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断罪編
辺境に訪れるのは。
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「グリーグ!完璧に精霊を呼び出す事も、核石の取り出しも、浄化だって出来る様になったわ!もう、いつでもグリーグが休暇をとっても大丈夫よ。」
皇都シャルドーネと言えば皇太子の婚礼一色に湧いていたが、此処エンルーダ領においてはまるで関係が無いかの様に、誰も其の話をする事は無く、いつもと変わらず、平穏に領民達は暮らしていた。
エンルーダ領は王都から離れた場所。
其のお陰か、タニアから名を改めたニアも、自分を断罪した皇太子達に関して、其の後全く意識する事も無く、墓守りの仕事をグリーグから習う毎日を送っている。
何より、1度破水をしたニアだったが、腹に当てた手から癒やしの光が放出。ニアの流産は留まった。
(光の属性は持っていたけれど、癒やしの術を使える程の魔力量なんて持っていなかったのに、、)
合わせて、それまで苦手だった魔力使いが上達していた為に、墓守りに必要な精霊の召喚も叶う様になっていた。
『もう、ニアに任せても大丈夫だが、休む事はしない。何よりニアは無理をしてはいけない。』
グリーグがニアに口を動かし、張り出し始めたニアの腹を示す。
産み月まではまだ時間があるとは言え、妊婦である事をグリーグが無言で示唆するのだ。
「どうして!グリーグってば、全然お休みが無いじゃない。そんなんじゃ体を壊すわ。わたしの体を気にしてくれるのは有難いけど、ちゃんと休んで。」
相変わらず狩りはグリーグが担ってくれるが、こうして墓守りの仕事も、家事も何とか出来る様になってきているニア。
たとえ過去に何度も生まれたきているニアだとしても、其の全ては王族や公爵令嬢であり、何故か悪役令嬢と言われてきた為、平民がする様な生活は始めて。
家事の一つ一つをグリーグに習いながら覚えている。それでも今では墓守りの儀式するグリーグの手伝いもする様になったのだ。
『休むのは後。』
何もするのも目新しいニアには、慣れない妊婦生活だが、一番側にいるグリーグが、妊娠したニアの状況を手助けしてくれる。
「もう!今日はもうこれで『送り』は無いんでしょ?食事にしましょう。」
墓守りの建屋の側にある住処で、グリーグとニア、腹の子供3人で暮らす事にも慣れ、このまま子供をエンルーダで育てる事を考えるのも良いものだとニアは思っている。
そうして、ニアが竈に火を入れようとした時だった。
「エンルーダー卿、グリーグ・エンルーダ―殿は居るか!!」
墓守りの建屋の戸口を激しく叩く音と共に、叫ぶ男の声がする。
平民であれば習慣に無い行為だが、かつて何度も令嬢を経験してきたニアには、覚えのある身なりの男と、物言いに、ピンときた。
(先ぶれ?急な送りかしら。それにしても、グリーグを『エンルーダ』って呼んだ、、)
貴族の城や館に突発的に来訪するのは、無礼に当たる。
礼儀の無い行いと忌避される事から、必ず書状や手紙で訪れる事の承諾を得るのだ。
それが出来ない程の急用に出されるのが、伝令であり、先ぶれ。
しかも、先ぶれの男は『エンルーダ』を相手に呼んでいる。
グリーグと短く無い時間を過ごしたが、まさかグリーグがエンルーダ家の者とはニアは思いもしなかった。
(グリーグって、髭と長い前髪でほとんど顔が分からないんだもの、仕方ないとは思うけど。)
そう思いつつ、ニアが傍らのグリーグに確かめるかに視線を向けると、グリーグがニアに頷いた。
それが意味する事は、ニアの推測が当たっていると言う事。
(エンルーダ家縁の者って、グリーグがそうなの?)
