ホストに恋して破滅した私ですが、高級キャバ嬢になってイケメンオーナーから愛されています。

西羽咲 花月

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休日

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出入り禁止になるかもしれないと言われていた山田さんはマキさんから怒られたようで、すぐに態度を改めた。
マキさんがいないときでも一応は他の嬢たちと仲良くしている姿を、店内で何度も見かけていた。

あんなに怖そうな人でも好きになった嬢のひとことでコロッと態度が変わるのだと、日奈子は驚いたくらいだ。
そんなことがあった更に数日後。

世間は仕事初めで眠そうな顔をした会社員たちが行き交い始めていた。
ノアールのクリスマスイベントも無事に終了したけれど、次に待っていたのは嬢たちへの休暇だった。

「予定通り明日から3日間はノアールを休みにする」
閉店後の店内で光から言われて嬢たちがワッと沸き立つ。

少し遅い正月休みで、実家に帰ったり彼氏の言えに入り浸ったりする予定の子もいるみたいだ。


「日奈子はなにか予定があるのか?」
休日前夜の部屋で並んで映画を見ていると光がそう質問してきた。

実家に戻ろうかとも考えていたけれど、派遣の仕事をやめたことを両親にはまだ伝えていない。
いつか言わなきゃと思っているのだけれど、まだその勇気はもてていなかった。

だから実質、この三連休に日奈子の予定はなにもなかった。
「それなら俺と一緒に京都へ行こう」

「京都?」
「あぁ」

「何人で?」
てっきり店の嬢たちと一緒だと思っていたけれど、光は「ふたりでだ」と、答えた。
その瞬間日奈子の頬がボッと熱くなる。

光とふたりきりで京都。
それでデートということだろうか。


一緒に暮らしているのだから今更照れるようなことでもないかもしれないけれど、妙に意識してしまう。
それもこれも、光からのボディタッチが最近増えてきたからだ。

「あ、あの、それって……」
「なんだ?」

光はテレビ画面を見ながら日奈子の肩に手を回す。
ごく普通にそんなことをされるので、日奈子としては心臓がもたない。

どうしてそんなに接近してくるのか質問したくても、どんな答えが返ってくるかわからないのでなにも言えない。
日奈子は結局黙り込んでひとりでドキドキしているのだった。


☆☆☆

光に半ば強引に決められた旅行の前日、日奈子は自分の部屋で着替えの準備をしながらふと思い出したことがあった。
本棚へ向い、本の間に隠してあった写真を取り出す。

荷物の中身を捨てたあの時、それでも捨てることができなかったカズの写真だ。
写真の中のカズは相変わらず日奈子に笑いかけてくれている。

だけど、今その写真を見ても日奈子はなにも感じなかった。
あれだけ好きだった相手なのに、胸がときめくこともない。

「もう、あんたのことなんて全然好きじゃない」
ノアールで仕事を初めた当初はカズのことを思い出して胸が痛むこともあった。

だけど、今はもうそれもない。
日奈子の頭の中を占領しているのはカズではなく、光になっていた。

日奈子は光の手の暖かさを思い出しながら、写真を破り捨てたのだった。


☆☆☆

新幹線に乗って京都に降り立ったとき、光が右手を差し出してきた。
日奈子は自然と手を握り返す。

すると光は日奈子のことをグイッと引き寄せたのだ。
突然近くなる距離に思わず足踏みをしてしまう日奈子。

「人が多い場所だ。ちゃんと歩け」
そんなことを言われても突然引き寄せておいてなにを……。

そう思うけれど、顔が赤くなってしまってうつむいてばかりだ。
日奈子はこけないように足元を見て必死に光についていった。

駅から離れて人混みから抜け出すと、ようやく光との距離が少し離れて日奈子はホッと息を吐いた。
「あの、最近どうしたの?」

「どうしたって、なにが?」
「なにがって……わかってるでしょ?」
出会った頃はこれほど日奈子にベタベタ触れることはなかった。

今では膝枕とかしてくるし、一体なんだと言うんだろう。
そんな疑問を持っている日奈子を光はマジマジと見つめた。

それから「お前、毎日鏡を見ているんだろう?」と、質問された。
「当たり前でしょう。私キャバクラ嬢なんだから」

メークだってちゃんと自分でやっている。
鏡は嬢にとって必須アイテムだ。

ムッとして光を見ていると、今度は不思議そうな顔を浮かべられてしまった。
「だから、なに!?」

「お前は自分の顔を見ているようで、ちゃんと見てはないんだな」
「なにそれ、意味わかんないんだけど」

「周りを見てみろ」
光に言われて周囲を見回してみると、なぜかやけに人と視線がぶつかることが多いことに気がついた。

男女問わずに視線がぶつかるが、圧倒的に男性と目が合うことが多いみたいだ。
今度は日奈子が瞬きをする番だった。

「なんだか見られてる気がする」


「気がするんじゃなくて、見られてるんだ」
「な、なんで!?」

「お前が美人だからだ」
光の言葉に日奈子は絶句する。

驚きすぎて歩みまで止めてしまい、光に睨まれてしまった。
慌てて歩き出しながら「私が美人?」と、自分自身を指差して質問する。

「一般的に見ればそうだろう」
「え、そうなの?」

質問で返すと今度は呆れ顔になられてしまった。
「周りの嬢たちも上玉ばかりだからな、自分の容姿に気がついてなくても仕方ないか」

「だ、だって私のこと貧相だとかなんだとか言ってなかった!?」
だからヒナには可愛そうな物語を作ったはずだ。

「あのときのお前は目の下にクマがあって、頬がコケてどこをどう見ても貧相だったろうが」


そう言われてしまえば返す言葉がなかった。
「でも今は違う。俺が見込んだ通りの上玉だ」

上玉。
その響きに頭がクラクラしてきてしまいそうだ。

そんな風に褒められたことは今までなかった。
「嬢たちと一緒にいることで自然と美意識が高くなってるんだろうな。化粧も上達しているし」

「そ、そうなんだ」
でも、それとベタベタくっつくのとなんの関係があるんだろう。

「ひとつは虫よけ」
光が短く言って日奈子の体を引き寄せた。

日奈子に視線を向けていた男たちがスッと視線をそらすのがわかる。
「それに、ここまで綺麗になったのに店をやめられちゃ困るからだ」


「そ、それって私を店に引き止めるためにロマンス的な感情を利用してるってこと!?」
思わず声を荒げると光がニヤリと笑ってみせた。

「残念だけど違う。単純に俺の好みのタイプだからだ」
そ、それってつまり本気の恋愛ってこと!?

そう質問しようとしたとき、突然光が足を止めた。
いつの間にか大きなお屋敷のようなお店が目の前に立っている。

日奈子が気が付かない間に駅から随分離れたところまで来たみたいだ。
「今日はここで遊んでいく」

光はそう言うと慣れた様子でお屋敷の中へと入っていったのだった。
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