ホストに恋して破滅した私ですが、高級キャバ嬢になってイケメンオーナーから愛されています。

西羽咲 花月

文字の大きさ
15 / 20

舞妓さん

しおりを挟む
『ここで遊んでいく』
そう言って屋敷の中へ入っていった途端。

「いいじゃんいいじゃん。少しくらいさぁ」
と、ねばっこい、絡みつくような声が聞こえてきて日奈子と光は足を止めた。

屋敷内にある長い廊下の途中に酔っ払った男がいる。
その男が絡みついている相手はキレイな着物を着た女性だった。

女性は冷めた表情で男性を見つめて「やめておくれやすぅ」と、柔らかな京言葉を使ってしっかりと拒絶している。
「大谷さん。そこまでしておくれやす。お菊さん、困ってるやろぉ?」

廊下の奥からやってきた年配の女性が男性客と女性の間に割って入って仲裁する。
「あぁ、あぁ、そうか」

それでも大谷さんと呼ばれた男性客鼻の下を伸ばしっぱなしだ。
お菊さんと呼ばれた若い女性はそそくさと奥へ引っ込んでしまった。

年配の女性につれられて出口へと移動を始めるけれど、よほど酔っ払っているようで足元がおぼつかない。


日奈子の横を通り過ぎるときにお酒の匂いが鼻を刺激した。
とは言ってもノアールでその匂いにも慣れているから、どうってことはなかった。

「ここってなんなの?」
「ここは舞妓さんと遊ぶ場所だ。今のはあまりよくない客だな」

「舞妓さん!?」
日奈子は驚いてつい声が大きくなってしまった。

ついさっきお客さんを連れて玄関から出ていった女性も、お菊さんと呼ばれていた女性も舞妓さんということか。
「今の見ただろ? しつこい客相手でも、京言葉であしらえば客は少しも嫌な顔をしない」

そう言われてそういえばそうだったと思い返す。
「でも、ノアールで突然京言葉を話初めたら引かれるんじゃ?」

「もちろん、そんなことはできない。だけど怒らせないような言葉遣いをすることはできる」
なるほど。
確かにそうかも知れない。

納得しかけて日奈子は慌てて光の腕を掴んだ。
「っていうか、舞妓さん遊びをするために京都まで来たの!?」

初めての舞妓さんを見てつい忘れてしまうところだったけれど、今日奈子たちは休暇中のはずだ。
光に旅行に誘われてドキドキしていたのに、舞妓さん遊びなんて……。

「そうだ」
キッパリと肯定されて、ガックリと肩を落とす。

せっかくなら京都の観光地めぐりや美味しいものめぐりがしたかった。
そのための観光ガイドだって買ってきたのに。

「京都旅行は明日楽しめばいい。今日はここで勉強だ」
光は容赦なくそう言い、屋敷の奥へと進んだのだった。


☆☆☆

座敷に通された日奈子たちを待っていたのは舞妓さんと芸子さんによる座敷遊びだった。
「今日は体験プランということで、よろしいですか?」

お菊さんがそう質問してくる。
体験プランなんてあるんだと思って和室の中を見回してみるけれど、なにが違うのかよくわからない。

それに、この部屋に入った時から疑問に思っていることだけれど、テーブルの上にもどこにも料金表がないのだ。
「ここってぼったくりじゃないよね?」

日奈子はそっと光に耳打ちする。
光は呆れたそうに大きなため息を吐いた。

「舞妓さん遊びに料金表はない。客の態度によって金額は左右するんだ。だけど今回は体験プランだから1人に付き5万円で遊ぶことができる」
説明されて日奈子は関心した。


お客さんの良し悪しによって金額が変わるなんて面白い。
あまりに粗々の悪いお客さんからは大金を取って、また来てほしい優良客には手頃な金額を提示するらしい。

一見さんお断りだし、そうすることで妙な客もつきにくくなるんだろう。
「いいなぁ。ノアールもそうしようよ」

「それは無理だ。それこそぼったくりだと文句を言われる」
あぁ、舞妓さんは特別なんだとしみじみ感じる。

それから舞妓さんの演舞を見せてもらった日奈子はずっと嘆息しっぱなしだった。
重たい着物を着ているのに汗ひとつかかず、指先までしっかりと神経を集中させて舞っている。

