼を合わせてから食べ始める。
 久しぶりに食べるドーナッツは死ぬほど美味い。

「グリムちゃんは可愛いのう」

「そ、そうですかー?」

 ――グリムが照れてるっ!

「翼を合わせて祈る鳥は見たことないぞ」

「へへへ」

 まぁ関節がどうなっているかは気になるけどね。

「ユミルという熊さんも可愛いですよ! 本当は紹介したかったんですが……」

「知っておるよ。いつも背中に乗せている子じゃろ?」

「はい!」

「あたしも会いたかったんだが、今回は見送ることにしたんじゃ」

「ど、どうしてですか?」

「あんなに可愛い子を会わせてしまったら御褒美になってしまうじゃろ?」

 と言って、一緒にドーナッツを食べている女神様たちを見る。

「「…………」」

 視線を向けられた女神様たちは視線を逸らしつつ、無言でドーナッツを食んでいる。

「あぁ……。でも、ユミルは女神様たちのことを知っていると言っていたので、いつか会わせてあげたいですね」

「ユミルちゃんの住んでいた山は可愛い子が多くいたから、しょっちゅう会いに行っていたのよ! 廃棄世界になったから制約が緩くなったしね」

 モフモフの話になった途端、急に生き生きとし始める月神様。

「近くの山には竜もいるぞ!」

「竜……? 可愛いのかな?」

「うーん、可愛いヤツもいるぞ!」

 太陽神様は竜が好きなようだ。
 格好いい系が好きなのかもしれないな。

「そうじゃのう。廃棄世界なら制限も緩いから、今度そちらに招待してもらおうかのう」

「是非! ホテルを兼ねた神殿を作ります!」

「楽しみにしておるぞ」

「「はい!」」

 ◇

 少しホテルの希望を聞いた後、【世界宣言】の話になった。

「あの不毛の大地をどうするんじゃ?」

「緑を取り戻します」

「ふむ。簡単でいいから説明できるかのう?」

「はい。魔眼で砂の下を見たところ、三層構造になってました。砂の層・魔石の層・土の層という具合に。その下に地盤があるような感じでしたので、土の層まで辿り着ければなんとかなるかと」

「……砂はどうなるんじゃ?」

「砂については建材にする予定です」

「……建材? ふむ……次に来たときの楽しみしておこうかのう」

「では……?」

「うむ。シボラ商会の【世界宣言】を認める。監査神官は、ジークハルト司教にしようぞ」

 ――えっ? 誰だって?

「ふふふ。いつもお世話になっているのに名前を知らないのか?」

「――えっ! ま、まさか……神父様!?」

「そうじゃよ。平民ながら司教になった傑物じゃよ。まぁ貴族出身の神官に疎まれて左遷されたがのう。シスターも良い娘じゃな。従者に立候補して司教と領民に尽くしておる。神職の鑑じゃ」

「格好いい名前ですね……。そういえば、シスターにエリクサーを使ったんですけど、やっぱり精神的ダメージは回復できないですかね?」

「そうじゃのう。恐怖を乗り越える精神力をつけた上で、弱い精神魔法を使った治療と薬物療法でなら治療できるかもしれんのう」

「お、お話し中失礼します!」

 今まで沈黙していた眷属から提案があるらしい。

「召喚獣は魔力的に厳しいでしょうから、従魔をつけてあげるのはどうでしょう? 世話をしていることで辛いことを考えずに済みますし、フラッシュバックした時に近くにいてもらえれば安心でしょう。さらに、可愛いがっている従魔なら癒されるのでは?」

「ふむ。それは良いな。森に知能が高い魔物もおるし、協力してあげてはどうじゃ?」

「はい! 協力します!」

「では、名残惜しいがそろそろ戻すとしようかのう」

「「お世話になりました!」」

「ではのう」

 返事をしようとしたときには、すでに教会に戻っていた。

 あいさつを兼ねてしばらく祈った後、後ろにいる神父様に向かって書類を突き出す。

「ジークハルト司教様! 承認されました!」

「――はぁ!? ってか名前っ!」

 ◇

 神父様がしきりに無理だと言っていた理由は、承認の証明が神託であり、神託を受けることができる神官が限られているかららしい。
 しかし、今回は書類が発行されるという特殊な事例での承認だった。

「僕が思うに、教会が一度反故にしようとしたからでは? もちろん、廃教会のことですよ?」

「……神官が聴いたのに、聴いてないって言うかもってことか?」

「そうです。信用が地に墜ちましたね! 司法を司る場所である教会が、自分たちの利益のために神前契約を反故にしようとしたというのは、大問題になると思いますよ?」

「まぁなぁーー。外部の査察と、裁判官の採用もあるかもなぁ」

「ジークハルト大司教になったりして!」

「絶対にやらんっ! 俺は辺境で十分だわっ!」

 俺と同じくスローライフ希望派なのかな?

