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第三章 フドゥー伯爵家
第四十九話 水路工事
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日中のうちに水路や貯水路を作って準備を整えた。
午後は疲労からか、私兵団の作業速度が遅くなったから俺も手伝うことに。
村の防衛に関わることだから、信頼が置けない神官騎士を使いたくなかったのだ。
それに怪物リミッターを解除すればすぐに終わるから、農耕地を囲むスライム水路や、サーブル村の北区と南西にも貯水池を作った。
もちろん、現在は蓋をして隠蔽してある。
水路はそのまま東に向かって延び、街道とぶつかる前に南へ折れて南下する。
南下する直前に浄化槽を用意し、スライムを放り込む予定だ。街道沿いで馬が水分補給をできるようにね。
その先は工事次第で変化する。
「さて、諸君! シボラ商会始まって以来の大規模工事が始まります! 気を引き締めて下さい!」
始まってから数日しか経っていないけど。
「以来って、まだ――」
「アルくん! その突っ込みは受け付けません!」
「「「「「…………」」」」」
私兵団からのジト目は無視し、話を先に進めていく。
シスターが勇気を出して夜に外出してくれたからだ。まだ暗がりは怖いはずだが、【不屈】が良い仕事をしているらしい。
「フルカス、どうだった?」
「ご要望の場所に印をつけてあります」
「ありがとう」
「仕事をしただけです」
その仕事がなければ成功しない工事だからね。
「グリム、広範囲の防音結界をよろしく!」
「ホォーー!」
最近覚えた手加減法は、魔法はグリムに使ってもらうというものだ。
グリムも気を揉む必要がないから楽だと言っていた。
「……槍?」
「うん。リビングアーマーが持っていたヤツね」
「それをどうするんだ?」
神父様は槍と水の関係性が気になるようだ。
「こうします」
――アラド流神槍術《蛟》
強化魔法で槍の強度を上げ、【金剛手】の金剛力で力を底上げすると同時に、技の型をトレースできるように身体制御でサポート。
対象までは【神足通】の閃駆で一気に間を詰め、【洞察眼】の照準と【白毫眼】の必中で寸分違わず技を決める。
もちろん、結晶の【阿修羅】に槍術が統合されていることもアシストになっている。
「せいっ!」
怪物村の南方にある山脈に目掛けて放った技は、大穴を穿つことになった。
トドメに金剛弓で鉄製矢を撃つ。
同時にグリムが大穴を硬化させて補強する。
「離脱!」
「はいですー」
直後、チョロチョロと水が垂れていた亀裂が大きく裂け、轟音を響かせて水があふれ出てきた。
「「大成功(ですー)」」
「グァ!」
特等席で見たいと駄々をこねたユミルは背中に乗ったままだ。
失言の埋め合わせでもあるから、喜んでくれているのは嬉しい。
ところで、アラド流神槍術の開祖は槍一本で小川しかない領地に湖を作ったとされている。
だからこそ、俺もアラド流神槍術で滝を作ろうと思ったのだ。
そう。俺は滝を作った。
夏は涼しいし、目でも楽しめると良いことだらけだ。水路が欲しいだけなら魔導具を設置すれば良いが、滝は山が近くにないと無理だろう。
見捨てられてた村が、どこよりも発展した風光明媚な村になったらどう思うだろうか。
冷遇してカルム少年を殺し、ママンを侮辱し続けた罪は絶対に許してやらないからな!
「商会長!」
「どしたの?」
みんなの元へ戻り、水路の不備がないか確認しようとしたのだが、ゲイルが困惑したような表情で走ってきた。
「い、今のは……アラド流神槍術ですよね!?」
「そうだね」
「使えたのですか!?」
「うん……まぁ。母上はバカラ子爵家出身だしね」
「そ、そうだったのですね! で、でも……今までメイスを使っていたからてっきり……」
「あぁー! サーブル流剛剣術は価値がなさそうだったけど、母上の家の武術だから槍術の訓練はしてたよ。メイスは状況を選ばないから楽なんだよねー!」
俺の場合、振り回すだけで十分な威力を発揮するからね。
それに槍の耐久度だと手加減が難しいのだ。
今回は怪物リミッターを解除したからよかったけど、毎回武器を破壊していたら槍と同時に俺の心も折れる。
手加減無理ーーー! って。
「そうなんですか……」
「……もしかしてアラド流神槍術の道場に行く予定だったけど、領地がなくなったから中止になったの?」
「――えっ?」
「やっぱり。じゃあ僕がフルカスに教えておくから、うちで習えばいいじゃん。母上いるし」
「あ、ありがとうございます!」
「いいから、いいから!」
涙を流すほど嬉しかったようで、とても感謝された。
でも、ハンズィール子爵が余計なことをしなければ、ゲイルや他の希望者も修練に行けたはずなのだ。
俺は関係ないけど、従業員の福利厚生と実力向上のためにも全力を尽くそう。
そして楽をしよう。
「呆けている諸君っ! 貯水池の蓋を外して『シボラ水路開通という立て札を設置したりと、まだまだやることがあるんだからね!」
「お前……マジか……」
「アラドの再来か!?」
前者は神父様で後者はジェイドだ。
神父様はまだしも、ジェイドは失礼だと思うぞ。
「知らない人で例えないで。これは『敬虔な信者が神々に水乞いしたら精霊が応えてくれました』という建前を用意したから、他のことは言わなくていいんだよ?」
「……無理だろ」
「為せばなる」
神父様は無理という言葉を呟きながら、シスターと一緒に滝を眺めていた。
今夜は月が出ているから明言が出ると良いなと思ったが、滝が主役を奪ってしまったようで申し訳ない。
二人にはカーティルの配下を護衛につけ、俺たちは貯水池の点検をしつつ、蓋を取って立て札を設営したりスライムを放り込んだりした。
最後に山道近くの山に穴を開けて水路と繋げる。
何でこんなことをしたかというと、ハンズィール子爵領の水源から水を引いたからだ。
正確に言えば、バカラ領の湖を作った小川の水源が怪物村の南方にある山脈で、俺たちは水が湧き出すよりも手前から水を奪うことにした。
山の栄養を含んだ水が湖に流れることで、湖で魚の養殖ができていたらしい。
だが、その栄養豊富な水は俺たちの滝になったわけだ。
このまま水を奪っただけだといちゃもんをつけられそうだから、スライムで浄化された浄水を小川に流すことで水量を戻すことにした。
水源が全くない場所を選び、湧き水が湧いているように偽装して小川の始まり部分を魔法でずらす。
もちろん、疑惑を持たれて調査に入られてもいいように、元の水源は埋めてある。
これでハンズィールの淡水魚料理の質は格段に落ちるだろう。観光業にも打撃を与えられるはず。
「でもさぁー、母上様の家族が再興を目指しているんでしょ? 将来的に湖はどうするの?」
「え? 母上の家族が何をしょうとも僕には関係ないからねー! 助ける義理はない!」
「「「えっ!」」」
メイベルの他に合流した神父様とシスターも驚いているが、驚くところがあっただろうか?
「え? 驚くところあった?」
「母上様の実家なら伯父さんや御祖父様ってことじゃない?」
「うーん……母上には悪いけど、僕的には男爵家本家より格下なんだよねー」
「なんで!?」
「そうだぞ! 比較にならないほど格上だぞ!」
「それは社会的な評価でしょ? 僕からしたら生まれて一度も会っていない他人だよ? 僕と母上が雑草を食んでいたときに何をしてくれた? 僕が昏睡状態だったときに顔を見に来てくれたかな? 名前を考えてくれた? ないよね? この領地に有名人が来たらすぐに分かるはずだもんね? ――殺されないだけでもありがたいと思って欲しいな」
「「「…………」」」
男爵家はクソみたいなことをやった賠償だが、土地をくれたり魔晶具をくれたりと、生活の糧になることをしてくれている。
一応だが、名前も考えてくれた。
だが、バカラ子爵家はどうだ?
没落したくせにいつまでも栄光にしがみつき、現実を見ようとしない。
ママンに雑草生活をさせたまま放置し、カルム少年のことなど気にも止めずに殺した。
社会からどう見られようとも、アイツらは身内殺しの大罪人だ。
俺の功績を奪うようなことをしようものなら、大好きなアラド流で息の根を止めてやる。
これがアラド流を習得した本当の理由だ。
「グァ! グァ!」
手を叩いて威嚇しているユミル。
一緒に怒ってくれているのかな?
