6 / 18
2 上機嫌な客
#2
しおりを挟む「伊織さん、コーヒーをどうぞ。それと、もし甘いものが大丈夫なら、こちらも召し上がってください。本日のお勧めの白桃のタルトです」
売れ残りを出すようで気が引けるけれど、ここ最近で一番の自信作で本当にお勧めの品なのだから、コーヒーに白桃タルトも添えてお出しした。
タルト、気に入っていただけるといいんだけど。
「あぁ、ありがとう。実は今日、祥徳大病院の救急外来で応援勤務でね。今は、その帰り道なんだ。かなり疲れてるから、甘いものは嬉しいよ」
「え? 祥徳大病院で応援勤務をされてるんですか?」
白桃タルトを嬉しそうにつつきながらの伊織の言葉に、思わず顔がほころんだ。
祥徳大学は、パティシエ修業のために二年で中退したとはいえ、自分の母校だ。
「実は、僕の友だちも、祥徳大病院のドクターなんですよ」
そして、大学の付属病院である祥徳大病院は、友人たちの勤務先でもあるのだから。
それまで、なんとなく距離を測りかねていた伊織との小さな接点を知り、一歩近づいて友人たちの話題を出した。
「うんうん、知ってるよぉ。あの子と、あの子でしょ? よぉっく、知ってるー。特に藤沢先生は、僕の勤務先にも研修医として勉強に来てるからね。僕、彼の指導医なんだよ」
「あ、そうなんですか」
へぇ。この人、慶太くんたちともお知り合いなのかぁ。
祥徳大病院で外科の研修医として勤務中の藤沢慶太は、三つ年下だが、壱琉や自分とは幼なじみの間柄。
伊織がその慶太の指導医なら、壱琉とどこかで繋がりが出来ていてもおかしくない。
「あっ、じゃあ、いっちゃんとお知り合いなのは、慶太くんとの縁で、ですか?」
……ん? あれ?
でも、なんで、今までいっちゃんの口からこの人の話題が出なかったんだろ。
慶太の名前を出して尋ねた後に、そう思ったけれど。
毒舌を吐き出す時以外は無駄口をきかない、つまり『面倒くせぇ。だりぃ』が口癖の省エネ主義の壱琉のことだ。
今まで自分がそのことを知らなかっただけなんだろうと、即、結論づけた。
「まぁね。藤沢先生とはイロイロあるからねぇ。――ところで君、ほんとに27歳?」
『チカだけ仲間外れみたいで、ちょっとだけ悔しいな』という内心の呟きに占拠されていた脳内に、軽妙な口調を少しだけ低めた伊織の問いかけが届いてきた。
「ハンチング風のコック帽から見え隠れしている、ふわふわの茶髪と、ぱっちりとした大きな鳶色の瞳。ほんのりピンクのぷるぷる頬と、色白の肌。君、ビジュアルもアリだねぇ。かなり僕好みだよ」
柔らかな物腰と瞳が一転、妖しく変化し、ひやりとした空気を纏っていく。
「ねぇ、秋田くん?」
ニタリと笑った伊織が、低く問いかけてきた。
「君、メスで切られるのと、薬で気持ち良くなるの、どっちが好き?」
10
あなたにおすすめの小説
愛と猛毒(仮)
万里
BL
オフィスビルの非常階段。冷え切った踊り場で煙草をくゆらせる水原七瀬(みずはらななせ)は、部下たちのやり取りを静かに見守っていた。 そこでは村上和弥(むらかみかずや)が、長年想い続けてきた和泉に別れを告げられていた。和泉は「ありがとう」と優しく微笑みながらも、決意をもって彼を突き放す。和弥は矜持を守ろうと、営業スマイルを貼り付けて必死に言葉を紡ぐが、その姿は痛々しいほどに惨めだった。
和泉が去った後、七瀬は姿を現し、冷徹な言葉で和弥を追い詰める。 「お前はただの予備だった」「純愛なんて綺麗な言葉で誤魔化してるだけだ」――七瀬の毒舌は、和弥の心を抉り、憎悪を引き出す。和弥は「嫌いだ」と叫び、七瀬を突き放して階段を駆け下りていく。
「……本当、バカだよな。お前も、俺も」
七瀬は独り言を漏らすと、和弥が触れた手首を愛おしそうに、そして自嘲気味に強く握りしめた。
その指先に残る熱は、嫌悪という仮面の下で燃え盛る執着の証だった。 毒を吐き続けることでしか伝えられない――「好きだ」という言葉を、七瀬は永遠に飲み込んだまま、胸の奥で腐らせていた。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる