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第二部:虚飾の聖女と女神の癒し手

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 一行の王都への帰還をロザリエの父親であるルクス家当主は娘と癒し手を大喜びで出迎えた。

 屋敷の入り口で待ち構えていた彼はロザリエを幼女のように抱き上げ、表彰楯のように周囲に見せびらかした。

 これは長身で体格のいい彼の昔からの癖だった。愛娘を自慢したい時などにこうするのだ。そのことをロザリエの乳兄弟であるグラジオは知っていた。

 しすし肌が元の状態になったとはいえ、彼女は長旅の後である。

 グラジオは喜び故の行動とはいえ、その状態で見世物にされた女上司の機嫌が下降していくのを気まずい思いで眺めた。

 それでもこうなることを予見していたのか、馬車内で最低限の化粧直しを終え髪を結い直していたロザリエは赤髪の騎士から見ても上等の美女だった。

 鱗で覆われた顔を見慣れたルクス家の者たちの目には尚更輝いて映るだろう。

 彼女の年の離れた弟妹たちも父と姉に駆け寄り大喜びでくるくると踊り、伯爵夫人はそっと目頭を押さえた。

 使用人たちも次々に祝辞を述べ、屋敷の中は歓喜の空気で包まれた。そんな中で不機嫌でいる程ロザリエは頑なな女ではない。

 父親の行動に軽く抗議をしつつも大輪の薔薇のような笑顔で皆に礼を言い、そして功労者としてリリアを紹介した。

 腕利きの薬師としてだ。大勢の人間を前に木製の人形のように固まっていたリリアはそれでも頑張って挨拶をしようとした。

 ルクス家の薔薇の治療をしてくれた恩人だ、そして教会の聖女さえ治療できなかった呪毒を癒した人物でもある。皆が彼女に注目していた。

 だから本当にそのままでよかったのだ。


「皆の衆、この薬師殿はルクス家の大恩人だ!全員この愛らしい顔を覚えておくのだぞ!!」


 その大宣言と共に伯爵はリリアを高い高いした。やっべと思わずグラジオは呟いた。

 自分と同じように一歩下がった位置で様子を見ていたアドニスが表情を凍らせ、次にロザリエが遠慮なしに父の足を蹴りつけたのも見た。

 しかし時遅く、リリアは最早物言えぬ状態に成り果てていた。

 そう、緊張しきった中で背後からいきなり持ち上げられ失神したのだ。可哀想が過ぎる。

 リリアの臆病さを知っているからこそグラジオは心から哀れに思った。

 そしてこれがルクス家の住人達と村から来た癒し手の初邂逅になったのだ。
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