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「この少し先の森の中に角ウサギが何匹か群れているな」
「角ウサギ?」

 出していた馬車を収納した後、無心に努める俺を前に乗せて後ろから抱きかかえる様にソランツェが手綱を持ち、俺達は出発した。
 そして、ちょっと速足で道を進んでいる途中でソランツェがそう言って馬を停める。

「弱いんだが繁殖力が高くすぐ大群になる、角に軽い麻痺毒もあるから放置するのはあまり良くないやつだ」
「駆除対象って事か」
「そうだな。まあ、肉は食べられるから綺麗に仕留めれば食料として少しは役に立つ」
「ふ-ん……」

 なんだろう、すごく嫌な予感がするな。この話の流れから一つしか選択肢ないのは判るけど。俺血とか見たくないんだけど……。
 そんな俺の心境をよそにソランツェが馬からさっと降り始める。そして、俺を降ろす為手を伸ばしてきた。

「ほら、来い」

 この後の事を思い渋々だけど、その手を頼りにソランツェに抱き着き降ろしてもらう。プライドも何もあったもんじゃないが、ブランは大きいし、乗馬の慣れない感じで足がおかしいんだから仕方ないと自分に言い訳する。

「予想はつくんだけど、一応何するか訊いていい?」
「駆除だな」
「だよね~知ってた~」
「リヒトがやるんだぞ」
「え?! なんで!?」
「攻撃の練習だ」
「無理だよ! 出来ないって!」

 三十路超えてるおっさんなのに、やりたくなさ過ぎて道端で子供の様に駄々を捏ねていると、ソランツェが俺の両手を取り少しかがんで目線を合わせくる。

「リヒトは自分が持つ加護の力を理解しているか?」
「どういう事……?」
「わが神からリヒトはここではない平和な所で生まれ育ったと聞いている」
「うん、魔物なんていない」
「そうか……根本的に違うからか」

 ソランツェはそう言って少し考えている。


「ここでは魔物がいて、それをどうこうするかで生きている。うまく使えるのもあるが、害を及ぼすものは駆除、討伐する。しないと暮らしていけない」
「うん」

 俺は『そんな世界』に来たんだ、と改めて理解しろと言いたいんだろう。

「色んな国を旅を出来る身分証を手に入れるには冒険者になるしかないが、定期的に、30日に一回くらいの頻度で冒険者として何か依頼を熟さないとその身分証としての効力を継続出来ないという事は聞いているか?」
「いや、聞いてない」

 何かしないといけないのかなあ?と薄っすら思ってはいたが、定期的にっての、そんなのは初耳だ。なんつーか、サブスクリプションみたいな感じだな。
 というか、そういう事なら俺もやらなきゃいけないって事なんだろう。嫌だなあ。

「依頼には討伐依頼や採取依頼、護衛依頼など色々あって報酬も様々だ」
「それって魔物と戦わないでいい安全なやつはある?」
「戦いたくないからそれで済ませられるならそれがいいという事だな」
「まあ、うん。そうだね」
「絶対という訳ではないが安全なものはある。だが、それは報酬も微々たるものだ」

 報酬。お金。
 今は地球分の代わりとしてお金はあるけど無くなれば……って、ソランツェが言いたい事に気付いた。

「ああ、そうか、俺は稼いでいかないといけないのか。に」
「そうだな。その為に、平和な所で育ったリヒトでも大丈夫な様に不自由ない力を与えられているはずだ」

 アシュマルナが俺がこの世界で生きていく為に『困る事のない』様にしてくれたから、武器を握った事もない俺でも魔物を倒せる様に色んな魔法の力、受け身なんかまともに取れないだろう鍛えた事のない弱い体だから各種ダメージ無効という加護の力を貰ったという事なんだな。
 でも、それでも怖いからって安全な依頼しか受けずにお金が無くなった場合を考えて、加護の力に加えてあの馬車があれば飢えて困る事の無い様にしてくれたのかな。
 ならば、それならそれでいいんじゃね?安全な依頼だけ受けて、とか逃げの方向で考えていたらソランツェはまだ話を続ける。

「いっぱい稼ぐ為には高ランクの強い魔物の討伐がいいのは判るな?」
「うん」
「でも、いきなりそんな奴と戦えるか?」
「無理。加護の力があってもなあ……」
「だから、弱い奴から練習だ。慣れろ」
「うーん……」
「まずは遠距離攻撃からでいい、殺す事に慣れるんだ。相手を先にやってしまえば近付いて来る事はないだろ?」
「そりゃ、まあ、うん」

 力を与えられた意味は理解はしたが、やっぱり馬車あるしなあ……と踏み切れず微妙な返事しかしない俺にソランツェは未だに握っていた手の力を強めてくる。

「あとな、冒険者登録は適性判定の済んだ十歳からは誰でも出来るから孤児院の子供や親が怪我だったりで職に就けず貧しい生活をしている子供も日銭を稼ぐ為に登録していたりする」
「……そうなのか」
「力がない為に安全だけれど微々たる報酬の依頼しか受けられない子供から、加護の力もあって怪我すらしない、あの馬車があれば金が無くても飢える事の無いリヒトは怖いという理由だけで仕事を奪いたいか?」
「う、奪いたくない」
「その者たちが依頼を熟す際に安全でいられる様に厄介な魔物を駆除しようと思わないか?リヒトには練習になるんだから良いんじゃないか?」
「……思うけど」

 角度を変えてきた説得に、そんなの聞いたら与えられている俺は頑張るしかないじゃんかとソランツェの顔を見る。

「よし、良い子だ」
「俺、年上なんだけど……」

 ソランツェは握っていた手を離し、知らない内に尖らせていた俺の唇をキュッとつまんでニヤリと笑ってから、森の方へ歩いていく。


 
 やるしかないかぁと諦めて、じゃあ行ってくるからねとブランを一撫でしてから指輪の中に戻す。指輪の中ではどうなってるんだろう。後でアシュマルナに訊こう。
 待っていたソランツェと合流すれば音を立てずについて来いと言われ、そんな無茶なと思いながらも出来る限り気を付けてついて行った。


 がんばるぞー、おー(棒)
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