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ホストと女医は診察室で.44
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「もしもし…」
「ああ、慶子さん。久しぶり」
和希は悪びれることなく言った。
「お久しぶりです…」
「その後、体の調子はどう?もうそろそろ妊娠が分かる頃かなと思ってね」
「そうですね。妊娠していれば分かりますね」
慶子は努めて冷静な口調で答えた。
「で、どうだったんですか?慶子さんはお医者さんをしてるんですから、そういう検査なんて簡単に出来るんでしょう」
「ええ…」
ここで「妊娠していなかった」と答えるのは簡単だ。
だけどこの間の和希の様子を考えると、果たして自分の言葉をそのまま素直に信じてくれるだろうか…。
どうもこの間から和希は狂気じみているというか、出会った頃とは別人のようになってしまったように感じる瞬間が多い。
和希自身も聖夜に対するコンプレックスを自ら口にしているくらいだから自覚はあるようだけれど。
恐らく分かっていてもどうにもできないのだろう。
「和希さんは私の言うことを信じてくれるんですか?」
慶子は和希に冷静さを取り戻して欲しかった。
「信じますよ、だって慶子さんは医者でしょう?仮にも人様の健康や命を預かる職業についてる人の言うことを信じない訳ないじゃないですか」
本当だろうか…。
こうハッキリ言われても、慶子の中にはまだすっきりしないしこりの様なものが残っている。
「妊娠していませんでした」
「えっ…」
「検査の結果、妊娠はしていませんでした」
慶子はハッキリとした口調で繰り返した。
「嘘ですよね…、ハハッ…、僕のことが嫌いだからってそんな嘘つくなんて…ひどいな。僕には妊娠してないって言って、こっそり中絶するつもりなんだ。ああ、そんな人だとは思わなかったな。職権乱用もいいところだね」
和希の声は上ずって、かすかに震えていた。
ダメだ…。
こうなっては、もうまともに会話などできない。
「和希さんがそう思うのなら仕方ありませんね。ただ、私が言えるのは妊娠などしていないということだけです。すみません、まだ仕事が残っていますので…」
慶子はきっといつまでも結論がでないであろう、この話を打ち切ろうとした。
「駄目だ!勝手に中絶するなんて許さない!!君のご両親に連絡させてもらう」
そう言うと和希は勝手に電話を切ってしまった。
ちょっ、ちょっと…嘘でしょ。
家族を巻き込むのはルール違反じゃないだろうか。
和希さんはまだ若いとはいえ、自分の行動には責任を取らなければいけない年齢だ。
それなのに肝心なところになったら親に頼ろうとしている…。
困ったな…。
父や母にこれ以上迷惑をかけたくない…。
だけど、こうなってしまったのには自分の失態が関係しているわけで…。
「ああ、もう!!」
すっかり食欲など失せてしまったけれど、作りかけだった夕食を仕上げて、無理やりお腹に押し込んだ。
和希が母である澄江に連絡を入れる前に自分から母に情報を入れておく必要がある。
だけどその内容があまりにも不甲斐ない…。
これまでの人生で両親を死ぬほどがっかりさせたことなど一度もなかったのに…。
「ああ、慶子さん。久しぶり」
和希は悪びれることなく言った。
「お久しぶりです…」
「その後、体の調子はどう?もうそろそろ妊娠が分かる頃かなと思ってね」
「そうですね。妊娠していれば分かりますね」
慶子は努めて冷静な口調で答えた。
「で、どうだったんですか?慶子さんはお医者さんをしてるんですから、そういう検査なんて簡単に出来るんでしょう」
「ええ…」
ここで「妊娠していなかった」と答えるのは簡単だ。
だけどこの間の和希の様子を考えると、果たして自分の言葉をそのまま素直に信じてくれるだろうか…。
どうもこの間から和希は狂気じみているというか、出会った頃とは別人のようになってしまったように感じる瞬間が多い。
和希自身も聖夜に対するコンプレックスを自ら口にしているくらいだから自覚はあるようだけれど。
恐らく分かっていてもどうにもできないのだろう。
「和希さんは私の言うことを信じてくれるんですか?」
慶子は和希に冷静さを取り戻して欲しかった。
「信じますよ、だって慶子さんは医者でしょう?仮にも人様の健康や命を預かる職業についてる人の言うことを信じない訳ないじゃないですか」
本当だろうか…。
こうハッキリ言われても、慶子の中にはまだすっきりしないしこりの様なものが残っている。
「妊娠していませんでした」
「えっ…」
「検査の結果、妊娠はしていませんでした」
慶子はハッキリとした口調で繰り返した。
「嘘ですよね…、ハハッ…、僕のことが嫌いだからってそんな嘘つくなんて…ひどいな。僕には妊娠してないって言って、こっそり中絶するつもりなんだ。ああ、そんな人だとは思わなかったな。職権乱用もいいところだね」
和希の声は上ずって、かすかに震えていた。
ダメだ…。
こうなっては、もうまともに会話などできない。
「和希さんがそう思うのなら仕方ありませんね。ただ、私が言えるのは妊娠などしていないということだけです。すみません、まだ仕事が残っていますので…」
慶子はきっといつまでも結論がでないであろう、この話を打ち切ろうとした。
「駄目だ!勝手に中絶するなんて許さない!!君のご両親に連絡させてもらう」
そう言うと和希は勝手に電話を切ってしまった。
ちょっ、ちょっと…嘘でしょ。
家族を巻き込むのはルール違反じゃないだろうか。
和希さんはまだ若いとはいえ、自分の行動には責任を取らなければいけない年齢だ。
それなのに肝心なところになったら親に頼ろうとしている…。
困ったな…。
父や母にこれ以上迷惑をかけたくない…。
だけど、こうなってしまったのには自分の失態が関係しているわけで…。
「ああ、もう!!」
すっかり食欲など失せてしまったけれど、作りかけだった夕食を仕上げて、無理やりお腹に押し込んだ。
和希が母である澄江に連絡を入れる前に自分から母に情報を入れておく必要がある。
だけどその内容があまりにも不甲斐ない…。
これまでの人生で両親を死ぬほどがっかりさせたことなど一度もなかったのに…。
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