「ねえグリーグ、エンルーダって、、あなた、アースロやイグザムの、、」
『すまない、アースロの兄だ。』
グリーグの口が、ニアの予想した形を紡ぐ。
ニアは目を見開いて驚いたが、疑問の言葉を飲み込んだ。
今はエンルーダ現当主の兄だと隠していたと、グリーグを責める時間は無い。
喋る事が出来ないグリーグに代わって、ニアが先ぶれの男に返事を返し、
「!!!、、分かったわ!伝令様、『送りの主』は何方でしょうか?墓守りの補佐をしています、ニアと申します。」
挿さる貫抜を動かし、重い扉を開いた。
ニアの言葉に、先ぶれも事情は知っているのだろうか。
開いた扉の外から、ニアとグリーグを交互に確認をして、一歩前に進み出る。
「とりあえず、此処だけの話にして頂きたい。魔法使いガラテア様でございます。間も無く隊列が到着いたします。御準備を!!」
そして本隊の到着が間近だと伝える。
グリーグは内容を受入、大きく頷くが、ニアの頭は困惑した。何故なら、自分が今世に聞く事が無いはずの名を聞いたからだ。
(ガラテア?!大魔法使い ガラテアって、、あの占い師の事?でもあれはマリアナ・ソリベリの時。前世に出会った魔法使いよ。、名前が同じだけかもしれない、、けど、)
様子を変えたニアにグリーグが落ち着かせる様に、ニアの背中をポンポンと叩くと、ニアの顔色を伺う。
『ニア?』
「、、ね、グリーグは大魔法使いに会った事がある?」
『初めてだが、確か何百歳の人物だと聞いた。誰でも同じ。やる事は一緒。』
「ええ、そうね。」
(都でもエナリーナかアガサしか友人もいなかったから、まさかガラテアが生きてる時代なんて思いもしなかったわ。王都で確認した貴族年鑑にも名前は無かったはずだし。)
グリーグと伝令が遣り取りをしている間にも、本隊が近づくのが、嫌でもニアに分かる。
王都シャロームから3日も掛けて馬を走らせた黒馬車の列が彼方に迫っていた。
其の数はエンルーダ―で見た事の無い人数で、ニアの目には騎士の行進にも見える。
(何だか、戦に行くみたいに見える。嫌な感じがする。)
何より皇帝からの客人。
皇太子に覚えの無い断罪で、毒杯の刑に処せられたニアが、生きている事を知られる恐れもある。
再びニアの背筋が凍った。
(ますます、アースロの考えは分からないし。まさか、グリーグが監視をしていたなんて、思わないけれど。)
「まずは、エンルーダ領主殿に、隊長より皇帝からの書状が渡され、見聞の後に儀式に入って頂く事になります故、こちらでもご準備願いたい。」
先ぶれの男は、役目の終えたとばかりに、ニアとグリーグに敬礼をすると、街道に見える本隊へと戻って行った。
青ざめた顔で、男を見送るニアは、未だ動けない。
『ニア、用意だ。君も立ち合いで手伝ってくれ。』
グリーグがニアの肩に優しく手を乗せ、同じく用意を促した。
言い様の無い不安を覚えていたニアに、グリーグの大きくゴツイ手は、返って安心をくれる。
グリーグには詳しい事情は話してはいなが、口がきけなくとも鋭いグリーグだ。何かを感じ取ったのだろう。
「わたしも、一緒でいいの?でも、妊婦なのよ?」
『かまわない、一緒だ。』
グリーグの言葉に、ニアは己の腹の中に入っている我が子を上から鼓舞する様に撫ぜた。
皇都シャルドーネと言えば皇太子の婚礼一色に湧いていたが、此処エンルーダ領においてはまるで関係が無いかの様に、誰も其の話をする事は無く、いつもと変わらず、平穏に領民達は暮らしていた。
エンルーダ領は王都から離れた場所。
其のお陰か、タニアから名を改めたニアも、自分を断罪した皇太子達に関して、其の後全く意識する事も無く、墓守りの仕事をグリーグから習う毎日を送っている。
何より、1度破水をしたニアだったが、腹に当てた手から癒やしの光が放出。ニアの流産は留まった。
(光の属性は持っていたけれど、癒やしの術を使える程の魔力量なんて持っていなかったのに、、)
合わせて、それまで苦手だった魔力使いが上達していた為に、墓守りに必要な精霊の召喚も叶う様になっていた。
『もう、ニアに任せても大丈夫だが、休む事はしない。何よりニアは無理をしてはいけない。』
グリーグがニアに口を動かし、張り出し始めたニアの腹を示す。
産み月まではまだ時間があるとは言え、妊婦である事をグリーグが無言で示唆するのだ。
「どうして!グリーグってば、全然お休みが無いじゃない。そんなんじゃ体を壊すわ。わたしの体を気にしてくれるのは有難いけど、ちゃんと休んで。」
相変わらず狩りはグリーグが担ってくれるが、こうして墓守りの仕事も、家事も何とか出来る様になってきているニア。
たとえ過去に何度も生まれたきているニアだとしても、其の全ては王族や公爵令嬢であり、何故か悪役令嬢と言われてきた為、平民がする様な生活は始めて。
家事の一つ一つをグリーグに習いながら覚えている。それでも今では墓守りの儀式するグリーグの手伝いもする様になったのだ。
『休むのは後。』
何もするのも目新しいニアには、慣れない妊婦生活だが、一番側にいるグリーグが、妊娠したニアの状況を手助けしてくれる。
「もう!今日はもうこれで『送り』は無いんでしょ?食事にしましょう。」
墓守りの建屋の側にある住処で、グリーグとニア、腹の子供3人で暮らす事にも慣れ、このまま子供をエンルーダで育てる事を考えるのも良いものだとニアは思っている。
そうして、ニアが竈に火を入れようとした時だった。
「エンルーダー卿、グリーグ・エンルーダ―殿は居るか!!」
墓守りの建屋の戸口を激しく叩く音と共に、叫ぶ男の声がする。
平民であれば習慣に無い行為だが、かつて何度も令嬢を経験してきたニアには、覚えのある身なりの男と、物言いに、ピンときた。
(先ぶれ?急な送りかしら。それにしても、グリーグを『エンルーダ』って呼んだ、、)
貴族の城や館に突発的に来訪するのは、無礼に当たる。
礼儀の無い行いと忌避される事から、必ず書状や手紙で訪れる事の承諾を得るのだ。
それが出来ない程の急用に出されるのが、伝令であり、先ぶれ。
しかも、先ぶれの男は『エンルーダ』を相手に呼んでいる。
グリーグと短く無い時間を過ごしたが、まさかグリーグがエンルーダ家の者とはニアは思いもしなかった。
(グリーグって、髭と長い前髪でほとんど顔が分からないんだもの、仕方ないとは思うけど。)
そう思いつつ、ニアが傍らのグリーグに確かめるかに視線を向けると、グリーグがニアに頷いた。
それが意味する事は、ニアの推測が当たっていると言う事。
(エンルーダ家縁の者って、グリーグがそうなの?)