「ユミルも怒ってくれるの?」
「グァ!」
「ありがとう!」
「グァ♪」
ユミルの可愛いスリスリ攻撃のおかげで、心の中に溜まったドロドロしたものが消え去った。
◇
「おいっ! 開けろっ!」
激しく扉を打つ音で無理矢理起こされる。
まだ朝早いと言うのに……。
「どなたですかー? 非常識ですよー!」
わざわざ聞かずとの誰かは知っている。
我が無能なパパンだ。
「私だ!」
「だからー、誰なんですか!?」
「ふざけている場合か!」
「ふざけてません。名前を伺わないと開けられませんよー!」
「――アルミュール男爵家当主リアムだ!」
「あっ! 父上でしたかー!」
「白々しいっ!」
「それで何用ですか? 早朝に先触れもなく来たんですから、きっと緊急事態なのでしょ?」
「アレは何だ!?」
「アレとは?」
「ふざけるなと言っているっ!」
短気だなー!
ガンツさんは最後まで乗ってくれたのに……。
「何を言っているのか分からないので、僕も見に行きますよ」
「早くしろっ!」
ユミルはまだ寝ているから、グリムだけ連れて外に出る。
一番近い西門から外に出ると、水路の周りには多く人集りができていた。
怪物村からの水路は農耕地の真ん中を突っ切った後北に抜けて、北区付近に作った貯水池に水が溜まる。
そこから南西の貯水池に向かった水路が怪物村へ続く街道の東側に作られ、南西の貯水池に水が溜まるという寸法だ。
門から出てすぐに水路があるから橋も作ったし、落下防止柵も設置している。
何も問題がないはずだ。
「すごい人ですねー。みんな朝から元気だ!」
「そんなこと! どうでもいいだろ!」
「どうでも良くないでしょ? 領民が元気なことは大切ですよ? この場合、水路の方がどうでもいいと思いますが?」
「――揚げ足を取るなっ!」
はぁ……。領民が聞いているのに……。
「水路なら僕の村の農耕地に水路が必要だったから引いたんですよ。見て下さい。僕の農耕地の中にあるでしょ? この話をしたら、神父様とシスターが領民も水路を欲していると言っていたので、ついでに作ったまでです。――気に入らなかったら埋め立てますよ?」
領民が見ている前で「埋めろ」と言うだろうか? その場合、暴動を覚悟する必要があるけど?
「――大義であった!」
「光栄です」
直後、大歓声が上がるのだった。
午後は疲労からか、私兵団の作業速度が遅くなったから俺も手伝うことに。
村の防衛に関わることだから、信頼が置けない神官騎士を使いたくなかったのだ。
それに怪物リミッターを解除すればすぐに終わるから、農耕地を囲むスライム水路や、サーブル村の北区と南西にも貯水池を作った。
もちろん、現在は蓋をして隠蔽してある。
水路はそのまま東に向かって延び、街道とぶつかる前に南へ折れて南下する。
南下する直前に浄化槽を用意し、スライムを放り込む予定だ。街道沿いで馬が水分補給をできるようにね。
その先は工事次第で変化する。
「さて、諸君! シボラ商会始まって以来の大規模工事が始まります! 気を引き締めて下さい!」
始まってから数日しか経っていないけど。
「以来って、まだ――」
「アルくん! その突っ込みは受け付けません!」
「「「「「…………」」」」」
私兵団からのジト目は無視し、話を先に進めていく。
シスターが勇気を出して夜に外出してくれたからだ。まだ暗がりは怖いはずだが、【不屈】が良い仕事をしているらしい。
「フルカス、どうだった?」
「ご要望の場所に印をつけてあります」
「ありがとう」
「仕事をしただけです」
その仕事がなければ成功しない工事だからね。
「グリム、広範囲の防音結界をよろしく!」
「ホォーー!」
最近覚えた手加減法は、魔法はグリムに使ってもらうというものだ。
グリムも気を揉む必要がないから楽だと言っていた。
「……槍?」
「うん。リビングアーマーが持っていたヤツね」
「それをどうするんだ?」
神父様は槍と水の関係性が気になるようだ。
「こうします」
――アラド流神槍術《蛟》
強化魔法で槍の強度を上げ、【金剛手】の金剛力で力を底上げすると同時に、技の型をトレースできるように身体制御でサポート。
対象までは【神足通】の閃駆で一気に間を詰め、【洞察眼】の照準と【白毫眼】の必中で寸分違わず技を決める。
もちろん、結晶の【阿修羅】に槍術が統合されていることもアシストになっている。
「せいっ!」
怪物村の南方にある山脈に目掛けて放った技は、大穴を穿つことになった。
トドメに金剛弓で鉄製矢を撃つ。
同時にグリムが大穴を硬化させて補強する。
「離脱!」
「はいですー」
直後、チョロチョロと水が垂れていた亀裂が大きく裂け、轟音を響かせて水があふれ出てきた。
「「大成功(ですー)」」
「グァ!」
特等席で見たいと駄々をこねたユミルは背中に乗ったままだ。
失言の埋め合わせでもあるから、喜んでくれているのは嬉しい。
ところで、アラド流神槍術の開祖は槍一本で小川しかない領地に湖を作ったとされている。
だからこそ、俺もアラド流神槍術で滝を作ろうと思ったのだ。
そう。俺は滝を作った。
夏は涼しいし、目でも楽しめると良いことだらけだ。水路が欲しいだけなら魔導具を設置すれば良いが、滝は山が近くにないと無理だろう。
見捨てられてた村が、どこよりも発展した風光明媚な村になったらどう思うだろうか。
冷遇してカルム少年を殺し、ママンを侮辱し続けた罪は絶対に許してやらないからな!
