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舞妓さん
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『ここで遊んでいく』
そう言って屋敷の中へ入っていった途端。
「いいじゃんいいじゃん。少しくらいさぁ」
と、ねばっこい、絡みつくような声が聞こえてきて日奈子と光は足を止めた。
屋敷内にある長い廊下の途中に酔っ払った男がいる。
その男が絡みついている相手はキレイな着物を着た女性だった。
女性は冷めた表情で男性を見つめて「やめておくれやすぅ」と、柔らかな京言葉を使ってしっかりと拒絶している。
「大谷さん。そこまでしておくれやす。お菊さん、困ってるやろぉ?」
廊下の奥からやってきた年配の女性が男性客と女性の間に割って入って仲裁する。
「あぁ、あぁ、そうか」
それでも大谷さんと呼ばれた男性客鼻の下を伸ばしっぱなしだ。
お菊さんと呼ばれた若い女性はそそくさと奥へ引っ込んでしまった。
年配の女性につれられて出口へと移動を始めるけれど、よほど酔っ払っているようで足元がおぼつかない。
日奈子の横を通り過ぎるときにお酒の匂いが鼻を刺激した。
とは言ってもノアールでその匂いにも慣れているから、どうってことはなかった。
「ここってなんなの?」
「ここは舞妓さんと遊ぶ場所だ。今のはあまりよくない客だな」
「舞妓さん!?」
日奈子は驚いてつい声が大きくなってしまった。
ついさっきお客さんを連れて玄関から出ていった女性も、お菊さんと呼ばれていた女性も舞妓さんということか。
「今の見ただろ? しつこい客相手でも、京言葉であしらえば客は少しも嫌な顔をしない」
そう言われてそういえばそうだったと思い返す。
「でも、ノアールで突然京言葉を話初めたら引かれるんじゃ?」
「もちろん、そんなことはできない。だけど怒らせないような言葉遣いをすることはできる」
なるほど。
確かにそうかも知れない。
納得しかけて日奈子は慌てて光の腕を掴んだ。
「っていうか、舞妓さん遊びをするために京都まで来たの!?」
初めての舞妓さんを見てつい忘れてしまうところだったけれど、今日奈子たちは休暇中のはずだ。
光に旅行に誘われてドキドキしていたのに、舞妓さん遊びなんて……。
「そうだ」
キッパリと肯定されて、ガックリと肩を落とす。
せっかくなら京都の観光地めぐりや美味しいものめぐりがしたかった。
そのための観光ガイドだって買ってきたのに。
「京都旅行は明日楽しめばいい。今日はここで勉強だ」
光は容赦なくそう言い、屋敷の奥へと進んだのだった。
☆☆☆
座敷に通された日奈子たちを待っていたのは舞妓さんと芸子さんによる座敷遊びだった。
「今日は体験プランということで、よろしいですか?」
お菊さんがそう質問してくる。
体験プランなんてあるんだと思って和室の中を見回してみるけれど、なにが違うのかよくわからない。
それに、この部屋に入った時から疑問に思っていることだけれど、テーブルの上にもどこにも料金表がないのだ。
「ここってぼったくりじゃないよね?」
日奈子はそっと光に耳打ちする。
光は呆れたそうに大きなため息を吐いた。
「舞妓さん遊びに料金表はない。客の態度によって金額は左右するんだ。だけど今回は体験プランだから1人に付き5万円で遊ぶことができる」
説明されて日奈子は関心した。
お客さんの良し悪しによって金額が変わるなんて面白い。
あまりに粗々の悪いお客さんからは大金を取って、また来てほしい優良客には手頃な金額を提示するらしい。
一見さんお断りだし、そうすることで妙な客もつきにくくなるんだろう。
「いいなぁ。ノアールもそうしようよ」
「それは無理だ。それこそぼったくりだと文句を言われる」
あぁ、舞妓さんは特別なんだとしみじみ感じる。
それから舞妓さんの演舞を見せてもらった日奈子はずっと嘆息しっぱなしだった。
重たい着物を着ているのに汗ひとつかかず、指先までしっかりと神経を集中させて舞っている。
力強いのにとても柔らかくてしなやかな動きに見えるのは、しっかりと体が鍛えられているからだろう。
日奈子は舞が終わると同時に大きな拍手をしたのだった。
☆☆☆
「どうだった?」
屋敷から出た後も舞妓さんの熱に浮かされて体が火照っていた。
京都の冬は東京よりも寒いけれど、全然気にならないくらいだ。
「すごかった……」
日奈子はまだぼーっとしながらそう答えた。
そうとしか答えられない。
お菊さんという舞妓さんはまだ若くて駆け出しらしいけれど、それであのレベルまで到達しているのだから信じられない。
日奈子は何度目かになるため息を吐き出した。
「いい勉強になっただろ」
日奈子は素直に頷く。
勉強になったし、刺激も受けた。
「休日にもこうして勉強してるの?」
ホテルへの道のりを歩きながら聞くと光は頷いた。
「毎日勉強の連続だ」
それを当然のこととして捉えているのはやっぱりすごい。
だからこそ、若くしてノアールのオーナーを務めることができているのだろう。
こうして見ると光は立派な成功者なのだと、今更ながら思えてくる。
「夜食は夜泣きそばを食べに行こう。夕飯はホテルのレストランを予約しているけれど、軽めに済ませておけ」