「ねえグリーグ、エンルーダって、、あなた、アースロやイグザムの、、」
『すまない、アースロの兄だ。』
グリーグの口が、ニアの予想した形を紡ぐ。
ニアは目を見開いて驚いたが、疑問の言葉を飲み込んだ。
今はエンルーダ現当主の兄だと隠していたと、グリーグを責める時間は無い。
喋る事が出来ないグリーグに代わって、ニアが先ぶれの男に返事を返し、
「!!!、、分かったわ!伝令様、『送りの主』は何方でしょうか?墓守りの補佐をしています、ニアと申します。」
挿さる貫抜を動かし、重い扉を開いた。
ニアの言葉に、先ぶれも事情は知っているのだろうか。
開いた扉の外から、ニアとグリーグを交互に確認をして、一歩前に進み出る。
「とりあえず、此処だけの話にして頂きたい。魔法使いガラテア様でございます。間も無く隊列が到着いたします。御準備を!!」
そして本隊の到着が間近だと伝える。
グリーグは内容を受入、大きく頷くが、ニアの頭は困惑した。何故なら、自分が今世に聞く事が無いはずの名を聞いたからだ。
(ガラテア?!大魔法使い ガラテアって、、あの占い師の事?でもあれはマリアナ・ソリベリの時。前世に出会った魔法使いよ。、名前が同じだけかもしれない、、けど、)
様子を変えたニアにグリーグが落ち着かせる様に、ニアの背中をポンポンと叩くと、ニアの顔色を伺う。
『ニア?』
「、、ね、グリーグは大魔法使いに会った事がある?」
『初めてだが、確か何百歳の人物だと聞いた。誰でも同じ。やる事は一緒。』
「ええ、そうね。」
(都でもエナリーナかアガサしか友人もいなかったから、まさかガラテアが生きてる時代なんて思いもしなかったわ。王都で確認した貴族年鑑にも名前は無かったはずだし。)
グリーグと伝令が遣り取りをしている間にも、本隊が近づくのが、嫌でもニアに分かる。
王都シャロームから3日も掛けて馬を走らせた黒馬車の列が彼方に迫っていた。
其の数はエンルーダ―で見た事の無い人数で、ニアの目には騎士の行進にも見える。
(何だか、戦に行くみたいに見える。嫌な感じがする。)
何より皇帝からの客人。
皇太子に覚えの無い断罪で、毒杯の刑に処せられたニアが、生きている事を知られる恐れもある。
再びニアの背筋が凍った。
(ますます、アースロの考えは分からないし。まさか、グリーグが監視をしていたなんて、思わないけれど。)
「まずは、エンルーダ領主殿に、隊長より皇帝からの書状が渡され、見聞の後に儀式に入って頂く事になります故、こちらでもご準備願いたい。」
先ぶれの男は、役目の終えたとばかりに、ニアとグリーグに敬礼をすると、街道に見える本隊へと戻って行った。
青ざめた顔で、男を見送るニアは、未だ動けない。
『ニア、用意だ。君も立ち合いで手伝ってくれ。』
グリーグがニアの肩に優しく手を乗せ、同じく用意を促した。
言い様の無い不安を覚えていたニアに、グリーグの大きくゴツイ手は、返って安心をくれる。
グリーグには詳しい事情は話してはいなが、口がきけなくとも鋭いグリーグだ。何かを感じ取ったのだろう。
「わたしも、一緒でいいの?でも、妊婦なのよ?」
『かまわない、一緒だ。』
グリーグの言葉に、ニアは己の腹の中に入っている我が子を上から鼓舞する様に撫ぜた。
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