ホストに恋して破滅した私ですが、高級キャバ嬢になってイケメンオーナーから愛されています。

西羽咲 花月

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キスをする

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それから日奈子と光は京都旅行を満喫することになった。
日奈子が当初考えていたお抹茶スイーツ食べ歩きにも、光は付き合ってくれたのだ。

「さすがにこれだけ食べたら太るかなぁ」
目の前に運ばれてきた抹茶プリンに目を輝かせて日奈子が呟く。

ここへ来る前にも抹茶クレープや抹茶アイスを食べているので、今更といえば今更だ。
日奈子の前の席に座る光はもう甘いものはお腹いっぱいのようで、さっきからちいちびとコーヒーを飲んでいる。

「お前はもう少し太ってもいいくらいだ」
「本当にぃ?」

半信半疑に聞き返しながらも、すでにスプーンは抹茶プリンに突き刺さっている。
食べたいものはまだまだ沢山あるけれど、さすがにお腹がいっぱいになってきた。

あとは抹茶系の焼き菓子を買って、持って帰って食べるのがいいかもしれない。
1日目は舞妓さん遊びで時間がなくなって、2日目の今日はスイーツ食べ歩きをしている。

京都の観光名所へ行く暇なく帰宅することになるけれど、それはまぁ仕方ないことだった。
今朝ホテルのラウンジに光ると集合したときに、観光か食べ歩きか決めろとと言われて食べ歩きを選んだのは日奈子だ。


「あ~あ、今日でも帰っちゃうのかぁ」
空になったプリンのお皿を名残惜しそうに見つめて日奈子は呟く。

「もっと遊びたかったか?」
「そりゃねぇ。もっと色々食べたいし、行って見たい場所もあるし」

「それならまた今度来ればいい」
「うん」

何気なく頷いてから、「え?」と、顔を上げる。
それってまたふたりでということだろうか。

それとも勝手にひとりで旅行しに来いということだろうか。
聞けないまま、光は伝票を持ってさっさとレジへ向かってしまったのだった。


☆☆☆

すっかりお腹がいっぱいになった日奈子は帰りの新幹線に揺られながら眠気と戦っていた。
ともすればすぐに眠ってしまいそうになる。

だけど隣には光が座っているし、ひとりで眠るのは申し訳ない。
「眠ければ寝ればいいからな」

「自分だって疲れてるでしょ?」
「俺は起きていられる」

腕組みをしてそういう光に、日奈子は目がトロンとしてきてしまう。
京都旅行楽しかったな。

光的には勉強がメインだったんだろうけれど、日奈子としてはドキドキの連続だった。
光はずっと手をつないで歩いてくれていたし、自分の見た目の変化に気がつくこともできた。

日奈子にとってこの旅行での収穫は思いの外大きいものとなっていた。


でも……。
ウトウトしながら光へ視線を向ける。

光はさっそくノートパソコンを取り出して仕事をしはじめてしまった。
ホテルで一泊したのに別々の部屋だったし、休み中ずっと一緒にいたのになにもないなんて……。

光に『好みのタイプ』と言われて舞い上がってしまったことを思い出し、恥ずかしくなる。
あんなの光にとってはなんでもない言葉だったに違いない。

それを自分勝手に勘違いして舞い上がっちゃうなんて……。
そこで日奈子の思考は途切れた。

目を閉じて寝息を立て始める。
それに気がついた光が日奈子へ視線を向けた。

こっくりこっくり首が動いているのを見て、そっと頭に手をのばすと自分の肩に持たれるように移動させた。
自分の左肩に日奈子の重みを感じて、思わずニヤけてしまいそうになる。