力強いのにとても柔らかくてしなやかな動きに見えるのは、しっかりと体が鍛えられているからだろう。
日奈子は舞が終わると同時に大きな拍手をしたのだった。

☆☆☆

「どうだった?」
屋敷から出た後も舞妓さんの熱に浮かされて体が火照っていた。

京都の冬は東京よりも寒いけれど、全然気にならないくらいだ。
「すごかった……」

日奈子はまだぼーっとしながらそう答えた。
そうとしか答えられない。

お菊さんという舞妓さんはまだ若くて駆け出しらしいけれど、それであのレベルまで到達しているのだから信じられない。
日奈子は何度目かになるため息を吐き出した。

「いい勉強になっただろ」
日奈子は素直に頷く。

勉強になったし、刺激も受けた。
「休日にもこうして勉強してるの?」

ホテルへの道のりを歩きながら聞くと光は頷いた。


「毎日勉強の連続だ」
それを当然のこととして捉えているのはやっぱりすごい。

だからこそ、若くしてノアールのオーナーを務めることができているのだろう。
こうして見ると光は立派な成功者なのだと、今更ながら思えてくる。

「夜食は夜泣きそばを食べに行こう。夕飯はホテルのレストランを予約しているけれど、軽めに済ませておけ」
相変わらず人の意見を聞かない人だ。

そう思ったが、日奈子は「はいはい」と、頷いたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

守護契約のはずが、精霊騎士の距離が近すぎて心拍がもちません―― 距離ゼロで溺愛でした。

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済:全8話⭐︎ ーー条項:心拍が乱れたら抱擁せよ(やめて) 村育ちの鈍感かわいい癒し系ヒロイン・リリィは、王都を目指して旅に出たはずが――森で迷子になった瞬間、精霊騎士エヴァンに“守護契約”されてしまう! 問題は、この騎士さまの守護距離が近すぎること。 半歩どころか背後ぴったり、手を繋ぐのも「当然」、心拍が乱れたら“抱擁条項”発動!? 周囲は「恋人だろ!」と総ツッコミなのに、本人たちは「相棒です!」で通常運転。 守護(と言い張る)密着が止まらない、じわ甘コメディ異世界ファンタジー!

幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました

ほーみ
恋愛
 春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。  制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。  「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」  送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。  ――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。

半年間、俺の妻になれ〜幼馴染CEOのありえない求婚から始まる仮初の溺愛新婚生活〜 崖っぷち元社畜、会社が倒産したら玉の輿に乗りました!?

とろみ
恋愛
出勤したら会社が無くなっていた。 高瀬由衣(たかせゆい)二十七歳。金ナシ、職ナシ、彼氏ナシ。ついでに結婚願望も丸でナシ。 明日までに家賃を用意できなければ更に家も無くなってしまう。でも絶対田舎の実家には帰りたくない!! そんな崖っぷちの由衣に救いの手を差し伸べたのは、幼なじみで大企業CEOの宮坂直人(みやさかなおと)。 「なぁ、俺と結婚しないか?」 直人は縁談よけのため、由衣に仮初の花嫁役を打診する。その代わりその間の生活費は全て直人が持つという。 便利な仮初の妻が欲しい直人と、金は無いけど東京に居続けたい由衣。 利害の一致から始まった愛のない結婚生活のはずが、気付けばいつの間にか世話焼きで独占欲強めな幼なじみCEOに囲い込まれていて――。

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

年下男子に追いかけられて極甘求婚されています

あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25) 「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」 ◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20) 「京都案内しようか?今どこ?」 再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。 「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」 「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」

呪われた姿が可愛いので愛でてもよろしいでしょうか…?

矢野りと
恋愛
我が国の第二王子が隣国での留学を終えて数年ぶりに帰国することになった。王都では彼が帰国する前から、第二王子の婚約者の座を巡って令嬢達が水面下で激しく火花を散らしているらしい。 辺境の伯爵令嬢であるリラ・エールは王都に出向くことは滅多にないので関係のない話だ。 そんななか帰国した第二王子はなんと呪われていた。 どんな姿になったのか分からないが、令嬢達がみな逃げ出すくらいだからさぞ恐ろしい姿になってしまったのだろうと辺境の地にまで噂は流れてきた。 ――えっ、これが呪いなの?か、可愛すぎるわ! 私の目の前の現れたのは、呪いによってとても愛らしい姿になった第二王子だった。 『あの、抱きしめてもいいかしら?』 『・・・・駄目です』 私は抱きしめようと手を伸ばすが、第二王子の従者に真顔で止められてしまった。 ※設定はゆるいです。 ※5/29 タイトルを少し変更しました。

義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます

桜 こころ🌸
恋愛
恋と変身が同時進行!? 波乱すぎる兄妹(仮)ラブストーリー♡ お兄ちゃんが好き。でも私、ドキドキすると“男”になっちゃう体質なんです――! 義兄・咲夜に片想い中の唯。 血はつながっていないけど、「兄妹」という関係が壁になって、想いを伝えられずにいた。 そんなある日、謎の薬を飲まされ、唯の体に異変が――なんと“男”に変身する体質になってしまった!? ドキドキするとスイッチが入り、戻るタイミングはバラバラ。 恋心と秘密を抱えた、波乱の日々が始まる! しかも、兄の親友や親友の恋心まで巻き込んで、恋はどんどん混線中!? 果たして唯は元に戻れるのか? そして、義兄との禁断の恋の行方は……? 笑ってキュンして悩ましい、変身ラブコメディ開幕!

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

処理中です...