「とりあえず、審理の結果と【世界宣言】の承認書を関係各所に回して下さい。早く帰りたいので!」

「そうだな。フドゥー伯爵領については、『治安に不安あり。騎士団と盗賊の関係性について危惧している。暴動の兆しもあるから、対策を求める』と、書いておくな!」

「さすがです!」

 神父様が手続きをしている間、カーティルを呼んで奴隷を怪物村に運んでおいてもらった。
 男爵家への報告と捕縛は明朝に行い、公開処刑にする予定だ。

 もちろん、ニコライ商会や商人ギルドの捕縛も明朝にする。

 ないとは思うけど、逃亡や暗殺の対策にカーティルの配下を配置してもらう。
 彼らは、村内にいる他の諜報員に向けたメッセンジャーになってもらわなければならないのだ。

「さて帰りますか」

「おう!」

 家まであと少しというところで、丸っこいシルエットが向かってきた。
 どうやらユミルがお迎えに来てくれたようだ。

「グァーー♪」

「ユミルーー!」

 ポテポテ走って来るユミルを抱き止め、そのままモフモフを楽しむのだった。

「ただいま!」

「グァ!」

 ◇

 翌日早朝。

 怪物村の警備をカーティルの配下に任せ、銭湯と屋敷の護衛をカーティルとディーノに任せた。
 シスターの面倒はアルとメイベルやママンに任せ、その他の戦闘要員を連れて神父様と一緒に捕縛行脚に向かう。

「朝早くすまないが、当主殿とレイト殿と面会したい」

 今回は怠け者の門番じゃないし、神父様が対応しているからすんなり通されて邸内に入る。
 一年前ぶりの屋敷だが、少しも変化していない屋敷の応接室に案内された。

 しばらく待っていると、ジジイとニックも連れて四人で応接室に入ってきた。

「……早朝だったと記憶しているが?」

 パパン、不機嫌だな。
 しかも、何故か俺を見る目が険しい。

「男爵家にとっても見過ごせないだろう問題が起きまして、朝早くですが伺うことにしました」

「……問題?」

 そこで何で俺を見る?

「えぇ。行方不明だった製塩技師をカルム少年が発見し、捕縛することに成功したのです」

「「「「――何だとっ!」」」」

「昨日来たんですが、門前払いをされてしまったので……。審理の場に立ち会わなかったということで、技師の身柄は僕に権利があるみたいなんです」

「「――そんなっ!」」

 パパンとニックが信じられないという様子で神父様を見るが、神父様は無言で首を振って肯定するだけだった。

「あと、逮捕状が出ています。レイトとニック宛です」

「「――何故だっ!」」

 奪うように逮捕状を見る四人のおっさん&ジジイ。

「準備しておいて」

 バラムたちに捕縛の準備を指示し、相手の出方を待つ。

「レイト殿は公開処刑になります」

「そ、そんな……! な、何かの間違いですっ!」

「サヨナラだね。セバスチャン」

「お、お前の仕業かーーー!」

「神父様、彼は何を言っているのでしょう?」

「さぁ? とにかく捕縛してくれ」

 逮捕状の内容に衝撃を受けたまま固まった三人から援護がないことを悟ったセバスチャンは、当然逃げた。

 ――が、バラムに速攻で捕まった。

 口枷と手枷をつけ、市中引き回しの刑にも処す予定だ。

「ニックは、商人ギルドにも通達を出しておくので裁定に従うように」

「……そんな。……私が塩を売らなければ……領民はどうする……?」

「ん? 技師がいるから塩を作ればいいんだよ? ニックさんが来る前はそうしてたんだから。でしょ?」

 呆然とする三人を残して商人ギルドに向かう。
 もちろん、セバスチャンに視線が集中するが、近くに神父様がいるから無問題。

「おはようございます。銭湯の問題を覚えていますでしょうか? 謝罪をしてもらえませんでしたので、審理請求をさせてもらいました」

「――そんな……」

「こちらが神々の裁定になります。――今回は速やかな処理がされることを祈っております」

 呆然とする受付嬢の代わりに、年配の人が来て処理をしてくれた。
 口座の凍結から預金の移動。
 商人ギルドからの削除とブラックリスト作成。

「この度は本当に申し訳ありませんでした! 以後、同じ事がないように努めさせていただきます!」

「お願いします」

 そしてセバスチャンの処刑も行われ、男爵領での処罰案件は滞りなく終わるのだった。

 
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