しばらく日奈子の寝顔を見つめていた光は姿勢を変えると、一瞬だけその唇にキスをしたのだった。


☆☆☆

ノアールの休暇はあっという間に終わって、帰省したり旅行へ行っていた嬢たちはお土産を持って戻ってきた。
ヒナも京都みやげを休憩室で披露した。

「ヒナちゃんは京都へ行ってきたの? お友達と?」
マキに質問されてヒナは咄嗟に「そうです」と、頷いていた。

光と一緒に行ったとは、なんとなく言えなかった。
それからマキは舞妓さんのように物腰が柔らかいのだということに気がつく。

話かたも無理なくなめらかで、お客さんに怒っても相手が不愉快にならないような話し方をしている。
「どうしたのヒナちゃん?」

思わずマキのことをジッと見つめてしまったヒナはハッと我にかえって苦笑いを浮かべた。
「な、なんでもないです」

それからヒナはできるだけマキや舞妓さんに近い言葉使いになるように気をつけた。
優しく、穏やかに、丁寧な話し方。

そうするだけで少し迷惑だと思えるお客さんも静かになってくれる。
「またヒナちゃんを指名してもいいかな?」

「もちろんです。ありがとうございます」
なめらかに話、包み込むような優しい笑顔を浮かべるとお客さんは顔を赤くして喜んでくれる。

なんだか、わかってきた気がする。
光が日奈子を舞妓さん遊びに連れ出したのも、こういうことだったんだ。

「ヒナちゃんまた氏名? 最近人気急上昇だね」
他の嬢たちがびっくりするくらいヒナを指名してくれるお客さんが増えていく。

その分名前を覚えたり、連絡先を交換したりと大変なことが増えるけれど、それもヒナには苦ではなかった。


自分を助けてくれた光の手助けになっていると思うと、嬉しいくらいだ。
ヒナは一旦トイレに立つと新規のお客さんについてスマホにメモを残し始めた。

名前と仕事、趣味などをかきとめていく。
だけど一番大切なのは見た目だ。

見た目と名前が一致しなければ結局誰のことを書いているのかわからなくなる。
「えっと、今日のお客さんは鼻の頭におおきなホクロがある、っと……」

特徴的な顔をしてくれていれば覚えるのは簡単だ。
だけどどうしても特徴のないお客さんはいる。

そういうときは相手の話し方や、隣に座っているときに見える癖を覚えてメモしておく。
あとは持っているカバンや履いている靴のブランドもチェックする。

スーツは毎日着替えるけれど、靴やカバンはそんなに頻繁に変えることはないだろうから。
「ヒナちゃん最近忙しそうだけど、大丈夫?」

トイレから出てきたとき、マキが心配そうに声をかけてきた。
「マキさん。大丈夫ですよ。まだまだ元気です!」


そう答えたものの、お客さんへのお礼メッセージやお店のイベント情報を送るのは時間外だ。
ちょっとだけ睡眠時間が削られてきていることは事実だった。

それをマキは見抜いているのだろう。
「お肌の調子が良くないみたいだけど」

そう言われてギクリとする。
いくら化粧でごまかしていても、至近距離で見られればバレてしまう肌荒れ。

これも睡眠不足を感じるようになってからのことだった。
「ちょっとシフトを減らしてもらったらどう?」

「ほ、本当に大丈夫です!」
ようやく指名が増えてきたのに、ここでシフトを減らすわけにはいかない。

ヒナは笑顔でマキをあしらって店内へと戻ったのだった。


☆☆☆

それから数日後のことだった。
日奈子は起きた時から体の重さと熱っぽさを感じてbッドから出ることができずにいた。

ベッドの中で寝たり起きたりを繰り返している間に、リビングから物音が聞こえ始めた。
きっと光の方が先に起きたんだろう。

いつもなら日奈子の方が先に起きて朝ごはんを作っておくのに、今日はそれも無理そうだった。
自分の額に手を当ててみると熱が高いことがわかる。

横になっているのにかすかにメマイを感じるし、完全に風邪をひいたみたいだ。
「くしゅんっ」

とくしゃみをしたところで、ノック音が部屋に聞こえてきた。
「日奈子、大丈夫か?」