「商会長!」
「どしたの?」
みんなの元へ戻り、水路の不備がないか確認しようとしたのだが、ゲイルが困惑したような表情で走ってきた。
「い、今のは……アラド流神槍術ですよね!?」
「そうだね」
「使えたのですか!?」
「うん……まぁ。母上はバカラ子爵家出身だしね」
「そ、そうだったのですね! で、でも……今までメイスを使っていたからてっきり……」
「あぁー! サーブル流剛剣術は価値がなさそうだったけど、母上の家の武術だから槍術の訓練はしてたよ。メイスは状況を選ばないから楽なんだよねー!」
俺の場合、振り回すだけで十分な威力を発揮するからね。
それに槍の耐久度だと手加減が難しいのだ。
今回は怪物リミッターを解除したからよかったけど、毎回武器を破壊していたら槍と同時に俺の心も折れる。
手加減無理ーーー! って。
「そうなんですか……」
「……もしかしてアラド流神槍術の道場に行く予定だったけど、領地がなくなったから中止になったの?」
「――えっ?」
「やっぱり。じゃあ僕がフルカスに教えておくから、うちで習えばいいじゃん。母上いるし」
「あ、ありがとうございます!」
「いいから、いいから!」
涙を流すほど嬉しかったようで、とても感謝された。
でも、ハンズィール子爵が余計なことをしなければ、ゲイルや他の希望者も修練に行けたはずなのだ。
俺は関係ないけど、従業員の福利厚生と実力向上のためにも全力を尽くそう。
そして楽をしよう。
「呆けている諸君っ! 貯水池の蓋を外して『シボラ水路開通という立て札を設置したりと、まだまだやることがあるんだからね!」
「お前……マジか……」
「アラドの再来か!?」
前者は神父様で後者はジェイドだ。
神父様はまだしも、ジェイドは失礼だと思うぞ。
「知らない人で例えないで。これは『敬虔な信者が神々に水乞いしたら精霊が応えてくれました』という建前を用意したから、他のことは言わなくていいんだよ?」
「……無理だろ」
「為せばなる」
神父様は無理という言葉を呟きながら、シスターと一緒に滝を眺めていた。
今夜は月が出ているから明言が出ると良いなと思ったが、滝が主役を奪ってしまったようで申し訳ない。
二人にはカーティルの配下を護衛につけ、俺たちは貯水池の点検をしつつ、蓋を取って立て札を設営したりスライムを放り込んだりした。
最後に山道近くの山に穴を開けて水路と繋げる。
何でこんなことをしたかというと、ハンズィール子爵領の水源から水を引いたからだ。
正確に言えば、バカラ領の湖を作った小川の水源が怪物村の南方にある山脈で、俺たちは水が湧き出すよりも手前から水を奪うことにした。
山の栄養を含んだ水が湖に流れることで、湖で魚の養殖ができていたらしい。
だが、その栄養豊富な水は俺たちの滝になったわけだ。
このまま水を奪っただけだといちゃもんをつけられそうだから、スライムで浄化された浄水を小川に流すことで水量を戻すことにした。
水源が全くない場所を選び、湧き水が湧いているように偽装して小川の始まり部分を魔法でずらす。
もちろん、疑惑を持たれて調査に入られてもいいように、元の水源は埋めてある。
これでハンズィールの淡水魚料理の質は格段に落ちるだろう。観光業にも打撃を与えられるはず。
「でもさぁー、母上様の家族が再興を目指しているんでしょ? 将来的に湖はどうするの?」
「え? 母上の家族が何をしょうとも僕には関係ないからねー! 助ける義理はない!」
「「「えっ!」」」
メイベルの他に合流した神父様とシスターも驚いているが、驚くところがあっただろうか?