相変わらず人の意見を聞かない人だ。
そう思ったが、日奈子は「はいはい」と、頷いたのだった。
そう言って屋敷の中へ入っていった途端。
「いいじゃんいいじゃん。少しくらいさぁ」
と、ねばっこい、絡みつくような声が聞こえてきて日奈子と光は足を止めた。
屋敷内にある長い廊下の途中に酔っ払った男がいる。
その男が絡みついている相手はキレイな着物を着た女性だった。
女性は冷めた表情で男性を見つめて「やめておくれやすぅ」と、柔らかな京言葉を使ってしっかりと拒絶している。
「大谷さん。そこまでしておくれやす。お菊さん、困ってるやろぉ?」
廊下の奥からやってきた年配の女性が男性客と女性の間に割って入って仲裁する。
「あぁ、あぁ、そうか」
それでも大谷さんと呼ばれた男性客鼻の下を伸ばしっぱなしだ。
お菊さんと呼ばれた若い女性はそそくさと奥へ引っ込んでしまった。
年配の女性につれられて出口へと移動を始めるけれど、よほど酔っ払っているようで足元がおぼつかない。
日奈子の横を通り過ぎるときにお酒の匂いが鼻を刺激した。
とは言ってもノアールでその匂いにも慣れているから、どうってことはなかった。
「ここってなんなの?」
「ここは舞妓さんと遊ぶ場所だ。今のはあまりよくない客だな」
「舞妓さん!?」
日奈子は驚いてつい声が大きくなってしまった。
ついさっきお客さんを連れて玄関から出ていった女性も、お菊さんと呼ばれていた女性も舞妓さんということか。
「今の見ただろ? しつこい客相手でも、京言葉であしらえば客は少しも嫌な顔をしない」
そう言われてそういえばそうだったと思い返す。
「でも、ノアールで突然京言葉を話初めたら引かれるんじゃ?」
「もちろん、そんなことはできない。だけど怒らせないような言葉遣いをすることはできる」
なるほど。
確かにそうかも知れない。
納得しかけて日奈子は慌てて光の腕を掴んだ。
「っていうか、舞妓さん遊びをするために京都まで来たの!?」
初めての舞妓さんを見てつい忘れてしまうところだったけれど、今日奈子たちは休暇中のはずだ。
光に旅行に誘われてドキドキしていたのに、舞妓さん遊びなんて……。
「そうだ」
キッパリと肯定されて、ガックリと肩を落とす。
せっかくなら京都の観光地めぐりや美味しいものめぐりがしたかった。
そのための観光ガイドだって買ってきたのに。
「京都旅行は明日楽しめばいい。今日はここで勉強だ」
光は容赦なくそう言い、屋敷の奥へと進んだのだった。
☆☆☆
座敷に通された日奈子たちを待っていたのは舞妓さんと芸子さんによる座敷遊びだった。
「今日は体験プランということで、よろしいですか?」
お菊さんがそう質問してくる。
体験プランなんてあるんだと思って和室の中を見回してみるけれど、なにが違うのかよくわからない。
それに、この部屋に入った時から疑問に思っていることだけれど、テーブルの上にもどこにも料金表がないのだ。
「ここってぼったくりじゃないよね?」
日奈子はそっと光に耳打ちする。
光は呆れたそうに大きなため息を吐いた。
「舞妓さん遊びに料金表はない。客の態度によって金額は左右するんだ。だけど今回は体験プランだから1人に付き5万円で遊ぶことができる」
説明されて日奈子は関心した。
お客さんの良し悪しによって金額が変わるなんて面白い。
あまりに粗々の悪いお客さんからは大金を取って、また来てほしい優良客には手頃な金額を提示するらしい。
一見さんお断りだし、そうすることで妙な客もつきにくくなるんだろう。
「いいなぁ。ノアールもそうしようよ」
「それは無理だ。それこそぼったくりだと文句を言われる」
あぁ、舞妓さんは特別なんだとしみじみ感じる。
それから舞妓さんの演舞を見せてもらった日奈子はずっと嘆息しっぱなしだった。
重たい着物を着ているのに汗ひとつかかず、指先までしっかりと神経を集中させて舞っている。
力強いのにとても柔らかくてしなやかな動きに見えるのは、しっかりと体が鍛えられているからだろう。
日奈子は舞が終わると同時に大きな拍手をしたのだった。
☆☆☆
「どうだった?」
屋敷から出た後も舞妓さんの熱に浮かされて体が火照っていた。
京都の冬は東京よりも寒いけれど、全然気にならないくらいだ。
「すごかった……」
日奈子はまだぼーっとしながらそう答えた。
そうとしか答えられない。
お菊さんという舞妓さんはまだ若くて駆け出しらしいけれど、それであのレベルまで到達しているのだから信じられない。
日奈子は何度目かになるため息を吐き出した。
「いい勉強になっただろ」
日奈子は素直に頷く。
勉強になったし、刺激も受けた。
「休日にもこうして勉強してるの?」
ホテルへの道のりを歩きながら聞くと光は頷いた。
「毎日勉強の連続だ」
それを当然のこととして捉えているのはやっぱりすごい。
だからこそ、若くしてノアールのオーナーを務めることができているのだろう。
こうして見ると光は立派な成功者なのだと、今更ながら思えてくる。
「夜食は夜泣きそばを食べに行こう。夕飯はホテルのレストランを予約しているけれど、軽めに済ませておけ」
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