まだなにも伝えていないのに、いつもは起き出している日奈子が起きてこないのを気にして、なにかを察したみたいだ。
「だ、大丈夫だよ」

そう答える声も鼻声になっている。


「入るぞ」
部屋に入ってきた光はベッドで横になっている日奈子を見た瞬間顔をしかめた。

「これのなにが大丈夫なんだ」
文句を言いながら近づいてきて、日奈子の額に自分の額をおしつける。

だから! 
そういう熱の測り方はやめてほしいのに……。

文句を言う気力もなく消えていく。
「熱が高いな。病院へ行くか」

「そんな……寝てれば治る」
日奈子が言い終わるより先に光はどこかへ電話をかけはじめてしまった。

「病院へ行かないから、医者に来てもらうことにした」
え!?
家に出張に来てもらったら割高になるのに!


そう思って慌てて体を起こそうとするけれど、光に肩を掴まれてベッドへ戻されてしまった。
「なにか食べられそうか? 卵が湯を作ろうか」

「大丈夫だってば」
「大丈夫じゃない」

光はそう言い切り、部屋を出ていってしまったのだった。


☆☆☆

それから本当に内科の医師が日奈子を診察するために家を訪れた。
幸いただの風邪だったけれど、今日1日はゆっくりすることを余儀なくされた。

せっかく嬢として調子に乗ってきた頃だったのにと、日奈子はがっかりしてしまう。
マキに忠告されたときに素直に休んでいればこんなことにはならなかったのかもしれない。

体調管理できない嬢なんて、光からしてもお荷物なだけだろう。
体調が悪いせいで気分はどんどん落ち込んでいく。

このままじゃダメだ。
少し寝て、早く元気にならくちゃ……。

日奈子が次に目を覚ましたのは部屋のノック音が聞こえてきたからだった。
ウトウトとまどろむ中目を開けると、目の前に光の顔があって思わず悲鳴をあげそうになった。

「お粥を作った、食べられるか?」


そう言われてテーブルへ視線を向けると、小さな土鍋と小皿が準備されている。
土鍋からは食欲をそそるいい香りがしてきていた。

とはいえ、まだそんなに食欲はない。
「少しだけ、食べようかな」

上半身を起こそうとすると、それも光に止められてしまった。
だけど横になったままでは食事ができない。

そう思っていると、光が小皿にお粥を取り分けて持ってきてくれたのだ。
「こんなことまでしてもらっちゃ困るよ」

そう言っても光は聞く耳を持ってくれなかった。
スプーンでお粥をすくい、その場でふーふーと息を吹きかけて覚ますと日奈子の口元へ移動させてくる。

なんだかこれ、恥ずかしすぎるんだけど。
息を吹きかけられただけなのに、すごく意識してしまうのは病気で気が弱っているからだろうか。

そう思いつつ、日奈子はお粥に口をつけた。
卵が湯の素朴で優しい味が口いっぱいにひろがる。

「どうだ?」
「美味しい」

日奈子の言葉に光は安心したように微笑んだ。
「料理、できたんだ」

「いや。初めて作った」
それにしては上出来だ。

もしかしたらお粥の作り方を調べて手順通りに作ってくれたのかもしれない。
「ごめんね。迷惑かけて」

「迷惑なんかじゃない。お前は大切な女だ」
大切な女?

それってどういう意味?
聞き返したいけれど、少しお腹が膨らんだことでまた眠気が襲ってきた。

きっと、ノアールにとって大切な嬢って意味だよね。
私にも指名が入るようになったから。
日奈子はそう思いつつ、眠りについたのだった。


☆☆☆

光は荒い呼吸をしながら眠ってしまった日奈子をジッと見つめていた。
熱のせいで顔が赤く、なんとなく誘われているような気持ちになってくる。

日奈子の額に浮かんでいる小さな汗の粒を見つけると、そっと顔を近づけて舐め取った。
日奈子がかすかに顔を歪めるけれど、起きる気配は見せない。

「無理をさせて悪かった。今日はゆっくり休め」
と呟き、日奈子の頬にキスをしたのだった。
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