「え? 驚くところあった?」
「母上様の実家なら伯父さんや御祖父様ってことじゃない?」
「うーん……母上には悪いけど、僕的には男爵家本家より格下なんだよねー」
「なんで!?」
「そうだぞ! 比較にならないほど格上だぞ!」
「それは社会的な評価でしょ? 僕からしたら生まれて一度も会っていない他人だよ? 僕と母上が雑草を食んでいたときに何をしてくれた? 僕が昏睡状態だったときに顔を見に来てくれたかな? 名前を考えてくれた? ないよね? この領地に有名人が来たらすぐに分かるはずだもんね? ――殺されないだけでもありがたいと思って欲しいな」
「「「…………」」」
男爵家はクソみたいなことをやった賠償だが、土地をくれたり魔晶具をくれたりと、生活の糧になることをしてくれている。
一応だが、名前も考えてくれた。
だが、バカラ子爵家はどうだ?
没落したくせにいつまでも栄光にしがみつき、現実を見ようとしない。
ママンに雑草生活をさせたまま放置し、カルム少年のことなど気にも止めずに殺した。
社会からどう見られようとも、アイツらは身内殺しの大罪人だ。
俺の功績を奪うようなことをしようものなら、大好きなアラド流で息の根を止めてやる。
これがアラド流を習得した本当の理由だ。
「グァ! グァ!」
手を叩いて威嚇しているユミル。
一緒に怒ってくれているのかな?
「ユミルも怒ってくれるの?」
「グァ!」
「ありがとう!」
「グァ♪」
ユミルの可愛いスリスリ攻撃のおかげで、心の中に溜まったドロドロしたものが消え去った。
◇
「おいっ! 開けろっ!」
激しく扉を打つ音で無理矢理起こされる。
まだ朝早いと言うのに……。
「どなたですかー? 非常識ですよー!」
わざわざ聞かずとの誰かは知っている。
我が無能なパパンだ。
「私だ!」
「だからー、誰なんですか!?」
「ふざけている場合か!」
「ふざけてません。名前を伺わないと開けられませんよー!」
「――アルミュール男爵家当主リアムだ!」
「あっ! 父上でしたかー!」
「白々しいっ!」
「それで何用ですか? 早朝に先触れもなく来たんですから、きっと緊急事態なのでしょ?」
「アレは何だ!?」
「アレとは?」
「ふざけるなと言っているっ!」
短気だなー!
ガンツさんは最後まで乗ってくれたのに……。
「何を言っているのか分からないので、僕も見に行きますよ」
「早くしろっ!」
ユミルはまだ寝ているから、グリムだけ連れて外に出る。
一番近い西門から外に出ると、水路の周りには多く人集りができていた。
怪物村からの水路は農耕地の真ん中を突っ切った後北に抜けて、北区付近に作った貯水池に水が溜まる。
そこから南西の貯水池に向かった水路が怪物村へ続く街道の東側に作られ、南西の貯水池に水が溜まるという寸法だ。
門から出てすぐに水路があるから橋も作ったし、落下防止柵も設置している。
何も問題がないはずだ。
「すごい人ですねー。みんな朝から元気だ!」
「そんなこと! どうでもいいだろ!」
「どうでも良くないでしょ? 領民が元気なことは大切ですよ? この場合、水路の方がどうでもいいと思いますが?」
「――揚げ足を取るなっ!」
はぁ……。領民が聞いているのに……。
「水路なら僕の村の農耕地に水路が必要だったから引いたんですよ。見て下さい。僕の農耕地の中にあるでしょ? この話をしたら、神父様とシスターが領民も水路を欲していると言っていたので、ついでに作ったまでです。――気に入らなかったら埋め立てますよ?」
領民が見ている前で「埋めろ」と言うだろうか? その場合、暴動を覚悟する必要があるけど?
「――大義であった!」
「光栄です」
直後、大歓声が上がるのだった。
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